アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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美味しい顔ってどんな顔

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「フェェェ~よく寝た~。う~。気持ちいい」

カレドス家にも私の部屋は御座いますし、専用の寝台、寝具も御座います。
使用人達が天気の良い日には寝具を洗い、干してくれるのですが長年使っている寝具。買った時は10cmほどの厚さもあった敷布は現在サバを読んで3cmにまで圧縮をされております。

恥ずかしながら私の自重でプレスされているので何処にも文句を言っていく先は御座いませんが、この寝具はまるで空に浮かぶ雲はこんな感じなのだろうと妄想してしまうくらいフカフカの寝具。

堪能しておりますとポリーと目が合いました。

「お嬢様。気持ちは十分に!それはもう十分に解ります。ですが!そろそろ起きてください」
「えぇ~。もうちょっと」
「ダメです」
「だってこの後‥‥ん?」

あまりの気持ち良さにすっかり昨夜の出来事を忘れておりましたが、思い出したのです。

「ここってもしかしてロカ子爵家?」
「はい。ロカ子爵様もお嬢様のお目覚めをそれはそれは首を長くしてお待ちで御座います」
「嘘でしょ‥‥」
「嘘を言ってどうするのです」

寝る前にポリーが全身を圧縮していたコルセットも取り払ってくれたのですけども、ここがカレドス家ではないという事は、もう一度あのコルセットをギューギューに締めて動きにくい夜会用のドレスを着なければ私に着るものは御座いません。

「朝から恐ろしく憂鬱な気分になったわ」
「お嬢様、ご安心くださいませ」
「何の安心?パニエは許してくれるとかその程度の安心なら無用よ」


そう、夜会用のドレスは着るだけで大騒ぎなのです。
これでもかなり簡素化されて御婆様の頃から言えば寝る時には脱げるだけまだマシ。御婆様の時代は一旦着用すれば1週間は寝台で眠る事は出来ずドレスの膨らみを壊さないように専用の椅子に座って過ごしたのだとか。

思うのです。夜会や茶会には目で見て美味しい!と思える料理やお菓子が魅惑の光を放っているのに手を出すことが出来ないのはこのコルセットのせいだと。

そう、コルセットで締め付けている胴体には入り口で手渡される飲み物のグラスの中身ですら香りを嗅ぐだけ。飲み込んでしまえば鎖骨の位置から下に流れて行かないのです。

一体誰が細いウェストのラインが美しいなんて決めたのかしら。
妊婦さん用のドレスが羨ましくて堪りませんでした。

そんな苦しい思いをしてパーティに望んだのに開始早々ブラウリオ様が呼んでいると言われ言ってみればつまらない話。おまけに頬まで張られてしまいました。


嫌な事も思い出し絶望に打ちひしがれているとポリーが脱着も簡単、着ている時も体を締め付けないワンピースを取り出したのです。

「持って来てくれてたの?」
「えぇ。本日はパルカス侯爵家の客間でお目覚めの後はお部屋で朝食。その後は今後お住まいになる屋敷を見に行くご予定でしたので動きやすい方が宜しいかと」
「流石はポリー!!最高だわ」
「ですので、お早く洗顔を済まされてください。本当にロカ子爵様がお待ちですので」


そう言えば昨日の昼から何も食べていない事も思い出し、お腹の虫も騒ぎ出します。

――こうなったのも全部あの男のせいだわ!――

「ロカ子爵様は朝食を食べながらで良いので聞きたいことがあるそうです」
「朝食を食べながら?無理じゃないの?」
「何でも兵舎では椅子に座って食べるような余裕もない訓練もされるそうで、食事中に報告なども全て済まされるそうですよ」
「なんだか食べた気がしない食事ね。報告を聞きながら食事なんて甘い、辛いも判らなさそうな気がするわ」
「私は弟が辺境方面軍に従軍していますが、同じような感じでしたよ。食事というよりも腹に何か食べ物を入れて置くという感じで。何かをしながらでも食べられる。それだけでも貴重なのだとか。見ているこちらが落ちつかないので止めてくれと何度も言うのですけどね。さ、出来ましたよ。御髪を整えましょう」


ポリーもお喋りをしながら私の身支度を整えてくれるので、似たようなもの。そんな事もついつい考えてしまいます。


★~★

着替えも済ませ、食事室にやってきた私は感動でパンを涙で流し込みそうです。

「おいひぃ…これも…うーん、おいひぃぃ」

生野菜は初めて食べたのですがシャキシャキとして美味しいですし、パンもなにも付けていないのに甘くて美味しい。スープもコンソメ風味の具沢山。

気になるのは目の前にいらっしゃるロカ子爵家当主のアルフォンソ様。
新聞を読まれているのですが、時折目が合うのです。

食事中に聞きたい事があるとポリーに言われておりましたが…。

「先ずは朝食をゆっくり取ると良い」
「あの…ロカ様はそのあいだ‥‥」
「新聞を読むのは日課でね。1時間かけてゆっくりと内容を読むからその間に朝食を済ませてくれると有難い」

――朝食に1時間?!ないない。ないわ――

カレドス家の朝食は長い日で15分。通常は10分足らず。
金策に奔走するようになってからお父様は馬車の中でパンを齧っているし、お母様も昨日は東、今日は西と王都の外れに住んでいる遠い親戚や友人に借金の申し入れに向かうため、食事よりも化粧に時間を割いておりました。

「お嬢様、お口に合いますでしょうか」
「はい。とても美味しいです」
「先程パンが焼き上がりましたので、焼きたては如何でしょう」
「よろしいんですの?」

焼きたてのパンだなんてどんなご褒美なの?!冷めてもこれだけ美味しいのにと思いながら粗熱を取ったホクホクのパンを一口。

――ファァァ♡口の中で蕩けるぅ――

「コホン。お嬢様」
「ハッ!!」

夢のような世界から現実に引き戻すポリーの咳払い。
そしてチラリとアルフォンソ様を見ると、お顔は新聞を見ている風でちらりと流し目。

「申し訳ございません」
「何を謝る。美味いという言葉もだが君の食事をする時の顔は調理人にとってはこの上ない賛辞だ。謝罪する必要など何処にもない」

――食事をする時の顔…ってやっぱり見てたのね――


その後、朝食を終えた私の目の前から焼き立てパンの入った籠や、綺麗に平らげた食器が引かれていくと遂に始まったのです。


「食後にアレを持って来てくれ」

――アレ?!アレって何?――

あぁ・・美味しさの前に人は無力。
まさかのデザート付き?なんて期待した私。

アレとは「暴行案件について」とアルフォンソ様の聴取に使用する筆記具で御座いました。
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