お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru

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第03話  WINNER!欲望

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エミリオが思いを寄せる相手は平民の女の子でファルマ。

酒場で給仕をしていた女の子だがどうやら母親が子爵と結婚をするらしく、ついでにファルマの事も養子縁組もしてくれることからファルマ狙いの子息が増殖している。

貴族同士の結婚の場合は嫁ぎ先や婿入り先になるが、平民と結婚をした場合は貴族籍を失う。

子息や令嬢が「この人と!」と決めた相手が平民なら調査をして問題なさそうなら、何処かの貴族に金を払って養子縁組をしてもらって結婚する事もある。

しかし職業に貴賎なしとは言っても、ファルマの母親は合法違法の狭間にある「男性限定の会員制ナイトスポット」の踊り子でファルマの父親は会員の誰かだろうか不明。

つまり「男性限定の会員制ナイトスポット」はメニューにないオプション料を支払えば気に入った踊り子や給仕と夜明けを迎える事も出来るような店だった。

何処かが養子縁組をしてくれればその責任は養子縁組をした家が負うので、ファルマに貴族籍が出来た時に備えて鼻の下を伸ばした子息たちは足繁くファルマの元に通った。


養父になる予定の子爵は昔から守銭奴の女好きと言われた子爵で、「いつ離縁するのか」とバーのオッズ表に名前もあった男。

ついに23年連れ添った奥さんが離縁状を叩きつけて子供を連れ出て行ってしまった。ゴシップの好きな貴族達は興味津々でその動向を追っていたら、離縁した翌日には男爵家の愛人の1人だった令嬢と結婚。

3カ月というスピード離縁をしたが、その原因がファルマの母親。
母娘ともに庇護欲そそる幼い顔つきなのに肢体は豊満でギャップも激しい。

子爵は平民に落ちるのが嫌なのでファルマの母親を借金で首の回らない男爵家に金を渡し養女とした後に結婚するための手続き中だった。


ファルマとデートするのも順番待ち。
デートの申し込みをするにも贈り物が必要。


恋に溺れる男はなんと情けない事か。

メニュー表のように時間と料金が提示されてもそれに従うのだからつける薬はない。

話をするのは5分単位。複数人が同時なら1万。独占したければ5万/5分。
5人以上で食事をするのなら1時間3万。2人きりで食事をしたければ10万。

但しこの他に贈り物が無ければ受け付けてもらえないし、その贈り物の内容次第では手を握って貰えたり、腕にしなだれかかって貰えたりする。

名前を読んでもらえるとなればそれだけで舞い上がって喜んでしまう。
共に朝を迎えたら、昇天してしまうかも知れない。



エミリオはファルマへの贈り物代を稼ぐためにクラリッサを引き合いに出して親から金を引っ張っていた。

その甲斐あってか、エミリオはファルマとデートではないものの直接声を掛けてもらえる時間が出来た。


「ファルマ、とっても可愛いよ。似合ってる」
「そぉかしら。だけどアタシって小顔でしょう?だから石はもっと大きなのが良かったかなぁ」
「そ、そうかな…次っ!次はもっと大きな石のついた髪飾りを贈るよ」
「じゃ、一緒に選びたいわ。お店に連れて行ってくれる?」
「う、うん。いいよ」
「うふ。ありがと。じゃぁ来週ね。今日はもう行かなくちゃ。またね」


エミリオは笑顔で去って行くファルマを見送る。
ファルマが自分だけの時間を取ってくれて自分にだけ話しかけてくれる僅かな時間。

さっき「もっと大きな石が良い」と言われた髪飾りは騎士の給金もクラリッサをダシにし、かき集めた金も全て使って、それでも足らなくて同期の騎士から借金までして買ったものだ。

次の給料まで金はないし、その給料は同期に半分は返さないといけない。
今日贈った物よりもっと大きな石となると数か月分の給料でも足らなかった。

借金をするのは気が咎めたが、エミリオの心の中でエミリオが囁く。

【同期から借りるのも金融商会から借りるのも一緒さ。返せばいいんだ】

エミリオは騎士章を担保にして金融商会から金を借りる決意をした。
騎士章さえあれば、年収額までの金を貸してくれるのでゼロが1つ多くても何とかなるだろう。借りれば返さなくてはならず贈り物がなければファルマには暫く会う事も出来ないが、高価な品を贈るのだからそこは融通を利かせてくれると思いこんだ。

負の部分など考える余地もない。
エミリオは完全にファルマに溺れてしまっていた。

★~★

「では、騎士章をお預かりしますね」
「返済したら戻して貰えるんですよね?」
「勿論です」

いざ、金を借りるとなってエミリオは怖気づいた。

騎士章は無くしたと言えば、ポイントは減らされるが再発行は出来る。しかし民間の金融商会に担保に入れた事が発覚すれば強制的に懲戒処分を受け、もう二度と騎士になる事は出来なくなる。

「心配でしたら今、お返ししますよ?返済も10日ごとですし、時間も18時まで。勤務によっては来られないかも?と不安もおありでしょうから」

金融商会の窓口担当は、積み重ねた札束350万を手元に引き寄せてエミリオの目の前にあるトレイに騎士章を置いた。

その隣に先程記入した借用書を並べる。

――いなまら引き返せる――

ごくり。エミリオは生唾を飲んだ。
心の中は決めた事なのに、激しく葛藤をする。

『ちょっと会うのを我慢してまた金を貯めればいい』
『これだけあれば、ファルマに何でも買ってやれる』
『バレたらどうするんだ。何もかも失うぞ』
『今日みたいな5分の会話じゃない。2人きりでデート出来るぞ』

善の心と欲望の心が葛藤した。

結果的にエミリオは札束をバッグの中に入れて金融商会を出たのだった。
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