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卒業式☆開始直前
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夜会から戻り、廃屋の屋敷を改めて月に光の下にみたカインは「間違い」を悟った。
両親も陛下の目の前でやらかした愚行に明日にはこの廃屋ではなく牢屋ではないかと肩を落としていた。
シェリーだけはドレスが汚れた、侯爵家相手になんて酷い女なのだとブツブツ呟いている。
夜会で見たティフェルは女神のように美しかった。
どうしてあの手を放してしまったのだろう。
どうして目の前の女の方が可愛いと思ってしまったのだろう。
隣にいた男が婚約者だなんて許せるはずがない。
「そうか。俺が謝るのが遅くなったからきっと無理やり…‥あぁフェル!すまないっ」
月の光の下でカインは己の不甲斐なさにきっと無理やりティフェルが嫁がされるのだと泣いた。
悪夢のような夜会が終わりホッと一息つく間もなく卒業式がやってくる。
制服の袖に手を通すのもこれで最後かと思うと少し寂しさも感じながら鏡の前に立つ。
ミィニャは後姿を見て、スカートの皺を伸ばしたり、ブレザーの襟元を直してくれる。
「完璧ですね。流石私のお嬢様です」
「ありがとう。ミィニャ」
「そろそろエルネスト様がお迎えに来て下さる時間ですよ」
「そうね。玄関で待っていようかしら」
ミィニャと2人で玄関まで歩いていくと、既にエルネストは到着していて父の伯爵と談笑をしていた。本当の父と息子のように話をする声が聞こえてくる。
エルネストはティフェルが学園を卒業すればすぐに婚姻届けを出しジェイス伯爵家に婿入りをするのだ。
公爵家はエルネストの兄が継ぐため、どこかに雇ってもらって生活をと考えていたが、伯爵家に婿入りする事をエルネスト自身が決めたのだ。
領地の経営や他国への留学などで顔の広いエルネストを迎え入れる事で伯爵家はますます繁栄しそうである。
「お待たせしました」
「おぉティフェル。その姿も今日で見納めだな」
「お父様は後から来られますの?一緒に行かれますの?」
「あとから行くよ。幾らなんでもお前たちの馬車に同乗するのは気が引ける」
後からくるという伯爵を置いてティフェルはエルネストのエスコートで馬車に乗り学園に向かった。
校門の前には華やかな一団が陣取っている。在校生は色とりどりのドレスを着て退場する際には花びらの入った花かごをもって卒業生に花道で花びらを撒くのである。
ティフェルの馬車を見つけた在校生が走ってくる。
あっという間に馬車の扉の前は令嬢たちで溢れかえってしまった。
「お姉様っ!ご卒業おめでとうございます!」
人気のあったティフェルは後輩たちに囲まれて、お祝いの品を両手いっぱいに受け取った。
そんな中、輪から外れた位置に1人の令嬢が立っていた。シェリーである。
同学年のはずだが、ドレスを着ているという事は留年組だということだ。
「向こうを見るな。関りに会いなると碌な事がない」
エルネストがさりげなく盾になってくれてシェリーの目線は見えなくなった。
だが、シェリーとは逆方向の視線にエルネストが気付いた。カインである。
カインは友人たちと懇談していたようだが、ティフェルが到着するや否や熱い視線を送って来た。
動き出したカインにエルネストはティフェルに「行こうか」と伝え、講堂に向けて歩き始めた。
カインはティフェルの馬車が直ぐに目に入った。
友人たちや後輩と歓談をしながらその様子を見ていると、やはり無理やり婚約をさせられた相手と馬車から降りてきた。朗らかに笑っているティフェルだがきっと心を押し殺し泣いているのだろうと思うとやりきれない。
今、助けに行かねばとティフェルの元に歩き始めた。
「フェル!待ってくれよ」
カインの言葉にその場にいた一同が驚いて声の主を見やるも当たり前のようにもう一度名前を呼んでいる。その上、カインの声に被せるようにシェリーまでティフェルの名を呼ぶ声がし始めた。
「ティフェル!」「フェル!」とご丁寧に重なる言葉まで同じ二人。前からシェリー。後ろにカイン。これは諦めるしかないと立ち止まるとシェリーが走り寄って来た。
「ティフェル。酷いわ」
いきなり何を言うのだろうとエルネストと顔を見合わせる。
やっと怒りを放出する先が出来たからだろうか。シェリーはまくし立ててきた。
「伯爵令嬢ともなると、人の男を寝取るのがお好きなようねっ!」
「何を言ってるんだ?意味が解らないぞ」
「知ってるんだから!あの夜会から毎日毎日カイと会ってるでしょう!」
「勘違いをなさっていると思いますわよ?あの夜会以降お会いしておりませんし」
「嘘よ!毎日あなたの名前を寝言で呟くのよ?昼間もどこかに出かけるの知ってるんだから」
「ならば何方かとお間違いになられていますわ。わたくしではありませんもの」
否定をするティフェルに益々顔の色を紅潮させて激昂するシェリー。
ティフェルのすました顔が気に入らなかったのだろうか。睨みつけると――
「美丈夫なカイをわたくしに取られて、悔しいと思うだろうけど来年もわたくしの世話係をさせてあげるわ。侯爵夫人のお世話が出来るんだもの。光栄でしょう?隣にいるそんな醜男よりもっといい男と出会えるしね。そうだ、特別に来年からはお茶会や夜会にティフ――」
突然カインがシェリーを突き飛ばし、ティフェルに向かって微笑みかけている。
あの夜会の時よりも、日の下で見ているからだろうか。カインもシェリーもよくよく見ると首や顔にブツブツとしたものがある。
ニキビにも似てはいるような、いないような。やはりこの女から感染されたのだと思うと怒りもこみ上げてくる。その上どことなく薄汚れた感じが否めない。
――やはり俺にはフェルしかいない――
カインの心は決まった。
「フェル。あんな女の言う事なんか気にしなくていい。それより今日は答辞を読むんだろう?講堂までエスコートをするよ」
差し出してくる手に迷いがない事に気味の悪さを感じずにはいられない。
そんなカインに「酷い!」と突き飛ばされて転んだシェリーはカインの背中に抱き着いた。
「酷い!酷い!やっぱり隠れて会っていたのね。病弱なわたくしが毎日お義母様に叱られているのに!浮気者!」
「病弱?嘘を吐くな!こんな吹き出物くらいじゃないか!何が病弱だ。おかげで感染されたこっちは歯周病っていわれて定期的に歯医者に行くはめになったんだぞ!歯周病のどこが学園にも行けないくらいの病気だというんだ!歯磨きをしないお前の怠慢が原因の病気じゃないか!」
「カイ!何を言ってるの!わたくしは歯周病なんかじゃないわ!ずっとずっと患っているのは蓄膿症よ!でも侯爵家に行ってからは病院に行くとお金かかるし、行けなくなったのはカイ!貴方のせいよ!なのにどうしてそんな酷い事を言うの?!わたくしは体も弱い病人なのよ?それでも我慢をしてるのに!」
「え?まさかと思うが…学園を1年免除してもらった病気って…蓄膿症?」
「そうよ!だからお薬を飲んでたでしょう?でも治らないの!不治の病なのよ!」
「嘘だろ‥‥俺を騙していたのか」
「騙してなんかいないわ!ちゃんと王都に来たばかりの時から医者に行ってたもの!」
「ならどうして治ってないんだ?それからならもう1年になるだろう」
「医者の腕が悪いのよ!あと逃げたお母様が悪いの!わたくしはずっと闘病してるんだから!」
言い合う2人は2人だけの世界に浸った方が良いだろうとティフェルとエルネスト、そして在校生の女子生徒たちはそっとその場を離れ講堂に向かった。
「あの方のお口が臭っていたのはあのせいなんですのね」
「お世話係って…2年目になるのに必要ないじゃないの」
「あら?必要かも知れなくてよ。あんな理解不能な事を言いだすんですもの」
「無理だわ。どこに案内すればいいのか判らないし…吹き出物もペルデロ侯爵子息に感染ってたってことでしょう?触れれば感染るなんて怖すぎるわ」
「でも感染るような物ならお医者様に行けば…ペルデロ侯爵子息も医者で痛い目にあったみたいですし治らないわけではないのでしょう?」
「でもそれって感染ったら同じようにわたくし達も…?」
<<嫌すぎるぅ~>>
あの修羅場?のような場から離れて2人だけとなってもまだ言い合いをしている2人。
遠目に見ながら流行の恋愛小説をよく読んでいる女子生徒たちはポツリと呟いた。
「お互いしか見えてないというのが真実の愛っていうのかな」
「あれは…また違った世界ね。絶対にあぁはなりたくないわ」
ふと周りを見れば、誰もいなくなっている。
カインは目の前で泣きながら「愛していると言って!」と縋るシェリーの腕を払いのけた。
結婚をして2か月少しだが、多少の喧嘩はあった2人。
言い合っていても、「ごめんね」という意味で先に愛の言葉を口にした方が折れたという事。
だがカインはその言葉を口にすることはなかった。
「シェリー!お前とは別れる。俺にはティフェルという婚約者がいるんだ」
「カイ?何を言って‥‥」
「やっと目が覚めた。ティフェルをあんな男に取られてたまるもんか」
「何を言ってるのよ!わたくし達はもう結婚しているでしょう?!」
「そんなもの!離縁をすればいいだけだ。どけっ!」
「酷いわ!いくら白い結婚だからと言ってたった2カ月で花嫁を捨てるなんて!」
その言葉でカインはシェリーの知識の低さを更に認識せざるを得なかった。
からだの関係があるなしではなく、シェリーの中では子がいるかいないかで判断をしているのだろう。
そこに侯爵夫妻もやっと到着した。
息子の卒業式。本当なら一番に乗りつけて他の子女の両親らにマウントを取りたかったが答辞も他の生徒がする事になりかろうじて卒業出来るカイン。
過日の夜会の出来事でますます肩身が狭くなり、反国王派の貴族も軒並み共同事業を一緒にと言っていたその手を引かれてしまってやっと浮上出来るかと思っていたチャンスもなくなった。
この先は更に困窮するだろう。落ちぶれた姿を見られたくなくて一目につかぬようにほとんどが講堂に入った頃を見計らい、来てみれば息子夫婦がケンカをしている。
その上、シェリーと離婚をする??
高位貴族の結婚は国王の許しがなければ結婚も離縁も出来るはずがないのだが、シェリーを手放されては困るのだ。シェリーの叔母からの借金への返済手続きが途中だと第二王子から聞かされている侯爵夫妻は慌ててカインを宥めた。
そんな4人に卒業式の開始を告げる鐘の音が聞こえてきた。
両親も陛下の目の前でやらかした愚行に明日にはこの廃屋ではなく牢屋ではないかと肩を落としていた。
シェリーだけはドレスが汚れた、侯爵家相手になんて酷い女なのだとブツブツ呟いている。
夜会で見たティフェルは女神のように美しかった。
どうしてあの手を放してしまったのだろう。
どうして目の前の女の方が可愛いと思ってしまったのだろう。
隣にいた男が婚約者だなんて許せるはずがない。
「そうか。俺が謝るのが遅くなったからきっと無理やり…‥あぁフェル!すまないっ」
月の光の下でカインは己の不甲斐なさにきっと無理やりティフェルが嫁がされるのだと泣いた。
悪夢のような夜会が終わりホッと一息つく間もなく卒業式がやってくる。
制服の袖に手を通すのもこれで最後かと思うと少し寂しさも感じながら鏡の前に立つ。
ミィニャは後姿を見て、スカートの皺を伸ばしたり、ブレザーの襟元を直してくれる。
「完璧ですね。流石私のお嬢様です」
「ありがとう。ミィニャ」
「そろそろエルネスト様がお迎えに来て下さる時間ですよ」
「そうね。玄関で待っていようかしら」
ミィニャと2人で玄関まで歩いていくと、既にエルネストは到着していて父の伯爵と談笑をしていた。本当の父と息子のように話をする声が聞こえてくる。
エルネストはティフェルが学園を卒業すればすぐに婚姻届けを出しジェイス伯爵家に婿入りをするのだ。
公爵家はエルネストの兄が継ぐため、どこかに雇ってもらって生活をと考えていたが、伯爵家に婿入りする事をエルネスト自身が決めたのだ。
領地の経営や他国への留学などで顔の広いエルネストを迎え入れる事で伯爵家はますます繁栄しそうである。
「お待たせしました」
「おぉティフェル。その姿も今日で見納めだな」
「お父様は後から来られますの?一緒に行かれますの?」
「あとから行くよ。幾らなんでもお前たちの馬車に同乗するのは気が引ける」
後からくるという伯爵を置いてティフェルはエルネストのエスコートで馬車に乗り学園に向かった。
校門の前には華やかな一団が陣取っている。在校生は色とりどりのドレスを着て退場する際には花びらの入った花かごをもって卒業生に花道で花びらを撒くのである。
ティフェルの馬車を見つけた在校生が走ってくる。
あっという間に馬車の扉の前は令嬢たちで溢れかえってしまった。
「お姉様っ!ご卒業おめでとうございます!」
人気のあったティフェルは後輩たちに囲まれて、お祝いの品を両手いっぱいに受け取った。
そんな中、輪から外れた位置に1人の令嬢が立っていた。シェリーである。
同学年のはずだが、ドレスを着ているという事は留年組だということだ。
「向こうを見るな。関りに会いなると碌な事がない」
エルネストがさりげなく盾になってくれてシェリーの目線は見えなくなった。
だが、シェリーとは逆方向の視線にエルネストが気付いた。カインである。
カインは友人たちと懇談していたようだが、ティフェルが到着するや否や熱い視線を送って来た。
動き出したカインにエルネストはティフェルに「行こうか」と伝え、講堂に向けて歩き始めた。
カインはティフェルの馬車が直ぐに目に入った。
友人たちや後輩と歓談をしながらその様子を見ていると、やはり無理やり婚約をさせられた相手と馬車から降りてきた。朗らかに笑っているティフェルだがきっと心を押し殺し泣いているのだろうと思うとやりきれない。
今、助けに行かねばとティフェルの元に歩き始めた。
「フェル!待ってくれよ」
カインの言葉にその場にいた一同が驚いて声の主を見やるも当たり前のようにもう一度名前を呼んでいる。その上、カインの声に被せるようにシェリーまでティフェルの名を呼ぶ声がし始めた。
「ティフェル!」「フェル!」とご丁寧に重なる言葉まで同じ二人。前からシェリー。後ろにカイン。これは諦めるしかないと立ち止まるとシェリーが走り寄って来た。
「ティフェル。酷いわ」
いきなり何を言うのだろうとエルネストと顔を見合わせる。
やっと怒りを放出する先が出来たからだろうか。シェリーはまくし立ててきた。
「伯爵令嬢ともなると、人の男を寝取るのがお好きなようねっ!」
「何を言ってるんだ?意味が解らないぞ」
「知ってるんだから!あの夜会から毎日毎日カイと会ってるでしょう!」
「勘違いをなさっていると思いますわよ?あの夜会以降お会いしておりませんし」
「嘘よ!毎日あなたの名前を寝言で呟くのよ?昼間もどこかに出かけるの知ってるんだから」
「ならば何方かとお間違いになられていますわ。わたくしではありませんもの」
否定をするティフェルに益々顔の色を紅潮させて激昂するシェリー。
ティフェルのすました顔が気に入らなかったのだろうか。睨みつけると――
「美丈夫なカイをわたくしに取られて、悔しいと思うだろうけど来年もわたくしの世話係をさせてあげるわ。侯爵夫人のお世話が出来るんだもの。光栄でしょう?隣にいるそんな醜男よりもっといい男と出会えるしね。そうだ、特別に来年からはお茶会や夜会にティフ――」
突然カインがシェリーを突き飛ばし、ティフェルに向かって微笑みかけている。
あの夜会の時よりも、日の下で見ているからだろうか。カインもシェリーもよくよく見ると首や顔にブツブツとしたものがある。
ニキビにも似てはいるような、いないような。やはりこの女から感染されたのだと思うと怒りもこみ上げてくる。その上どことなく薄汚れた感じが否めない。
――やはり俺にはフェルしかいない――
カインの心は決まった。
「フェル。あんな女の言う事なんか気にしなくていい。それより今日は答辞を読むんだろう?講堂までエスコートをするよ」
差し出してくる手に迷いがない事に気味の悪さを感じずにはいられない。
そんなカインに「酷い!」と突き飛ばされて転んだシェリーはカインの背中に抱き着いた。
「酷い!酷い!やっぱり隠れて会っていたのね。病弱なわたくしが毎日お義母様に叱られているのに!浮気者!」
「病弱?嘘を吐くな!こんな吹き出物くらいじゃないか!何が病弱だ。おかげで感染されたこっちは歯周病っていわれて定期的に歯医者に行くはめになったんだぞ!歯周病のどこが学園にも行けないくらいの病気だというんだ!歯磨きをしないお前の怠慢が原因の病気じゃないか!」
「カイ!何を言ってるの!わたくしは歯周病なんかじゃないわ!ずっとずっと患っているのは蓄膿症よ!でも侯爵家に行ってからは病院に行くとお金かかるし、行けなくなったのはカイ!貴方のせいよ!なのにどうしてそんな酷い事を言うの?!わたくしは体も弱い病人なのよ?それでも我慢をしてるのに!」
「え?まさかと思うが…学園を1年免除してもらった病気って…蓄膿症?」
「そうよ!だからお薬を飲んでたでしょう?でも治らないの!不治の病なのよ!」
「嘘だろ‥‥俺を騙していたのか」
「騙してなんかいないわ!ちゃんと王都に来たばかりの時から医者に行ってたもの!」
「ならどうして治ってないんだ?それからならもう1年になるだろう」
「医者の腕が悪いのよ!あと逃げたお母様が悪いの!わたくしはずっと闘病してるんだから!」
言い合う2人は2人だけの世界に浸った方が良いだろうとティフェルとエルネスト、そして在校生の女子生徒たちはそっとその場を離れ講堂に向かった。
「あの方のお口が臭っていたのはあのせいなんですのね」
「お世話係って…2年目になるのに必要ないじゃないの」
「あら?必要かも知れなくてよ。あんな理解不能な事を言いだすんですもの」
「無理だわ。どこに案内すればいいのか判らないし…吹き出物もペルデロ侯爵子息に感染ってたってことでしょう?触れれば感染るなんて怖すぎるわ」
「でも感染るような物ならお医者様に行けば…ペルデロ侯爵子息も医者で痛い目にあったみたいですし治らないわけではないのでしょう?」
「でもそれって感染ったら同じようにわたくし達も…?」
<<嫌すぎるぅ~>>
あの修羅場?のような場から離れて2人だけとなってもまだ言い合いをしている2人。
遠目に見ながら流行の恋愛小説をよく読んでいる女子生徒たちはポツリと呟いた。
「お互いしか見えてないというのが真実の愛っていうのかな」
「あれは…また違った世界ね。絶対にあぁはなりたくないわ」
ふと周りを見れば、誰もいなくなっている。
カインは目の前で泣きながら「愛していると言って!」と縋るシェリーの腕を払いのけた。
結婚をして2か月少しだが、多少の喧嘩はあった2人。
言い合っていても、「ごめんね」という意味で先に愛の言葉を口にした方が折れたという事。
だがカインはその言葉を口にすることはなかった。
「シェリー!お前とは別れる。俺にはティフェルという婚約者がいるんだ」
「カイ?何を言って‥‥」
「やっと目が覚めた。ティフェルをあんな男に取られてたまるもんか」
「何を言ってるのよ!わたくし達はもう結婚しているでしょう?!」
「そんなもの!離縁をすればいいだけだ。どけっ!」
「酷いわ!いくら白い結婚だからと言ってたった2カ月で花嫁を捨てるなんて!」
その言葉でカインはシェリーの知識の低さを更に認識せざるを得なかった。
からだの関係があるなしではなく、シェリーの中では子がいるかいないかで判断をしているのだろう。
そこに侯爵夫妻もやっと到着した。
息子の卒業式。本当なら一番に乗りつけて他の子女の両親らにマウントを取りたかったが答辞も他の生徒がする事になりかろうじて卒業出来るカイン。
過日の夜会の出来事でますます肩身が狭くなり、反国王派の貴族も軒並み共同事業を一緒にと言っていたその手を引かれてしまってやっと浮上出来るかと思っていたチャンスもなくなった。
この先は更に困窮するだろう。落ちぶれた姿を見られたくなくて一目につかぬようにほとんどが講堂に入った頃を見計らい、来てみれば息子夫婦がケンカをしている。
その上、シェリーと離婚をする??
高位貴族の結婚は国王の許しがなければ結婚も離縁も出来るはずがないのだが、シェリーを手放されては困るのだ。シェリーの叔母からの借金への返済手続きが途中だと第二王子から聞かされている侯爵夫妻は慌ててカインを宥めた。
そんな4人に卒業式の開始を告げる鐘の音が聞こえてきた。
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