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捕縛に向けて
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「カルローディア侯爵はどうしている」
フィオランツはロレンツィオに問う。「カルローディア侯爵は‥‥」と言いかけてアルマ―侯爵とフィオランツの顔を交互に伺う。マリオネットとしている事を明かして良いかの判断がつき兼ねるからである。
「あぁ、そうか。アルマ―。カルローディアは既に子飼いだ。アレは人形に過ぎぬ。時が来れば廃材となる」
「廃材‥‥なるほど陛下も禁呪を?」
「あぁ、必要に迫られてな。今はもう完全に人形だ。ロレンツィオ。良いぞ」
「はい‥‥カルローディア侯爵については先ほどのアルマ―侯爵の言う通り現在領地のほとんどを教皇側に表面上は払い下げて代金を寄付しております。教皇側との話は付いており実質は譲渡です。年内の内には全ての地についての譲渡は完了しますので、完了次第病死をして頂く事になっております。使用人は侯爵家の者ではなく、全員私の部下ですので侯爵が病死後、速やかに廃家の届けが受理される流れです。まもなく不治の病という話が流れ、実家が身辺整理をする事で王妃については現状を維持するよう心情を操作する次第です」
ほぅ…と顎を撫でるアルマ―侯爵は既に人形となっているという点をなるほどと理解する。
腑に落ちない点がつながったのだろう。
「メデレーエフ王弟殿下を断罪する証拠ですが」
そう言ってアルマ―侯爵は足元に置いたカバンから書類を取り出しテーブルに並べる。
「隣国との不正な武器の売買、自国の兵士を使っての身体強化魔術による人体実験、乳幼児を使っての蘇生実験の証拠です。遺体はマンヘザル洞窟、ヘリオンザ鍾乳洞など幾つかの自然窟に投げ込まれております」
「アルマ―。お前これを何故今まで黙っていたのだ」
「陛下。お忘れですか。わたくしは【王家と血の誓約】をした者です。現在メデレーエフ王弟殿下は王族。故に命令がなければ提出する事はしません。勿論陛下より先にメデレーエフ王弟殿下がこれを処分しろと言われれば従うまで。ですがこの話をするに、わたくしが来る直前であってもメデレーエフ王弟殿下に対しては罷免の勅命をこの中将閣下に出されたのではないですか」
「アルマ―。お前は本当に曲者だな。メデレーエフはお前が王家の諜報だとは知らぬではないか」
「メデレーエフ王弟殿下が知っているかどうかは我が家が関知する事では御座いません。王族であれば秘匿された教育を成されます。まぁ、覚えておられた陛下と忘れているメデレーエフ王弟殿下。それだけの事です」
「クックック…遊びたい盛りの4,5歳児に玩具を目の前に置いての誘導を交えた秘匿教育だからな。俺はあまり昆虫や馬、剣に興味がなかっただけだ」
「興味がない?またこれはご謙遜を。既に飽きられていただけでしょうに」
窓の外が次第に明るくなってくる。夜明けが近い。セレティアの具合も心配なロレンツィオは焦りが見えてくるのをフィオランツは感じている。
「それで禁呪を使うものだが、該当者は魔法省の報告書にないようだ」
「それはそうでしょう。禁じ手とも言える禁呪。まともに申告しているのは中将閣下くらいです」
「該当者はいるか」
「2人おりますがそのうち1人は当家の間者。1人は現在当家にて色々と話を聞いております」
「だ、そうだ。良かったな。解呪できそうではないか」
「解呪…と言いますと?」
アルマ―侯爵は意表を突かれた表情でフィオランツを見ている。芝居ではなさそうな雰囲気にフィオランツは思わず身を乗り出す。
「えっ?棘の鎖をやったのはそやつではないのか?」
「棘の鎖?いえいえ。違います。吐かせているのは隣国で輪廻の砦を行った者。属性が違いますし棘の鎖が使えない事は判っております。それは当家の間者も同じでございます」
「と、言う事はメデレーエフかジルクスマに歌ってもらわねばならんと言う事か」
「覚えていれば良いのですが忘却魔法をかけられていれば記憶からも消されているという事です」
「むぅ‥‥同時に2人を押えるのは‥‥難しいか」
手詰まりかと3人は腕を組んで唸った。距離的に離れている屋敷で速やかに行動をするには人員が足りなさすぎる。王家が騎士団を動かせば事前に情報が漏れてしまう可能性はかなり高い。
アルマ―侯爵家は諜報が主な役割であって捕縛は1人、2人なら何とかなっても禁呪使いと同時となるとロレンツィオの率いる諜報部隊から応援を出さねばならなかった。
「陛下、ジルクスマ公爵の茶会は利用できないでしょうか」
「だが奥方は動けんだろう」
「髪色など似たものを立てます。棘の鎖については開封をしたのは家令か執事という事で内容だけを妻に伝えたという事で無事だとなれば動く可能性はあるかと」
「そうですね、と、すればその場で奥方に仕掛けてくる可能性は高いです。茶会の場ではなくその行きかえりで動く可能性はあるでしょう。時期的に新シーガル侯爵がこちらに動く可能性も高いので早くにケリをつけたいと思っているでしょう。ただあくまでも可能性…ですが」
「やってみるだけです。陛下、その間にメデレーエフ王弟殿下の捕縛を」
「わかった。茶会は何時だ」
「手紙では5日後、夜が明けましたので4日後です」
「なかなかに急な知らせだな‥‥余程に急いでいるのも頷ける」
4日後、茶会の始まる時間にメデレーエフ王弟殿下の捕縛をアルマ―侯爵家とロレンツィオの諜報部隊で行い、ジルクスマ公爵家で行われる茶会にはロレンツィオを含め4,5名が実行部隊、セレティアに成りすます者で行動を起こす事が決まる。
「中将、いやロレンツィオ。暴走をするなよ」
「‥…‥‥」
5日後と言えばおそらくはセレティアが助かるかどうかのタイムリミットに近いと思うとフィオランツは乱れる心を慮った。
フィオランツはロレンツィオに問う。「カルローディア侯爵は‥‥」と言いかけてアルマ―侯爵とフィオランツの顔を交互に伺う。マリオネットとしている事を明かして良いかの判断がつき兼ねるからである。
「あぁ、そうか。アルマ―。カルローディアは既に子飼いだ。アレは人形に過ぎぬ。時が来れば廃材となる」
「廃材‥‥なるほど陛下も禁呪を?」
「あぁ、必要に迫られてな。今はもう完全に人形だ。ロレンツィオ。良いぞ」
「はい‥‥カルローディア侯爵については先ほどのアルマ―侯爵の言う通り現在領地のほとんどを教皇側に表面上は払い下げて代金を寄付しております。教皇側との話は付いており実質は譲渡です。年内の内には全ての地についての譲渡は完了しますので、完了次第病死をして頂く事になっております。使用人は侯爵家の者ではなく、全員私の部下ですので侯爵が病死後、速やかに廃家の届けが受理される流れです。まもなく不治の病という話が流れ、実家が身辺整理をする事で王妃については現状を維持するよう心情を操作する次第です」
ほぅ…と顎を撫でるアルマ―侯爵は既に人形となっているという点をなるほどと理解する。
腑に落ちない点がつながったのだろう。
「メデレーエフ王弟殿下を断罪する証拠ですが」
そう言ってアルマ―侯爵は足元に置いたカバンから書類を取り出しテーブルに並べる。
「隣国との不正な武器の売買、自国の兵士を使っての身体強化魔術による人体実験、乳幼児を使っての蘇生実験の証拠です。遺体はマンヘザル洞窟、ヘリオンザ鍾乳洞など幾つかの自然窟に投げ込まれております」
「アルマ―。お前これを何故今まで黙っていたのだ」
「陛下。お忘れですか。わたくしは【王家と血の誓約】をした者です。現在メデレーエフ王弟殿下は王族。故に命令がなければ提出する事はしません。勿論陛下より先にメデレーエフ王弟殿下がこれを処分しろと言われれば従うまで。ですがこの話をするに、わたくしが来る直前であってもメデレーエフ王弟殿下に対しては罷免の勅命をこの中将閣下に出されたのではないですか」
「アルマ―。お前は本当に曲者だな。メデレーエフはお前が王家の諜報だとは知らぬではないか」
「メデレーエフ王弟殿下が知っているかどうかは我が家が関知する事では御座いません。王族であれば秘匿された教育を成されます。まぁ、覚えておられた陛下と忘れているメデレーエフ王弟殿下。それだけの事です」
「クックック…遊びたい盛りの4,5歳児に玩具を目の前に置いての誘導を交えた秘匿教育だからな。俺はあまり昆虫や馬、剣に興味がなかっただけだ」
「興味がない?またこれはご謙遜を。既に飽きられていただけでしょうに」
窓の外が次第に明るくなってくる。夜明けが近い。セレティアの具合も心配なロレンツィオは焦りが見えてくるのをフィオランツは感じている。
「それで禁呪を使うものだが、該当者は魔法省の報告書にないようだ」
「それはそうでしょう。禁じ手とも言える禁呪。まともに申告しているのは中将閣下くらいです」
「該当者はいるか」
「2人おりますがそのうち1人は当家の間者。1人は現在当家にて色々と話を聞いております」
「だ、そうだ。良かったな。解呪できそうではないか」
「解呪…と言いますと?」
アルマ―侯爵は意表を突かれた表情でフィオランツを見ている。芝居ではなさそうな雰囲気にフィオランツは思わず身を乗り出す。
「えっ?棘の鎖をやったのはそやつではないのか?」
「棘の鎖?いえいえ。違います。吐かせているのは隣国で輪廻の砦を行った者。属性が違いますし棘の鎖が使えない事は判っております。それは当家の間者も同じでございます」
「と、言う事はメデレーエフかジルクスマに歌ってもらわねばならんと言う事か」
「覚えていれば良いのですが忘却魔法をかけられていれば記憶からも消されているという事です」
「むぅ‥‥同時に2人を押えるのは‥‥難しいか」
手詰まりかと3人は腕を組んで唸った。距離的に離れている屋敷で速やかに行動をするには人員が足りなさすぎる。王家が騎士団を動かせば事前に情報が漏れてしまう可能性はかなり高い。
アルマ―侯爵家は諜報が主な役割であって捕縛は1人、2人なら何とかなっても禁呪使いと同時となるとロレンツィオの率いる諜報部隊から応援を出さねばならなかった。
「陛下、ジルクスマ公爵の茶会は利用できないでしょうか」
「だが奥方は動けんだろう」
「髪色など似たものを立てます。棘の鎖については開封をしたのは家令か執事という事で内容だけを妻に伝えたという事で無事だとなれば動く可能性はあるかと」
「そうですね、と、すればその場で奥方に仕掛けてくる可能性は高いです。茶会の場ではなくその行きかえりで動く可能性はあるでしょう。時期的に新シーガル侯爵がこちらに動く可能性も高いので早くにケリをつけたいと思っているでしょう。ただあくまでも可能性…ですが」
「やってみるだけです。陛下、その間にメデレーエフ王弟殿下の捕縛を」
「わかった。茶会は何時だ」
「手紙では5日後、夜が明けましたので4日後です」
「なかなかに急な知らせだな‥‥余程に急いでいるのも頷ける」
4日後、茶会の始まる時間にメデレーエフ王弟殿下の捕縛をアルマ―侯爵家とロレンツィオの諜報部隊で行い、ジルクスマ公爵家で行われる茶会にはロレンツィオを含め4,5名が実行部隊、セレティアに成りすます者で行動を起こす事が決まる。
「中将、いやロレンツィオ。暴走をするなよ」
「‥…‥‥」
5日後と言えばおそらくはセレティアが助かるかどうかのタイムリミットに近いと思うとフィオランツは乱れる心を慮った。
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