16 / 42
2回目の人生
再会
しおりを挟む
王立学園の中等部。クローゼットから出された制服を見てヴィオレッタは考え込む。
入学式の後、ヴィオレッタはレオンによって側近候補の3人を紹介される流れになる。
ケルスラー・フル・マレフォス侯爵令息
ユーダリス・ケラ・アベント侯爵令息
そして、カイゼル・セナン・ドレヴァンツ公爵令息
一縷の望みをかけて貴族名鑑を開いた。一人でも存在しない、年齢が違う、側近候補ではないなど、【知っている事柄】が違うものがあるならやはりこれはやり直しの2回目の人生ではなく、あれは夢だった、たまたまその後思っている事が当たり過ぎたという事だ。
恐る恐るページを開き、読んでいく。
溜息を吐いて貴族名鑑を閉じた時は【やはり】としか思えなかった。
全て1回目と同じである。名前も生年月日も家族構成も。
彼らは側近候補だったため、1回目の人生では6年間誕生日にはイニシャルなどの刺繍が入ったハンカチをプレゼントしていた。その日が彼らの生年月日と一致した。
3人ともそれぞれの家では嫡男。問題なく過ごせば側近となり家督を継ぐ。
いや、違うと首を振る。問題なく過ごせばマレフォス侯爵令息は辺境へ赴き、アベント侯爵令息は隣国に入り婿となる。そして‥‥カイゼルは…ドレヴァンツ公爵令息は…どうなったのか?
ヴィオレッタは1回目の人生でカイゼルがどうなったのかを知らない。
覚えていないのではなく、ジェシーに過失だとは言え命を絶たれた後の事は判らないのである。
誰かに聞こうにも頭がおかしいのではないかと思われるだろう。
同じようにレオンとジェシーがあの後どうなったのかもヴィオレッタには判らない。
ただ、ジェシーは何らかの処罰を受けただろうと思われるが、知る限り王子であったレオンの恋人で身籠っている事からしてより厳しい教育を受ける事になったのだろうかと推測する。
レオンは王となったかと考えるが、それはないと言い切れる自信があった。
ヴィオレッタから見てもアレクセイ第二王子殿下は優秀だった。
6歳から始めた王子教育は8歳になる少し前で終わった。
以後、もっと学問を学びたいと本人は希望していると王妃から聞いた事はあるが、王子以上の立場とならないアレクセイに側妃が王子教育以上の学問をさせなかった。
婚約が無くなり、突如国王となるべく教育が始まった事は茶会の噂話で聞いた。
婚約が無くなってからは登城しておらず、父も大臣の座を降りたため夜会や茶会での話を全て正しいとするのは間違いであるけれど、レオンのあの状況を見るにおそらくはアレクセイが成人後、王位を継いだのだろうと思った。
あとは学園でどう過ごすかを考える。
今までは様子見もあったが、1回目の人生と同じように生きてきた。
突如異なるような事をして、大きく何かが変わればその先はもう予測もつかない。
それが普通の人生なのであるが、ここまで1回目と同じであれば何かのアクションをしない限り、同じことになるという事でもあるのだ。
【変えよう】
ヴィオレッタは心に決めた。
人はいずれは死ぬ。だがその死に方が理不尽なものだと判っているのなら抗ってみたい。
あの日に登城しなければそれでよいのではない。
側近の3人も辺境に行ったり、隣国に婿に行ったりしなくて良い道があるはずだ。
そしてカイゼルは‥‥。
心にチクリと痛みが走る。侍女のエルザは恋をすると相手の事を考えるだけで胸が痛くなると言った。
この痛みなのだろうかと胸に手を当ててみる。
少しずつ違う事をする事で、あの熱のこもった眼差しや、体が熱くなる愛の言葉は聞けなくなるかもしれない。そう思うとブルリと体が震える。
【だけど…変えよう】
明日は入学式。
ヴィオレッタは再度クローゼットから出された制服を見つめた。
「ヴィオレッタ。良く似合っているよ」
「ありがとうございます。レオン王太子殿下も似合っております」
「照れるね。でもありがとう」
――ここで愛称呼びをしたい、レオと呼んでくれと言うはず――
「それでね。あの…婚約者になってもう10年経つだろう?」
「いえ、9年目に入ったところで御座います」
「細かく言えばそうなんだけど‥‥そろそろ名前を愛称で呼ばないか?」
「愛称で御座いますか」
「僕のことはレオと呼んでほしい」
――やはり、同じ。だけど‥‥気持ち悪くて呼びたくない――
「レオン王太子殿下。それは不敬に当たります」
「僕が構わないと言っているんだ」
「いえ、けじめはつけるべきだと思うのです。見本となる立場ですから」
「そうか…なら!2人きりの時はどうだろう?その時だけでも呼んでほしい」
「レオン王太子殿下。2人きりという場は御座いません。常に護衛、侍女がつきますので」
「そうか‥‥」
「お気持ちは嬉しいのですが、今一度襟を正すのも必要ですわ」
「そうだな…判ったよ。残念だけどね。そうそう。紹介したい3人がいるんだ」
レオンがそう言うと、待たせてあるという場に歩いていく。
呼び名を断るという程度では変わらないのかも知れない。だが油断は出来ない。
ヴィオレッタは気を引き締めてその場に歩いた。
――場所も同じ‥…あぁ…カイゼル様…同じだわ――
「彼らは僕の側近候補なんだ。ユーダリス、カイゼル、ケルスラーだ」
ヴィオレッタは制服のスカートを少しだけつまんでカーテシーをとる。
最後に会った時よりは格段に幼さの強い顔つきである。
「ケルスラー・フル・マレフォスと言います」
「マレフォス侯爵家の嫡男だ。剣の腕は確かなんだ」
「よろしくお願いいたします。ヴィオレッタ・ヴェラ・コルストレイと申します」
「ユーダリス・ケラ・アベント。よろしく。エヴァンス殿の妹君だよね?」
「えっ?知り合いなのか?」
「いえ、先日ご指導頂いたんです。僕の憧れの先輩なんですよ」
「兄が喜びます。お伝えしておきますわ」
「えっと、彼はカイゼル。カイゼル・セナン・ドレヴァンツ。宰相閣下の息子だ」
「カ‥‥カイゼルです」
「よろしくお願いいたします。わたくしヴィオレッタ・ヴェラ・コルストレイと申します」
思わずカイゼルの顔を見てしまうと目が合ってしまった。
トクントクンと心臓の音が耳鳴りのように聞こえる。
そしてふと気が付く‥‥あの熱い眼差しと同じ温度で自分を見ている事に。
しかしここにはレオンも他の2人もいる。自分から色々と話しかける事は出来ないし、何を話していいかも判らない。
カイゼルがヴィオレッタを呼び捨てにするのはもう少し経ってからであるが今回はどうなるか判らない。
名前は先ほどレオンに愛称呼びを断ったばかりである。
「どうしたんだい?行こうか」
「あ、はい」
レオンに声をかけられてハッとする。おかしなところはなかっただろうかと思いながらレオンと人一人分の距離を取って歩く。
振り返りたい気持ちを押し殺して。
☆~☆~☆
冒頭一部変更しました。<(_ _)>(11月9日)
入学式の後、ヴィオレッタはレオンによって側近候補の3人を紹介される流れになる。
ケルスラー・フル・マレフォス侯爵令息
ユーダリス・ケラ・アベント侯爵令息
そして、カイゼル・セナン・ドレヴァンツ公爵令息
一縷の望みをかけて貴族名鑑を開いた。一人でも存在しない、年齢が違う、側近候補ではないなど、【知っている事柄】が違うものがあるならやはりこれはやり直しの2回目の人生ではなく、あれは夢だった、たまたまその後思っている事が当たり過ぎたという事だ。
恐る恐るページを開き、読んでいく。
溜息を吐いて貴族名鑑を閉じた時は【やはり】としか思えなかった。
全て1回目と同じである。名前も生年月日も家族構成も。
彼らは側近候補だったため、1回目の人生では6年間誕生日にはイニシャルなどの刺繍が入ったハンカチをプレゼントしていた。その日が彼らの生年月日と一致した。
3人ともそれぞれの家では嫡男。問題なく過ごせば側近となり家督を継ぐ。
いや、違うと首を振る。問題なく過ごせばマレフォス侯爵令息は辺境へ赴き、アベント侯爵令息は隣国に入り婿となる。そして‥‥カイゼルは…ドレヴァンツ公爵令息は…どうなったのか?
ヴィオレッタは1回目の人生でカイゼルがどうなったのかを知らない。
覚えていないのではなく、ジェシーに過失だとは言え命を絶たれた後の事は判らないのである。
誰かに聞こうにも頭がおかしいのではないかと思われるだろう。
同じようにレオンとジェシーがあの後どうなったのかもヴィオレッタには判らない。
ただ、ジェシーは何らかの処罰を受けただろうと思われるが、知る限り王子であったレオンの恋人で身籠っている事からしてより厳しい教育を受ける事になったのだろうかと推測する。
レオンは王となったかと考えるが、それはないと言い切れる自信があった。
ヴィオレッタから見てもアレクセイ第二王子殿下は優秀だった。
6歳から始めた王子教育は8歳になる少し前で終わった。
以後、もっと学問を学びたいと本人は希望していると王妃から聞いた事はあるが、王子以上の立場とならないアレクセイに側妃が王子教育以上の学問をさせなかった。
婚約が無くなり、突如国王となるべく教育が始まった事は茶会の噂話で聞いた。
婚約が無くなってからは登城しておらず、父も大臣の座を降りたため夜会や茶会での話を全て正しいとするのは間違いであるけれど、レオンのあの状況を見るにおそらくはアレクセイが成人後、王位を継いだのだろうと思った。
あとは学園でどう過ごすかを考える。
今までは様子見もあったが、1回目の人生と同じように生きてきた。
突如異なるような事をして、大きく何かが変わればその先はもう予測もつかない。
それが普通の人生なのであるが、ここまで1回目と同じであれば何かのアクションをしない限り、同じことになるという事でもあるのだ。
【変えよう】
ヴィオレッタは心に決めた。
人はいずれは死ぬ。だがその死に方が理不尽なものだと判っているのなら抗ってみたい。
あの日に登城しなければそれでよいのではない。
側近の3人も辺境に行ったり、隣国に婿に行ったりしなくて良い道があるはずだ。
そしてカイゼルは‥‥。
心にチクリと痛みが走る。侍女のエルザは恋をすると相手の事を考えるだけで胸が痛くなると言った。
この痛みなのだろうかと胸に手を当ててみる。
少しずつ違う事をする事で、あの熱のこもった眼差しや、体が熱くなる愛の言葉は聞けなくなるかもしれない。そう思うとブルリと体が震える。
【だけど…変えよう】
明日は入学式。
ヴィオレッタは再度クローゼットから出された制服を見つめた。
「ヴィオレッタ。良く似合っているよ」
「ありがとうございます。レオン王太子殿下も似合っております」
「照れるね。でもありがとう」
――ここで愛称呼びをしたい、レオと呼んでくれと言うはず――
「それでね。あの…婚約者になってもう10年経つだろう?」
「いえ、9年目に入ったところで御座います」
「細かく言えばそうなんだけど‥‥そろそろ名前を愛称で呼ばないか?」
「愛称で御座いますか」
「僕のことはレオと呼んでほしい」
――やはり、同じ。だけど‥‥気持ち悪くて呼びたくない――
「レオン王太子殿下。それは不敬に当たります」
「僕が構わないと言っているんだ」
「いえ、けじめはつけるべきだと思うのです。見本となる立場ですから」
「そうか…なら!2人きりの時はどうだろう?その時だけでも呼んでほしい」
「レオン王太子殿下。2人きりという場は御座いません。常に護衛、侍女がつきますので」
「そうか‥‥」
「お気持ちは嬉しいのですが、今一度襟を正すのも必要ですわ」
「そうだな…判ったよ。残念だけどね。そうそう。紹介したい3人がいるんだ」
レオンがそう言うと、待たせてあるという場に歩いていく。
呼び名を断るという程度では変わらないのかも知れない。だが油断は出来ない。
ヴィオレッタは気を引き締めてその場に歩いた。
――場所も同じ‥…あぁ…カイゼル様…同じだわ――
「彼らは僕の側近候補なんだ。ユーダリス、カイゼル、ケルスラーだ」
ヴィオレッタは制服のスカートを少しだけつまんでカーテシーをとる。
最後に会った時よりは格段に幼さの強い顔つきである。
「ケルスラー・フル・マレフォスと言います」
「マレフォス侯爵家の嫡男だ。剣の腕は確かなんだ」
「よろしくお願いいたします。ヴィオレッタ・ヴェラ・コルストレイと申します」
「ユーダリス・ケラ・アベント。よろしく。エヴァンス殿の妹君だよね?」
「えっ?知り合いなのか?」
「いえ、先日ご指導頂いたんです。僕の憧れの先輩なんですよ」
「兄が喜びます。お伝えしておきますわ」
「えっと、彼はカイゼル。カイゼル・セナン・ドレヴァンツ。宰相閣下の息子だ」
「カ‥‥カイゼルです」
「よろしくお願いいたします。わたくしヴィオレッタ・ヴェラ・コルストレイと申します」
思わずカイゼルの顔を見てしまうと目が合ってしまった。
トクントクンと心臓の音が耳鳴りのように聞こえる。
そしてふと気が付く‥‥あの熱い眼差しと同じ温度で自分を見ている事に。
しかしここにはレオンも他の2人もいる。自分から色々と話しかける事は出来ないし、何を話していいかも判らない。
カイゼルがヴィオレッタを呼び捨てにするのはもう少し経ってからであるが今回はどうなるか判らない。
名前は先ほどレオンに愛称呼びを断ったばかりである。
「どうしたんだい?行こうか」
「あ、はい」
レオンに声をかけられてハッとする。おかしなところはなかっただろうかと思いながらレオンと人一人分の距離を取って歩く。
振り返りたい気持ちを押し殺して。
☆~☆~☆
冒頭一部変更しました。<(_ _)>(11月9日)
131
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる