あなたが教えてくれたもの

cyaru

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第18話  貴方には関係ない事

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加護とは不思議なもの。人の怒りも不思議なもの。

ロベルトはコーディリアの言葉に強い否定とロベルトとはもう関係を絶ちたい思い「拒絶」を感じ取った。

怒りを露わにしない怒りほど恐ろしいものはない。
ロベルトは改めて過去の自分がして行ってしまった行為を悔いた。

近くにいる事でこんなにもコーディリアの癒しの加護には身も心も癒されているのに、ロベルトの心は癒されながらも切り刻まれて行く。

ロベルトは絞り出すように声を出した。


「僕は何をどう足掻いてもリアには許してもらえないんだろうな」

自嘲気味に笑う事も出来なかった。


「殿下、ここに来た日も申しましたが私は殿下が許しを乞わねばならないようなことはされていません。だから謝罪をされても困りますし、機嫌を伺うような事をされなくてもよろしいのです」

「だが!私の愚かな行動の結果でリアは、リアはっ!!一生消えない傷を負ったじゃないか!」

触れてはいけなかったかも知れないが、なかった事にはならないコーディリアの体に残る傷。


ロベルトは幽閉をされたのち、辺境に送られている道中でコーディリアの傷をどうにかしてやりたいとコーディリアの兄オベロンが詐欺師に騙され、結果的にウーラヌス伯爵家が王都の屋敷を売らねばならなくなった事を知った。

コーディリアが領地に向かったのは傷物だと後ろ指をさされ、嘲笑されるからではなく借金を清算したから。その借金の原因は直接的にロベルトが手を下した訳はないにしても、レティシアを側に置くような事をしなければ回避できた。

辺境に送られて暫くの間も人に見せる訳でもない傷など気にしなくてもいいのにと軽く考えていた。

男性でも体に残る傷跡は恥ずかしいと感じるもの。
それが女性となれば生きる事も否定された気分になるに違いないとロベルトは、せめて傷の責任を負わせてほしいとコーディリアに懇願した。


「僕に責任を取らせてくれ。誰にも何も言わせない。君を傷つける者は僕が許さない」

「何を仰っているの?背中の傷なら気にしていません。確かに冬の寒い日などは皮膚が突っ張る事は御座いますが痛みはもうありませんし、日常の生活にもなんら支障はないのです。周りが思うほど私は気にしていないのです。むしろ…こうやって過去を掘り返される事の方に心が痛みます。だから殿下が責任を取る必要もないのです。何よりこの傷は事故によるもの。私の不注意から起きた事なのですから」

「違う!!僕がっ僕がレティシアなんかにかまけなかったら!そこに全ての原因があるんだ」

「何もかもこじつけるのはお止めください」

「こじつけてなんかいない!大事にすると決めた気持ちをずっと持ち続けていたら!少なくともリアは怪我はしてないし、オベロン殿だって失踪してない!伯爵だって命を落とさずに済んだんだ!」


バンっとコーディリアが両手でテーブルを叩き大きな音と共に叫んだ。

「いい加減にして!貴方には関係ない事だわ!」

ロベルトはこんなにも感情を表に出したコーディリアを初めて見た。
婚約中もレティシアに尽く邪魔されて2人きりになることはなかったけれど、レティシアが「いいよね?」と問う時も自分が判断していいのだろうかと困った顔をする事はあっても、迷惑そうな表情を向ける事はなかったし、エスコートをしたきりで夜会の会場に放っておいた時も誰に愚痴を零すでもなく、コーディリアは静かなものだった。

家族に対しては喜怒哀楽をはっきりと向けていたかも知れないけれど、ロベルトの知るコーディリアはいつ何時も穏やかな女性だった。

ウーラヌス領に来た時も迷惑そうな顔はしていたが、「迷惑そう」に見えただけで明らかな嫌悪の表情ではなかったし、棘のある、どこか余所余所しい言葉使いでもここまでの拒絶は感じなかった。


「ごめん、言い過ぎた。驕りだった」

「言いたいことは判ったから、もう帰ってくださる?」

「帰るよ。でも‥」

「まだ何か?」


コーディリアもつい声を荒げてしまった事を悔いているのか、今度は抑揚のない小さな声を出した。

「ゼウスから聞いた。王都行きを渋っていると」

「渋っているのではないので、ご安心を」

「もし、なんだけど…。差し出がましい事は解ってるんだ。解かった上での話だが、旅費の事が心配なら僕が何とかする。ネプトヌス公爵家は誠実な家だし、一方的な要望を突き付けたりもしない筈だ。僕から兄上に――」

「結構です。お金のことで王都行きを諦めている訳ではないですし、ネプトヌス公爵家の噂はこんな田舎の領でも聞こえてきますからビジネスパートナーとしては申し分ないお相手だと承知していますので」

「だったらどうして。大きなチャンスじゃないか。提携すれば領民も得られる金は増えるしもっといい暮らしも出来るのに領主の君がどうして渋ってるんだ?」

コーディリアは思わず「次男坊との婚約も持ち掛けられているから」と言いそうになって言葉を飲み込んだ。

ロベルトは廃嫡されている訳でもなく王族であり第3王子。
コーディリアも乗り気ではない縁談に違いはないけれど、ロベルトがどうしてここにきたのか。

その意図も明確になっていないのに迂闊に全て話をする事が正解だとは思えない。

「個人的な事なのでお話しすることは御座いませんわ。路銀の心配をさせてしまいましたわね。ですがお気遣いは不要ですわ」

コーディリアはそう言うとロベルトに「お帰りはあちら」開けたままの玄関を手で示した。

ロベルトもこれ以上は不味いと感じたのか大人しく出て行った。
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