あなたが教えてくれたもの

cyaru

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第05話  不在時態度が変わる

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コーディリアとしては困惑するだけの茶番に付き合うのもそろそろ限界に近かった。

「お父様、この婚約ですがやはりお断りして頂きたいのです」

「またか…抗議文は何度も送っているんだが」

ウーラヌス伯爵にロベルトとの茶会などから帰るたびにコーディリアは「自分の存在の意味」を突き付けられているようで居心地も悪い。

ロベルトとの関係がこれ以上進展する事も無いのに、レティシアとの付き合いを公認しろと言われている気がしてならなかった。

ならば王命ではあるけれど、王命が出された意味は「取り敢えず相手を見繕う」そんな意味合いからだと思い、もう一度レティシアとの関係を見直せば事が済むのではないかと考えたので婚約の解消を何度も願い出た。

しかし、王家からの返事は婚約の解消には応じられない、抗議については謝罪も検討しているとだけ。

何よりあんなにレティシアを側に侍らせているロベルトが婚約、いや結婚を望んでいると言うのだから驚きだ。


「レティシア様が子爵家だからかしら」

「それもあるだろうな。腐ってもこちらの方が爵位は上だ。陛下もより良い条件の揃ったところに臣籍降下させたいだろうし」

「迷惑な話だわ。伯爵家と言っても継ぐのはお兄様だし、私は家を出るのに」

「そうだとしてもだよ。相手が伯爵家の出である事と、子爵家の出であることは爵位が1つしか違わなくても対外的には大きく違うからね」

「愛人と今後も一緒って事?私の方が愛人?お飾り?あれ?」

コーディリアとしては、結婚をした後で男性が愛人を囲っているなんてのはよく聞く話だし、相手は遊び人でもある王子なのだから、いずれは囲うだろうと思っても婚約中からとなるとウンザリしてしまう。

読みたい本もあるし、友人と観に行きたい歌劇もあればカフェでお喋りも楽しみたい。
それらを我慢してロベルトの予定に合わせて出向いてみれば茶番に付き合わされる。

そんなに一緒にいたいのなら邪魔するどころかアリバイ作りには協力するので勝手にしてくれていいのだ。

そしてよりコーディリアが「ムッ!」としてしまうのはレティシアの言動だった。
ロベルトがいる時と、席を外している時でが異なるのである。


「ねぇ?あんたさ、いい加減気が付かないわけ?」

「何をでしょうか」

「すましちゃって。ほんと。いけ好かない女ね。気を利かせなさいって言ってんの」

「中座すればよろしいので?」

「そんなことしたらロベルトがキレるわよ。時間に遅れてくるとか、うっかり予定を被らせたとか、空気くらい読みなさいよね」

――そんな事言われても――

時間に遅れるも何も、ウーラヌス伯爵家には王家から迎えの馬車が来るのだから遅れようにも遅れる事など出来る訳がない。遅れてしまえばコーディリアではなく御者が罰せられてしまう。

予定を被らせるのも茶会の連絡は数週間前に来るし、伯爵家を継ぐ訳でもないコーディリアにロベルトとの約束を直前になってキャンセルせねばならない事情なんて出来るはずもないのだ。


「周りが自分の事を何て言ってるか。知らないの?」

「存じています」

「へぇ。知ってて?びっくりな強心臓なんだ?」

「そう言う訳では御座いませんが」

王家から事前に伝えられるのに土壇場で反故に出来る臣下など居ないだけのこと。

婚約から1年以上経って社交界で自分が何と言われているかくらいコーディリアだって知っている。ウーラヌス伯爵家としては身に覚えのない事で事業にも支障が出ていて迷惑だってしている。

婚約をした頃は同情的な声も多く聞かれたけれど、何処に行くにしてもレティシアと一緒。ロベルトを中央に3人が並んで歩けば陳腐な道化にも見えるので、コーディリアは2人の後ろをついて歩く。

席につけば隣同士はロベルトとレティシア。
コーディリアは本当におまけの存在で、2人の会話も内容が判らないので付いていけない。

王家主催の夜会でも一人捨て置かれるので、気の毒に思ったのか第1王子や第2王子が話しかけてくれる。それも見る者にはネタを投下する燃料にしかなっていない。

ロベルトに相手をされないコーディリアは他の王子に色目を使って媚びているとまで言われてしまっていて、この頃では「王族になりたいウーラヌス伯爵令嬢。書面上の正妻、実は愛人枠」と揶揄される始末。

――好き勝手言ってんじゃないわよ!――

そう思うものの、口にすれば王家への不敬と捉えられてしまうのでうっかり声を荒げる事も出来ない。


コーディリアはロベルトに直接問いたいが、レティシアが席を外す事が無いのでなかなか問う機会がない。なのでエスコートをされて入場する時に問うてみた事がある。


「私ではなくレティシア様をエスコートして差し上げれば如何です?」

「どうしてだ?レティとは別に入場した後に話をするし、入場まで一緒にする必要はないよ」

――私はあなたとの入場が必要ないと思ってますけど――

そして、頓珍漢な事を逆に問われる。

「もしかして…レティとの事を妬いてるのか?少し嬉しい気もするなぁ」

――妬いてるんじゃなく、勧めてるんです――

デレながらそんな事を言われるとドレスを着るためにいい加減空腹を我慢しているので胃の中は空っぽだけど吐きそうになってしまう。

ここまでポジティブに物事を変換するロベルトの事を別次元の生き物だと思わねば心が付いて行かない。そう考えてしまうまでになってしまっていた。

が、この関係が終わりを迎える日がそんなに遠くない日にやってくるとはコーディリアも考えてもいなかった。
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