たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi

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俺――高谷とわは、平凡な家庭に生まれた。

有名な音楽楽団に所属するαの父親と、
中学校で音楽を教えるβの母。
そして、双子の弟――高谷かい。

物心ついた頃から、
俺は当たり前のようにピアノに触れていた。

両親ともピアノ専攻ではなかったから、
「せめてどちらかはピアノを」
そんな思いがあったのだと思う。

俺は、運よくピアノに興味を持った。

幼い頃から優秀なピアノの先生がつけられ、
その先生はとても優しく、
小さな進歩でもたくさん褒めてくれた。

――あの頃は、ただ純粋に、ピアノが好きだった。

俺がピアノ。
かいはヴァイオリン。

同じ家で、同じように音楽に囲まれて育ったはずなのに、
音楽の神様は、どうやら弟の方を気に入ったらしい。

かいは、ヴァイオリンのコンクールで次々と一位を取った。
俺はというと、
入賞するか、しないか。
いつもその瀬戸際。

次第に、両親の視線はかいに向くようになった。

俺は、必死に練習した。
何時間も、何日も、何年も。

それでも結果は出ない。

一方で、かいは
ゲームをして、友達と遊んで、
少し練習しただけで、また一位。

(……俺の音楽の才能は、
全部かいが持っていったんだ)

幼い頃から、
そんな考えが頭から離れなかった。

――そんなある日。

かいのヴァイオリンコンクールがあった。
けれど、その日は珍しく、かいは一位を取れなかった。

相当悔しかったのだろう。
かいは、会場から姿を消してしまった。

外は雨。
両親は必死に探し回ったが、
どこにも見つからなかった。

……正直に言えば。

その時、俺は
少しだけ、ほっとしてしまった。

どんなに俺が頑張っても、
どんなに成績が良くても、
結局、両親の目を奪うのはいつもかいだった。

だから――
ほんの一瞬だけ。

「今日は、俺を見てくれるかもしれない」

そんな最低な期待を、
抱いてしまったのだ。






その日の夕方、
かいは何事もなかったかのように家へ帰ってきた。

かいの顔を見た瞬間、
両親は泣きながらかいを抱きしめた。

――あぁ。
俺がいなくなって、帰ってきたとしても、
こんなふうに迎えられることはないんだろうな。

かいが帰ってきたその日の夕食は、
母特製のミートソースパスタだった。
もちろん、かいの大好物だ。

「悔しくて、悔しくて、逃げちゃった。
でも、これからはもっと練習する。
もう一位以外、取らない」

そう話すかいに、
両親は「その意気よ」と笑って、
さらに発破をかけていた。

――そして、
かいはその日にあった出来事を話し始めた。

「今日ね、ピアノコンクールに出てた男の子が
僕に傘をさしてくれたんだ。
屋根のあるところまで一緒に行ったんだけど、
その子、すごくいい香りがして……ドキドキした」

「それ、もしかしたら
かいの“運命の人”だったのかもしれないわね。
名前は聞いたの?」

「ううん。聞いてない。
……だからさ、
僕、ピアノを習いたい」

その瞬間、
俺のフォークは止まった。

――なぜ、ピアノなんだ。

かいのことだ。
ヴァイオリンだけじゃなく、
ピアノでも才能を咲かせるだろう。

そして、
また比べられる。

その予感は、見事に当たった。

かいはみるみるピアノが上達し、
一年後のピアノコンクールで――

俺は入賞。
かいは、一位。

「かい!おめでとう!
一年でピアノ部門一位なんて、さすがね!」

本当に、本当に、悔しかった。

俺は、
かいの倍以上、ピアノに触れてきた。
両親だって、その過程を知っているはずなのに。

「お父さん、お母さん。
俺も、賞を取ったよ」

そう言って賞状を差し出しても、
二人はほとんど興味を示さなかった。

「とわも、いつか一位を取れるといいわね」

それだけだった。

高校までは、
かいと同じ音楽学校に通った。

同じ双子なのに、
ピアノの実力がまるで違う。
そう指摘され続け、
肩身の狭い思いを何度もした。

そして、大学受験。

俺は先生の勧めと環境を考え、
白桜音楽大学を志望した。
かいは、国公立の神田芸術大学。

――やっと、離れられる。

その思いだけで、
早く家を出て、
俺のことを誰も知らない場所で学びたかった。

二人とも志望校に合格したが、
両親の関心は、最後までかいに向いていた。

家を出る前日の夕食も、
また、かいの好きなミートソースパスタ。

「明日から、かい達も大学生ね。
二人とも、頑張るのよ。
……とわ、あなたも
いつかコンクールで一位を取ってね」

最後の最後まで、
結果の話。

(……あぁ。
結局、そこなんだな)

それでも。

明日からは一人暮らし。
誰にも比べられない生活が始まる。

その小さな希望を胸に、
俺はその夜、眠りについた。






白桜音楽大学での生活は、
それまでの人生とは真逆だった。

実技試験では常に上位。
教授からも評価され、
コンクールに出れば一位か二位。

――初めて、
「比べられない場所」に立てた気がした。

そして、そんなある日。

「初めまして!
相田ひなたと言います!!
入学式コンサートで、とわ先輩の音を聴いて……
僕も先輩みたいなピアニストになりたいと思いました!!」

目を輝かせた後輩が、
勢いよく話しかけてきた。

……どうせ、この子も結果だけを見るんだろう。

そう思っていた。

「先輩の音がしたので来ちゃいました!
いつもここで練習してるんですか?」

「あぁ、そうだよ」

「すごい!
先輩の練習、見学してもいいですか?
どんな練習をしてるのか、勉強したくて!」

……変わったやつだ。

そう思いながら、
俺はいつも通り練習を始めた。

一時間ほど経っただろうか。
あまりにも静かなので、
寝ているのかと思って振り返ると――

ひなたは、真剣な顔でメモを取っていた。

「……あ、すみません!
先輩がやってること、全部メモしてて……」

そして、少し照れたように続けた。

「先輩って、一小節一小節、
すごく大事に練習してるんですね。
こんなふうに向き合ってるから、
今の先輩があるんだなって……」

そう言って、
ひなたはにこっと笑った。

――初めてだった。

結果じゃなく、
“過程”を見てくれた人。

胸の奥が、じんと熱くなった。

コンクールで思うような結果が出なかった時も、

「先輩、大丈夫ですよ!!
先輩の演奏が、
今日の審査員に刺さらなかっただけです!!」

そう言って、
ひなたはいつも俺のそばにいた。

俺の努力を、
音楽への向き合い方を、
何一つ否定しなかった。

そして、ある日。

「……先輩。
恥ずかしいんですけど……」

ひなたは顔を真っ赤にして、
でも、まっすぐ俺を見て言った。

「僕、とわ先輩のことが大好きです。
ピアノにひたむきなところも、
優しいところも……
付き合ってください……!!」

「……こちらこそ、ありがとう」

自然と、言葉が出た。

「ひなたのおかげで、
俺はもっと成長できた。
これからも……
俺のそばで支えてくれないか?」

「……はいっ!!」

そう言って、
俺たちは抱き合った。

ひなたは、俺の太陽だった。

この光を、
もう二度と失いたくない。

――そう、思っていたのに。

「僕が迎えに行くからね」

かいと、ひなたは運命の番だった。

やっと見つけた太陽を、
また、弟に奪われるのか。

……ふざけるな。

(今度こそ、
何も、お前に取らせない。
かい……!!)

ひなたは、
俺の大好きで、大切な人だ。

絶対に――
離してたまるものか。
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