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2回目の人生
階段の使い方
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【陛下、コルストレイ侯爵家、長きに渡り王家を支えて参りましたが今この時を持ち、袂別とさせて頂きます】
しばしの沈黙が流れる。国王は動けない。
レオンは手を扇ではたかれた事に理解が追いつかず「どうして」と繰り返し呟く。
バルドゥスは投げ捨てるように王妃の手を放すと国王に向けて言葉を発した。
「薄汚れた血。良かろう。宣戦布告と受け取った。次に会う時はどちらかが処刑台だ」
踵をめぐらせ、謁見室を後にしようとした。
「捕らえよ!その者たちを捕らえよ!東棟から出してはならん!」
国王の声に瞬時に動いたのはフローラに付いてきた影だった。
突然どこから現れたか判らない男たちが4人を背で囲って国王や兵に剣を向ける。
バルドゥスは煽る様に国王に向けて言葉を放つ。
「愚王。この所業は今なら乱心で首一つで済むがどうする」
フローラは現れた影から己の剣を渡されると、剣先を天井に向けて周りの兵に語る。
「よくお聞き!帝国軍は本日夕刻にはこの国を征圧する。我らに従え!剣を下ろし降伏するものは帝国は慈悲を与えるっ!しかしっ!剣を持ちこの愚王に仕える事を矜持とするならば然るべき罰を与える。再度いう!我らに従え!」
剣を向けながらも、兵たちの間には動揺があっという間に広がっていく。
1人の兵が剣を投げた。鞘に仕舞うのではなく戦闘の意志がない事を示すために騎士として誇りである剣を捨て両手を天井に向けてあげた。
その様子を近くにいた兵が「軟弱者っ!」っと剣を振りかぶった。
「やめよッ!!」フローラの声に空気がビリビリと振動をする。剣を振りかぶった兵はその姿勢のままで動けない。まるで何かに縛られているように剣を振り下ろせない。
「丸腰の者に剣を振るうのがこの国の剣士の矜持か!」
バルドゥスの声にカラン、カランと剣を投げる音が聞こえてくる。目の前のたった10人程度。そのうちの2人はヴィオレッタとカイゼル。剣をまともに触れるのはたった8人だが、取り囲んだ兵たちはフローラの【気】に飲まれ次々に剣を捨てていく。
「何をしているのだ!捕らえよ!捕らえよッ!」
数分の内に喚いているのは国王と王妃のみになった。
レオンは扇で打たれた手を見てブツブツと呟いている。そして転がっている剣を拾った。
「ヴィオレッタ!行くな!僕の側にいてよ!」
両手で剣を持ち、じりじりと近づいてくるレオン。
「お願いだよ。僕、ヴィオレッタがいないと何もできない」
「殿下、それは甘えで御座います」
「違う。甘えてなどいない。そうか‥‥カイゼルお前だな。僕にいつもいつも意見をして!今度はヴィオレッタに何を言った!」
「カイゼル様は関係御座いません。わたくしの意志でございます」
「嘘だ!僕はなんでも許してきただろう?だからカイゼルにきつく言われて怖かったんだろう?」
「いい加減になさいませっ!」
「何故判らない!どうして僕の言う事をきかないんだ!正妃になれと言ってるだろう!」
駄々を捏ねる子供のように喚き、剣先をヴィオレッタの方向に突きつけた。
「どうしても僕から離れると言うのなら、その足を切り落として側にいさせてやる」
「何をバカな‥‥おやめな‥」
ヒュンっとレオンが剣を振る。瞬間、「ガッ」っと声がした。
ヴィオレッタ達を囲んでいる影の剣がレオンの肩を貫いている。
「グハッ…邪魔を‥‥するなぁぁぁ!」
ザシュっという音と共に、剣を握ったままの手が転がっていく。
「ぐあぁぁっ!」
「安心されよ。四肢を落とした程度では天に召されぬ。まして手首。食事には困るだろうが問題ない」
「やぁぁぁ!レオン!レオーンッ!!貴様…」
王妃は間近にいた兵の足元に転がった剣を手に取り、フローラに斬りかかってくる。
しかし、フローラは片手でその剣を払い、王妃の腹に蹴りを叩きこむと王妃は後ろに尻もちをつくように転び、また反動で斜め後ろに後転。壁に当たって止まる。
フローラは弾いた剣を手にすると槍投げをするかのように剣を頭の後ろに引き「むんっ」っと声を出し剣を投げた。
王妃の頬を少しかすめて剣は大きな音を立てて壁に突き刺さる。
「ヒュエッ‥‥」
喉から小さな声を出した王妃は失禁し床に、水溜まりを作っていく。
そしてバルドゥスの【捕らえよ!】という声に、それまで己を守っていたはずの兵が体に縄をかけていく事に国王と王妃は絶叫をする。
部屋を後にし、階段まで来るとカイゼルは「一度やってみたかった」と言ってヴィオレッタをわきに抱えると階段をかけ下りて行った。
「は、放してくださいませっ」
「すまない。階段は横抱きにすると足元が見えにくいんだ」
「そういう事ではなくて‥‥ですねっ…」
「暴れると尻を叩いて大人しくさせる必要があるな」
「えっ?…嘘でしょう?」
「試してみるか?」
目の前を見るとすくみあがりそうな高さである。
これはマズいと動きを止めるヴィオレッタにフローラもバルドゥスも生温かい視線を送る。
「若いっていいわぁ」 フローラの呟きをバルドゥスは聞き流す。
肘でバルドゥスを突くが、「腰を痛めたら君が困るだろう?」と言われフローラは頬を染めた。
そして日がそろそろ傾きかけて、空が赤くなるころ帝国軍が到着をしたのだった。
しばしの沈黙が流れる。国王は動けない。
レオンは手を扇ではたかれた事に理解が追いつかず「どうして」と繰り返し呟く。
バルドゥスは投げ捨てるように王妃の手を放すと国王に向けて言葉を発した。
「薄汚れた血。良かろう。宣戦布告と受け取った。次に会う時はどちらかが処刑台だ」
踵をめぐらせ、謁見室を後にしようとした。
「捕らえよ!その者たちを捕らえよ!東棟から出してはならん!」
国王の声に瞬時に動いたのはフローラに付いてきた影だった。
突然どこから現れたか判らない男たちが4人を背で囲って国王や兵に剣を向ける。
バルドゥスは煽る様に国王に向けて言葉を放つ。
「愚王。この所業は今なら乱心で首一つで済むがどうする」
フローラは現れた影から己の剣を渡されると、剣先を天井に向けて周りの兵に語る。
「よくお聞き!帝国軍は本日夕刻にはこの国を征圧する。我らに従え!剣を下ろし降伏するものは帝国は慈悲を与えるっ!しかしっ!剣を持ちこの愚王に仕える事を矜持とするならば然るべき罰を与える。再度いう!我らに従え!」
剣を向けながらも、兵たちの間には動揺があっという間に広がっていく。
1人の兵が剣を投げた。鞘に仕舞うのではなく戦闘の意志がない事を示すために騎士として誇りである剣を捨て両手を天井に向けてあげた。
その様子を近くにいた兵が「軟弱者っ!」っと剣を振りかぶった。
「やめよッ!!」フローラの声に空気がビリビリと振動をする。剣を振りかぶった兵はその姿勢のままで動けない。まるで何かに縛られているように剣を振り下ろせない。
「丸腰の者に剣を振るうのがこの国の剣士の矜持か!」
バルドゥスの声にカラン、カランと剣を投げる音が聞こえてくる。目の前のたった10人程度。そのうちの2人はヴィオレッタとカイゼル。剣をまともに触れるのはたった8人だが、取り囲んだ兵たちはフローラの【気】に飲まれ次々に剣を捨てていく。
「何をしているのだ!捕らえよ!捕らえよッ!」
数分の内に喚いているのは国王と王妃のみになった。
レオンは扇で打たれた手を見てブツブツと呟いている。そして転がっている剣を拾った。
「ヴィオレッタ!行くな!僕の側にいてよ!」
両手で剣を持ち、じりじりと近づいてくるレオン。
「お願いだよ。僕、ヴィオレッタがいないと何もできない」
「殿下、それは甘えで御座います」
「違う。甘えてなどいない。そうか‥‥カイゼルお前だな。僕にいつもいつも意見をして!今度はヴィオレッタに何を言った!」
「カイゼル様は関係御座いません。わたくしの意志でございます」
「嘘だ!僕はなんでも許してきただろう?だからカイゼルにきつく言われて怖かったんだろう?」
「いい加減になさいませっ!」
「何故判らない!どうして僕の言う事をきかないんだ!正妃になれと言ってるだろう!」
駄々を捏ねる子供のように喚き、剣先をヴィオレッタの方向に突きつけた。
「どうしても僕から離れると言うのなら、その足を切り落として側にいさせてやる」
「何をバカな‥‥おやめな‥」
ヒュンっとレオンが剣を振る。瞬間、「ガッ」っと声がした。
ヴィオレッタ達を囲んでいる影の剣がレオンの肩を貫いている。
「グハッ…邪魔を‥‥するなぁぁぁ!」
ザシュっという音と共に、剣を握ったままの手が転がっていく。
「ぐあぁぁっ!」
「安心されよ。四肢を落とした程度では天に召されぬ。まして手首。食事には困るだろうが問題ない」
「やぁぁぁ!レオン!レオーンッ!!貴様…」
王妃は間近にいた兵の足元に転がった剣を手に取り、フローラに斬りかかってくる。
しかし、フローラは片手でその剣を払い、王妃の腹に蹴りを叩きこむと王妃は後ろに尻もちをつくように転び、また反動で斜め後ろに後転。壁に当たって止まる。
フローラは弾いた剣を手にすると槍投げをするかのように剣を頭の後ろに引き「むんっ」っと声を出し剣を投げた。
王妃の頬を少しかすめて剣は大きな音を立てて壁に突き刺さる。
「ヒュエッ‥‥」
喉から小さな声を出した王妃は失禁し床に、水溜まりを作っていく。
そしてバルドゥスの【捕らえよ!】という声に、それまで己を守っていたはずの兵が体に縄をかけていく事に国王と王妃は絶叫をする。
部屋を後にし、階段まで来るとカイゼルは「一度やってみたかった」と言ってヴィオレッタをわきに抱えると階段をかけ下りて行った。
「は、放してくださいませっ」
「すまない。階段は横抱きにすると足元が見えにくいんだ」
「そういう事ではなくて‥‥ですねっ…」
「暴れると尻を叩いて大人しくさせる必要があるな」
「えっ?…嘘でしょう?」
「試してみるか?」
目の前を見るとすくみあがりそうな高さである。
これはマズいと動きを止めるヴィオレッタにフローラもバルドゥスも生温かい視線を送る。
「若いっていいわぁ」 フローラの呟きをバルドゥスは聞き流す。
肘でバルドゥスを突くが、「腰を痛めたら君が困るだろう?」と言われフローラは頬を染めた。
そして日がそろそろ傾きかけて、空が赤くなるころ帝国軍が到着をしたのだった。
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