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第08話  初めてのお願いはゴミ処理

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長居も無用と立ち上がったミネルヴァーナをシルヴァモンドが何故か引き留めた。

「まだ御用が御座いますの?」
「いや、そうじゃない。場所も判らないだろうし送っていく」
「不要です。途中で買い物をすると伝えましたが?場所はマリーさんがご存じでしょうから」


シルヴァモンドがマリーを見るとマリーは力強く頷いている。
そう言えばベルセール家に雇われる前は向かう家屋のある区画で主が不在時に留守番をするメイドとして働いていて、その主が死去した事により継続雇用が無くなったので貼り紙を見て応募してきたのだと思い出した。


「だが、ここから歩いていくと言うのか?」
「いえ、辻馬車は使おうと考えています」
「つ、辻馬車?平民と相乗りをするというのか?」
「え?‥‥もしかしてル・サブレン王国では禁じられていますの?」
「そう言う訳ではないが…平民と相乗りなんて…信じられない」
「そういう選民思考。止めた方がいいですよ。公爵家のご子息であると同時に第3王子殿下なのですから」


立ち上がったミネルヴァーナを「だとしても」とシルヴァモンドは再度引き留めた。

――どうして俺は…行ってほしくないんだ?――


ミネルヴァーナが城に到着した時は不謹慎にも「途中に事故もなく運だけはいい女」と思ってしまった。

国王と謁見している時は「減らず口を叩く女」だと思ってしまった。

この部屋に入った時は「5年も辛抱する前に刺客によってどうにかなってくれないだろうか」と願ってしまった。なのに知らなかった1面を知った今、もっとミネルヴァーナを知りたいと思ってしまう。

もしかすると、報告書でしか知らないミネルヴァーナと目の前のミネルヴァーナは別人かも知れないとも思い、男同士でもこんなに細かいことを突き詰めた話し合いをした事もなく、もっと話をしたい。そんな風にも思ってしまった。


どうでもいい事で引き留めてしまったが、声色が部屋に入った時と違う自分にシルヴァモンド自身も困惑してしまっている。
だから引き留めるために声も上ずってしまう。


「荷物があるだろう?」
「ありませんけど?」
「だが、輿入れ道具があるはずだ」
「そうでしたね!すっかり忘れていましたわ。その件ですが分別をしますので公爵家の一画に置いて頂ければ」
「分別?」
「はい。色々不用品が詰め込まれていると思いますので布製品と金属なんかはわけた方が宜しいでしょう?」
「まて …」


シルヴァモンドは予想外の言葉に頭が痛くなってきた。

報告書のミネルヴァーナと大きくかけ離れているが輿入れ道具を分別する。しかもそれらが全てゴミだとも聞こえる物言いに考えが追いつかない。


「家族もですがおそらく城の使用人達もこれ幸いと不用品を詰めていると思いますのでそのまま廃棄が望ましいのですが‥‥本当に申し訳ないですわ」

「いいんだ。全部捨てていいのならこちらで手配をしておく。再度念押しになるが本当に要らないのだな?」
「えぇ。入れ物の木箱だけは再利用できると思いますが、捨てて頂けるのなら助かりますわ。お願いしてもよろしくて?」
「あぁ…それは構わないが」
「よかった。わたくしへの断りは不要です。公爵家で必要と思われるものは何一つないと思いますが、もし!必要と思う物があればご遠慮なく」

にっこりと微笑むと今度こそミネルヴァーナはマリーと共にそれぞれが小さなトランク1つを手に部屋を出て行ってしまった。

その微笑みにシルヴァモンドの心臓は五月蠅く拍動を打ち始めた。

「これでいいのか?」迷いはあったがシルヴァモンドは2人は部屋から出て行って自分に都合よく物事が進んだ事に罪悪感も感じつつ暫く座り込む。何の答えも出ないままに屋敷に戻ったのだった。



屋敷に戻れば続々と運び込まれる輿入れ道具。
何台もの荷馬車が列になって荷下ろしを待っていた。

ミネルヴァーナの言葉を思い出し、まさかと思いつつも無作為に選びだした幾つかの木箱を従者に開封させてシルヴァモンドは一言だけ言葉を発した。

「冗談だろう」

木箱の中身はミネルヴァーナが言った通りゴミが詰め込まれていたのだった。1つくらいは…そう思ったが荷馬車の台数にして18台。木箱の数は全部で92個。全てがゴミだった。
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