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離縁成立
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ブラウリオ様の申し立ては裁判院を通したものではなく、あくまでも家と家で話し合いをしましょうというものでしたので、アルフォンソ様の勧めもあり、王宮内の折衝などで使用される1室を貸して頂ける事になりました。
――あ、レオン殿下の息がかかってる――
そんな気が致しましたが、登城してみるとやはり。間違いなくレオン殿下の手が回っておりました。
「一番いい部屋を取ってあるよ」
「そんな良いお部屋で無くても良かったですのに」
「ま、大好きなアドリアナ嬢が見られるんだからそこは好きにさせてよ」
「嫌です」
「つれないね。ま、そこがいいからまだ諦められないんだけど」
「しつこい男は嫌われますよ」
「冗談だよ。大丈夫。隣国の第3王女と話がまとまりそうなんだ。君に似てて可愛い子だよ」
「そんな事、一言でも口にしたら明日はお日様が拝めない事を覚悟なさってくださいませ」
「肝に銘じるよ」
案内をされた部屋に入ると先客がおられましたが、お父様もお母様もお兄様もそして私も足が生まれたての小鹿か仔馬になってしまいました。
国王陛下と王妃殿下がニコニコと笑みを向けておられたのです。
「たまには面白いものを見たいと思ってね。空気と思ってくれていいから」
「そうよ。今日は偶々時間が空いたの。隣は壁の染み、私は花瓶の花だと思って頂戴」
――絶対嘘ですよね。時間作りましたよね。でも後半は本音ですよね――
部屋に入り待つ事1時間半。
時間を指定したのはブラウリオ様ですが、その時間は過去となっております。
部屋に入れば国王陛下と王妃殿下。このお2人を待たせているというだけで首を伝う冷や汗が止まりません。
「ごめんなさぁい。遅れちゃいましたっ!」
「申し訳な‥‥えっ‥‥」
「何してるの?リオこっち。ねぇ!ここでいいんでしょ?」
本当に知らないと言うのは恐ろしい事です。見ているこちらの方が肝は冷えるし、心臓はキュゥと小さくなってしまいますもの。
「ソフィー!静かに!国王陛下と王妃殿下の御前だぞ」
「うっそ…マジ?本物?人形じゃなくて?」
「黙って!頼むから」
ブラウリオ様は事の重大さがお判りのようで何よりです。類は友を呼ぶと申しますし夫婦は似てくると言いますのでソフィーリア様と同じノリだったらどうしようかと思いましたわ。
あぁでも部外者を連れてくるという事はやはり同じノリなのかしら。
「では、揃いましたので始めましょう」
お父様が立ち上がり、国王陛下と王妃殿下に一礼をすると開始を告げます。
そのまま手元の書類で先ずは本人の確認、証明するのは国王陛下と王妃殿下。アリの名を呼ばれても返事をするしか御座いませんが、間違いもないと言う事です。えぇ…間違いはあり得ませんので。
「パルカス侯爵家はカレドス伯爵家に支援をした17億に利息等を含め20億の返済を求める。間違いございませんか?」
お父様の問いかけにソフィーリア様が「17億と20億?!」と声をあげます。まさか足して37億とか思ってないでしょうねと思いましたら…「1720億?」と申されます。
――黙れ――
失礼。淑女らしくない事を思ってしまいました。
ブラウリオ様はソフィーリア様を手で制し、立ち上がると「間違いありません」と告げられました。
するとお父様は陛下に一礼をされると扉の前にいた従者に「頼む」と声を掛けます。すると扉が開き、台車にそのまま積まれた20億が運ばれて参りました。
流石に1台で運べる量ではなく1億で10キロ。20億なので200キロの重さとなっております。しかも容れ物もなく剥き出し。
――どうやって持って帰るのかしら――
単純に1人が10億、つまり100キロを背負う事になりますが1歩が踏み出せるのかしらと心配になります。
「お受け取り下さい。全て王宮の会計院の新札帯付きとなっておりますがご心配でしょうからどうぞ。ご確認ください」
――確認くださいって。お父様も人が悪いわ――
会計院でも慣れた方なら100万を30秒ほどですが疲れを知らないとして20億を数える時間は1時間50分。ブラウリオ様は慣れてはいらっしゃらないし、疲れもあるでしょうから3,4時間でしょうか。
ふと時計を見て「お昼ってどうするのかな」と呟いてしまう私。
朝もしっかり食べたのにロカ子爵家のご飯はとても美味しいのです。昼までには戻れるかなと思ったので久しぶりに昼食も料理長さんのお手製かと思ったのですが無理そうです。
しかし、お金はその時に確認をしないとあとで数枚足らないと文句を言っても誰も聞いてはくれません。それだけ確認は重要なのです。
ブラウリオ様もそれは解っていたようで100万の束を手に取り3つ目まで15分かけて数えたのですが、残りは197束。日が暮れてしまうと思ったのと、やはり国王陛下と王妃殿下を待たせる事は出来ないと思ったのでしょうか。
王妃殿下は「いいのよ?ちゃんと数えて?」と仰いますがレオン殿下のお母様だけあって黒いです。
結局ブラウリオ様は3つの束を数えて受け取りにサインを致しました。
「わぁお金だ。いっぱいあるねぇ。リオ、今日外食する?」
能天気なソフィーリア様は周囲を取り囲む現金に落ち着きが全く無くなってしまいました。
「では受け取りもして頂きましたので、次はこちらからです」
「こちら?何かあるんですか?」
ブラウリオ様は支払って貰えれば終わりと思っていたようですが、違いますわよ?
「この白い結婚で離縁ありきの契約ですけども、3年間妻となる事で3回の支援金並びに時期を満了すればその支払いはないものとする、但し、3年を待たずに離縁となる場合は瑕疵のある側が支払われた支援金の同額を相手方に支払うとなっております。パルカス侯爵に問う。我がカレドス家に契約に置いての瑕疵があったでしょうか」
「あぁ、その事ですか、カレドス家に迷惑はかけません。今回入用になったので一旦返金をしてもらっただけです。しかし、今後ですが2回目はカレドス家も事業は順調のようですし必要ありませんよね。よって3年の結婚のみ継続させて頂きますよ」
やはり判っておられませんでした。
支援金と結婚はセット。途中で返金を求める場合はどちらに瑕疵があるかそれにより扱いが変わります。
「では当家、カレドス家には瑕疵はないと」
「ないですよ。さっきも言ったでしょう?ないものをあるとまで言いませんよ」
「では、こちらにサインを」
「え?もう一枚受け取り?一緒に出してくれればいいのに」
ブラウリオ様は内容も読まずにそのまま離縁届にサインをされます。
従者はブラウリオ様が既に当主となっておられますので、書類を陛下の元に。陛下はそのまま認可をされたのです。
「ついでだ。パルカス侯。婚姻届けも直ぐに受理し認可するぞ。誰か用紙を持って来てやってくれ」
陛下の声にブラウリオ様が何故か驚かれております。
「いえ、それでは重婚になってしまいます!」
「なるわけないだろう。先程離縁届も受理し認可したではないか」
「え?離縁?えっ…違います。離縁はしません!支援金が無くなるだけです」
慌てるブラウリオ様にお父様が幼子を宥めるように話しかけました。
「結婚と支援はセットだ。片方だけなんて都合のいい事があるわけがない。それと当家に瑕疵がないのなら支援金と同額をこちらが頂く事になる。そちらの20億から17億はこちらに」
「ちょ、ちょっと!それじゃ僕が困ります」
「君が困ろうとこちらにはもう関係のない話だ。そもそもこの約束は君の父上が言い出したもの。余程3年間は白い結婚の花嫁が必要だったんだろうね。しかし当の本人が1年も経たずに反故にするとは思いもしなかっただろう。そうそうに引退をして先代だけが万々歳ですかな」
「アドリアナ!言っただろう?関係を修復したいと。その気持ちに変わりはないんだ。これは何かの手違いで離縁となっただけなんだ。判るだろう?」
「判りませんね。過日も申し上げましたが修復以前に始まってもいないのです。手違いなど我らが国を照らす太陽の国王陛下にはあり得ません。不敬ですわよ?」
――あら?いつぞやのソフィーリアさんも不敬って言ってたわね――
3度目の顔合わせで離縁。何の情も沸きません。
敷いていれば張り手のお返しをしたいですが、爵位と借金生活となる2人にこれ以上の追い打ちはできません。低位貴族ならまだ凌げても困窮する高位貴族は本当の生き地獄でしょう。
私ならこの場で陛下に爵位を没収してくれと懇願します。その方がまだ人間として生きられますから。
従者の方が3億を残し、こちらに現金を動かしてまいります。
慌てるブラウリオ様ですが別の従者の方が持ってきた婚姻届け。陛下が目だけが笑っていない笑顔で「書きなさい」と威圧しております。
ですが、再婚ですし爵位が無くなる訳でも、貴族で無くなる訳でもなく愛する方と一緒になれるのですから全員がWINWINで御座います。
と、思ったら会計院の方がやってきて爵位税の遅延金として残った3億を持って行ってしまいました。
――あらら…でも帰りは重い荷物もないし…ドンマイッ――
私は元夫に心でエールを送ったのでした。
――あ、レオン殿下の息がかかってる――
そんな気が致しましたが、登城してみるとやはり。間違いなくレオン殿下の手が回っておりました。
「一番いい部屋を取ってあるよ」
「そんな良いお部屋で無くても良かったですのに」
「ま、大好きなアドリアナ嬢が見られるんだからそこは好きにさせてよ」
「嫌です」
「つれないね。ま、そこがいいからまだ諦められないんだけど」
「しつこい男は嫌われますよ」
「冗談だよ。大丈夫。隣国の第3王女と話がまとまりそうなんだ。君に似てて可愛い子だよ」
「そんな事、一言でも口にしたら明日はお日様が拝めない事を覚悟なさってくださいませ」
「肝に銘じるよ」
案内をされた部屋に入ると先客がおられましたが、お父様もお母様もお兄様もそして私も足が生まれたての小鹿か仔馬になってしまいました。
国王陛下と王妃殿下がニコニコと笑みを向けておられたのです。
「たまには面白いものを見たいと思ってね。空気と思ってくれていいから」
「そうよ。今日は偶々時間が空いたの。隣は壁の染み、私は花瓶の花だと思って頂戴」
――絶対嘘ですよね。時間作りましたよね。でも後半は本音ですよね――
部屋に入り待つ事1時間半。
時間を指定したのはブラウリオ様ですが、その時間は過去となっております。
部屋に入れば国王陛下と王妃殿下。このお2人を待たせているというだけで首を伝う冷や汗が止まりません。
「ごめんなさぁい。遅れちゃいましたっ!」
「申し訳な‥‥えっ‥‥」
「何してるの?リオこっち。ねぇ!ここでいいんでしょ?」
本当に知らないと言うのは恐ろしい事です。見ているこちらの方が肝は冷えるし、心臓はキュゥと小さくなってしまいますもの。
「ソフィー!静かに!国王陛下と王妃殿下の御前だぞ」
「うっそ…マジ?本物?人形じゃなくて?」
「黙って!頼むから」
ブラウリオ様は事の重大さがお判りのようで何よりです。類は友を呼ぶと申しますし夫婦は似てくると言いますのでソフィーリア様と同じノリだったらどうしようかと思いましたわ。
あぁでも部外者を連れてくるという事はやはり同じノリなのかしら。
「では、揃いましたので始めましょう」
お父様が立ち上がり、国王陛下と王妃殿下に一礼をすると開始を告げます。
そのまま手元の書類で先ずは本人の確認、証明するのは国王陛下と王妃殿下。アリの名を呼ばれても返事をするしか御座いませんが、間違いもないと言う事です。えぇ…間違いはあり得ませんので。
「パルカス侯爵家はカレドス伯爵家に支援をした17億に利息等を含め20億の返済を求める。間違いございませんか?」
お父様の問いかけにソフィーリア様が「17億と20億?!」と声をあげます。まさか足して37億とか思ってないでしょうねと思いましたら…「1720億?」と申されます。
――黙れ――
失礼。淑女らしくない事を思ってしまいました。
ブラウリオ様はソフィーリア様を手で制し、立ち上がると「間違いありません」と告げられました。
するとお父様は陛下に一礼をされると扉の前にいた従者に「頼む」と声を掛けます。すると扉が開き、台車にそのまま積まれた20億が運ばれて参りました。
流石に1台で運べる量ではなく1億で10キロ。20億なので200キロの重さとなっております。しかも容れ物もなく剥き出し。
――どうやって持って帰るのかしら――
単純に1人が10億、つまり100キロを背負う事になりますが1歩が踏み出せるのかしらと心配になります。
「お受け取り下さい。全て王宮の会計院の新札帯付きとなっておりますがご心配でしょうからどうぞ。ご確認ください」
――確認くださいって。お父様も人が悪いわ――
会計院でも慣れた方なら100万を30秒ほどですが疲れを知らないとして20億を数える時間は1時間50分。ブラウリオ様は慣れてはいらっしゃらないし、疲れもあるでしょうから3,4時間でしょうか。
ふと時計を見て「お昼ってどうするのかな」と呟いてしまう私。
朝もしっかり食べたのにロカ子爵家のご飯はとても美味しいのです。昼までには戻れるかなと思ったので久しぶりに昼食も料理長さんのお手製かと思ったのですが無理そうです。
しかし、お金はその時に確認をしないとあとで数枚足らないと文句を言っても誰も聞いてはくれません。それだけ確認は重要なのです。
ブラウリオ様もそれは解っていたようで100万の束を手に取り3つ目まで15分かけて数えたのですが、残りは197束。日が暮れてしまうと思ったのと、やはり国王陛下と王妃殿下を待たせる事は出来ないと思ったのでしょうか。
王妃殿下は「いいのよ?ちゃんと数えて?」と仰いますがレオン殿下のお母様だけあって黒いです。
結局ブラウリオ様は3つの束を数えて受け取りにサインを致しました。
「わぁお金だ。いっぱいあるねぇ。リオ、今日外食する?」
能天気なソフィーリア様は周囲を取り囲む現金に落ち着きが全く無くなってしまいました。
「では受け取りもして頂きましたので、次はこちらからです」
「こちら?何かあるんですか?」
ブラウリオ様は支払って貰えれば終わりと思っていたようですが、違いますわよ?
「この白い結婚で離縁ありきの契約ですけども、3年間妻となる事で3回の支援金並びに時期を満了すればその支払いはないものとする、但し、3年を待たずに離縁となる場合は瑕疵のある側が支払われた支援金の同額を相手方に支払うとなっております。パルカス侯爵に問う。我がカレドス家に契約に置いての瑕疵があったでしょうか」
「あぁ、その事ですか、カレドス家に迷惑はかけません。今回入用になったので一旦返金をしてもらっただけです。しかし、今後ですが2回目はカレドス家も事業は順調のようですし必要ありませんよね。よって3年の結婚のみ継続させて頂きますよ」
やはり判っておられませんでした。
支援金と結婚はセット。途中で返金を求める場合はどちらに瑕疵があるかそれにより扱いが変わります。
「では当家、カレドス家には瑕疵はないと」
「ないですよ。さっきも言ったでしょう?ないものをあるとまで言いませんよ」
「では、こちらにサインを」
「え?もう一枚受け取り?一緒に出してくれればいいのに」
ブラウリオ様は内容も読まずにそのまま離縁届にサインをされます。
従者はブラウリオ様が既に当主となっておられますので、書類を陛下の元に。陛下はそのまま認可をされたのです。
「ついでだ。パルカス侯。婚姻届けも直ぐに受理し認可するぞ。誰か用紙を持って来てやってくれ」
陛下の声にブラウリオ様が何故か驚かれております。
「いえ、それでは重婚になってしまいます!」
「なるわけないだろう。先程離縁届も受理し認可したではないか」
「え?離縁?えっ…違います。離縁はしません!支援金が無くなるだけです」
慌てるブラウリオ様にお父様が幼子を宥めるように話しかけました。
「結婚と支援はセットだ。片方だけなんて都合のいい事があるわけがない。それと当家に瑕疵がないのなら支援金と同額をこちらが頂く事になる。そちらの20億から17億はこちらに」
「ちょ、ちょっと!それじゃ僕が困ります」
「君が困ろうとこちらにはもう関係のない話だ。そもそもこの約束は君の父上が言い出したもの。余程3年間は白い結婚の花嫁が必要だったんだろうね。しかし当の本人が1年も経たずに反故にするとは思いもしなかっただろう。そうそうに引退をして先代だけが万々歳ですかな」
「アドリアナ!言っただろう?関係を修復したいと。その気持ちに変わりはないんだ。これは何かの手違いで離縁となっただけなんだ。判るだろう?」
「判りませんね。過日も申し上げましたが修復以前に始まってもいないのです。手違いなど我らが国を照らす太陽の国王陛下にはあり得ません。不敬ですわよ?」
――あら?いつぞやのソフィーリアさんも不敬って言ってたわね――
3度目の顔合わせで離縁。何の情も沸きません。
敷いていれば張り手のお返しをしたいですが、爵位と借金生活となる2人にこれ以上の追い打ちはできません。低位貴族ならまだ凌げても困窮する高位貴族は本当の生き地獄でしょう。
私ならこの場で陛下に爵位を没収してくれと懇願します。その方がまだ人間として生きられますから。
従者の方が3億を残し、こちらに現金を動かしてまいります。
慌てるブラウリオ様ですが別の従者の方が持ってきた婚姻届け。陛下が目だけが笑っていない笑顔で「書きなさい」と威圧しております。
ですが、再婚ですし爵位が無くなる訳でも、貴族で無くなる訳でもなく愛する方と一緒になれるのですから全員がWINWINで御座います。
と、思ったら会計院の方がやってきて爵位税の遅延金として残った3億を持って行ってしまいました。
――あらら…でも帰りは重い荷物もないし…ドンマイッ――
私は元夫に心でエールを送ったのでした。
応援ありがとうございます!
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