殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

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2回目の人生

ユーダリスとの取引①

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後半に、1回目の人生でレオンとジェシーの本当の最期を記載しています。
★~★~★のマークを付けて、スクロール部分を設けています。
読み飛ばしてくださっても、以後の話に影響はありません。<(_ _)>


☆~☆~☆


薄い微笑の中にある瞳は、奥深くに何かしらの炎が見えるようだった。
それは野心なのか、これからの希望なのか。それとも憎悪なのか。ヴィオレッタは少し頬がピクリとしたが直ぐに仮面を被る。幼い頃から叩きこまれた帝国の第三王女である母仕込みの仮面。

「隣国に行くはずの僕が、この時点で側近を降りた事に‥‥と言えば判るよね?」
「隣国とは、そのようなご予定がおありでしたの?」
「ふふっ…面白いね。我慢比べと言う訳かな」
「何の事でしょうか?先程から隣国だの我慢だの。お話は側近を降りられたという報告では?」

出された茶を一口飲むと、ユーダリスはニヤリと笑う。

「賢明に、そしてゆっくりと。速く走るやつは転ぶ…」
「ロミオとジュリエット。シェイクスピアですわね」
「あぁ、まさに君だ。しかも見る側ではなく演じる側」
「わたくしがオペラを習い始めた事でアベント侯爵令息に何か御座いましたの?」

「大ありだ。最初は何だろうと思ったが、まさにゆっくりと君は歩き始めた」
「・・・・・」
「予想は付いていると思うが、単刀直入に言う」
「・・・・・」
「君も、僕もこの人生は初めてではない。違うか?」

少し身を乗り出して、ヴィオレッタの顔を見据えるユーダリスにヴィオレッタは手をあげた。

「アベント侯爵令息。その言葉に真意を持たせて頂きたいわね」
「いいね。その目。一言で君は僕を信じるだろう」
「えぇ、是非そうさせて頂きたいわ」

【ジェシー】

再度、ユーダリスはニヤリと笑う。
全ての警戒を解くわけではないか、少なくとも「ジェシー」という土産には満足したヴィオレッタは、控えていたマリーとエルザを下がらせた。
ただ未婚の男女が密室に2人というのは聞こえが悪い。ユーダリスが側近候補を辞したとしても、ヴィオレッタはレオンの婚約者である事に変わりはない。
半開きの扉を見てユーダリスはパンパンと1人拍手を始めた。

「お座りになってくださいませ」
「急かすね。まぁ気持ちは判らんでもない」

目の前のソファに腰を下ろし、すっかりぬるくなった茶を一気に飲み干すユーダリス。
謀が上手くいったと思っているのか、それとも?…表情からは読み切れない。

「君には知りたい事がある。僕には聞きたい事がある。事と場合によっては共闘できるかも知れない。僕と取引をしないか」
「その取引にジェシーが関係していると?」
「結果から言えばジェシーは関係している。ついでにレオン王太子殿下もね」

「わかりました。ですが聞きたい事と言われてもわたくしが知っている事はたかが知れた事ですし、共闘となるかも侯爵令嬢で役に立るかは未知数。それに見合う働きが出来るかはお約束出来ません」
「いや、君でなければ果たせない。ある意味君はノーマークだからね」
「はぁ…いいわ。力を尽くしましょう」
「やっと砕けてくれたね。では多分君が聞きたい事は君が亡くなった後だと思うが違うか?」
「そうよ」

ユーダリスは少し扉の方を振り返り、ヴィオレッタに近寄れと手招きをする。
半身も寄せないが、この距離ではマリーにもエルザにも声は聞こえない。

「僕が死んだのは君が無くなってから半年後だ」
「隣国に行かれましたのに?何故…誰に」
「隣国には行っていない。いや、行けなかった。拘束されたんだ」
「拘束?誰に?」
「アレクセイ第二王子殿下だ」

思いもかけない名前が出た事に思わず息をヒュっと吸い込む。
「君でも驚くんだ?」と少し笑ったユーダリスが続ける。

「君が亡くなり、国王はレオン王子とジェシーを追放した。生まれたばかりの子供もね」
「追放?あんな事をしておいて?」
「理由がある。追放してくれと頼んだのがアレクセイ第二王子殿下だ」
「何故そのような事を…まだ10歳だったでしょう?」
「簡単な事だ。背に腹は代えられない。そういう事だ」
「意味が解らない。わたくしは故意ではないとしても命を奪われたのに」
「だからだよ。だから追放して  としなくてはならなかった」

「国王はあの半年の間で、1人には軽蔑を1人には絶望を感じた。そして選んだは絶望だ」
「それがアレクセイ第二王子殿下だと」
「あぁ、そうだ」
「どうしてアレクセイ第二王子殿下が絶望なの」
「病気だからさ。絶対的な王としての素質を持つが故に生贄が必要となる絶望」

ユーダリスは、この先は気を確かに持ってほしいと念を押し、ハンカチを手渡す。
そして【できれば吐瀉物を受ける容器が欲しい】と言った。
それほどの話なのだろうと思ったが、王妃教育の半ばで処刑の内容など細かに説明された前世の記憶があるヴィオレッタは不要だと口元を歪めながら答えた。

「レオン殿下とジェシー。そしてその子供は生贄になった。贅沢な暮らしをしていた者が突然市井にしかも産後直後に放り出されるんだ。普通では誰かの助けなしには生きてはいけない」

「そうね…レオン殿下では…無理ね」

「表向きはレオン殿下は水死、ジェシーとその子供は2カ月後くらいに消息を絶ったとされた。僕は隣国に行く手続きが何故か滞ってね。勝手知ったる何とやらだ。まだ完全に離職となっていなかったから色々と調べた。

その過程で、追放されたはずの2人はその日の夜に国王陛下直属の部下に確保されている」

「確保?保護ではなく?」

「あぁ、僕の意見としては確保だな。いや、捕縛…拉致でもいいかも知れない」
「拉致って…」
「陛下は第二王子の歪んだ趣味を知って絶望をしていた。だがそれさえ満たしてやれば最高の王。それがアレクセイ第二王子殿下なんだよ。満たしてやるために3人を贄にしたんだ」

「アレクセイ第二王子殿下が?まさか…」

★~★~★

























「彼はね、内臓愛好者なんだよ。生きてる者限定のね。死んでしまえばただのゴミなんだそうだ」
「ヒッ‥‥」

「だから、表立って処刑するわけにいかなかったんだ。彼の欲を満たすためにその都度奴隷を買う訳にいかないからね。3人いや赤子はどう感じたか判らないが、絞首刑や断頭台の方がずっとマシだと思ったはずだ。
まさか生きながら体の中を散々に遊ばれるなんて思ってもみなかっただろうからね。特に産後のジェシーには喜んだらしいよ。言ってみればレア物だからね。彼にとっては。

庶民にしてみれば君がどういう経緯で亡くなったのかまでは判らない。ジェシーの悪評は広く知れ渡っているけれど、それでも王宮に囲った女の子供が自分の子じゃないからって即座に処刑なんて出来ない。
だが帝国側への説明でぬるま湯のような処罰も出来ない。

アレクセイ第二王子殿下の御趣味はまさにWIN&WINだったのさ。

それを知った僕は手続きを兎に角急いだ。先に妻を隣国に逃がしたまでは良かったが…これさ」

そう言ってユーダリスは手で首を刎ねる真似をする。
ヴィオレッタは声を出す事も出来なかった。王宮でもめったに会う事のなかったアレクセイ第二王子殿下は最後に会ったのは9歳の頃。婚約が無くなる直前に見かけただけではあるが、愛らしいその様子からは想像も出来ない。

「殿下の遺体はそのまま川に捨てたと言ってたね。王家特有の髪色を持つ殿下は誤魔化しが出来なかったんだろう。だがジェシーは判らない。その辺にどんな状態で捨ててもジェシーのような体格や髪色の浮浪者は何処にでもいる。体を売って腹の大きい者も、生まれたばかりの赤子を抱えている浮浪者なんてごまんといるからね。

執行人は知ってしまった僕を哀れんでたよ。僕はさっさと側近を辞すればよかったと後悔したけどね」

少しおどけた顔で肩をすくめ、両掌を上にあげるユーダリス。
余りにショックの強い話にヴィオレッタは混乱をせずにいる事など出来なかった。

「で、カイゼルなんだけど‥‥」

カイゼルと言う言葉にヴィオレッタはハッとして顔をあげた。
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