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1回目の人生
側近候補2人目も消える
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もう何通目になるのだろうか。初めて講師を依頼する手紙を出してからもう5カ月になろうとしている。
急がねばジェシ―はもう臨月に入ってしまう。
レオンには更なる焦りもあった。
アレクセイの婚約者になろうとしている公爵家の令嬢はアレクセイより2つ年上の12歳になったばかりだと聞くが非常に出来も良いと聞く。
ジェシーは今の段階で文字が難無く書けるかと言えば否。
読めるかと言えば自分の名前をかろうじて読める程度で全く進んでいない。
本を読む以前に短文の手紙も読めない上に、各部屋の前にある【控室】などの文字も読めない。
このままでは子が産まれ産褥期をギリギリまで引き延ばしてもたった12歳の子供相手にですらジェシーに勝ち目がない。
おまけについに資金も底をついてしまった。勿論管理院に返金はしていない。
督促の手紙も1回目を受け取ったがない袖は振れないのである。
王子としての予算300万ほどではジェシーの褒美も満足に買ってやれない。
かろうじて講師は付いてはいるものの、肝心のジェシーが足が痛い、腹が突っ張って痛い、気分が悪いなどと言って教育を受けようとしないのである。
新しい講師を付けるにはレオンが講師への報酬を自腹で払うしかない。
従者に聞いたところ、一般座学の講義は1回あたり10~20万だと言う。
王子妃教育となればその倍、王太子妃教育、王妃教育となればもう払えるものではない。
「高すぎないか」と聞けば講義を王宮で行う以上、厳しい審査をクリアした講師でなければ王宮内に入る事すら出来ず、それをクリアしているというだけで付加価値がつくと言われた。
ならばもうヴィオレッタに何が何でも頼むしかないとレオンは考える。
元婚約者だったよしみで、無料で引き受けてくれるはずだと信じてやまない。
未だ読み書きをスムーズに出来さえすればヴィオレッタが片手間にやっていた教育など数週間で履修すると思い込んでいるのである。
時間もない事から王子による命令としてヴィオレッタに登城するよう手紙を出した。
命令書となる封筒には特殊な蝋封をしなくてはならない。
蝋封がない、または一般の蝋封に入っている命令書は効力を持たないのである。
その蝋封がついた手紙を渡された文官は悩んだ。しかし悩んだところで出さねば処罰をされる。そして出せば出したで侯爵家の出方次第では処罰をされる。
王妃にどうするべきか相談をしようとしたが、第二王子アレクセイの婚約者となる令嬢との顔合わせ(お見合い)の場所が王都から離れた地で行われるとの事で数日王妃、側妃のレクシーは不在だった。
国王はレオンについては一切助言もしないが苦言も呈さない。
話をすれば手紙はおいて行けと言われ、そのまま処分してしまうだろう。
文官は悩んだ末、手紙を侯爵家に発送手続きを取り、退職をしてしまった。
ヴィオレッタとの婚約解消後、増え続けた決済に関する書類、講師たちの苦情処理と新たな講師の選定と任命、そして王子の愚痴。全てに疲れ切ってしまったのもあったのだろう。
隣国との国境近くの貧しい村から立身出世を果たしたはずの彼は妻子とともに妻の故郷に逃げるように去っていった。
手紙の返事を待っている間にレオンに来客があった。
ユーダリス・ケラ・アベント侯爵令息だった。彼もまたレオンが国王となった時はレオンを支える側近の1人で今は王宮の財政を担当する部署で部長をしていると聞く。
「ユーダリス!久しいな」
「殿下にはご挨拶も出来ず今になり申し訳ございません」
「今日はどうした?突然で驚いたぞ。結婚でもしたのか?」
「はい、来月結婚をする事になりました」
「そうか!それはめでたいな。いやぁ良かった。良かった」
「いえ、その件も含めましてご挨拶に参りました」
ユーダリスはかつてのケルスラーと同じく側近に手渡される宝剣を静かにテーブルに置く。
既視感にレオンは思わず息を飲んだ。
「これは…どういうことだ?」
「この度結婚をする事になり、妻となる女性の家に婿に入る事となりました」
「えっ?だがお前は嫡男だろう?下に妹がいただけだったはずだ」
「えぇ。アベント侯爵家は妹が婿養子を取って家督を継ぎます」
「はっ?どういうことだ?」
「妻の実家は隣国に御座います。隣国に終の棲家を構えますゆえ殿下の側近を辞する報告に参りました」
隣国ともなれば無理にとも言えずレオンはユーダリスを見送る事しか出来なかった。
これで3人いた側近候補のうち2人はレオンの元を離れてしまった。
ケルスラーからは辺境の地に行ったきりで手紙も来ない。
まだ着任したばかりで忙しいのだろうと思いつつ、冷たい奴だとも思う。
それをポロリと従者に溢すと従者は顔色を変えずに茶を淹れ乍らレオンに言った。
「殿下はご結婚されたというお二人には何か差し上げたのですか?」
レオンは返事が出来なかった。
急がねばジェシ―はもう臨月に入ってしまう。
レオンには更なる焦りもあった。
アレクセイの婚約者になろうとしている公爵家の令嬢はアレクセイより2つ年上の12歳になったばかりだと聞くが非常に出来も良いと聞く。
ジェシーは今の段階で文字が難無く書けるかと言えば否。
読めるかと言えば自分の名前をかろうじて読める程度で全く進んでいない。
本を読む以前に短文の手紙も読めない上に、各部屋の前にある【控室】などの文字も読めない。
このままでは子が産まれ産褥期をギリギリまで引き延ばしてもたった12歳の子供相手にですらジェシーに勝ち目がない。
おまけについに資金も底をついてしまった。勿論管理院に返金はしていない。
督促の手紙も1回目を受け取ったがない袖は振れないのである。
王子としての予算300万ほどではジェシーの褒美も満足に買ってやれない。
かろうじて講師は付いてはいるものの、肝心のジェシーが足が痛い、腹が突っ張って痛い、気分が悪いなどと言って教育を受けようとしないのである。
新しい講師を付けるにはレオンが講師への報酬を自腹で払うしかない。
従者に聞いたところ、一般座学の講義は1回あたり10~20万だと言う。
王子妃教育となればその倍、王太子妃教育、王妃教育となればもう払えるものではない。
「高すぎないか」と聞けば講義を王宮で行う以上、厳しい審査をクリアした講師でなければ王宮内に入る事すら出来ず、それをクリアしているというだけで付加価値がつくと言われた。
ならばもうヴィオレッタに何が何でも頼むしかないとレオンは考える。
元婚約者だったよしみで、無料で引き受けてくれるはずだと信じてやまない。
未だ読み書きをスムーズに出来さえすればヴィオレッタが片手間にやっていた教育など数週間で履修すると思い込んでいるのである。
時間もない事から王子による命令としてヴィオレッタに登城するよう手紙を出した。
命令書となる封筒には特殊な蝋封をしなくてはならない。
蝋封がない、または一般の蝋封に入っている命令書は効力を持たないのである。
その蝋封がついた手紙を渡された文官は悩んだ。しかし悩んだところで出さねば処罰をされる。そして出せば出したで侯爵家の出方次第では処罰をされる。
王妃にどうするべきか相談をしようとしたが、第二王子アレクセイの婚約者となる令嬢との顔合わせ(お見合い)の場所が王都から離れた地で行われるとの事で数日王妃、側妃のレクシーは不在だった。
国王はレオンについては一切助言もしないが苦言も呈さない。
話をすれば手紙はおいて行けと言われ、そのまま処分してしまうだろう。
文官は悩んだ末、手紙を侯爵家に発送手続きを取り、退職をしてしまった。
ヴィオレッタとの婚約解消後、増え続けた決済に関する書類、講師たちの苦情処理と新たな講師の選定と任命、そして王子の愚痴。全てに疲れ切ってしまったのもあったのだろう。
隣国との国境近くの貧しい村から立身出世を果たしたはずの彼は妻子とともに妻の故郷に逃げるように去っていった。
手紙の返事を待っている間にレオンに来客があった。
ユーダリス・ケラ・アベント侯爵令息だった。彼もまたレオンが国王となった時はレオンを支える側近の1人で今は王宮の財政を担当する部署で部長をしていると聞く。
「ユーダリス!久しいな」
「殿下にはご挨拶も出来ず今になり申し訳ございません」
「今日はどうした?突然で驚いたぞ。結婚でもしたのか?」
「はい、来月結婚をする事になりました」
「そうか!それはめでたいな。いやぁ良かった。良かった」
「いえ、その件も含めましてご挨拶に参りました」
ユーダリスはかつてのケルスラーと同じく側近に手渡される宝剣を静かにテーブルに置く。
既視感にレオンは思わず息を飲んだ。
「これは…どういうことだ?」
「この度結婚をする事になり、妻となる女性の家に婿に入る事となりました」
「えっ?だがお前は嫡男だろう?下に妹がいただけだったはずだ」
「えぇ。アベント侯爵家は妹が婿養子を取って家督を継ぎます」
「はっ?どういうことだ?」
「妻の実家は隣国に御座います。隣国に終の棲家を構えますゆえ殿下の側近を辞する報告に参りました」
隣国ともなれば無理にとも言えずレオンはユーダリスを見送る事しか出来なかった。
これで3人いた側近候補のうち2人はレオンの元を離れてしまった。
ケルスラーからは辺境の地に行ったきりで手紙も来ない。
まだ着任したばかりで忙しいのだろうと思いつつ、冷たい奴だとも思う。
それをポロリと従者に溢すと従者は顔色を変えずに茶を淹れ乍らレオンに言った。
「殿下はご結婚されたというお二人には何か差し上げたのですか?」
レオンは返事が出来なかった。
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