真実の愛は望みませんが偽りの愛も不要なのです

cyaru

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シェリーの誤解釈

「ごめん、行かないといけないから」
「ううん。ずっと一緒にいてくれて嬉しかった」
「また明日学園でね。明日は数学と物理と科学と…地理だったったけ?」
「うん。あと民族史と所作も赤点だったの。14教科のうち11教科赤点なんて恥ずかしいわ」
「病弱で勉強できなかったんだから仕方ないよ。シェリーは頑張ってるよ」
「カインにそう言われると頑張れそうな気がするわ」

陽がすっかり暮れてしまい一人で帰るのは怖いというシェリーに高級一時貸馬車を呼び止めカインが料金を先払いする。辻馬車と違って座面もフワフワの馬車に乗りシェリーは屋敷に戻った。

屋敷と言ってもさほど裕福ではなく、シェリーが1年間だけ学園に通うという事で母の妹の学園時代の親友の屋敷にある離れを借りているのだ。
庭を通り、木の間から見える伯爵家のサロンはいつもランプが幾つも煌々と灯りを揺らしていて、自分や両親の寝台にある敷布よりもふかふかの絨毯が窓から見える。

7、8歳の令嬢が時々テラスで従者と共に池に向かって手持ち花火をするのを見た時は驚いたものだ。
田舎では火のついた薪を持つのが関の山。王都は何から何まで凄いと思って気後れしてしまった。


屋敷の玄関を開けると、通いの使用人はもう帰ってしまっていて、1人分の夕食が用意をされていた。
王都に来たばかりの頃から数か月はこの食事も凄いといつも思っていたが、カインと時折昼食や夕食をレストランなどでするようになってからは、屋敷に帰る度に惨めな思いを感じていた。

「カイン様のお嫁さんになりたいけど‥‥病弱な体では無理だわ」

母からいつも忘れないようにと持たされている「薬」を数粒手に取り水で流し込む。
あと2、3か月もすればまた田舎に帰らねばならない。そうなればカインとももう別れなければならない。

カインにはティフェルという裕福な伯爵家の婚約者がいるのは判っている。
ティフェルに紹介をされたあの日、カインの瞳を見て心臓が今までにないくらい高鳴った。
ドキドキして息も熱があるのではと思うほどに熱かった。

見つめられれば見つめられるほどに苦しくなってくる。
決して嫌な苦しさではなく、心地よい苦しさだった。
しかしカインは自分の世話をしてくれているティフェルの婚約者。
この思いは絶対に知られてはいけないと隠しておくつもりだった。

「君の事が好きなんだ」

カインから呼び出され告白をされた時は飛び上がるほど嬉しかった。
同時にティフェルに見つかったら…バレてしまったらどうしようと心がせめぎあう。
でも、気持ちを偽る事など出来なかった。

「お慕いしています」

と返事をすると抱きしめ、唇を奪われた。
誰にも見つからないように、毎日僅かな時間しか会えなくても愛を育んできた。

卒業まで…。卒業をすれば思い出にしなければいけない。
そう思っているのに、どんどんと欲が出て来てしまう。



ティフェルは学園でもカインの話をする事はない。自分なら何時間話して聞かせてもまだ言い足りないほどなのに愛を与えられていないカインを哀れに思い、婚約者という立場のティフェルが憎くなってしまった。

そんな時、「今日はティフェルと会わないといけないんだ」とカインが言った。

同じクラスの女子生徒が話していた「一度は行ってみたいレストラン」で食事をするのだという。
自分はそんな所には連れて行ってもらえないのにどうしてティフェルだけ?
カインの事を愛してもいない癖に、婚約者というだけでそんな店で食事なんて許せない。

「じゃ、ここで」

というカインが哀れでティフェルが来るまで。来れば帰るからと一緒に入店をした。
すると食事の提供が開始された。信じられないくらい新鮮な野菜に果物。
肉の柔らかさとソースの味は絶品だった。

皿を運んできた給仕にカインは「まだです、違います」と言っているが給仕はシェリーに「本日はおめでとうございます」とワインを注いでくれた。

――もしかして新婚に見られているのかしら――

時間通りにやって来るティフェルの為に、カインはテーブルを急遽1つ持ってきてもらっている。
まぁ、割り込んだのは自分だし仕方ないとそこは諦めた。

「2人で食べるより3人で食べたほうが美味しいわね。きっと」
「いや…そうかな…でもなぁ」

煮え切らないカインに少しイラっとするものの、半分以上メインを食べ終わった頃にティフェルがやって来た。
折角ここだと呼んでやったのに立ったままで席につこうともしないなんて。
しかしティフェルの後ろにいる男性に睨まれてしまった。
凄く目を引く男性で、着ている服はカインよりも高級なものだとすぐにわかる。

カインは慌てて何かをティフェルに言っているけれど、同じ物を食べたいなら注文すれば済むだけなのに何をゴネているのだろうと腹が立ってしまった。
さっさと帰ってしまったティフェルにカインは少し落ち込んでしまっていた。

「カイ、大丈夫?」
「あ、うん‥‥残り食べようか」

ちょっと変わったデザートは伯爵家の子供がやっていた花火のように綺麗だった。
どうぞと出されれば火が付いていたのに、冷たいアイスクリーム!!
チョコレートで出来たプレートも食べてみたかったのにカインはサッと取ると食べてしまった。
むくれると、帰りに何度もキスはしてくれたけれどチョコレートも食べてみたかった。


ふとテーブルを見るとそれらからすれば粗末な食事にため息が出た。

ガタンと音がして振り返ると珍しく両親は揃って出かけていたようで帰宅をしたみたいだった。
シェリーは「お帰りなさい」と玄関まで行くと、「きゃぁ」と小さく悲鳴をあげる。

父は頬が腫れているし、母は顔も手もケガをしていてドレスの裾も踏まれたようなあとがついている。いったい誰がこんな酷い事を!!

「お母様っ!大丈夫なのっ」

抱きつこうとしたら、父にパーンと頬を張られてしまった。

「何…どうして?わたくし…頬を…どうして?」
「どうしてだと?お前はいったい学園に何をしに行ってたんだ!」

声を荒げた事のない父の声にビクリと体が震える。顔も見た事がないほど怖い顔だ。
胸のポケットから紙を取り出すと投げつけてくる。

「よく見てみろ!」

そう言われて紙を広げてみるが、難しい単語ばかりで意味がほとんどわからない。
しかし、一番上に大きめの文字で書かれている文字は読めた。

「婚約破棄‥‥慰謝料?」
「そうだ!お前のせいで侯爵家と伯爵家の婚約が壊れた!責任を取らねばならなくなった」
「責任?どうして?‥‥慰謝料って何なの?!」
「お前が侯爵家の倅をたぶらかした慰謝料だ。2億だ。2億!もうおしまいだ!」
「2億ももらえるのにどうしておしまいなのっ?」

シェリーは控えめに言っても学力は低空飛行。地上すれすれの紙飛行機のほうがまだ高い位置にいる。

「カイン様が婚約を破棄して責任を取って2億の慰謝料でわたくしを迎えに来て下さるの?!」

大きく勘違いをしていた。
婚約破棄は婚約がなくなった事だと理解をしている。それは正解である。
しかし、シェリーの言う慰謝料は世間で言う持参金や結納金をさしている。

つまりは、

カインがティフェルと婚約破棄をして、シェリーを選び責任を取って結婚してくれる。その為の結納金2億を用意してくれると誤解釈しているのだ。


子爵夫妻は娘の言っている意味が解らなかった。
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