殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

文字の大きさ
38 / 42
2回目の人生

階段の使い方

しおりを挟む
【陛下、コルストレイ侯爵家、長きに渡り王家を支えて参りましたが今この時を持ち、袂別とさせて頂きます】

しばしの沈黙が流れる。国王は動けない。
レオンは手を扇ではたかれた事に理解が追いつかず「どうして」と繰り返し呟く。
バルドゥスは投げ捨てるように王妃の手を放すと国王に向けて言葉を発した。

「薄汚れた血。良かろう。宣戦布告と受け取った。次に会う時はどちらかが処刑台だ」

踵をめぐらせ、謁見室を後にしようとした。


「捕らえよ!その者たちを捕らえよ!東棟から出してはならん!」

国王の声に瞬時に動いたのはフローラに付いてきた影だった。
突然どこから現れたか判らない男たちが4人を背で囲って国王や兵に剣を向ける。

バルドゥスは煽る様に国王に向けて言葉を放つ。

「愚王。この所業は今なら乱心で首一つで済むがどうする」

フローラは現れた影から己の剣を渡されると、剣先を天井に向けて周りの兵に語る。

「よくお聞き!帝国軍は本日夕刻にはこの国を征圧する。我らに従え!剣を下ろし降伏するものは帝国は慈悲を与えるっ!しかしっ!剣を持ちこの愚王に仕える事を矜持とするならば然るべき罰を与える。再度いう!我らに従え!」


剣を向けながらも、兵たちの間には動揺があっという間に広がっていく。
1人の兵が剣を投げた。鞘に仕舞うのではなく戦闘の意志がない事を示すために騎士として誇りである剣を捨て両手を天井に向けてあげた。

その様子を近くにいた兵が「軟弱者っ!」っと剣を振りかぶった。

「やめよッ!!」フローラの声に空気がビリビリと振動をする。剣を振りかぶった兵はその姿勢のままで動けない。まるで何かに縛られているように剣を振り下ろせない。

「丸腰の者に剣を振るうのがこの国の剣士の矜持か!」

バルドゥスの声にカラン、カランと剣を投げる音が聞こえてくる。目の前のたった10人程度。そのうちの2人はヴィオレッタとカイゼル。剣をまともに触れるのはたった8人だが、取り囲んだ兵たちはフローラの【気】に飲まれ次々に剣を捨てていく。

「何をしているのだ!捕らえよ!捕らえよッ!」

数分の内に喚いているのは国王と王妃のみになった。
レオンは扇で打たれた手を見てブツブツと呟いている。そして転がっている剣を拾った。

「ヴィオレッタ!行くな!僕の側にいてよ!」

両手で剣を持ち、じりじりと近づいてくるレオン。

「お願いだよ。僕、ヴィオレッタがいないと何もできない」
「殿下、それは甘えで御座います」
「違う。甘えてなどいない。そうか‥‥カイゼルお前だな。僕にいつもいつも意見をして!今度はヴィオレッタに何を言った!」

「カイゼル様は関係御座いません。わたくしの意志でございます」
「嘘だ!僕はなんでも許してきただろう?だからカイゼルにきつく言われて怖かったんだろう?」
「いい加減になさいませっ!」
「何故判らない!どうして僕の言う事をきかないんだ!正妃になれと言ってるだろう!」

駄々を捏ねる子供のように喚き、剣先をヴィオレッタの方向に突きつけた。

「どうしても僕から離れると言うのなら、その足を切り落として側にいさせてやる」
「何をバカな‥‥おやめな‥」

ヒュンっとレオンが剣を振る。瞬間、「ガッ」っと声がした。

ヴィオレッタ達を囲んでいる影の剣がレオンの肩を貫いている。

「グハッ…邪魔を‥‥するなぁぁぁ!」

ザシュっという音と共に、剣を握ったままの手が転がっていく。

「ぐあぁぁっ!」
「安心されよ。四肢を落とした程度では天に召されぬ。まして手首。食事には困るだろうが問題ない」

「やぁぁぁ!レオン!レオーンッ!!貴様…」

王妃は間近にいた兵の足元に転がった剣を手に取り、フローラに斬りかかってくる。
しかし、フローラは片手でその剣を払い、王妃の腹に蹴りを叩きこむと王妃は後ろに尻もちをつくように転び、また反動で斜め後ろに後転。壁に当たって止まる。

フローラは弾いた剣を手にすると槍投げをするかのように剣を頭の後ろに引き「むんっ」っと声を出し剣を投げた。
王妃の頬を少しかすめて剣は大きな音を立てて壁に突き刺さる。

「ヒュエッ‥‥」

喉から小さな声を出した王妃は失禁し床に、水溜まりを作っていく。

そしてバルドゥスの【捕らえよ!】という声に、それまで己を守っていたはずの兵が体に縄をかけていく事に国王と王妃は絶叫をする。

部屋を後にし、階段まで来るとカイゼルは「一度やってみたかった」と言ってヴィオレッタをわきに抱えると階段をかけ下りて行った。

「は、放してくださいませっ」
「すまない。階段は横抱きにすると足元が見えにくいんだ」
「そういう事ではなくて‥‥ですねっ…」
「暴れると尻を叩いて大人しくさせる必要があるな」
「えっ?…嘘でしょう?」
「試してみるか?」

目の前を見るとすくみあがりそうな高さである。
これはマズいと動きを止めるヴィオレッタにフローラもバルドゥスも生温かい視線を送る。

「若いっていいわぁ」 フローラの呟きをバルドゥスは聞き流す。
肘でバルドゥスを突くが、「腰を痛めたら君が困るだろう?」と言われフローラは頬を染めた。

そして日がそろそろ傾きかけて、空が赤くなるころ帝国軍が到着をしたのだった。
しおりを挟む
感想 181

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

処理中です...