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~♪♪
小さな練習室だけど、
とわさんの綺麗な音が心地よく響いている。
繊細なところ、ダイナミックなところ……
まるで曲に物語があるみたいに、
音がひとつひとつ紡がれていく。
僕はすっかり聴き惚れていて、
気づけば、あっという間に曲が終わっていた。
「……」
「……ひなた?」
「……ほんとに、ほんとに……」
僕はごくりと唾を飲み込む。
「とても素晴らしい演奏を、ありがとうございます!!!」
思わず盛大に拍手を送る。
先輩が演奏する場所は、
どこだってコンサートホールになるんだから。
「そんな大袈裟な……
でも、嬉しいよ。いつもありがとう」
とわさんの手が、僕の頭に伸びてくる。
わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるみたいに。
「とわさん!!
せっかく髪の毛セットしてきたのに!
ぐしゃぐしゃになっちゃう!!」
「ははは、ごめんごめん。
じゃあ俺が整えてあげるよ。
ヘアセットも得意だからね」
そう言って、
とわさんが僕の髪を整えていく。
触れられる手が、とても心地いい。
(あぁ……
こんなに落ち着くってことは、
とわさんは僕の運命の番なのかな……)
Ωには「運命の番」がいるらしい。
生まれた時から決まっている、
たった一人の相手。
出会った瞬間に分かるとか、
匂いで本能が反応するとか、
身体が勝手に求めてしまうとか――
正直、全部うさんくさい。
そんなの、
都市伝説みたいなものだと思ってる。
だって、
人を好きになるって、
もっと時間をかけて育つものでしょ?
一緒に過ごして、
話して、笑って、
相手の癖とか弱さを知って、
それでも一緒にいたいって思えるから
「好き」になるんだと思う。
匂いだけで決まるなんて、
そんなの恋じゃない。
……でも。
とわさんは、
僕の運命の番なんじゃないかって、
少しだけ思ってしまう。
一緒にいると心地よくて、
穏やかな時間が流れていて――
都市伝説みたいな存在のはずなのに、
ほんの少しだけ、
信じてみたくなった。
先輩から楽譜を受け取り、バッグにしまう。
その時、ふと先輩が口を開いた。
「……ひなたって、まだヒート来てないよね?」
少しきょとんとしてしまったけど、僕は正直に答える。
「まだ来てないですよ!
お医者さんには
『ヒートが来る時期は個人差があるけど、
遅かれ早かれ来るから安心して』
って言われました!」
「そう……。
いつか来るといいね。
ひなたと番になれたらいいな」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「もちろんです!
僕はとわさんしか選びません!!」
だって、
心から愛している相手だから。
「僕は、自分の気持ちを信じたいです。
たとえ運命から背を向けることになっても、
とわさんの傍に、ずっといたい」
そう伝えると、
とわさんはニコッと優しく笑ってくれた。
「ひなた、本当にありがとう。
俺も……ひなたと一緒にいられて幸せだよ」
「……そういえばさ」
とわさんが、ふと笑いながら言った。
「最近、先輩って呼んでくれなくなったよね」
「えっ……そうですか?」
心当たりがなくて、思わず聞き返す。
「前はずっと先輩だったのに。
今は――とわ、って呼んでくれる」
「……だって」
少し照れて、視線を逸らす。
「付き合ってるのに、
ずっと先輩って呼ぶのも変かなって……」
「ふふ」
とわさんが、優しく笑う。
「実はさ、
とわって名前で呼んでくれるの、嬉しいんだ」
「えっ……どうして……?」
「距離が縮まった気がするし、
ひなたの声で呼ばれると、
すごく大切にされてるって感じがして」
胸の奥が、きゅっと熱くなる。
「……じゃあ、これからも
とわさんって呼びます」
「うん。よろしく」
そう言うと、とわさんが一歩近づいてきた。
ふわっと腕に包まれて、ぬくもりが広がる。
(あれ、これって……)
とわさん、
僕のことぎゅってしてる……?
顔が一気に熱くなって、
今にも倒れそうになる。
でも、よく聞くと――
(……とわさんの心臓の音、少し早い……?)
クールでかっこいいって思ってたとわさんにも、
こんな可愛い一面があるんだなぁ……
「……ひなた?
顔、すごいことになってるよ」
「えっ、そうですか……?」
「うん、ほら」
気づけば、とわさんの胸元に埋もれて、
口元がゆるゆるになっている僕がいた。
「へっ……これが、僕……?」
「さっきからずっとこんな感じだよ。
ほんとにひなたって、可愛くて愛おしい」
その瞬間、
とわさんの顔がぐっと近づいて――
「……ちゅ」
小さな音が、練習室に響いた。
「えっ……?」
え、今――
とわさん、僕にキス……!?
また一気に沸騰して、
本気で倒れそうになる。
キスなんてしたことなくて、
しかも不意打ちだったから、
理解が追いつかない。
「ひなた、
次、民謡音楽でしょ?
早く行かないと遅れちゃうよ」
「……ふぁい……いってきます……」
「いってらっしゃい。
今日、夜空いてるかな?」
「は、はい……空いてましゅ……」
「よかった。
ご飯でもどうかな?
美味しいハンバーグ屋見つけてさ、
ひなたと行きたくて」
ハンバーグ――
僕の一番好きな食べ物だ。
「行きます!
めっちゃ楽しみです!」
「それならよかった。
民謡音楽、頑張ってきてね」
「頑張ってきます!」
練習室を後にして、
次の教室へ向かう。
またとわさんに会えるんだ――
そう思うだけで、
胸がぽかぽかして、
とても幸せな気持ちになった。
小さな練習室だけど、
とわさんの綺麗な音が心地よく響いている。
繊細なところ、ダイナミックなところ……
まるで曲に物語があるみたいに、
音がひとつひとつ紡がれていく。
僕はすっかり聴き惚れていて、
気づけば、あっという間に曲が終わっていた。
「……」
「……ひなた?」
「……ほんとに、ほんとに……」
僕はごくりと唾を飲み込む。
「とても素晴らしい演奏を、ありがとうございます!!!」
思わず盛大に拍手を送る。
先輩が演奏する場所は、
どこだってコンサートホールになるんだから。
「そんな大袈裟な……
でも、嬉しいよ。いつもありがとう」
とわさんの手が、僕の頭に伸びてくる。
わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるみたいに。
「とわさん!!
せっかく髪の毛セットしてきたのに!
ぐしゃぐしゃになっちゃう!!」
「ははは、ごめんごめん。
じゃあ俺が整えてあげるよ。
ヘアセットも得意だからね」
そう言って、
とわさんが僕の髪を整えていく。
触れられる手が、とても心地いい。
(あぁ……
こんなに落ち着くってことは、
とわさんは僕の運命の番なのかな……)
Ωには「運命の番」がいるらしい。
生まれた時から決まっている、
たった一人の相手。
出会った瞬間に分かるとか、
匂いで本能が反応するとか、
身体が勝手に求めてしまうとか――
正直、全部うさんくさい。
そんなの、
都市伝説みたいなものだと思ってる。
だって、
人を好きになるって、
もっと時間をかけて育つものでしょ?
一緒に過ごして、
話して、笑って、
相手の癖とか弱さを知って、
それでも一緒にいたいって思えるから
「好き」になるんだと思う。
匂いだけで決まるなんて、
そんなの恋じゃない。
……でも。
とわさんは、
僕の運命の番なんじゃないかって、
少しだけ思ってしまう。
一緒にいると心地よくて、
穏やかな時間が流れていて――
都市伝説みたいな存在のはずなのに、
ほんの少しだけ、
信じてみたくなった。
先輩から楽譜を受け取り、バッグにしまう。
その時、ふと先輩が口を開いた。
「……ひなたって、まだヒート来てないよね?」
少しきょとんとしてしまったけど、僕は正直に答える。
「まだ来てないですよ!
お医者さんには
『ヒートが来る時期は個人差があるけど、
遅かれ早かれ来るから安心して』
って言われました!」
「そう……。
いつか来るといいね。
ひなたと番になれたらいいな」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「もちろんです!
僕はとわさんしか選びません!!」
だって、
心から愛している相手だから。
「僕は、自分の気持ちを信じたいです。
たとえ運命から背を向けることになっても、
とわさんの傍に、ずっといたい」
そう伝えると、
とわさんはニコッと優しく笑ってくれた。
「ひなた、本当にありがとう。
俺も……ひなたと一緒にいられて幸せだよ」
「……そういえばさ」
とわさんが、ふと笑いながら言った。
「最近、先輩って呼んでくれなくなったよね」
「えっ……そうですか?」
心当たりがなくて、思わず聞き返す。
「前はずっと先輩だったのに。
今は――とわ、って呼んでくれる」
「……だって」
少し照れて、視線を逸らす。
「付き合ってるのに、
ずっと先輩って呼ぶのも変かなって……」
「ふふ」
とわさんが、優しく笑う。
「実はさ、
とわって名前で呼んでくれるの、嬉しいんだ」
「えっ……どうして……?」
「距離が縮まった気がするし、
ひなたの声で呼ばれると、
すごく大切にされてるって感じがして」
胸の奥が、きゅっと熱くなる。
「……じゃあ、これからも
とわさんって呼びます」
「うん。よろしく」
そう言うと、とわさんが一歩近づいてきた。
ふわっと腕に包まれて、ぬくもりが広がる。
(あれ、これって……)
とわさん、
僕のことぎゅってしてる……?
顔が一気に熱くなって、
今にも倒れそうになる。
でも、よく聞くと――
(……とわさんの心臓の音、少し早い……?)
クールでかっこいいって思ってたとわさんにも、
こんな可愛い一面があるんだなぁ……
「……ひなた?
顔、すごいことになってるよ」
「えっ、そうですか……?」
「うん、ほら」
気づけば、とわさんの胸元に埋もれて、
口元がゆるゆるになっている僕がいた。
「へっ……これが、僕……?」
「さっきからずっとこんな感じだよ。
ほんとにひなたって、可愛くて愛おしい」
その瞬間、
とわさんの顔がぐっと近づいて――
「……ちゅ」
小さな音が、練習室に響いた。
「えっ……?」
え、今――
とわさん、僕にキス……!?
また一気に沸騰して、
本気で倒れそうになる。
キスなんてしたことなくて、
しかも不意打ちだったから、
理解が追いつかない。
「ひなた、
次、民謡音楽でしょ?
早く行かないと遅れちゃうよ」
「……ふぁい……いってきます……」
「いってらっしゃい。
今日、夜空いてるかな?」
「は、はい……空いてましゅ……」
「よかった。
ご飯でもどうかな?
美味しいハンバーグ屋見つけてさ、
ひなたと行きたくて」
ハンバーグ――
僕の一番好きな食べ物だ。
「行きます!
めっちゃ楽しみです!」
「それならよかった。
民謡音楽、頑張ってきてね」
「頑張ってきます!」
練習室を後にして、
次の教室へ向かう。
またとわさんに会えるんだ――
そう思うだけで、
胸がぽかぽかして、
とても幸せな気持ちになった。
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