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(๑><๑) ハーシア15歳♡
16:役立たずな女
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ファクターは勇み足であった事を悔やんだ。
ユリアが夜勤明けのファクターの帰宅を待ち伏せており、そのまま今後の流れをどうするか決めたいと言うので早めの昼食を取りながら話をした。
「私が何としてでもハーシアを外に出すから偶然を装って話しかけてきて」
「上手く行くのか?今まで行動を共にしてないのに」
「何とかするわ」
それまでハーシアが友人と出かけるようだと当日になって言われても手が打てるはずがない。任務を放り出していたら職を失ってしまう。家督を継いでも騎士団を円満退役しなければ騎士団からの仕事も受けられなくなってしまうからだ。
行けない時には出仕前に門番に花束と手紙を渡し、行ける時に急ぎ駆けつけて見れば周囲には何人も令嬢がいて、いきなり話しかけても怪しまれるだけなので機を伺う。
遠目で様子を伺ってもハーシアが1人になるのは行きと帰りの馬車の中なので、馬車を停めねばならなくなる。用もないのに貴族の馬車が決められた場所でもない所で停車してしまったら、あっという間に物乞いに囲まれてしまうので声もかけられない。
遠目から見るハーシアの笑顔は眩しかった。
声が聴きたくて近くまで寄った事もあるが、くすくすと小さく笑う声だけで昇天してしまいそうだった。
夫婦となって性欲処理のために何度も抱いたハーシアだが、まだ誰の手にも堕ちていない穢れのないハーシアを見ているだけで浄化されている気分にもなった。
逸る気持ちをファクターは姿を見るたびに押さえ込んできた。
店から出てユリアが買い物に付き合って欲しいと言うので、仕方なく付き合った。
本当は早く帰って寝たい、そんな気持ちで幾つかの店に立ち寄り品を選ぶユリアの隣でファクターは睡魔と戦っていた。
4軒目、いや5軒目だったか。店から出たところでベルマウス伯爵家の馬車が目の前を走って行った。
ユリアは「やっば!!」と身を隠したが、停車した馬車からハーシアが下りてくるとファクターは駆けだしてしまっていた。
後先の事も、なんて言葉を掛けようかとも考えていなかった。
今思えば、眠くて理性を押さえる事が出来ず走り出したのは本能だったと解る。
――俺はこんなにもハーシアを欲しているんだ――
なのに失敗してしまった。
ベルマウス伯爵の声は怒気を含んでいた。
まだベルマウス伯爵とは正式に挨拶も交わしていない。
ファクターは当主ではなく子息に過ぎないのに気安く名前を読んでしまった。大失態だ。
前の人生では「お義父上」と何度も呼んだし、返事も返してくれた。
ユリアと共にサーシスの養子の件を根回しするために向かった時はバツが悪かったが、あの場はユリアが仕切ってくれた。
孫の可愛さには勝てなかったベルマウス伯爵夫妻を「所詮はこんなもの」と見下していた自分がいたことは否めない。
そんな経験から理性も効かないままに駆けてしまった。
★~★
仕事帰りに待ち伏せていたユリアに呼び止められたファクターは、正式に婚約となった事を父から聞かされた事もあって苛立っていた。
「解消の方向で話をしてくれ。俺もそうする」
ファクターはユリアが自分の婚約者になった事がどうしても受け入れられなかった。
まるで自分の籍が汚されてしまったようにも感じる。
真っ新なままの欄に名を記すのはハーシアでなければならなかったのに。
しかし、目の前でユリアは「別に、よくない?」気安く受け入れる方向であることを告げた。
「なんて言うか…夫人の仕事をしなきゃいけないのは困るけどぉ…えへへ。私、これでもいいかなって思ってるの。ハーシアには手伝ってって頼めば何とかできるかなぁ…っとか?」
そんな訳がない。
前も人生も、今もユリアとハーシアの中は良好とは言えない。
オマケにハーシアには王都からかなり離れた地に住まいのある子爵家との婚約話が1歩進もうとしていると過日ユリアが情報を持ち込んだではないか。
同じように夫人であるために教育が始まるのだとすればユリアの手伝いなど出来るはずがない。
――なんでこの女はこんなに楽観視できるんだ?――
いや、こんな女だったとファクターは思い返した。
ユリアは面倒事はしない女。
だからファクターがハーシアと結婚する事を勧めたのだ。許したのではない。勧めたのだ。
理由は当主夫人として面倒な事をハーシアにしてもらうために。
夫となった子爵の愛人を許したのも同じ理由。
愛人と愛人の間の子供については一切の口出しはしないから子爵家の事はそっちで切り盛りしてくれとユリアが選んだのは楽に生きる事だけだった。
閨事でさえ…。
『私は夫とも寝なきゃいけないし、ファクターがハーシアと寝るのも仕方ないと思ってるわ。だけど食事と一緒よ。いつも豪華なメインとは違って素朴な料理も食べればメインの美味しさをより実感できるでしょう?』
あっけらかんと言い退けたのだ。
体の関係を持つのは仕方のない事だし、お互い様だと。
そんな話に乗ってしまった過去の自分を殴ってやりたい。
今度も自分に都合よく物事が回ると信じて疑わないユリアにファクターは告げた。
「暫く会うのをやめよう」
「ど、どうして?」
「どうしてだと?お前が動いてもハーシアと会う事も出来ないじゃないか」
「それは…そうだけど」
ユリアを介すると事態が好転すると思えなかったファクターは単独で動く事を決めたのだった。
ユリアが夜勤明けのファクターの帰宅を待ち伏せており、そのまま今後の流れをどうするか決めたいと言うので早めの昼食を取りながら話をした。
「私が何としてでもハーシアを外に出すから偶然を装って話しかけてきて」
「上手く行くのか?今まで行動を共にしてないのに」
「何とかするわ」
それまでハーシアが友人と出かけるようだと当日になって言われても手が打てるはずがない。任務を放り出していたら職を失ってしまう。家督を継いでも騎士団を円満退役しなければ騎士団からの仕事も受けられなくなってしまうからだ。
行けない時には出仕前に門番に花束と手紙を渡し、行ける時に急ぎ駆けつけて見れば周囲には何人も令嬢がいて、いきなり話しかけても怪しまれるだけなので機を伺う。
遠目で様子を伺ってもハーシアが1人になるのは行きと帰りの馬車の中なので、馬車を停めねばならなくなる。用もないのに貴族の馬車が決められた場所でもない所で停車してしまったら、あっという間に物乞いに囲まれてしまうので声もかけられない。
遠目から見るハーシアの笑顔は眩しかった。
声が聴きたくて近くまで寄った事もあるが、くすくすと小さく笑う声だけで昇天してしまいそうだった。
夫婦となって性欲処理のために何度も抱いたハーシアだが、まだ誰の手にも堕ちていない穢れのないハーシアを見ているだけで浄化されている気分にもなった。
逸る気持ちをファクターは姿を見るたびに押さえ込んできた。
店から出てユリアが買い物に付き合って欲しいと言うので、仕方なく付き合った。
本当は早く帰って寝たい、そんな気持ちで幾つかの店に立ち寄り品を選ぶユリアの隣でファクターは睡魔と戦っていた。
4軒目、いや5軒目だったか。店から出たところでベルマウス伯爵家の馬車が目の前を走って行った。
ユリアは「やっば!!」と身を隠したが、停車した馬車からハーシアが下りてくるとファクターは駆けだしてしまっていた。
後先の事も、なんて言葉を掛けようかとも考えていなかった。
今思えば、眠くて理性を押さえる事が出来ず走り出したのは本能だったと解る。
――俺はこんなにもハーシアを欲しているんだ――
なのに失敗してしまった。
ベルマウス伯爵の声は怒気を含んでいた。
まだベルマウス伯爵とは正式に挨拶も交わしていない。
ファクターは当主ではなく子息に過ぎないのに気安く名前を読んでしまった。大失態だ。
前の人生では「お義父上」と何度も呼んだし、返事も返してくれた。
ユリアと共にサーシスの養子の件を根回しするために向かった時はバツが悪かったが、あの場はユリアが仕切ってくれた。
孫の可愛さには勝てなかったベルマウス伯爵夫妻を「所詮はこんなもの」と見下していた自分がいたことは否めない。
そんな経験から理性も効かないままに駆けてしまった。
★~★
仕事帰りに待ち伏せていたユリアに呼び止められたファクターは、正式に婚約となった事を父から聞かされた事もあって苛立っていた。
「解消の方向で話をしてくれ。俺もそうする」
ファクターはユリアが自分の婚約者になった事がどうしても受け入れられなかった。
まるで自分の籍が汚されてしまったようにも感じる。
真っ新なままの欄に名を記すのはハーシアでなければならなかったのに。
しかし、目の前でユリアは「別に、よくない?」気安く受け入れる方向であることを告げた。
「なんて言うか…夫人の仕事をしなきゃいけないのは困るけどぉ…えへへ。私、これでもいいかなって思ってるの。ハーシアには手伝ってって頼めば何とかできるかなぁ…っとか?」
そんな訳がない。
前も人生も、今もユリアとハーシアの中は良好とは言えない。
オマケにハーシアには王都からかなり離れた地に住まいのある子爵家との婚約話が1歩進もうとしていると過日ユリアが情報を持ち込んだではないか。
同じように夫人であるために教育が始まるのだとすればユリアの手伝いなど出来るはずがない。
――なんでこの女はこんなに楽観視できるんだ?――
いや、こんな女だったとファクターは思い返した。
ユリアは面倒事はしない女。
だからファクターがハーシアと結婚する事を勧めたのだ。許したのではない。勧めたのだ。
理由は当主夫人として面倒な事をハーシアにしてもらうために。
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閨事でさえ…。
『私は夫とも寝なきゃいけないし、ファクターがハーシアと寝るのも仕方ないと思ってるわ。だけど食事と一緒よ。いつも豪華なメインとは違って素朴な料理も食べればメインの美味しさをより実感できるでしょう?』
あっけらかんと言い退けたのだ。
体の関係を持つのは仕方のない事だし、お互い様だと。
そんな話に乗ってしまった過去の自分を殴ってやりたい。
今度も自分に都合よく物事が回ると信じて疑わないユリアにファクターは告げた。
「暫く会うのをやめよう」
「ど、どうして?」
「どうしてだと?お前が動いてもハーシアと会う事も出来ないじゃないか」
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