殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

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2回目の人生

母の責任※残酷な表現有※

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ざまぁにはなっていませんが、全体を通して残酷な表現があります。
読み飛ばしてくださっても構いません。

★~★~★























レクシーはアンジェを息子の部屋に連れて行ったという従者の報告を静かに聞いていた。

「ありがとう。今回のお駄賃よ」
「そろそろ地下には入らないと思うんですがどうします?」
「そうね、相談しておくわ」

ゴトリと金貨が入った小さな袋を渡すと、ペコリと頭を下げて男は部屋から出て行く。
平気で頼める、礼を言えるようになったレクシーは自分も人として壊れてしまったのかも知れないと自嘲する。
この頃は心の痛みは以前ほどは酷くはない。

息子の父は時折顔を出す。
狂ったように泣きじゃくり、息子の【玩具】の事を止めてくれと懇願をしたが聞き入れてもらえない。

「アレクセイのおかげでこの国の犯罪者の再犯率が減ったのだ。功績だな」

と言われたのが救いだったのかも知れない。
犯罪者は一定数どうしても出てしまう。しかしこの国の重犯罪者は刑期も長く、途上国のような【犯罪者は炭鉱送り】などと言うものはない。

炭鉱は立派な職場であり、季節労働者の現金収入を得られる格好の仕事なのだ。
住み込みで働く者が多いため環境が整備されきちんと賃金が支払われる。
鉱山によっては【労働者を選別】して雇い入れる商会もあるほど。
そんなところで、ケンカなどのいざこざはあっても、犯罪者が送られるなどと言う事はまずない。

なので、殺人や強盗など重犯罪者は死刑か長期の禁固刑となる。すぐに定員は埋まってしまうため環境も劣悪で刑務官になりたがる者もいない。

息子の父親はアレクセイの狂気の趣味を瞬時で悟った。
最初に持ってきた玩具は病気で衰弱した元強盗犯だった。4歳にもならないアレクセイはそれまでのネズミやウサギなどと違って歓声をあげて喜んだ。

最初の頃は衰弱した者などが多かったが次第に屈強な男など腱を切った状態でアレクセイの玩具となった。
月日が経つと眠らせた状態で拘束して、目が覚めると玩具としてアレクセイの欲望を満たした。

「母上、今日の玩具ねとっても綺麗だったんだ」

ニコニコとして水に入っただけの一部分に【視線】を感じた。
だが、水に入れているだけなので数日で腐敗してしまい色が消えたとアレクセイは泣いた。
国王は保存液をアレクセイに与えるようになった。
「赤」「青」「緑」「黄」「橙」‥‥色んな色を持つ【視線】がアレクセイを楽しませる。

「母上、僕、妹とか弟とか欲しいなぁ」

アレクセイの希望を叶えるため、息子の父親は妊婦の受刑者を優先して送るようになった。
壁一面に並ぶアレクセイの収集品はどんどんと増え続け、保存液に浸っていても臭いが酷かった。

そんな事をして入れば、当然に【再犯率】は減るのである。
再犯をしようにも出来ないのだから。

心の痛みが小さくなったとはいえ、なくなったわけではない。
今も殴られた頬は痛いし、口の中も切れていてお茶も美味しく飲めない。

アンジェをアレクセイに与えたからと言ってそれで済む話ではなさそうである。
呼び寄せたアンジェはレオンをたぶらかし、ヴィオレッタとの婚約が解消になった。

レクシーは頭を抱えて考えるが、レオンがヴィオレッタなしに即位する事はありえない。
ヴィオレッタありきで議会にごり押しをして王太子としたのである。

そして幸か不幸か、厳しく育てた事で愛する息子のアレクセイは神童と呼ばれるほどの才能を持っているが、同時に狂気の趣味を加速させている。
絶対に知られてはいけないが、レオンが王としては無理だとなればアレクセイに白羽の矢が立つ。
そうなれば逃げられないし、隠し通せない。

生まれた時は、臣籍降下をして妻は娶るだろうが自分は離れで暮らし、1人でも側妃としての恩給で生活は出来るだろうと考えていた。
計算外はアレクセイの遊びだった。
だがそれも、例えあの狂気の趣味が続いたとしても王子が家を興すとなれば公爵か侯爵。
広い土地に埋めても数年で土に返る玩具は棄て場所には困らないだろうと考えたのだ。

アンジェを呼んだばかりに全てが狂ってしまった。
アレクセイが王になるしか道はない。王母として生きていく事は無理なのだ。
自分が死んだ時、亡き夫に他の男に抱かれた上に庶民にそれが知れ渡った女と思われたくない。


アレクセイにアンジェを与えて3日目である。部屋から出てこない所をみると楽しんでいるのだろう。
昨日、息子の父親はヴィオレッタと謁見したはずだ。
謝罪や金を積んだところで、ヴィオレッタがレオンの婚約者になる事はない。
コルストレイ侯爵家がそれでなかった事にするような家ではないからだ。

時間がないとレクシーは考えた。

ランプに注ぐ油を部屋に撒いていく。麻縄を細かく解いて鉄粉などをまぶす。
火が燃え広がり易いように部屋の中を可燃物で埋めていく。

【絶対に失敗してはいけない】

息子の父親はおそらく決裂した話の矛先をこちらに向けてくる。
アレクセイが王太子、王になる事は絶対にあってはならない。

神経毒を塗った串を髪留めに使い、アレクセイの部屋に向かう。

「アレクセイ…母様よ?入ってもいい?」
「いいよぉ。鍵はしてないもん」
「入るわね」

静かに扉を開けると狂気の世界が広がっている。

「何をしているの?」
「アンジェ姉様のお団子を作ってる」
「そう、楽しい?」
「うーん…アンジェ姉様は脂でベトベトするからもういいかな」
「そう。ねぇアレクセイ」
「なぁに。母上」
「母様、アレクセイを今、すごく抱きしめたいの。いいかしら」
「いいよ。僕、母上の匂い大好き!」

立ち上がり、真っ直ぐに向かってくるアレクセイを力いっぱい受け止める。
柔らかい髪、ふっくらとした頬。まだまだ小さな手足。
髪留めを手に取り、小さな首に狙いを定める。

「母上ぇ。苦しいよ」
「大丈夫。直ぐに楽になるわ。ふんっ‥」
「ヒュッ‥‥ンググ‥‥は…はう‥え…」
「アレクセイ。愛しているわ。誰よりも愛しているわ。これからもずっと一緒よ」


産まれた頃よりもずっと重くなったアレクセイを縦抱きにしてリビングに向かう。

「少し、待っててね」

アレクセイの部屋に再度向かい、悍ましい収集物をモップを逆に持って振り回し床に落とす。
ガラスの割れる音と、さらに強烈な臭いで目も開けられなくなる。
何時だったか何かの拍子に気がついた。この保存液は可燃性で火の回りが早い。
部屋の外に出て、火をいれたランプを放り投げるとあっという間に火の海になった。

使っていない保存液を抱えてアレクセイが眠るリビングに来ると、壁に向かって保存液の瓶を放り投げる。

「ずっと一緒。愛してるわアレクセイ」

ソファに座りアレクセイを抱いて、最後の保存液の瓶を暖炉に向かって放り投げる。
燃えていく。何もかも燃えていく。

【炎よ。お願い。全てを焼き尽くして】

炎の中でもう息をせず眠るアレクセイを抱きしめるレクシー。



離宮から火が上がっていると知らせが入り、騎士団や警護団が編成されて到着するが火の回りは早い上に風も強くはないのに大火となって炎が離宮を包んでいく。

火は懸命の消火活動にも関わらず1日燃え続け、焼け跡からはレクシーとアレクセイと思われる遺体が見つかった。判別は出来なかったが、成人女性にしっかりと抱かれた子供はお互いが接しかろうじて焼け残った部分の衣類から2人だと判断をされた。

帝国の憲兵団からその知らせを聞いた王家の3人。
国王は沈黙を貫き、王妃は高らかに笑った。
レオンに至っては「アンジェは?」と2人の事は気にもしなかった。
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