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2回目の人生
カイゼルの大誤算
コルストレイ侯爵家の令嬢がレオン王太子殿下に婚約破棄をした。
その話は一晩の内に高位貴族だけでなく、低位貴族の間にもあっという間に広がった。
夜も更け、通常ならこの時間に訪問するなどあり得ないと思う時間になっても来客が続く。
侯爵家には兄エヴァンスと間もなく婚約をするマレフォス侯爵家からは代理としてケルスラーがサロンのソファに陣取っている。
ひっきりなしに訪れる客を2つの応接室で侯爵と侯爵夫人がさばいていく。
侯爵家からは帝国に向けて王宮に向かう時点で早馬ももう出発している。あと1刻もすれば国境を超えるだろう。
「大変な事になったねぇ」
「まぁ、そう言えばそうですけど‥‥もう22時ですわよ。お帰りになられたら?」
「まさか。マレフォス侯爵家として来てるんだ。今帰ったら親父に殺される」
「大変ね。お兄様でも呼びましょうか?」
「いや、あの人数だ。そろそろ交代するんじゃないか?」
玄関で来客に順番待ちをしてもらうために執事たちもてんやわんやの中、客の一人がサロンに通されてくる。
「お嬢様、申し訳ございません」
「どうしたの?」
「ドレヴァンツ公爵家のご子息がどうしてもと」
「へっ?なんでカイゼルが?」
ケルスラーが声を出すとほぼ同時に、ヴィオレッタに問うた侍女を押しのけてサロンにカイゼルが入ってくる。馬を飛ばしたのか、それとも屋敷から走って来たのか肩で大きく息をしている。
顔が赤いのは知らせに興奮したのであろうか。
「コルストレイ侯爵令嬢!!」
「カイゼル様、どうなさったのです。このような時間に」
「どうもこうもない。殿下との婚約破棄の話はまことか?」
「えぇ。詳しく話せば長くなりますが、午後に両親が陛下とお話をしております」
「その後は!その後はどうなってる??」
「おいおい、カイゼル。落ち着けって。支離滅裂だぞ」
「落ち着いている。この上ない程に落ち着いている」
「いや、全然だから。幼馴染の観察力なめんなよ」
既視感のあるカイゼルの慌てぶりにヴィオレッタは少し胸が痛くなった。
何よりもこうやって息を切らせて駆け付けてくれた事が嬉しかった。
「すまない。コルストレイ侯爵令嬢。濡れタオルをくれないか。出来れば冷たいやつ」
余りの汗にケルスラーが気を利かせる。
「それでしたら、少しお待ちくださいませ」
侍女に頼んで、そでまでにとカイゼルにハンカチを差し出す。
額も首も汗が玉のようになり、顎からはポタポタと落ちている。
「カイゼル様、どこからいらっしゃったの?」
「3つ隣の街だ。庁舎の落成パーティーに出席していたんだ。乾杯の前で良かった」
「乾杯の前って‥‥ちゃんとスピーチはしたのか?」
「スピーチ?そんな暇あるか」
「いや、マズいだろ?親父さんの代理で出席だろ?」
「親父には後で一発殴られれば済む話だ」
侍女が持ってきた濡れタオルを渡すと首に当てる。
額からも汗と熱を取ったカイゼルは落ち着いたように見えたが、何故かソファから転げて落ちる。
「何してるんだ。早く起きろよ」
「いや、その前に、コルストレイ侯爵令嬢!いや‥‥ヴィオレッタ嬢!」
「は、はい?」
突然名前を呼ばれて声が上ずってしまった。ケルスラーはそんなヴィオレッタを初めて見たのかビックリした顔でヴィオレッタと同じように「はい?」と上ずった声を出す。
「俺と、いや…私とけ、け、けっこ・・・・結婚してくれ」
脇腹のあたりを左手が上下しているが、手汗を拭いているかと思えばそうではない。
「何をしてるんだ」とケルスラーが問うと、
「うわぁぁ!」
っと突然大声で叫び声をあげてしまった。
「どうしたんだ?」
「上着がない!」
ケルスラーとヴィオレッタは首を傾げる。上着などサロンに入った時から着ておらず、ネクタイすら締めていない。シャツのボタンは2つ目まで外されているし、袖のカフスは何処かに飛んだのだろう。
要は、かなり急いできたというのが丸わかりの格好である。
「上着なんか着てなかったじゃないか」
そう言われて、ハっとケルスラーの肩をグイっと掴む。
「マズい。馬で飛ばす時に途中で脱ぎ捨てた!」
真っ青になるカイゼルをケルスラーは腹を抱え、指をさしてソファに倒れて笑い転げる。
ヴィオレッタも思わず吹き出してしまった。
あたふたするカイゼルだが、脱ぎ捨てた上着などもう見つかるはずがない。
ましてその上着のポケットに現金や金目のものが入っていればまず見つからない。
笑い転げるケルスラーを怒るどころか、へなへなと人形のように床に座り込んでしまった。
その話は一晩の内に高位貴族だけでなく、低位貴族の間にもあっという間に広がった。
夜も更け、通常ならこの時間に訪問するなどあり得ないと思う時間になっても来客が続く。
侯爵家には兄エヴァンスと間もなく婚約をするマレフォス侯爵家からは代理としてケルスラーがサロンのソファに陣取っている。
ひっきりなしに訪れる客を2つの応接室で侯爵と侯爵夫人がさばいていく。
侯爵家からは帝国に向けて王宮に向かう時点で早馬ももう出発している。あと1刻もすれば国境を超えるだろう。
「大変な事になったねぇ」
「まぁ、そう言えばそうですけど‥‥もう22時ですわよ。お帰りになられたら?」
「まさか。マレフォス侯爵家として来てるんだ。今帰ったら親父に殺される」
「大変ね。お兄様でも呼びましょうか?」
「いや、あの人数だ。そろそろ交代するんじゃないか?」
玄関で来客に順番待ちをしてもらうために執事たちもてんやわんやの中、客の一人がサロンに通されてくる。
「お嬢様、申し訳ございません」
「どうしたの?」
「ドレヴァンツ公爵家のご子息がどうしてもと」
「へっ?なんでカイゼルが?」
ケルスラーが声を出すとほぼ同時に、ヴィオレッタに問うた侍女を押しのけてサロンにカイゼルが入ってくる。馬を飛ばしたのか、それとも屋敷から走って来たのか肩で大きく息をしている。
顔が赤いのは知らせに興奮したのであろうか。
「コルストレイ侯爵令嬢!!」
「カイゼル様、どうなさったのです。このような時間に」
「どうもこうもない。殿下との婚約破棄の話はまことか?」
「えぇ。詳しく話せば長くなりますが、午後に両親が陛下とお話をしております」
「その後は!その後はどうなってる??」
「おいおい、カイゼル。落ち着けって。支離滅裂だぞ」
「落ち着いている。この上ない程に落ち着いている」
「いや、全然だから。幼馴染の観察力なめんなよ」
既視感のあるカイゼルの慌てぶりにヴィオレッタは少し胸が痛くなった。
何よりもこうやって息を切らせて駆け付けてくれた事が嬉しかった。
「すまない。コルストレイ侯爵令嬢。濡れタオルをくれないか。出来れば冷たいやつ」
余りの汗にケルスラーが気を利かせる。
「それでしたら、少しお待ちくださいませ」
侍女に頼んで、そでまでにとカイゼルにハンカチを差し出す。
額も首も汗が玉のようになり、顎からはポタポタと落ちている。
「カイゼル様、どこからいらっしゃったの?」
「3つ隣の街だ。庁舎の落成パーティーに出席していたんだ。乾杯の前で良かった」
「乾杯の前って‥‥ちゃんとスピーチはしたのか?」
「スピーチ?そんな暇あるか」
「いや、マズいだろ?親父さんの代理で出席だろ?」
「親父には後で一発殴られれば済む話だ」
侍女が持ってきた濡れタオルを渡すと首に当てる。
額からも汗と熱を取ったカイゼルは落ち着いたように見えたが、何故かソファから転げて落ちる。
「何してるんだ。早く起きろよ」
「いや、その前に、コルストレイ侯爵令嬢!いや‥‥ヴィオレッタ嬢!」
「は、はい?」
突然名前を呼ばれて声が上ずってしまった。ケルスラーはそんなヴィオレッタを初めて見たのかビックリした顔でヴィオレッタと同じように「はい?」と上ずった声を出す。
「俺と、いや…私とけ、け、けっこ・・・・結婚してくれ」
脇腹のあたりを左手が上下しているが、手汗を拭いているかと思えばそうではない。
「何をしてるんだ」とケルスラーが問うと、
「うわぁぁ!」
っと突然大声で叫び声をあげてしまった。
「どうしたんだ?」
「上着がない!」
ケルスラーとヴィオレッタは首を傾げる。上着などサロンに入った時から着ておらず、ネクタイすら締めていない。シャツのボタンは2つ目まで外されているし、袖のカフスは何処かに飛んだのだろう。
要は、かなり急いできたというのが丸わかりの格好である。
「上着なんか着てなかったじゃないか」
そう言われて、ハっとケルスラーの肩をグイっと掴む。
「マズい。馬で飛ばす時に途中で脱ぎ捨てた!」
真っ青になるカイゼルをケルスラーは腹を抱え、指をさしてソファに倒れて笑い転げる。
ヴィオレッタも思わず吹き出してしまった。
あたふたするカイゼルだが、脱ぎ捨てた上着などもう見つかるはずがない。
ましてその上着のポケットに現金や金目のものが入っていればまず見つからない。
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