どうせ離縁できないしとキレた奥様は推し活をすることにした

cyaru

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第10話  謂れのない悪評はダメ

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「マーガ、リーン…変装になってないみたい」

「デスネ」

だが、予想していない事も起きる。
騎士を推している令嬢や男性の見物客は騎士だけが推しではない。

隊長が「セレナ様」と言ってしまった事でセレナとマーガ、リーンの周囲から人がザザーっと引いた。
そして誰も彼が中腰になって頭を下げ、礼をする。

――こんなの期待してないのにぃ!――

悪評高かったセレナだが、孤児院でマーガとリーンに文字を教えた低位貴族の令嬢のように「実際は違う」と知ってくれている者は多かったのだ。

ただ、第1王子ダグラスを下げてしまうと不敬罪を問われてしまう。
声に出せない声が今、具現化したのだった。

「セレナ様。鍛錬の視察ありがとうございます。あちらに席を用意しておりますのでご案内いたします」

――やめて!そういうつもりで来たんじゃないの!――

特別扱いをしてほしいわけではないし、セレナはもうピエロトロ侯爵家に嫁いだので王家は一切関係が無い。
有難い申し出だったが固辞すると周囲から「ほぉぉ~」感嘆の息が漏れる。

「ほら、言った通りでしょう?凄く謙遜する方なんだから!」

「本当ね。でもどうして御髪が?ウィッグじゃないわよね」

「お可哀想。きっと戦好きのフェルナンド様に切られたんだわ」

「結局殿下と一緒で良いのは顔と生まれだけだったって事ね。フェルナンド許すまじ!」

――違います、自分でバッサリやったんですぅ!――

見物客はフェルナンドの仕業だと言い始める。

「違うんです。彼は関係ないのです」

<< 彼っ? >>

――あ、ここは夫とか言うべきだった?――

「きっと冷遇されてるんだわ。お可哀想」

「女性の髪を切るなんて男は許せないわ。妻だったら何してもいいわけじゃないのよ!」

これは不味い。フェルナンドには腹の立つ面は確かにあるけれど、謂れのない悪評が広まってしまうのはセレナも経験していて、気分の良いものではない。

「快く送り出してくださいましたの。理解のあるお方ですわ。オホホ」

じぃぃーっとセレナを見る周囲の目。
誤魔化しきれてないのか。冷や汗が流れる。

なんとか見物客の気を逸らせようとセレナは「特別席?!」目を輝かせるマーガとリーンには悪いけれどやはり席を用意することはしなくていいと隊長に告げた。

「ですが、お召し物が汚れてしまいます」

「いいのです。今日は見学に来た一般客です。気にせずに鍛錬をお続けくださいませ。騒ぎになるようでしたら暇を致しますし、お気遣いは無用で御座いますわ」

「これは申し訳ない!お忍びで御座いましたか」

――忍んでないけどね?――

「承知いたしました。ですがセレナ様に見て頂けるとなれば騎士たちにも力が入ります。ごゆっくり見学していってください」

「え、えぇ」

上手く笑えているかは判らないが、更に異変が起きた。

隊長の命令で騎士たちは鍛錬を再開したのだが、先輩騎士の世話をしていた騎士にも隊長たちがなにやら話しかけるなり、少年兵は急いで裏方に走っていくと騎士団が所有している武具を身に付け、剣を片手に戻ってきたのだ。

するとさっきまで「フェルナンド許さん!」と鼻息の荒かった令嬢たちに変化が見られた。


「うわ!初めて見た!あの子、可愛い!見て、剣を持つ手が子ウサギみたい!」

「やぁん。かぁわぁいいぃぃ~。足もガクブルの小鹿ちゃんよ!」

「育成しちゃう?」

「するする!!名前なんていうのかしら。絵師に描いて貰わなきゃ!」

これまで先輩騎士の世話ばかりで剣を握ると言えば見物客の目に留まることの無い夜中の自主練くらい。

いきなり舞台の中央に立ったような気分だからか緊張して動きも悪くおぼつかない少年兵を見て令嬢たちが見やすい位置に散っていく。

――これはこれで良い事したのかしら――



そう思うものの騎士たちに水を配る配給係は変わっていないようだ。
リタイア組なので剣はもう置いてしまったのかも知れない。

セレナはそんな中で女性騎士にも同じように配給係がいて、水筒が何本も入った木箱を抱えてちょこちょこと走る女性の配給係が気になった。
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