殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

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2回目の人生

妻は失言、息子は天然

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長い階段を上がり、案内された部屋の扉が開くと広い部屋に大きなテーブルが見える。
ヴィオレッタとフローラを中にその外側をカイゼルとフローラの夫バルドゥスが挟むように並ぶ。

国王は立ち上がり、ヴィオレッタ達を迎えた。4人は頭を下げ、臣下、淑女の礼でそれに応える。

「堅苦しい挨拶は良い。此度はコルストレイ侯爵令嬢。迷惑をかけたな」

国王の向かいにレオンが座っている。
このような場でも表情を作れないのはやはりレオンだとヴィオレッタは思った。
隣にいるフローラは小さく、「あり得ないんだけど」と言うと隣のバルドゥスも小さく「プッ」と溢す。
座ってくれと言う国王の声にヴィオレッタは固辞をする。

「コルストレイ侯爵令嬢、迷惑なのは…」

国王が話をしている最中だと言うのにヴィオレッタたちが先程入ってきた扉が乱暴に開かれる音がした。
国王は驚き立ち上がり、ヴィオレッタ達も思わず振り返る。
扉を開け、ドレスをたくし上げて小走りほどの速さでこちらに足を進めるのは王妃だった。

「陛下!わたくしに黙ってこのような場を!酷いではありませんか!」

取り乱した様子からヴィオレッタが登城する事は聞かされていなかったのだろう。
ヴィオレッタの隣まで来ると、「ヴィオレッタ!」と名を呼び目の前に立つ。
手を振りかぶるのが見え、頬をはたかれるかと思い目を閉じたが衝撃は来ない。

「無礼者ッ!放しなさいッ!」
「いいえ、私の妻となる女性への暴力を見逃す事など出来ません」

王妃の手を掴むカイゼルは見た事もないような目で王妃を睨んでいる。

「このっ…小童がッ!お放しッ」
「小童だろうが無礼者だろうが、この手は離しません」

ギリギリと軋む音がするのではないかと思うほどカイゼルは王妃の手を強く握り離さない。
突然の事に国王がやっと声を出した。

「王妃!やめんか!」

国王の声に王妃は振り返り、金切り声で行為を諫める国王を罵った。

「何故止めるのですッ!レオンに婚約破棄などと!剣があれば斬り捨ててくれように!」
「やめんか!バカ者が」
「レオンは陛下の子でしょう!誉れ高き王家との交わりを臣下如きが小賢しいッ!」
「やめろと言っておるのだ。判らんか!」
「判りませぬ!判りとうもございませぬっ!レオンを傷物にしたこの無礼者を処刑してくださいませ!王である前にあなたは父なのですっ。息子が臣下如きに馬鹿にされ許せるのですか!このままでは卑しい侍女の産んだ子が王になってしまうのですよ!」

思わずヴィオレッタ達4人は眉を顰める。
ヴィオレッタ達にはレクシーが王妃付きの侍女であったのに何故側妃になったかは判らない。
王がお手付きとしたのかも知れない。だがそうだとしても見逃せる発言ではない。



「待ってください!母上っ。乱暴はいけませんっ」

レオンが口を挟む。それも満面の笑みを讃えて。
先ほどまでの声は聞こえていないのだろうか?この場は理解できていないのだろうか。

「レオン!あぁ。こんな場でも母を気遣ってくれるのですね」
「母上、何を言っているのです?婚約破棄なんてばかばかしい」
「おぉぉ、なんと広い心を持っているの。王の器だわ。ヴィオレッタ今なら許してあげるわ」

「何を仰っているのですか?お断り申し上げます」

凛として断りの言葉を口にするヴィオレッタに王妃は顔を歪める。



「たかが帝国の末っ子王女が母だからとなんと小賢しい。そんな帝国の薄汚れた血をレオンが浄化してくれると言うのに何という言い草。恥を知りなさいッ!」

その言葉が終わるや否や、バルドゥスは抜刀し王妃の喉元にためらいもなく剣を突きつける。

「ヒゥッ‥‥」
「薄汚れた血か…それは是非一度見てみたいな。フローラ」
「お兄様とその壊れかけた椅子に居座る愚王との違いを見てみたいわね」

しかし、そんな場でも一人我が道を行く男がいる。レオンである。
レオンはあの日から部屋に幽閉状態だったため、一切を理解していない。

「そんな事より!母上、アレクセイをそんな風に言わないでください。アレクセイがいなければレクシー様もアンジェを王都に呼ばなかったし、僕は側妃に出会う事もなかったんです。

それでヴィオレッタ。いいだろう?僕も公務は手伝うよ。アンジェも手伝ってくれるはずだ。僕は正妃として君を側妃としてアンジェを迎えて国を良くしたい。

あと、カイゼル。お前は側近候補をもう降りてくれないか。ヴィオレッタの事を妻だなんて。不敬にも程があるよ。僕が主じゃなかったら処刑ものだよ?」


フローラは腹を抱えて笑い出してしまった。
時折目から涙も出ているようで笑いは止まりそうにない。

ヴィオレッタは隣のカイゼルを横目で見てみると、レオンを睨みつけて今にも殴りかかるのではないかと笑い転げているフローラにもしもの時は手を貸してもらえるだろうかと思案をする。

「ほら、カイゼル。ヴィオレッタも困った顔をしているよ」
「殿下、お言葉ですが、わたくしが困っているのは殿下、貴方です」
「どうして?あ、アンジェだけにネックレスとか買ったから?」
「いいえ、その様なものガラス玉でも欲しくは御座いません」

「ヴィオレッタ。僕は前もなんか失敗したらしいけど、今度は大丈夫。だから、ね?」

レオンはヴィオレッタに手を差し出してくる。

この男には何を言っても通じないのかも知れない。諦めの境地にもあるヴィオレッタは引導を渡すつもりでレオンから目を逸らさず、真っ直ぐに向き合い差し出された手に扇を叩きつけ告げた。

【殿下、今回も!遠慮申し上げます】

そして、バルドゥスに握られた手を後ろ手にされて今にも汚い言葉を吐きそうな王妃に一瞥をし、国王を見た。
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