アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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1号店は君に

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「店を出してみるか?」
「お店を?」


アルフォンソ様はパルカス侯爵家を解雇された彼らの引受先を探していたのですが、やはり紹介状があるとないでは大違い。ロカ子爵家やロカ公爵家が後ろ盾となっても両方のロカ家に勤めていたわけではないので、どんなに経歴があっても新卒と同じ給料と待遇のスタートになってしまうのです。

「接客については彼らは言ってみればエキスパートだ。貴族の家で勤めていた時のような体制で販売をすれば客には優越感、特別感も感じさせられる事が出来るだろう?」

「ですが、何を売るのです?優越感という目に見えないサービスだけを買うお客様は居ませんよ」

「勿論だ。それは付帯サービスだな。売るのはこれを売ればどうだ?」

アルフォンソ様が「どうだ」と出したのは容器でした。
薬は薬包紙に包んでいるのですが、現状でも陶器製は売っていますし、超高級品となると自然が作り出した造形美、貝殻を容器としているものもあります。

それらにクリーム系の美容液や、ハンドクリームを入れて売ればいいと仰るのです。


「カレドス家の薬は日持ちをすると知られ始めている。医療品というよりもハンドクリームなど日常的に使うものを販売してみてはどうかと思うんだ。店の裏では軟膏などをその場で詰める。リピーターとなる客は空になれば中身だけを買いに来るだろう?」

「お嬢様、良いんじゃないですか?切り傷などの薬も扱っていますよとして、日常使う消耗品を売るんです。色々な化粧品は販売されていますが肌に合わずカブレを起こしている人も多いですよ。水仕事をするのならハンドクリームだけですけども、ついでを狙う手もあります」


つまりは、日頃惜しむ事もなく使える軟膏などを可愛かったり、綺麗な容器に入れて売る。
そのついでに薬として使う分も売る。こちらはカレドス家ではこんな薬も作っていますという宣伝にもなります。

しかし問題も御座います。

「医療品になるものを売るとなれば、素人ではなく医師がいた方が良いのではないでしょうか」
「医院ではないからな。だが、そこも考えた。と言ってもここから先は母上の受け売りだが」
「ロカ公爵夫人の?!え?王女様の?!」
「本人はもう王女は廃業していると言っているので、そこは除外してやって欲しい」
「左様でございますか」


アルフォンソ様によれば、ロカ公爵家では化粧品の事業も行っていてその販路も広げたいのだそうです。

ただ化粧品は肌の色を白く見せるために「おしろい」を主に使いますがまだ昔のように亜鉛を含んだものが多く流通しており、肌トラブルに悩まされている女性も多いのです。

そして国全体の事業として王家とロカ公爵家では「田舎でも受けられる医療」を目指して医師を育てているのですが、医療院の数では限りもあり受け入れ先もない。
場数を踏んで色々な症状を知るのも医師として大事な仕事ですがその場がないと言うのです。

「まずは一号店を出し、こんな店があると普及する。色んな事例を見て医療品の開発も大いに進む事が予想されているんだ。ただ、余りにもざっくばらんな店ではこれが出来ないんだ」

「何故です?」

「選民思考ではない事を先ず理解してくれ」

「はぁ‥。まぁ判りますが…」

「広く普及をしたいが、医師も常駐となると価格帯に遠慮をしてしまったり、奮発して買う!となる客が多くなる。肌のトラブルは長くその症状を見なくてはならないからそれなりの富裕層で、良いと思ったものには金を惜しみなく使う。そして継続してくれる。これが重要なんだ」

「なるほど。だから容器も華美なものを使用する訳ですね」

「あぁ。何度も使えば愛着も沸くだろうし、狙っている客層はその時1回ではなく最終的に幾らだったかを考える者達だ。今後の展開では子供でも手に取れる、小遣いで買える品を目指すがその時にブランド力という見えない価値が出る。安価で提供する時に安かろう悪かろうな品ではない、あのブランドなら大丈夫というバイアスがかかるから手に取ってもらえ易くなる。勿論その時は高価格帯の店とは姉妹店のような感じで名称も変える必要はあるけどね」


今を見るのではなく未来を見てのお店。
そのお店でカレドス領で取れたガマの穂からの花粉も他の薬草も更に販路を広げる事が出来るし、医師の育成の場にもなるなんて。

――やはり公爵家ともなれば見ている世界が違うんだわ――

面白そうだと思いましたし、パルカス侯爵家の元使用人さんも活躍の場が出来るなら言う事御座いません。

早速アルフォンソ様が話を付けてくれたお店に向かったのです。


「こじんまりとしたお店ですね」

「そう思うだろう?だが、この店は奥に長いんだ。陳列する品を搬入するのも裏から行える。どんな時にでも客に仕入れ先からの木箱なんていう生活感溢れるものを見せては商売にならないだろう?」

「そんな所まで考えておられたんですか?」

「まぁ、君が手掛けるお店の1号店だから絶対に失敗してはならないからね」

「え?私?私が?!」

「そうだ。屋敷で薬を梱包するのもいいが、君に褒められると喜ぶ者達は多いんだよ。清掃係のマーサは特に喜んでいたよ」

「マーサさんが?私、何かしたかしら」

「床で転がってくれるなんて余程清掃の腕を見込んでくれてるって言ってたんだが」

「あ‥‥アレ‥‥忘れて、忘れてください!!」

「料理人もだ。あんなに美味しそうに食べてくれてパンの籠を引き上げる時に名残惜しそうにされると料理人魂に火が点くそうだ」

――よっぽど食いしん坊と思われているのね。でも本当に美味しいのよ――


「あとは、まぁ…私の希望だ。その、アレだ。預かっている事もあるし3年後に何か継続してしている事もあれば悩む事もないだろう?」


ハッと気が付きます。
あの日…手を握って愛を告白してくださったアルフォンソ様。

――これは監禁するための布石?――

ジト目になりそうですけども、正直な気持ちとして今ではなく今後を考えてくださっているとなれば悪い気はしません。お店だって賃貸料は無料ではないのに全て私への投資だと負担してくださるのですもの。

きっと中途半端な気持ちではないのなら、私も応えなけれななりません。
その時が来てアルフォンソ様の気持ちに応えるにしろ、その辺の令嬢で終わればその先の私はただのお荷物。人の心は変わる時もありますから、お別れになったとしても事業が残れば御の字です。


ロカ子爵家の使用人さんのように「これでやる気が出る」「元気になる」「笑顔になる」方が多くなるようにとアルフォンソ様が私に託してくださったお店。

コンセプトも判った事ですし、私は俄然やってみようと思えたのです。
ただ、そんな私を見ていた目があったなんて…全然気が付かなかったのです。
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