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第07話 謝罪する勇気がない
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マダーシ侯爵家の令嬢ジョゼフィーヌと婚約をして15年。幼かった2人は大人になった。
指を折って結婚式まであと何年、あと何か月、あと何日と数えてきた。
女々しいと言われてもオクタヴィアンは抱きしめると折れてしまいそうな細い肢体、少し垂れ目がちな大きな目、ぷっくりとした唇の小さな口。庇護欲を掻き立てるのに可愛い声はしっかりと自分の意志を伝えてくるジョゼフィーヌの事を心から愛していた。
数年前、ジョゼフィーヌと2人きりになった時に一線を越えてしまいそうになった事がある。
腕の中で蕩けていくジョゼフィーヌを見てオクタヴィアンの雄は最高潮にまで昂ったが、下着に手を掛けた所で母親の呼ぶ声がしてお互いが我に返った。
その日以来、2人きりになる時間が無くなりつい、エスコートで触れられる時は手に力が入ってしまった。
結婚式を翌月に控えた夜会でお互いが一番得意な曲でワルツを踊った。
しかし、いつもならピッタリと寄り添ってくるはずのジョゼフィーヌは終始体を離して距離を取っているし、曲が終わるや否や真っ青な顔をして小走りに会場を出て行ってしまった。
具合が悪いと訴えるジョゼフィーヌにオクタヴィアンは早々に切り上げて会場を後にした。その馬車でもジョゼフィーヌはぐったりとして気分が悪いと訴えていた。
「気分が悪くって・・・ごめんなさい。窓を少し開けてくれる?」
「あぁ。大丈夫かい?」
「大丈夫。この頃気候のせいかしら。香りがダメになってしまって」
隣で抱きかかえようとしたら「香り」で拒否をされてしまった。
ジョゼフィーヌの好きな香水を付けてきたのだが、多くつけてしまったのかと考え込んだ。
その翌月、結婚式を翌日に控えた日、ジョゼフィーヌは消えた。
朝起きて「ジョゼフィーヌがいなくなった」と聞かされたのに予定通りに教会に行き、身支度を整えられる。両親には「ハイとだけ言え」と言われた。
入場の扉の前に来た時に、真っ白なウェディングドレスを着た女性がいたので「なんだ。誰だよ。いなくなったなんて悪い冗談だな」と思ったが、歩き方で女性がジョゼフィーヌではない事を悟った。
なんでジョゼフィーヌじゃない女とこんな事をしているんだ??
悪い夢をまだ見ていて、目が覚めていないのだろうか。
夢なのか現実なのかも判らないうちに結婚式が終わった。
オクタヴィアンには夢があった。幼い頃から両親に甘えることを禁じられ人前でもまるで他家の当主に挨拶をする様な対応を求められた。
だからこそジョゼフィーヌとは市井の夫婦のように大声で笑い、時に本気の喧嘩をしたりどんな時でもありのままの自分で接し、そして子供を乳母や使用人任せにはせずに自分たちで育てて行こう。
貴族らしくないかも知れないが、親には他家の子息のように甘えてみたかった。そして無条件に愛されたかった。そんな願いがあった。
窓からはシーツをロープ上に繋げていたと聞くが4階からの高さを非力なジョゼフィーヌが下りられるはずがない。
もしも本当に降りたのなら無傷でいるはずがない。怪我をしたかと思うと居ても経っても居られなかったが、同時に結婚式の前にどうしていなくなったのか、そんなに自分の事が嫌いだったのかと混乱してしまった。
全てが現実なのだと判っても受け入れることが出来なかった。
失恋などは時間が薬と言うが、花嫁に結婚式の前日に逃げられても失恋というのだろうか。何日も眠れない日々を過ごしていたけれど、時間は本当に薬だった。
いや、時間だけではない。
執事が運んできてくれる茶が変わったことも影響をしていた。
「少し前に思ったんだが茶葉を変えたのか?」
「えぇ。落ち着くそうですよ」
「ふーん・・・変わった味だな」
「それが良いんですよ。何事も変化していくのです」
最初は慣れない味だったが、その茶を飲むと夜はぐっすりと寝られるようになった。
そんな中、まだ安定期ではないから発表は出来ないが友人が「父親になるんだ」とオクタヴィアンに告げた。
友人の言葉から落ち着いて考えてみればジョゼフィーヌが気分が悪いと言っていた夜会。あれは悪阻だったのではないかと思えた。オクタヴィアンには悪阻の経験はないから絶対とは言えないが。
もしもジョゼフィーヌが妊娠をしたのなら相手は自分ではないのは確実。何故ならジョゼフィーヌとそこまで関係を進めた事が無いからである。
「だとしたら、僕はなんて酷いことを言ってしまったんだろう」
教会で結婚式を挙げたその後、人として最低な言葉をまるで関係のない女性に吐き捨ててしまった。
彼女こそ本物の被害者。
恥をかきたくない両親が急場だとは言え連れて来て結婚をさせられたのだ。
今ならよく判る。自分よりも彼女の方が余程に混乱しただろうと。
「謝罪しなきゃいけないな」
「どなたにです?」
「あの令嬢だ。僕は酷いことを言ってしまった。謝罪して許してくれるだろうか」
「許すか許さないか。それは謝罪をした側が考える事ではありません」
「手厳しいな。これでも落ち込んでいるんだぞ」
「そうですね。ですが坊ちゃまが落ち込んでいる事と、発した言葉で傷ついた奥様の問題は別の事です」
自分も混乱をしていた。そんな言い訳をしたところでどうにもならない。
それでも謝罪をせねばと思い、庭を1人歩いてやって来たが使用人がいるとどうにも出て行けず、つい木陰に隠れてしまう。
『こんなの受け取れないわ。材料費だってタダだもの』
『でも受け取ってって。お義母さんからの心遣いなんです』
使用人のカリナがその場を離れるのを待ったが、カリナがいなくなればまた別の使用人がやって来る。声を掛けるチャンスを見出す事が出来ず、オクタヴィアンは静かに本宅に戻って行った。
指を折って結婚式まであと何年、あと何か月、あと何日と数えてきた。
女々しいと言われてもオクタヴィアンは抱きしめると折れてしまいそうな細い肢体、少し垂れ目がちな大きな目、ぷっくりとした唇の小さな口。庇護欲を掻き立てるのに可愛い声はしっかりと自分の意志を伝えてくるジョゼフィーヌの事を心から愛していた。
数年前、ジョゼフィーヌと2人きりになった時に一線を越えてしまいそうになった事がある。
腕の中で蕩けていくジョゼフィーヌを見てオクタヴィアンの雄は最高潮にまで昂ったが、下着に手を掛けた所で母親の呼ぶ声がしてお互いが我に返った。
その日以来、2人きりになる時間が無くなりつい、エスコートで触れられる時は手に力が入ってしまった。
結婚式を翌月に控えた夜会でお互いが一番得意な曲でワルツを踊った。
しかし、いつもならピッタリと寄り添ってくるはずのジョゼフィーヌは終始体を離して距離を取っているし、曲が終わるや否や真っ青な顔をして小走りに会場を出て行ってしまった。
具合が悪いと訴えるジョゼフィーヌにオクタヴィアンは早々に切り上げて会場を後にした。その馬車でもジョゼフィーヌはぐったりとして気分が悪いと訴えていた。
「気分が悪くって・・・ごめんなさい。窓を少し開けてくれる?」
「あぁ。大丈夫かい?」
「大丈夫。この頃気候のせいかしら。香りがダメになってしまって」
隣で抱きかかえようとしたら「香り」で拒否をされてしまった。
ジョゼフィーヌの好きな香水を付けてきたのだが、多くつけてしまったのかと考え込んだ。
その翌月、結婚式を翌日に控えた日、ジョゼフィーヌは消えた。
朝起きて「ジョゼフィーヌがいなくなった」と聞かされたのに予定通りに教会に行き、身支度を整えられる。両親には「ハイとだけ言え」と言われた。
入場の扉の前に来た時に、真っ白なウェディングドレスを着た女性がいたので「なんだ。誰だよ。いなくなったなんて悪い冗談だな」と思ったが、歩き方で女性がジョゼフィーヌではない事を悟った。
なんでジョゼフィーヌじゃない女とこんな事をしているんだ??
悪い夢をまだ見ていて、目が覚めていないのだろうか。
夢なのか現実なのかも判らないうちに結婚式が終わった。
オクタヴィアンには夢があった。幼い頃から両親に甘えることを禁じられ人前でもまるで他家の当主に挨拶をする様な対応を求められた。
だからこそジョゼフィーヌとは市井の夫婦のように大声で笑い、時に本気の喧嘩をしたりどんな時でもありのままの自分で接し、そして子供を乳母や使用人任せにはせずに自分たちで育てて行こう。
貴族らしくないかも知れないが、親には他家の子息のように甘えてみたかった。そして無条件に愛されたかった。そんな願いがあった。
窓からはシーツをロープ上に繋げていたと聞くが4階からの高さを非力なジョゼフィーヌが下りられるはずがない。
もしも本当に降りたのなら無傷でいるはずがない。怪我をしたかと思うと居ても経っても居られなかったが、同時に結婚式の前にどうしていなくなったのか、そんなに自分の事が嫌いだったのかと混乱してしまった。
全てが現実なのだと判っても受け入れることが出来なかった。
失恋などは時間が薬と言うが、花嫁に結婚式の前日に逃げられても失恋というのだろうか。何日も眠れない日々を過ごしていたけれど、時間は本当に薬だった。
いや、時間だけではない。
執事が運んできてくれる茶が変わったことも影響をしていた。
「少し前に思ったんだが茶葉を変えたのか?」
「えぇ。落ち着くそうですよ」
「ふーん・・・変わった味だな」
「それが良いんですよ。何事も変化していくのです」
最初は慣れない味だったが、その茶を飲むと夜はぐっすりと寝られるようになった。
そんな中、まだ安定期ではないから発表は出来ないが友人が「父親になるんだ」とオクタヴィアンに告げた。
友人の言葉から落ち着いて考えてみればジョゼフィーヌが気分が悪いと言っていた夜会。あれは悪阻だったのではないかと思えた。オクタヴィアンには悪阻の経験はないから絶対とは言えないが。
もしもジョゼフィーヌが妊娠をしたのなら相手は自分ではないのは確実。何故ならジョゼフィーヌとそこまで関係を進めた事が無いからである。
「だとしたら、僕はなんて酷いことを言ってしまったんだろう」
教会で結婚式を挙げたその後、人として最低な言葉をまるで関係のない女性に吐き捨ててしまった。
彼女こそ本物の被害者。
恥をかきたくない両親が急場だとは言え連れて来て結婚をさせられたのだ。
今ならよく判る。自分よりも彼女の方が余程に混乱しただろうと。
「謝罪しなきゃいけないな」
「どなたにです?」
「あの令嬢だ。僕は酷いことを言ってしまった。謝罪して許してくれるだろうか」
「許すか許さないか。それは謝罪をした側が考える事ではありません」
「手厳しいな。これでも落ち込んでいるんだぞ」
「そうですね。ですが坊ちゃまが落ち込んでいる事と、発した言葉で傷ついた奥様の問題は別の事です」
自分も混乱をしていた。そんな言い訳をしたところでどうにもならない。
それでも謝罪をせねばと思い、庭を1人歩いてやって来たが使用人がいるとどうにも出て行けず、つい木陰に隠れてしまう。
『こんなの受け取れないわ。材料費だってタダだもの』
『でも受け取ってって。お義母さんからの心遣いなんです』
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