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1回目の人生
僕の愛するジェシー
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「もういいよ。お腹空いた。ご飯にしようよ」
歴史を教えている講師は閉じられた教本を開くようにと優しく諭す。
しかしジェシーはプゥと頬を膨らませてプイと横を向く。
「ジェシーさん。まだ始まって15分も経っていないのです。本を開いてください」
「無理っ!開いたって何て書いてるか判んないしさぁ」
本を手に取り、パラパラとめくると放り投げてしまう。
ペンもクルクルと回したり、足を小刻みに揺らしたり、とにかく落着きがない。
「もう!もっと短く出来ない?動きにくいんですけど!」
「今日のドレスは締め付けもありませんし動きやすい型です」
「えぇぇっ?これで?信じらんない」
「足を見せるのはおやめください。護衛の騎士もいるのです」
「だからぁ。言ってるじゃん。動きにくいって」
決してダンスの講義ではない。ただ椅子に座る、立つ、そして歩くという動作を教えている最中なのである。市井で生まれ、育ったジェシーは足元まで隠れるようなドレスなど教会の結婚式でしか見た事がない。
いや、時折酒場に同伴する娼婦も裾の長いドレスだったが、大きくスリットがあり動きやすそうなものだったという記憶しかない。
「カトラリーは外側から順番ですよ」
「いいじゃん、こっちの方が使いやすいし。ほら!」
「順番があるのです。あぁ、音を立ててスープを飲まない!」
「面倒ね。じゃ、こうすれば音はしないよね?(ズズズズー)」
「あぁッ!スープ皿をそのまま‥‥」
「うん。まぁまぁね。出来ればもっと濃い味のほうが良いけど」
そしてスープの皿を舌で舐め始めるのには講師は目を回して倒れ込む。
肉もナイフで一口サイズには切らずにフォークで刺して口で咥えて指で引っ張り噛み切る。
汚れた手はテーブルクロスやドレスで拭く。
挙句の果てにはつまらないとナイフやフォークで投擲を始める始末である。
パンも指で千切るのではなく丸かじりでかぶりつく。
マナーも何もあったものではなかった。
「どうだい?ジェシー」
「あっ!レオっ!きてきて。このお菓子めっちゃ旨いの!」
生クリームを飾り付けているフルーツを指でつまんでですくい取ると口の中に入れる。
フルーツがスプーンやフォーク代わりのようで、生クリームだけを舐め取るとまた生クリームをフルーツですくいとる。講師を担当している伯爵夫人は気分が悪くなったと下がった後は、手づかみでケーキを取ってそのまま口の中に押し込む。
リスのように口いっぱいにケーキをいれると頬が膨らむ。
恋は盲目。先人はよく言ったものだと侍女たちは吐き気を押えながらも時間が過ぎるのを待つ。
レオンはそんなジェシーの姿も可愛いと目を細める。
それまでレオンの周りには礼儀やマナーに五月蠅い者ばかりだった。
市井で声を張り上げて注文をさばいてくジェシーは新鮮だった。
チキンを手でつまんで頬張るジェシーの自由奔放さに目が離せなかった。
街を歩いていて雑貨屋の店先に並んでいる不思議なものが目についた。
「これは何だ?」
「やだぁ、こんなのも知らないの?」
「判らない。教えてくれ」
「えへへ。アタシも知らない。ちょっと待ってて。ねぇっ!コレなの?」
「それは入荷したばかりで…ちょっと店主じゃないと判らないです」
「はぁ?アンタよく判らないものを客に売る気?あり得ないんだけど?」
「も、申し訳ありませんっ」
「いいわ。レオ。判らないんだって。他に行こう。あっちのほうが面白そう」
言いたい事をはっきりと言うジェシーに驚き、他の客にも迷惑にならないように諭す。
そして次々に自分の手を引き、色んな店を回る。何もかもが新鮮だった。
何度目かの来店で話しかける事が出来、さらに回数を重ねて会話を交わし、デートに誘った。
そして4回目のデートで初めてキスをして、次のデートでは結ばれた。
だが時間が来れば城に戻らねばならない。ジェシーの家で夜を明かす事は叶わなかった。
ずっとヴィオレッタにはジェシーを紹介したいと思っていた。
レオンの中ではヴィオレッタは長い月日の間で、近くにいるのが当たり前すぎて出会った時のような恋焦がれる気持ちが薄まっていたのも事実かも知れない。
会いたいと言えば翌日は会えるし、声を荒げる事などはない。
一度、侍女が粗相をした事がある。淹れた茶をテーブルに置く際に溢してしまった。
「申し訳ございません」
「いいのよ。気にしないで。それより火傷はしなかったかしら」
そう言って侍女の手を取ったかと思えば、カバンから小瓶を出し渡した。
後で侍女に聞けば手荒れ用のクリームだったと言った。
それをジェシーにポツリと言ったことがある。
「お貴族様はね。恵んであげるってのがあるからねぇ。得したじゃん。その侍女」
っと笑って言った。そうだ。僕たち王族もだが高位貴族は貧しい者たちに手を差し伸べるのも大事な事なのだ。単に施しの場を僕は見ただけなのかと単なる日常を話しただけだったのかと恥ずかしくなった。
「殿下、こう言ってはなんですがもう無理です」
「ディザルド伯爵夫人。そう言うな。もう少し頑張ってくれないだろうか」
「いえ、わたくしには無理で御座います。本日までの講師代も不要です」
次々に辞めていく講師たち。母の王妃にも側妃のレクシーにも相談をして人を回してもらうが1週間も続かない。学院時代の成績が良かった者にも声をかけて来てもらったが3日も持たずに辞めてしまう。
彼女らを甘く見ていた所もあった。
とてもジェシーを連れて夜会には行けないし、ジェシー1人を茶会に行かせる事も出来ない。
そうしている間に【ヴィオレッタを追い出した女】として高位貴族の令嬢たちから低位貴族の令嬢へ、そして平民でも裕福な者たちへ夜会や茶会を和ませる談話の一つとしてその話が広がっていく。
そのような場に出向くことが出来ないレオンは気がつくのが遅れた。
そんな話が広がっていると知り、火消しにと動いたが王宮に勤める者に箝口令を敷いても意味がなかった。
むしろ、王宮に勤める者が口を噤む事で噂の広がりは加速して庶民にも広がっていった。
歴史を教えている講師は閉じられた教本を開くようにと優しく諭す。
しかしジェシーはプゥと頬を膨らませてプイと横を向く。
「ジェシーさん。まだ始まって15分も経っていないのです。本を開いてください」
「無理っ!開いたって何て書いてるか判んないしさぁ」
本を手に取り、パラパラとめくると放り投げてしまう。
ペンもクルクルと回したり、足を小刻みに揺らしたり、とにかく落着きがない。
「もう!もっと短く出来ない?動きにくいんですけど!」
「今日のドレスは締め付けもありませんし動きやすい型です」
「えぇぇっ?これで?信じらんない」
「足を見せるのはおやめください。護衛の騎士もいるのです」
「だからぁ。言ってるじゃん。動きにくいって」
決してダンスの講義ではない。ただ椅子に座る、立つ、そして歩くという動作を教えている最中なのである。市井で生まれ、育ったジェシーは足元まで隠れるようなドレスなど教会の結婚式でしか見た事がない。
いや、時折酒場に同伴する娼婦も裾の長いドレスだったが、大きくスリットがあり動きやすそうなものだったという記憶しかない。
「カトラリーは外側から順番ですよ」
「いいじゃん、こっちの方が使いやすいし。ほら!」
「順番があるのです。あぁ、音を立ててスープを飲まない!」
「面倒ね。じゃ、こうすれば音はしないよね?(ズズズズー)」
「あぁッ!スープ皿をそのまま‥‥」
「うん。まぁまぁね。出来ればもっと濃い味のほうが良いけど」
そしてスープの皿を舌で舐め始めるのには講師は目を回して倒れ込む。
肉もナイフで一口サイズには切らずにフォークで刺して口で咥えて指で引っ張り噛み切る。
汚れた手はテーブルクロスやドレスで拭く。
挙句の果てにはつまらないとナイフやフォークで投擲を始める始末である。
パンも指で千切るのではなく丸かじりでかぶりつく。
マナーも何もあったものではなかった。
「どうだい?ジェシー」
「あっ!レオっ!きてきて。このお菓子めっちゃ旨いの!」
生クリームを飾り付けているフルーツを指でつまんでですくい取ると口の中に入れる。
フルーツがスプーンやフォーク代わりのようで、生クリームだけを舐め取るとまた生クリームをフルーツですくいとる。講師を担当している伯爵夫人は気分が悪くなったと下がった後は、手づかみでケーキを取ってそのまま口の中に押し込む。
リスのように口いっぱいにケーキをいれると頬が膨らむ。
恋は盲目。先人はよく言ったものだと侍女たちは吐き気を押えながらも時間が過ぎるのを待つ。
レオンはそんなジェシーの姿も可愛いと目を細める。
それまでレオンの周りには礼儀やマナーに五月蠅い者ばかりだった。
市井で声を張り上げて注文をさばいてくジェシーは新鮮だった。
チキンを手でつまんで頬張るジェシーの自由奔放さに目が離せなかった。
街を歩いていて雑貨屋の店先に並んでいる不思議なものが目についた。
「これは何だ?」
「やだぁ、こんなのも知らないの?」
「判らない。教えてくれ」
「えへへ。アタシも知らない。ちょっと待ってて。ねぇっ!コレなの?」
「それは入荷したばかりで…ちょっと店主じゃないと判らないです」
「はぁ?アンタよく判らないものを客に売る気?あり得ないんだけど?」
「も、申し訳ありませんっ」
「いいわ。レオ。判らないんだって。他に行こう。あっちのほうが面白そう」
言いたい事をはっきりと言うジェシーに驚き、他の客にも迷惑にならないように諭す。
そして次々に自分の手を引き、色んな店を回る。何もかもが新鮮だった。
何度目かの来店で話しかける事が出来、さらに回数を重ねて会話を交わし、デートに誘った。
そして4回目のデートで初めてキスをして、次のデートでは結ばれた。
だが時間が来れば城に戻らねばならない。ジェシーの家で夜を明かす事は叶わなかった。
ずっとヴィオレッタにはジェシーを紹介したいと思っていた。
レオンの中ではヴィオレッタは長い月日の間で、近くにいるのが当たり前すぎて出会った時のような恋焦がれる気持ちが薄まっていたのも事実かも知れない。
会いたいと言えば翌日は会えるし、声を荒げる事などはない。
一度、侍女が粗相をした事がある。淹れた茶をテーブルに置く際に溢してしまった。
「申し訳ございません」
「いいのよ。気にしないで。それより火傷はしなかったかしら」
そう言って侍女の手を取ったかと思えば、カバンから小瓶を出し渡した。
後で侍女に聞けば手荒れ用のクリームだったと言った。
それをジェシーにポツリと言ったことがある。
「お貴族様はね。恵んであげるってのがあるからねぇ。得したじゃん。その侍女」
っと笑って言った。そうだ。僕たち王族もだが高位貴族は貧しい者たちに手を差し伸べるのも大事な事なのだ。単に施しの場を僕は見ただけなのかと単なる日常を話しただけだったのかと恥ずかしくなった。
「殿下、こう言ってはなんですがもう無理です」
「ディザルド伯爵夫人。そう言うな。もう少し頑張ってくれないだろうか」
「いえ、わたくしには無理で御座います。本日までの講師代も不要です」
次々に辞めていく講師たち。母の王妃にも側妃のレクシーにも相談をして人を回してもらうが1週間も続かない。学院時代の成績が良かった者にも声をかけて来てもらったが3日も持たずに辞めてしまう。
彼女らを甘く見ていた所もあった。
とてもジェシーを連れて夜会には行けないし、ジェシー1人を茶会に行かせる事も出来ない。
そうしている間に【ヴィオレッタを追い出した女】として高位貴族の令嬢たちから低位貴族の令嬢へ、そして平民でも裕福な者たちへ夜会や茶会を和ませる談話の一つとしてその話が広がっていく。
そのような場に出向くことが出来ないレオンは気がつくのが遅れた。
そんな話が広がっていると知り、火消しにと動いたが王宮に勤める者に箝口令を敷いても意味がなかった。
むしろ、王宮に勤める者が口を噤む事で噂の広がりは加速して庶民にも広がっていった。
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