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俯くな!笑顔だ!
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この回はブラウリオの視点です。
★~★
「なんでだ?何がいけなかったんだ?」
僕はアドリアナが侍女のポリーとともに出て行ってしまった部屋でまだ軽い痛みの残る手のひらをみて茫然とした。
親が勝手に決めた婚約だというのは理解をしていたし、この婚約は期間を満了すれば結婚。
婚約期間が1年に満たない場合は結婚をしても婚約期間が婚姻期間に含まれるため婚約半年、結婚2年半で円満に離縁が出来る。
『結婚なんてしない!ソフィー以外の女を妻に迎えるなんて身の毛も弥立つ!』
『リオ。何を言ってる。そのソフィーと結婚をするのにどうしても必要な結婚だと何故判らない』
頭では解っている。判っているがその頭の中で「嫌だ」という気持ちが鬩ぎあう。
ソフィーリアは伯爵令嬢だと信じ込んでいるが、実は違う。
最初は何の問題もないと考えていたため父親に結婚をしたいとソフィーリアを連れて頭を下げた。
その後、ガモンド伯爵には女児がいない事が判明した。
まだ養子縁組をしていないだけだと思っていたが、ガモンド伯爵は養子縁組をする気は全くないどころか、近いうちに先妻との間に出来た長男に家督を譲る事も考えていると噂が聞こえて来た。
『君の母上がガモンド伯爵の後添えになったのか?』
『そうよ。でも困ってるの。義兄様が家を継いだらアタシ…きっと追い出されちゃう。お母様とお養父様は領地に行くなんて言うのよ?リオと離れて暮らすなんて心が壊れちゃうわ』
ソフィーリアは申し訳ないが、学がない。
母親が再婚した相手の爵位に自身も何の手続きもせずになれると考えているが、それは無理がある。しかしその無理もソフィーリアの中にはないのだ。
それでいいのだ。変に学びを終えた女性は可愛げがない。
父上が周囲の子息の父親からすれば世代が1つ上になるので女性観については父上に似た考えをしてしまうが、女性は男を立てる控えめな考えで、時折我儘を言うくらいが丁度いい。
ソフィーリアは僕の理想そのもの。その上で…。
ただ、ただ、儚く美しいソフィーリア。
側にいて僕の手で幸せにしてやりたい。
そう考えるのだが、ソフィーリアの立場がそれを許さない。
何ともやりきれない。
ソフィーリアを娶る事は出来るのだが、そうなれば僕は貴族籍を失い、後取りのいなくなった侯爵家は父上の弟の息子、つまり叔父の子供(僕の従弟)の物になる。
昔から「決まりは決まりだ」と口煩い叔父上。叔父上の頭の固さは異常だと考えた時代もあったが大人になれば判る。
叔父上は「物を買えば代金を支払うのが当たり前」という考え方で、父上は「使い勝手が良ければ金を払う時もある」というズル賢い考え方だ。
だから父上はトラブルメーカーでもあり、最近では老害とも呼ばれている。
貴族で無くなればソフィーリアを幸せにしてやれなくなる。
だから父上の考えた方法が良いのは解ってはいるのだ。
白い結婚であれば必要最低限の夜会などにエスコートはしなくてはならないが、夫婦としての肉体関係を持つ事はしなくていい。ソフィーリアにも身綺麗である事は証明できる。
問題は僕の容姿だ。
ソフィーリアも僕の顔を見る度にウットリとした顔になる。
世間で言う美丈夫である僕には余計な羽虫が多く群がってくる。
3年後に離縁はしたくないと面倒な事にならないように、手を挙げるのは僕にも葛藤があったが初手が肝心だと先ずは物理的に、そしてその痛みで精神的に僕には逆らえない事を示したつもりだった。
嫌われたのは僥倖だが、部屋を出て行かれるのは聊か不味いと感じる。
「待て。まだ話は終わっていない」
呼び止めてみたが、張り手は効果が無かったのかアドリアナは侍女と共に部屋から出て行ってしまった。
「フン、高慢ちきな女だ」
毒吐いて、僕はもう一度会場に戻ろうかとも考えたがずっと気になるのはソフィーリアだ。
今日の事は「試練なんだ」と何とか宥めたがこのところ泣き通し。
キスの雨を降らせれば、すこし笑顔に成るのだが神はなんと無慈悲なんだろう。
愛し合う者同士にこれから3年も過酷で辛い試練を与えたのだ。
しかし、これを乗り越えれば晴れてソフィーリアと結婚も出来る。持てる全てを注いで目一杯幸せにしてやろう。その為には今、俯いてはいけない。僕はそう考えて会場の扉を開け、来客に笑顔を向けた。
★~★
「なんでだ?何がいけなかったんだ?」
僕はアドリアナが侍女のポリーとともに出て行ってしまった部屋でまだ軽い痛みの残る手のひらをみて茫然とした。
親が勝手に決めた婚約だというのは理解をしていたし、この婚約は期間を満了すれば結婚。
婚約期間が1年に満たない場合は結婚をしても婚約期間が婚姻期間に含まれるため婚約半年、結婚2年半で円満に離縁が出来る。
『結婚なんてしない!ソフィー以外の女を妻に迎えるなんて身の毛も弥立つ!』
『リオ。何を言ってる。そのソフィーと結婚をするのにどうしても必要な結婚だと何故判らない』
頭では解っている。判っているがその頭の中で「嫌だ」という気持ちが鬩ぎあう。
ソフィーリアは伯爵令嬢だと信じ込んでいるが、実は違う。
最初は何の問題もないと考えていたため父親に結婚をしたいとソフィーリアを連れて頭を下げた。
その後、ガモンド伯爵には女児がいない事が判明した。
まだ養子縁組をしていないだけだと思っていたが、ガモンド伯爵は養子縁組をする気は全くないどころか、近いうちに先妻との間に出来た長男に家督を譲る事も考えていると噂が聞こえて来た。
『君の母上がガモンド伯爵の後添えになったのか?』
『そうよ。でも困ってるの。義兄様が家を継いだらアタシ…きっと追い出されちゃう。お母様とお養父様は領地に行くなんて言うのよ?リオと離れて暮らすなんて心が壊れちゃうわ』
ソフィーリアは申し訳ないが、学がない。
母親が再婚した相手の爵位に自身も何の手続きもせずになれると考えているが、それは無理がある。しかしその無理もソフィーリアの中にはないのだ。
それでいいのだ。変に学びを終えた女性は可愛げがない。
父上が周囲の子息の父親からすれば世代が1つ上になるので女性観については父上に似た考えをしてしまうが、女性は男を立てる控えめな考えで、時折我儘を言うくらいが丁度いい。
ソフィーリアは僕の理想そのもの。その上で…。
ただ、ただ、儚く美しいソフィーリア。
側にいて僕の手で幸せにしてやりたい。
そう考えるのだが、ソフィーリアの立場がそれを許さない。
何ともやりきれない。
ソフィーリアを娶る事は出来るのだが、そうなれば僕は貴族籍を失い、後取りのいなくなった侯爵家は父上の弟の息子、つまり叔父の子供(僕の従弟)の物になる。
昔から「決まりは決まりだ」と口煩い叔父上。叔父上の頭の固さは異常だと考えた時代もあったが大人になれば判る。
叔父上は「物を買えば代金を支払うのが当たり前」という考え方で、父上は「使い勝手が良ければ金を払う時もある」というズル賢い考え方だ。
だから父上はトラブルメーカーでもあり、最近では老害とも呼ばれている。
貴族で無くなればソフィーリアを幸せにしてやれなくなる。
だから父上の考えた方法が良いのは解ってはいるのだ。
白い結婚であれば必要最低限の夜会などにエスコートはしなくてはならないが、夫婦としての肉体関係を持つ事はしなくていい。ソフィーリアにも身綺麗である事は証明できる。
問題は僕の容姿だ。
ソフィーリアも僕の顔を見る度にウットリとした顔になる。
世間で言う美丈夫である僕には余計な羽虫が多く群がってくる。
3年後に離縁はしたくないと面倒な事にならないように、手を挙げるのは僕にも葛藤があったが初手が肝心だと先ずは物理的に、そしてその痛みで精神的に僕には逆らえない事を示したつもりだった。
嫌われたのは僥倖だが、部屋を出て行かれるのは聊か不味いと感じる。
「待て。まだ話は終わっていない」
呼び止めてみたが、張り手は効果が無かったのかアドリアナは侍女と共に部屋から出て行ってしまった。
「フン、高慢ちきな女だ」
毒吐いて、僕はもう一度会場に戻ろうかとも考えたがずっと気になるのはソフィーリアだ。
今日の事は「試練なんだ」と何とか宥めたがこのところ泣き通し。
キスの雨を降らせれば、すこし笑顔に成るのだが神はなんと無慈悲なんだろう。
愛し合う者同士にこれから3年も過酷で辛い試練を与えたのだ。
しかし、これを乗り越えれば晴れてソフィーリアと結婚も出来る。持てる全てを注いで目一杯幸せにしてやろう。その為には今、俯いてはいけない。僕はそう考えて会場の扉を開け、来客に笑顔を向けた。
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