たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi

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ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが聞こえる。
カーテンを開けると、朝の心地いい日差しが身体を包み込んだ。

そして、ふと思う。
――今日も、きっといい一日になる。


僕は相田(そうだ)ひなた。
白桜音楽大学に通う、大学二年生だ。
この学校で学ぶことはひとつひとつが新鮮で、
毎日がとても楽しい。

「ひなた~!おはよう~!」

「あっ、だいき!おはよう!」

声の主は、岡本(おかもと)だいき。
僕と同じ白桜音楽大学に通う同級生で、
中学からずっと同じ進路を歩んできた親友だ。
縁があるのか、大学まで一緒になってしまった。

「今日の民謡音楽のレポート、何書いたかー?
何にするか悩みすぎて、徹夜で仕上げてきたよ」

「徹夜!?
だからそんなにクマがすごいんだね……」

僕は思わず笑ってしまう。

「いろんな県の民謡を調べて、
地域ごとの違いをまとめたよ」

「あーーそれいいな~!
俺もそれにすればよかった」

「一緒に考えればよかったね。
……そういえばだいき、次の授業ソルフェージュじゃない?
もうすぐ始まっちゃうけど、大丈夫?」

「あっ、やばい!!!!
あの先生、早めに行かないと
一番遅い人に歌曲歌わせるんだよ!
行くわ!」

「ちゃんと前見て!ぶつかっちゃうよ!
ソルフェージュ頑張って!」

バタバタと走り去るだいきを見送って、
次の授業まで少し時間がある僕は練習室へ向かう。

歩きながら、つい周囲をきょろきょろと見回す。
……会いたい人の姿がない。

(今日、あの人いないのかな……
この時間なら、いつもこの辺にいるはずなんだけど……あっ!)

「とわさん!おはよう!!」

「ひなた、おはよう。
今日もすっごく元気だね」

そこにいたのは――
僕の憧れの人で、そして恋人。

高谷(たかたに)とわ。
僕と同じ大学に通う、大学四年生だ。

入学式の演奏会で
とわさんのピアノを初めて聴いた時、
一瞬で心を奪われた。

音の一つひとつが綺麗で、
きっと沢山努力してきた人なんだと
すぐに分かった。

(もっと先輩の演奏を聴きたい。
近くで、その音に触れていたい……)

そんな強い気持ちが作用したのか、
僕ととわさんは同じ門下になった。

近くにいればいるほど、とわさんの
ピアノに対する真剣な思いが伝わってくる。
一音一音に向き合い、
ひたむきに鍵盤と向き合うその姿を見ていると、
僕もこんなふうにピアノと向き合える人になりたいと、
自然と思うようになった。

――でも、それだけじゃなかった。

気づけば、
その背中を目で追うようになっていて、
いつの間にか、恋愛感情を抱いていた。

Ωである僕が、
まさか男の人を好きになるなんて思ってもいなかった。
けれど今では、
好きになる気持ちに性別の壁なんてないと、
そう思っている。

僕が何度もアタックして、
何度も気持ちを伝えて――
先輩は、ようやく僕の方を振り向いてくれた。

そして、今に至る。

「あの、先輩。
この曲の、ここのフレーズを弾いてほしいんですけど……」

もちろん、
先輩のピアノの音を聴きたいがためのお願いだ。

僕がそう言うと、
先輩はくすっと笑った。

「ひなた、また僕の演奏を聴きたいからでしょ?
ひなたは覚えてないかもしれないけど、
この曲のこのフレーズ、前にも弾いたよ?」

一気に顔が熱くなる。

「だって……
先輩のピアノの音、世界で一番好きなんです!
だから聴きたくてお願いしてるんですよっ!!!」

照れながらそう伝えると、
先輩も少し恥ずかしかったのか、
頬がほんのり赤くなっていた。

「……素直に言ってくれればいいのに。
ひなたってほんと面白いね」

そう言って、
ふっと優しく笑う。

「じゃあ、一緒に練習室おいで?
一曲弾いてあげるよ」

「えっ、ほんとですか!?
めちゃくちゃ嬉しいです!
録音してもいいですか!?」

「録音なんて……」

くすっと笑ったあと、
先輩は少しだけ真剣な顔になって言った。

「……これから、
いつでもひなたに聴かせるよ。
ずっとね」

「えっ……!?
それって……
僕と、ずっと一緒にいてくれるってことですか!?」

先輩は顔を隠して、

「……早く練習室行くよ!!」

そう言って、
僕の前をさっさと歩いていってしまった。

「待ってください、先輩~!」

僕は慌ててその背中を追いかける。

こんな日常を送れていることが、
ただただ幸せだった。
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