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侯爵家の処分③子爵来訪
風通しの良くなったサロンでソファに腰を下ろし天井を見上げる。
ふいにコンコンと音がするので、その方向を見ると己と同じくらいの年齢の男女がいた。
「誰だ」と声を出せば「ローゲです」と声が聞こえた。
侯爵は勢いをつけてソファを立ちあがり、ローゲ子爵の胸ぐらを掴みあげた。
「貴様の娘のせいでっ!俺は全てを失ったんだ!責任を取れ!責任を!」
ローゲ子爵夫妻も寝耳に水だったようで、届いた慰謝料請求の手紙に驚いた。
話を聞こうにも娘は帰っていない。
文面にあるペルデロ侯爵家に行ってみようと訪れたのだった。
「お前の娘が俺の息子をたぶらかしたせいで全部がパーだ!笑え!何もなくなったわ!」
「む、娘がその様な事をするとは思えません。娘は病弱で昨年まで領地で療養していたのです。学園に1年は通わねばならないので――」
「それだ!そこでウチの息子をたぶらかしたんだ。さぞかし満足だろう?どうだった?伯爵家に5兆以上の借金を返さねばならなくなったぞ?どうだ。これで満足か?」
「ご、5兆?!」
「大事な事業をする上で結んだ婚約だ。頼ろうにも王太后も亡くなっている。俺は誰に金を借りればいい?誰を頼ればいい?妻も俺も6親等まで借金を背負った。全部お前の娘のせいだ!」
侯爵夫人も立ち上がり、子爵夫人の頬を思い切り扇子で張った。
突然の事に倒れ込む子爵夫人だが頬が裂け、手についた血を見て叫び声を上げる。
「婚約破棄!破棄よ!どうしてくれるの!何年もかけて育ててきたあの子を失い、家も土地も領も!宝飾品もドレスも全部失った!それでも明日は夜会に行かねばならないのよ?この恥辱をどうしてくれるの!慰謝料はアンタのところが払いなさいよ!」
「い、慰謝料と言っても2億なんて払えません。屋敷も土地も領も手放さないとそんな大金っ」
「いいじゃない。それで用意して頂戴っ!全部お前らの娘のせいだぁぁぁぁ!!」
扇子を倒れ込んだ子爵夫人に何度も打ちつけながら侯爵夫人は狂ったかのように叫ぶ。
叫んでは張り、張っては叫ぶ。
侯爵夫人は力尽き、フラフラとソファに沈み込む。
張られ、顔も腕も血塗れになった子爵夫人は、訳が分からなくてもこの惨状は娘が原因だと判ると床に額を擦りながら侯爵夫妻に謝罪をした。
「お前は本当に、何てことをしてくれたんだ」
父の言葉に全てが露呈している事は明白で言い逃れなど全く意味がない。
カインはそれでも事業費の事を知らない上、屋敷も出て行かねばならない事を知らない。
皆でまた働き、侯爵領の収益で何とかると父に訴え出る。
「バカか?お前の頭に詰まっているのはヘドロか?川底でもさらって来たか」
父の説明でティフェルとの婚約は大きな事業が絡んでいてその費用を返済しなければならない事、屋敷も出なければならないのに爵位だけ残され貴族の付き合いはしなければならない事を告げられる。
「どうして婚約がもう破棄なんてことになってるんですか!知らない所で勝手に決めないでくださいっ」
己の所業が全てだと言うのに、理解をしていないカインは父に食い下がる。
カインの頭の中ではまだ婚約は継続中でシェリーと一緒になるために穏便に済ませるよう明日、学園でティフェルに説明をしなくてはならないという状態で止まっているのだ。
「お前、今日ジェイス伯爵令嬢と観劇をしなかっただろう」
「そ、その件なんですが…用があって遅れてしまったんです」
「ローゲ子爵令嬢と乳くりあっておったのだろうが」
「そんな事はしていませんっ!でもどうして…ローゲ子爵令嬢の事を…」
「全部判ってるのよ。貴方が学園の中でも外でもその令嬢と友達とは言えない交際をしている事も。今日すっぽかしたのもその娘なんでしょう?」
「行くには行ったんです。遅れてしまいましたが」
「遅れただと?何時に行ったというんだ」
「19時半を少し過ぎてはいましたが、ちゃんと行きました」
「そんなものは!遅れたとか!ちゃんと行ったという事にならんわ!」
「いつからそんな阿呆になったの。1年前はもっと思慮深かったでしょう?」
「あ、阿呆だなどと!幾ら母上でもそれはあまりな言いようです」
「今日の観劇はね、最後通告だったのよ。今までどれだけ婚約者との時間をお座成りにしてきたの。今日…たった2時間の観劇をティフェルと見るだけで何も問題はなかったのに…どうして」
「さ、最後通告って…」
「全部バレてるんだ。王家の影、司法院の許可した調査員たちによってな」
カインはやっと事態が飲み込めた。遅すぎた理解だが更なる間違いを犯してしまう。
それが最善だと信じるあまりに侯爵夫妻はこの子をこの世に送り出したことが過ちだと呟いた。
「今からジェイス伯爵家に行ってティフェルに謝ってきます。ティフェルはちゃんと許してくれます。今後も助けてくれるのがティフェルなんですよ。父上っ母上っ」
「行ってどうなる。火に油を注ぐだけだ」
「父上っ何を言うんです。ティフェルは判ってくれます。シェリーとの事だって今まで一緒にケーキなんかも食べたし、誕生日にシェリーが少しやらかしたけどティフェルは自分の勘違いだって許してくれたんです。父上も母上もシェリーと会えば!シェリーと話をすれば素晴らしい女性だと判りますっ。だから今からジェイス伯爵家に行ってちゃんとティフェルに判ってもらいます!」
バカにつける薬はないと誰が言ったのか。
走り出ていった愚息の背を見て、侯爵夫妻はがっくりと肩を落とした。
ふいにコンコンと音がするので、その方向を見ると己と同じくらいの年齢の男女がいた。
「誰だ」と声を出せば「ローゲです」と声が聞こえた。
侯爵は勢いをつけてソファを立ちあがり、ローゲ子爵の胸ぐらを掴みあげた。
「貴様の娘のせいでっ!俺は全てを失ったんだ!責任を取れ!責任を!」
ローゲ子爵夫妻も寝耳に水だったようで、届いた慰謝料請求の手紙に驚いた。
話を聞こうにも娘は帰っていない。
文面にあるペルデロ侯爵家に行ってみようと訪れたのだった。
「お前の娘が俺の息子をたぶらかしたせいで全部がパーだ!笑え!何もなくなったわ!」
「む、娘がその様な事をするとは思えません。娘は病弱で昨年まで領地で療養していたのです。学園に1年は通わねばならないので――」
「それだ!そこでウチの息子をたぶらかしたんだ。さぞかし満足だろう?どうだった?伯爵家に5兆以上の借金を返さねばならなくなったぞ?どうだ。これで満足か?」
「ご、5兆?!」
「大事な事業をする上で結んだ婚約だ。頼ろうにも王太后も亡くなっている。俺は誰に金を借りればいい?誰を頼ればいい?妻も俺も6親等まで借金を背負った。全部お前の娘のせいだ!」
侯爵夫人も立ち上がり、子爵夫人の頬を思い切り扇子で張った。
突然の事に倒れ込む子爵夫人だが頬が裂け、手についた血を見て叫び声を上げる。
「婚約破棄!破棄よ!どうしてくれるの!何年もかけて育ててきたあの子を失い、家も土地も領も!宝飾品もドレスも全部失った!それでも明日は夜会に行かねばならないのよ?この恥辱をどうしてくれるの!慰謝料はアンタのところが払いなさいよ!」
「い、慰謝料と言っても2億なんて払えません。屋敷も土地も領も手放さないとそんな大金っ」
「いいじゃない。それで用意して頂戴っ!全部お前らの娘のせいだぁぁぁぁ!!」
扇子を倒れ込んだ子爵夫人に何度も打ちつけながら侯爵夫人は狂ったかのように叫ぶ。
叫んでは張り、張っては叫ぶ。
侯爵夫人は力尽き、フラフラとソファに沈み込む。
張られ、顔も腕も血塗れになった子爵夫人は、訳が分からなくてもこの惨状は娘が原因だと判ると床に額を擦りながら侯爵夫妻に謝罪をした。
「お前は本当に、何てことをしてくれたんだ」
父の言葉に全てが露呈している事は明白で言い逃れなど全く意味がない。
カインはそれでも事業費の事を知らない上、屋敷も出て行かねばならない事を知らない。
皆でまた働き、侯爵領の収益で何とかると父に訴え出る。
「バカか?お前の頭に詰まっているのはヘドロか?川底でもさらって来たか」
父の説明でティフェルとの婚約は大きな事業が絡んでいてその費用を返済しなければならない事、屋敷も出なければならないのに爵位だけ残され貴族の付き合いはしなければならない事を告げられる。
「どうして婚約がもう破棄なんてことになってるんですか!知らない所で勝手に決めないでくださいっ」
己の所業が全てだと言うのに、理解をしていないカインは父に食い下がる。
カインの頭の中ではまだ婚約は継続中でシェリーと一緒になるために穏便に済ませるよう明日、学園でティフェルに説明をしなくてはならないという状態で止まっているのだ。
「お前、今日ジェイス伯爵令嬢と観劇をしなかっただろう」
「そ、その件なんですが…用があって遅れてしまったんです」
「ローゲ子爵令嬢と乳くりあっておったのだろうが」
「そんな事はしていませんっ!でもどうして…ローゲ子爵令嬢の事を…」
「全部判ってるのよ。貴方が学園の中でも外でもその令嬢と友達とは言えない交際をしている事も。今日すっぽかしたのもその娘なんでしょう?」
「行くには行ったんです。遅れてしまいましたが」
「遅れただと?何時に行ったというんだ」
「19時半を少し過ぎてはいましたが、ちゃんと行きました」
「そんなものは!遅れたとか!ちゃんと行ったという事にならんわ!」
「いつからそんな阿呆になったの。1年前はもっと思慮深かったでしょう?」
「あ、阿呆だなどと!幾ら母上でもそれはあまりな言いようです」
「今日の観劇はね、最後通告だったのよ。今までどれだけ婚約者との時間をお座成りにしてきたの。今日…たった2時間の観劇をティフェルと見るだけで何も問題はなかったのに…どうして」
「さ、最後通告って…」
「全部バレてるんだ。王家の影、司法院の許可した調査員たちによってな」
カインはやっと事態が飲み込めた。遅すぎた理解だが更なる間違いを犯してしまう。
それが最善だと信じるあまりに侯爵夫妻はこの子をこの世に送り出したことが過ちだと呟いた。
「今からジェイス伯爵家に行ってティフェルに謝ってきます。ティフェルはちゃんと許してくれます。今後も助けてくれるのがティフェルなんですよ。父上っ母上っ」
「行ってどうなる。火に油を注ぐだけだ」
「父上っ何を言うんです。ティフェルは判ってくれます。シェリーとの事だって今まで一緒にケーキなんかも食べたし、誕生日にシェリーが少しやらかしたけどティフェルは自分の勘違いだって許してくれたんです。父上も母上もシェリーと会えば!シェリーと話をすれば素晴らしい女性だと判りますっ。だから今からジェイス伯爵家に行ってちゃんとティフェルに判ってもらいます!」
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