この結婚、ケリつけさせて頂きます

cyaru

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第09話  王女様の宝石箱

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一方ミネルヴァーナとマリーは帰り道でワイワイと買い物を済ませてこれからの住処に到着をした。

シルヴァモンドが用意してくれた家は大きすぎず小さすぎず。
建物そのものも扉が開かない部屋は1つあったが、ミネルヴァーナとマリーにそれぞれ部屋もあり、食事室と続きになった厨房。部屋との行き来が楽な湯殿と不浄と公私が分けられた間取り。

「わぁミーちゃん。キッチンの高さも丁度!」
「そうよね。指1本分でも高いとか低いと腰が痛くなっちゃうものね」
「どうせお客様も来ないし、テーブルももっとキッチンに寄せてカウンター風にするのはどうかな?」
「つくる所が丸見えになっちゃうわよ」
「でも、熱いものは熱いままに直ぐに出せるよ」
「出せるって…歩数にして2歩か3歩よ?」

しかし、マリーは気が付いた。

「もしかして…調理をする人って雇ってたりするのかな?」

マリーは公爵家に雇われるまで近所にある別の貴族の家に雇われていた。
そこでは使用人は用途ごとに雇われていて、ちょっとしたゴミも清掃係がいたしベッドメイクも担当がいた。洗濯も洗う係と干す係、取り込んでアイロンの係、仕舞う係がいた。

「そんなに大勢?…あ、でもいたかも?」

ミネルヴァーナと側妃の母が住む宮が異常だっただけで、他の兄弟姉妹の宮にはマリーが言う通り使用人が大勢いた事を思い出した。

「それより…私って未だに公爵家の使用人だわ!どうしよう。ミーちゃんのこと報告しろって言われるかも」
「その時はありのままを報告してくれていいのよ?」
「でも…ミーちゃんを売るような気がして…。しなきゃクビかな?」


マリーにも家族はいる。ただどの国も共通なようで低位貴族の令嬢は貴族令嬢と言っても働ける年齢になれば口減らしに奉公に出る。僅かな賃金を家に仕送りする者もいれば今後の付き合いも断つ家族もいる。
マリーの場合は後者だったからこそ、長期間馬車旅も可能だった。

公爵家をクビになってしまうとマリーは職を失うが、次の働き口が見つかるまで住む家も失う。

「判ったわ。わたくしがマリりんを雇うわ」
「出来るの?」
「クビになればよ?今はどんな扱いになるか判らないから勝手に動くよりも出方を待った方が良いと思うの。多分…そのまま継続になりそうな気もするわ」
「どうしてそう思うの?」
「だって…わたくし、悪い噂しかない王女なのよ?彼の話もここに来るまでの兵士の皆もそれが前提になってたでしょう?そんな悪い噂しかないような王女の元で働きたいなんて人いないわ。だからマリりんにも雇った時に細かいことは言わなかったのよ。逃げられちゃうと困るから」


不安げなマリーもミネルヴァーナの言葉に安心をしたのか、やっと笑顔になって帰り道で買ってきた食材の入った袋から野菜を取り出し、テーブルに並べた。


「この芽が出ちゃった芋。どうするの?」
「どうするって…植えるのよ」
「本気?手で土を掘ったってやっぱり本当だったの?!」
「本当よ。芽が出ちゃうと皆捨てるでしょう?無料で沢山貰えたわね」
「そうだけど…あとはコレ!ほうれん草の葉っぱも潰れて緑の汁がっ!うわぁぁベトベト」
「食べられるところだけは食べるけど、根っこは植えるの。小さ目だけど葉っぱも出るのよ?後は…豆苗。これはお皿とかに水を入れて置いておくの。ニョキニョキ~って生えてくるわ」

ニョキニョキと手を天井に向かって突き上げ、手のひらを合わせるとクネクネ体を動かし、下手をすると怪しげなヨガ教室のデキあがった講師に見えなくもない動きをするミネルヴァーナにマリーは目を輝かせる。


芽が出た芋、葉や茎が潰されて液体化し売れない葉物野菜、必要な部分は店頭で切り落として廃棄するだけの根っこだけになったネギや豆苗だらけの木箱。

ミネルヴァーナも目を輝かせて言った。

「青果店の廃棄箱はご馳走の宝石箱ね!」
「ミーちゃんっ」

マリーは世間で言う宝石箱とは代々伝わる家宝や国宝がある宝物庫だったり、キラキラの宝石箱だとばかり思っていた。

【ご馳走の宝石箱】
カァァーッ!目が曇っていたから青果店に宝石箱が置かれていたなんて気が付かなかった!
灯台下暗しとはこの事だ!

マリーの新しいページが開かれた瞬間でもあった。
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