3 / 3
Phrase 2
しおりを挟む
~♪♪
小さな練習室だけど、
とわさんの綺麗な音が心地よく響いている。
繊細なところ、ダイナミックなところ……
まるで曲に物語があるみたいに、
音がひとつひとつ紡がれていく。
僕はすっかり聴き惚れていて、
気づけば、あっという間に曲が終わっていた。
「……」
「……ひなた?」
「……ほんとに、ほんとに……」
僕はごくりと唾を飲み込む。
「とても素晴らしい演奏を、ありがとうございます!!!」
思わず盛大に拍手を送る。
先輩が演奏する場所は、
どこだってコンサートホールになるんだから。
「そんな大袈裟な……
でも、嬉しいよ。いつもありがとう」
とわさんの手が、僕の頭に伸びてくる。
わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるみたいに。
「とわさん!!
せっかく髪の毛セットしてきたのに!
ぐしゃぐしゃになっちゃう!!」
「ははは、ごめんごめん。
じゃあ俺が整えてあげるよ。
ヘアセットも得意だからね」
そう言って、
とわさんが僕の髪を整えていく。
触れられる手が、とても心地いい。
(あぁ……
こんなに落ち着くってことは、
とわさんは僕の運命の番なのかな……)
Ωには「運命の番」がいるらしい。
生まれた時から決まっている、
たった一人の相手。
出会った瞬間に分かるとか、
匂いで本能が反応するとか、
身体が勝手に求めてしまうとか――
正直、全部うさんくさい。
そんなの、
都市伝説みたいなものだと思ってる。
だって、
人を好きになるって、
もっと時間をかけて育つものでしょ?
一緒に過ごして、
話して、笑って、
相手の癖とか弱さを知って、
それでも一緒にいたいって思えるから
「好き」になるんだと思う。
匂いだけで決まるなんて、
そんなの恋じゃない。
……でも。
とわさんは、
僕の運命の番なんじゃないかって、
少しだけ思ってしまう。
一緒にいると心地よくて、
穏やかな時間が流れていて――
都市伝説みたいな存在のはずなのに、
ほんの少しだけ、
信じてみたくなった。
先輩から楽譜を受け取り、バッグにしまう。
その時、ふと先輩が口を開いた。
「……ひなたって、まだヒート来てないよね?」
少しきょとんとしてしまったけど、僕は正直に答える。
「まだ来てないですよ!
お医者さんには
『ヒートが来る時期は個人差があるけど、
遅かれ早かれ来るから安心して』
って言われました!」
「そう……。
いつか来るといいね。
ひなたと番になれたらいいな」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「もちろんです!
僕はとわさんしか選びません!!」
だって、
心から愛している相手だから。
「僕は、自分の気持ちを信じたいです。
たとえ運命から背を向けることになっても、
とわさんの傍に、ずっといたい」
そう伝えると、
とわさんはニコッと優しく笑ってくれた。
「ひなた、本当にありがとう。
俺も……ひなたと一緒にいられて幸せだよ」
「……そういえばさ」
とわさんが、ふと笑いながら言った。
「最近、先輩って呼んでくれなくなったよね」
「えっ……そうですか?」
心当たりがなくて、思わず聞き返す。
「前はずっと先輩だったのに。
今は――とわ、って呼んでくれる」
「……だって」
少し照れて、視線を逸らす。
「付き合ってるのに、
ずっと先輩って呼ぶのも変かなって……」
「ふふ」
とわさんが、優しく笑う。
「実はさ、
とわって名前で呼んでくれるの、嬉しいんだ」
「えっ……どうして……?」
「距離が縮まった気がするし、
ひなたの声で呼ばれると、
すごく大切にされてるって感じがして」
胸の奥が、きゅっと熱くなる。
「……じゃあ、これからも
とわさんって呼びます」
「うん。よろしく」
そう言うと、とわさんが一歩近づいてきた。
ふわっと腕に包まれて、ぬくもりが広がる。
(あれ、これって……)
とわさん、
僕のことぎゅってしてる……?
顔が一気に熱くなって、
今にも倒れそうになる。
でも、よく聞くと――
(……とわさんの心臓の音、少し早い……?)
クールでかっこいいって思ってたとわさんにも、
こんな可愛い一面があるんだなぁ……
「……ひなた?
顔、すごいことになってるよ」
「えっ、そうですか……?」
「うん、ほら」
気づけば、とわさんの胸元に埋もれて、
口元がゆるゆるになっている僕がいた。
「へっ……これが、僕……?」
「さっきからずっとこんな感じだよ。
ほんとにひなたって、可愛くて愛おしい」
その瞬間、
とわさんの顔がぐっと近づいて――
「……ちゅ」
小さな音が、練習室に響いた。
「えっ……?」
え、今――
とわさん、僕にキス……!?
また一気に沸騰して、
本気で倒れそうになる。
キスなんてしたことなくて、
しかも不意打ちだったから、
理解が追いつかない。
「ひなた、
次、民謡音楽でしょ?
早く行かないと遅れちゃうよ」
「……ふぁい……いってきます……」
「いってらっしゃい。
今日、夜空いてるかな?」
「は、はい……空いてましゅ……」
「よかった。
ご飯でもどうかな?
美味しいハンバーグ屋見つけてさ、
ひなたと行きたくて」
ハンバーグ――
僕の一番好きな食べ物だ。
「行きます!
めっちゃ楽しみです!」
「それならよかった。
民謡音楽、頑張ってきてね」
「頑張ってきます!」
練習室を後にして、
次の教室へ向かう。
またとわさんに会えるんだ――
そう思うだけで、
胸がぽかぽかして、
とても幸せな気持ちになった。
小さな練習室だけど、
とわさんの綺麗な音が心地よく響いている。
繊細なところ、ダイナミックなところ……
まるで曲に物語があるみたいに、
音がひとつひとつ紡がれていく。
僕はすっかり聴き惚れていて、
気づけば、あっという間に曲が終わっていた。
「……」
「……ひなた?」
「……ほんとに、ほんとに……」
僕はごくりと唾を飲み込む。
「とても素晴らしい演奏を、ありがとうございます!!!」
思わず盛大に拍手を送る。
先輩が演奏する場所は、
どこだってコンサートホールになるんだから。
「そんな大袈裟な……
でも、嬉しいよ。いつもありがとう」
とわさんの手が、僕の頭に伸びてくる。
わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるみたいに。
「とわさん!!
せっかく髪の毛セットしてきたのに!
ぐしゃぐしゃになっちゃう!!」
「ははは、ごめんごめん。
じゃあ俺が整えてあげるよ。
ヘアセットも得意だからね」
そう言って、
とわさんが僕の髪を整えていく。
触れられる手が、とても心地いい。
(あぁ……
こんなに落ち着くってことは、
とわさんは僕の運命の番なのかな……)
Ωには「運命の番」がいるらしい。
生まれた時から決まっている、
たった一人の相手。
出会った瞬間に分かるとか、
匂いで本能が反応するとか、
身体が勝手に求めてしまうとか――
正直、全部うさんくさい。
そんなの、
都市伝説みたいなものだと思ってる。
だって、
人を好きになるって、
もっと時間をかけて育つものでしょ?
一緒に過ごして、
話して、笑って、
相手の癖とか弱さを知って、
それでも一緒にいたいって思えるから
「好き」になるんだと思う。
匂いだけで決まるなんて、
そんなの恋じゃない。
……でも。
とわさんは、
僕の運命の番なんじゃないかって、
少しだけ思ってしまう。
一緒にいると心地よくて、
穏やかな時間が流れていて――
都市伝説みたいな存在のはずなのに、
ほんの少しだけ、
信じてみたくなった。
先輩から楽譜を受け取り、バッグにしまう。
その時、ふと先輩が口を開いた。
「……ひなたって、まだヒート来てないよね?」
少しきょとんとしてしまったけど、僕は正直に答える。
「まだ来てないですよ!
お医者さんには
『ヒートが来る時期は個人差があるけど、
遅かれ早かれ来るから安心して』
って言われました!」
「そう……。
いつか来るといいね。
ひなたと番になれたらいいな」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「もちろんです!
僕はとわさんしか選びません!!」
だって、
心から愛している相手だから。
「僕は、自分の気持ちを信じたいです。
たとえ運命から背を向けることになっても、
とわさんの傍に、ずっといたい」
そう伝えると、
とわさんはニコッと優しく笑ってくれた。
「ひなた、本当にありがとう。
俺も……ひなたと一緒にいられて幸せだよ」
「……そういえばさ」
とわさんが、ふと笑いながら言った。
「最近、先輩って呼んでくれなくなったよね」
「えっ……そうですか?」
心当たりがなくて、思わず聞き返す。
「前はずっと先輩だったのに。
今は――とわ、って呼んでくれる」
「……だって」
少し照れて、視線を逸らす。
「付き合ってるのに、
ずっと先輩って呼ぶのも変かなって……」
「ふふ」
とわさんが、優しく笑う。
「実はさ、
とわって名前で呼んでくれるの、嬉しいんだ」
「えっ……どうして……?」
「距離が縮まった気がするし、
ひなたの声で呼ばれると、
すごく大切にされてるって感じがして」
胸の奥が、きゅっと熱くなる。
「……じゃあ、これからも
とわさんって呼びます」
「うん。よろしく」
そう言うと、とわさんが一歩近づいてきた。
ふわっと腕に包まれて、ぬくもりが広がる。
(あれ、これって……)
とわさん、
僕のことぎゅってしてる……?
顔が一気に熱くなって、
今にも倒れそうになる。
でも、よく聞くと――
(……とわさんの心臓の音、少し早い……?)
クールでかっこいいって思ってたとわさんにも、
こんな可愛い一面があるんだなぁ……
「……ひなた?
顔、すごいことになってるよ」
「えっ、そうですか……?」
「うん、ほら」
気づけば、とわさんの胸元に埋もれて、
口元がゆるゆるになっている僕がいた。
「へっ……これが、僕……?」
「さっきからずっとこんな感じだよ。
ほんとにひなたって、可愛くて愛おしい」
その瞬間、
とわさんの顔がぐっと近づいて――
「……ちゅ」
小さな音が、練習室に響いた。
「えっ……?」
え、今――
とわさん、僕にキス……!?
また一気に沸騰して、
本気で倒れそうになる。
キスなんてしたことなくて、
しかも不意打ちだったから、
理解が追いつかない。
「ひなた、
次、民謡音楽でしょ?
早く行かないと遅れちゃうよ」
「……ふぁい……いってきます……」
「いってらっしゃい。
今日、夜空いてるかな?」
「は、はい……空いてましゅ……」
「よかった。
ご飯でもどうかな?
美味しいハンバーグ屋見つけてさ、
ひなたと行きたくて」
ハンバーグ――
僕の一番好きな食べ物だ。
「行きます!
めっちゃ楽しみです!」
「それならよかった。
民謡音楽、頑張ってきてね」
「頑張ってきます!」
練習室を後にして、
次の教室へ向かう。
またとわさんに会えるんだ――
そう思うだけで、
胸がぽかぽかして、
とても幸せな気持ちになった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた
星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。
美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。
強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。
ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。
実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。
α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。
勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳
一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳
アルファポリス初投稿です。
※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。
それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる