17 / 54
(๑><๑) ハーシア15歳♡
16:役立たずな女
ファクターは勇み足であった事を悔やんだ。
ユリアが夜勤明けのファクターの帰宅を待ち伏せており、そのまま今後の流れをどうするか決めたいと言うので早めの昼食を取りながら話をした。
「私が何としてでもハーシアを外に出すから偶然を装って話しかけてきて」
「上手く行くのか?今まで行動を共にしてないのに」
「何とかするわ」
それまでハーシアが友人と出かけるようだと当日になって言われても手が打てるはずがない。任務を放り出していたら職を失ってしまう。家督を継いでも騎士団を円満退役しなければ騎士団からの仕事も受けられなくなってしまうからだ。
行けない時には出仕前に門番に花束と手紙を渡し、行ける時に急ぎ駆けつけて見れば周囲には何人も令嬢がいて、いきなり話しかけても怪しまれるだけなので機を伺う。
遠目で様子を伺ってもハーシアが1人になるのは行きと帰りの馬車の中なので、馬車を停めねばならなくなる。用もないのに貴族の馬車が決められた場所でもない所で停車してしまったら、あっという間に物乞いに囲まれてしまうので声もかけられない。
遠目から見るハーシアの笑顔は眩しかった。
声が聴きたくて近くまで寄った事もあるが、くすくすと小さく笑う声だけで昇天してしまいそうだった。
夫婦となって性欲処理のために何度も抱いたハーシアだが、まだ誰の手にも堕ちていない穢れのないハーシアを見ているだけで浄化されている気分にもなった。
逸る気持ちをファクターは姿を見るたびに押さえ込んできた。
店から出てユリアが買い物に付き合って欲しいと言うので、仕方なく付き合った。
本当は早く帰って寝たい、そんな気持ちで幾つかの店に立ち寄り品を選ぶユリアの隣でファクターは睡魔と戦っていた。
4軒目、いや5軒目だったか。店から出たところでベルマウス伯爵家の馬車が目の前を走って行った。
ユリアは「やっば!!」と身を隠したが、停車した馬車からハーシアが下りてくるとファクターは駆けだしてしまっていた。
後先の事も、なんて言葉を掛けようかとも考えていなかった。
今思えば、眠くて理性を押さえる事が出来ず走り出したのは本能だったと解る。
――俺はこんなにもハーシアを欲しているんだ――
なのに失敗してしまった。
ベルマウス伯爵の声は怒気を含んでいた。
まだベルマウス伯爵とは正式に挨拶も交わしていない。
ファクターは当主ではなく子息に過ぎないのに気安く名前を読んでしまった。大失態だ。
前の人生では「お義父上」と何度も呼んだし、返事も返してくれた。
ユリアと共にサーシスの養子の件を根回しするために向かった時はバツが悪かったが、あの場はユリアが仕切ってくれた。
孫の可愛さには勝てなかったベルマウス伯爵夫妻を「所詮はこんなもの」と見下していた自分がいたことは否めない。
そんな経験から理性も効かないままに駆けてしまった。
★~★
仕事帰りに待ち伏せていたユリアに呼び止められたファクターは、正式に婚約となった事を父から聞かされた事もあって苛立っていた。
「解消の方向で話をしてくれ。俺もそうする」
ファクターはユリアが自分の婚約者になった事がどうしても受け入れられなかった。
まるで自分の籍が汚されてしまったようにも感じる。
真っ新なままの欄に名を記すのはハーシアでなければならなかったのに。
しかし、目の前でユリアは「別に、よくない?」気安く受け入れる方向であることを告げた。
「なんて言うか…夫人の仕事をしなきゃいけないのは困るけどぉ…えへへ。私、これでもいいかなって思ってるの。ハーシアには手伝ってって頼めば何とかできるかなぁ…っとか?」
そんな訳がない。
前も人生も、今もユリアとハーシアの中は良好とは言えない。
オマケにハーシアには王都からかなり離れた地に住まいのある子爵家との婚約話が1歩進もうとしていると過日ユリアが情報を持ち込んだではないか。
同じように夫人であるために教育が始まるのだとすればユリアの手伝いなど出来るはずがない。
――なんでこの女はこんなに楽観視できるんだ?――
いや、こんな女だったとファクターは思い返した。
ユリアは面倒事はしない女。
だからファクターがハーシアと結婚する事を勧めたのだ。許したのではない。勧めたのだ。
理由は当主夫人として面倒な事をハーシアにしてもらうために。
夫となった子爵の愛人を許したのも同じ理由。
愛人と愛人の間の子供については一切の口出しはしないから子爵家の事はそっちで切り盛りしてくれとユリアが選んだのは楽に生きる事だけだった。
閨事でさえ…。
『私は夫とも寝なきゃいけないし、ファクターがハーシアと寝るのも仕方ないと思ってるわ。だけど食事と一緒よ。いつも豪華なメインとは違って素朴な料理も食べればメインの美味しさをより実感できるでしょう?』
あっけらかんと言い退けたのだ。
体の関係を持つのは仕方のない事だし、お互い様だと。
そんな話に乗ってしまった過去の自分を殴ってやりたい。
今度も自分に都合よく物事が回ると信じて疑わないユリアにファクターは告げた。
「暫く会うのをやめよう」
「ど、どうして?」
「どうしてだと?お前が動いてもハーシアと会う事も出来ないじゃないか」
「それは…そうだけど」
ユリアを介すると事態が好転すると思えなかったファクターは単独で動く事を決めたのだった。
ユリアが夜勤明けのファクターの帰宅を待ち伏せており、そのまま今後の流れをどうするか決めたいと言うので早めの昼食を取りながら話をした。
「私が何としてでもハーシアを外に出すから偶然を装って話しかけてきて」
「上手く行くのか?今まで行動を共にしてないのに」
「何とかするわ」
それまでハーシアが友人と出かけるようだと当日になって言われても手が打てるはずがない。任務を放り出していたら職を失ってしまう。家督を継いでも騎士団を円満退役しなければ騎士団からの仕事も受けられなくなってしまうからだ。
行けない時には出仕前に門番に花束と手紙を渡し、行ける時に急ぎ駆けつけて見れば周囲には何人も令嬢がいて、いきなり話しかけても怪しまれるだけなので機を伺う。
遠目で様子を伺ってもハーシアが1人になるのは行きと帰りの馬車の中なので、馬車を停めねばならなくなる。用もないのに貴族の馬車が決められた場所でもない所で停車してしまったら、あっという間に物乞いに囲まれてしまうので声もかけられない。
遠目から見るハーシアの笑顔は眩しかった。
声が聴きたくて近くまで寄った事もあるが、くすくすと小さく笑う声だけで昇天してしまいそうだった。
夫婦となって性欲処理のために何度も抱いたハーシアだが、まだ誰の手にも堕ちていない穢れのないハーシアを見ているだけで浄化されている気分にもなった。
逸る気持ちをファクターは姿を見るたびに押さえ込んできた。
店から出てユリアが買い物に付き合って欲しいと言うので、仕方なく付き合った。
本当は早く帰って寝たい、そんな気持ちで幾つかの店に立ち寄り品を選ぶユリアの隣でファクターは睡魔と戦っていた。
4軒目、いや5軒目だったか。店から出たところでベルマウス伯爵家の馬車が目の前を走って行った。
ユリアは「やっば!!」と身を隠したが、停車した馬車からハーシアが下りてくるとファクターは駆けだしてしまっていた。
後先の事も、なんて言葉を掛けようかとも考えていなかった。
今思えば、眠くて理性を押さえる事が出来ず走り出したのは本能だったと解る。
――俺はこんなにもハーシアを欲しているんだ――
なのに失敗してしまった。
ベルマウス伯爵の声は怒気を含んでいた。
まだベルマウス伯爵とは正式に挨拶も交わしていない。
ファクターは当主ではなく子息に過ぎないのに気安く名前を読んでしまった。大失態だ。
前の人生では「お義父上」と何度も呼んだし、返事も返してくれた。
ユリアと共にサーシスの養子の件を根回しするために向かった時はバツが悪かったが、あの場はユリアが仕切ってくれた。
孫の可愛さには勝てなかったベルマウス伯爵夫妻を「所詮はこんなもの」と見下していた自分がいたことは否めない。
そんな経験から理性も効かないままに駆けてしまった。
★~★
仕事帰りに待ち伏せていたユリアに呼び止められたファクターは、正式に婚約となった事を父から聞かされた事もあって苛立っていた。
「解消の方向で話をしてくれ。俺もそうする」
ファクターはユリアが自分の婚約者になった事がどうしても受け入れられなかった。
まるで自分の籍が汚されてしまったようにも感じる。
真っ新なままの欄に名を記すのはハーシアでなければならなかったのに。
しかし、目の前でユリアは「別に、よくない?」気安く受け入れる方向であることを告げた。
「なんて言うか…夫人の仕事をしなきゃいけないのは困るけどぉ…えへへ。私、これでもいいかなって思ってるの。ハーシアには手伝ってって頼めば何とかできるかなぁ…っとか?」
そんな訳がない。
前も人生も、今もユリアとハーシアの中は良好とは言えない。
オマケにハーシアには王都からかなり離れた地に住まいのある子爵家との婚約話が1歩進もうとしていると過日ユリアが情報を持ち込んだではないか。
同じように夫人であるために教育が始まるのだとすればユリアの手伝いなど出来るはずがない。
――なんでこの女はこんなに楽観視できるんだ?――
いや、こんな女だったとファクターは思い返した。
ユリアは面倒事はしない女。
だからファクターがハーシアと結婚する事を勧めたのだ。許したのではない。勧めたのだ。
理由は当主夫人として面倒な事をハーシアにしてもらうために。
夫となった子爵の愛人を許したのも同じ理由。
愛人と愛人の間の子供については一切の口出しはしないから子爵家の事はそっちで切り盛りしてくれとユリアが選んだのは楽に生きる事だけだった。
閨事でさえ…。
『私は夫とも寝なきゃいけないし、ファクターがハーシアと寝るのも仕方ないと思ってるわ。だけど食事と一緒よ。いつも豪華なメインとは違って素朴な料理も食べればメインの美味しさをより実感できるでしょう?』
あっけらかんと言い退けたのだ。
体の関係を持つのは仕方のない事だし、お互い様だと。
そんな話に乗ってしまった過去の自分を殴ってやりたい。
今度も自分に都合よく物事が回ると信じて疑わないユリアにファクターは告げた。
「暫く会うのをやめよう」
「ど、どうして?」
「どうしてだと?お前が動いてもハーシアと会う事も出来ないじゃないか」
「それは…そうだけど」
ユリアを介すると事態が好転すると思えなかったファクターは単独で動く事を決めたのだった。
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。