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(๑><๑) ハーシア15歳♡
15:じゃないほう
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1週間後やってきたベルマウス伯爵を揉み手で迎えたセシル伯爵は上機嫌だった。
「まどろっこしい事は止めましょう。婚約を受け入れてくださるのならもう纏めてしまいませんか」
ダメ元でセシル伯爵はベルマウス伯爵に今日、婚約を調えようと提案した。
通常なら先ず両親が話し合いをして、お互いの家で譲れない所の落としどころを作り、それから顔合わせ。
婚約の締結まで早くて2、3か月。
遅い場合は前回と同じく1年ほどかかる。
前回15歳のデヴュタントでファクターがハーシアに一目惚れをして婚約を結べたのは、詳細がなかなか纏まらずハーシアが16歳になってすぐの事だった。
それを短縮しないかとある程度は持参金や待遇を譲歩するつもりで言ってみた。
記憶にある限り、セシル伯爵は「嫁いだらこちらの人間。里帰りなど必要ない」と里帰りも認めなかった。
婚約さえすればこちらのもの。
セシル伯爵は嘘も方便。大事なのはハーシアを先ずこちらに取り込む事なのだから、好きな時に好きなだけ里帰りすればいいと嘘だって吐くつもりだった。
どうでしょうかと猫なで声で問うてみれば。
「奇遇ですな。気が早いと言われるかと戦々恐々でしたが、そう言って頂けるとは有り難い。こちらは婚約をして頂けるのなら直ぐにでも。貴族法が無ければ明日にでも嫁がせて頂ければと考えておりましたよ」
同行してきた執事がカバンから書類を取り出すと、冒頭にある「婚約締結書」と太字で書かれた文字だけをみてセシル伯爵はソファに座りながらも浮き立っているのは気持ちだけでなく本当に腰も浮いているんじゃないか?と思えるほどに喜んだ。
「まだデヴュタントを終えた15歳です。何も教えていないのでセシル伯には面倒ばかりをかける事になってしまうのですがね」
「いやいや。問題ない。若いんだ。若ければ頭も柔らかいからスイスイと覚えられる。任せて頂けるのならこちらで執務なども1から教えましょう。どの道息子が後を継げば女主人として采配してもらわねばなりませんしね」
セシル伯爵夫妻としてはこれでセシル家に一任してもらえるなら願ったり叶ったりだ。
「そうですか。ではお言葉に甘えて…その分持参金を少し多めに。それでよろしいかな?」
「持参金など要りませんよ!アッハッハ」
勿論社交辞令だ。金は食料と違って腐らないのだからあればあるほどありがたい。
「それではこちらの面目が」と2、3回定型のやり取りをして持参金は20%増しで折り合いがついた。
用意のいいベルマウス伯爵は婚約に関する全ての書類をセシル伯爵が署名だけをすればいいように、両家の控えと貴族院に提出する分と作って持参していた。
セシル伯爵は、ずらずらと並べられた書類にペン先も踊らせつつ全て署名を済ませた。
「家督については結婚後でよろしいかな?」
「それはセシル家での話。当家が口出しをする事では御座いませんよ」
「左様か。で、婚約期間なんだが…」
「嫌ですな。先ほどの書面に書いてありましたよ。3カ月でよろしいのでしょう?」
「そ、そうだった。そうだった」
セシル伯爵は内容を全く読んでいなかった事に気がつき、慌てて署名済みの控えを手に取り婚約期間が貴族法で定める最短の3カ月である文字を見つけると満面の笑みになった。
「では早速娘には婚約中にセシル家の執務を覚えるように通わせます」
「そうして頂けるとありがたい」
「娘も喜ぶでしょう。親としては邪魔をせず早くにこうしてやればよかったと悔やんでいたところです」
「え?それはどういう…」
セシル伯爵はファクターがハーシアと友人としてでも付き合いを始めているなんて思ってもいなかった。勿論ユリアとファクターが隠れて密会している事も知らない。
鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていると、ベルマウス伯爵がハハハと笑って立ち上がる。
「では、私はこれで。帰宅をしたらユリアには明日からでも向かうようにと伝えておきます」
「え?…はっ?えっ?ハァァーッ?ちょ、ちょと、ちょっと‥」
セシル伯爵が盛大に驚く姿にベルマウス伯爵は軽く会釈をすると貴族院に出す原本の入ったカバンを抱く従者と共に部屋から出て行った。
慌てて手にした書類の文字を夫婦で指でなぞり、音読した。
「婚約‥ファクター・セシルとユリア・ベルマウスっ?!」
「あなたっ!違うわよ!こっちじゃない!じゃないほうよ!!」
セシル伯爵夫妻も記憶にあった。
子爵家に嫁いだユリアは愛人と一緒に夫は住まいを別にし悠々自適に暮らして贅沢三昧、子爵も必要最低限の社交にしか夫婦で出席はしていなかったことを。
まだ経験していない記憶の中で何度も夫婦で言ったものだ。
「こっちの娘じゃなくて良かった」と。
そうでなければ田舎で不自由なく暮らす事なんか出来なかったのだから。
なのに書類にある名前は…。
<< こっちじゃない!! >>
セシル伯爵夫妻の声が重なったが後の祭りだった。
「まどろっこしい事は止めましょう。婚約を受け入れてくださるのならもう纏めてしまいませんか」
ダメ元でセシル伯爵はベルマウス伯爵に今日、婚約を調えようと提案した。
通常なら先ず両親が話し合いをして、お互いの家で譲れない所の落としどころを作り、それから顔合わせ。
婚約の締結まで早くて2、3か月。
遅い場合は前回と同じく1年ほどかかる。
前回15歳のデヴュタントでファクターがハーシアに一目惚れをして婚約を結べたのは、詳細がなかなか纏まらずハーシアが16歳になってすぐの事だった。
それを短縮しないかとある程度は持参金や待遇を譲歩するつもりで言ってみた。
記憶にある限り、セシル伯爵は「嫁いだらこちらの人間。里帰りなど必要ない」と里帰りも認めなかった。
婚約さえすればこちらのもの。
セシル伯爵は嘘も方便。大事なのはハーシアを先ずこちらに取り込む事なのだから、好きな時に好きなだけ里帰りすればいいと嘘だって吐くつもりだった。
どうでしょうかと猫なで声で問うてみれば。
「奇遇ですな。気が早いと言われるかと戦々恐々でしたが、そう言って頂けるとは有り難い。こちらは婚約をして頂けるのなら直ぐにでも。貴族法が無ければ明日にでも嫁がせて頂ければと考えておりましたよ」
同行してきた執事がカバンから書類を取り出すと、冒頭にある「婚約締結書」と太字で書かれた文字だけをみてセシル伯爵はソファに座りながらも浮き立っているのは気持ちだけでなく本当に腰も浮いているんじゃないか?と思えるほどに喜んだ。
「まだデヴュタントを終えた15歳です。何も教えていないのでセシル伯には面倒ばかりをかける事になってしまうのですがね」
「いやいや。問題ない。若いんだ。若ければ頭も柔らかいからスイスイと覚えられる。任せて頂けるのならこちらで執務なども1から教えましょう。どの道息子が後を継げば女主人として采配してもらわねばなりませんしね」
セシル伯爵夫妻としてはこれでセシル家に一任してもらえるなら願ったり叶ったりだ。
「そうですか。ではお言葉に甘えて…その分持参金を少し多めに。それでよろしいかな?」
「持参金など要りませんよ!アッハッハ」
勿論社交辞令だ。金は食料と違って腐らないのだからあればあるほどありがたい。
「それではこちらの面目が」と2、3回定型のやり取りをして持参金は20%増しで折り合いがついた。
用意のいいベルマウス伯爵は婚約に関する全ての書類をセシル伯爵が署名だけをすればいいように、両家の控えと貴族院に提出する分と作って持参していた。
セシル伯爵は、ずらずらと並べられた書類にペン先も踊らせつつ全て署名を済ませた。
「家督については結婚後でよろしいかな?」
「それはセシル家での話。当家が口出しをする事では御座いませんよ」
「左様か。で、婚約期間なんだが…」
「嫌ですな。先ほどの書面に書いてありましたよ。3カ月でよろしいのでしょう?」
「そ、そうだった。そうだった」
セシル伯爵は内容を全く読んでいなかった事に気がつき、慌てて署名済みの控えを手に取り婚約期間が貴族法で定める最短の3カ月である文字を見つけると満面の笑みになった。
「では早速娘には婚約中にセシル家の執務を覚えるように通わせます」
「そうして頂けるとありがたい」
「娘も喜ぶでしょう。親としては邪魔をせず早くにこうしてやればよかったと悔やんでいたところです」
「え?それはどういう…」
セシル伯爵はファクターがハーシアと友人としてでも付き合いを始めているなんて思ってもいなかった。勿論ユリアとファクターが隠れて密会している事も知らない。
鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていると、ベルマウス伯爵がハハハと笑って立ち上がる。
「では、私はこれで。帰宅をしたらユリアには明日からでも向かうようにと伝えておきます」
「え?…はっ?えっ?ハァァーッ?ちょ、ちょと、ちょっと‥」
セシル伯爵が盛大に驚く姿にベルマウス伯爵は軽く会釈をすると貴族院に出す原本の入ったカバンを抱く従者と共に部屋から出て行った。
慌てて手にした書類の文字を夫婦で指でなぞり、音読した。
「婚約‥ファクター・セシルとユリア・ベルマウスっ?!」
「あなたっ!違うわよ!こっちじゃない!じゃないほうよ!!」
セシル伯爵夫妻も記憶にあった。
子爵家に嫁いだユリアは愛人と一緒に夫は住まいを別にし悠々自適に暮らして贅沢三昧、子爵も必要最低限の社交にしか夫婦で出席はしていなかったことを。
まだ経験していない記憶の中で何度も夫婦で言ったものだ。
「こっちの娘じゃなくて良かった」と。
そうでなければ田舎で不自由なく暮らす事なんか出来なかったのだから。
なのに書類にある名前は…。
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セシル伯爵夫妻の声が重なったが後の祭りだった。
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