あなたが教えてくれたもの

cyaru

文字の大きさ
26 / 47

第26話  聞きたいのはそれじゃない

しおりを挟む
「何だってんだよ。だいたいなんでプロテウスなんだよ。くそっ!」

王都までの道、ロベルトはプロテウスの悪態を吐きに吐いて王都に戻ってきた。

城に戻ってきたロベルトは早速父の国王の部屋に呼ばれた。そこには王妃も一緒にいて2人とも呆れた表情をロベルトに向けていた。

「一体お前はこの3か月余り。何処で何をしていたんだ?」

「僕に聞かなくても知ってるでしょう。ご丁寧に逐一報告する影が父上には付いているんだから」

「影からの報告は受けているが、私はロベルト、お前に問うているのだ」

「二度も同じことを聞く暇があるならもっと民に目を向けてはどうです?その日暮らしの民がマージカル王国には何万人いるとお考えなんですかね。あ、それも判った上での事ですか。御大層な事だ」

敢えて煽るように言ったのは「自分はこれだけ民の生活を身近に感じ考えている」と城の中でのほほんと食う寝るにも困らない生き方をしている両親への当てつけでもあった。


「知った風な事を。何処にいたか。解っている事は聞かずにいてやろう。で?お前は民の何を知ったと言うんだ?」

「貧しさですよ。領主と言っても肩書だけ。道に生えている草やたまに仕留めた魔獣や動物を食べないと生きてはいけない。綺麗に着飾っているのは王都の王族、貴族くらいだ。父上は食べた事が無いでしょう?小麦なんかほんの一握り。食感の悪い雑穀パンに気持ち程度の味が付いた温かいだけが取り柄のスープ。それをご馳走と有難がらなきゃいけない生活をしている者がいるってことを」


ロベルトはコーディリアが作った食事を貶しているつもりはなかった。
言葉選びが壊滅的ではあるものの、作った人が、ではなく出された料理の貧相さには思うところがあった。

「ほぅ。ならば問うが、改善するためにお前は何をしたんだ?」

「何故僕がしなきゃいけないんです?そりゃ僕が次の国王だと言うのなら動くのも仕方ないでしょうけど、僕は臣籍降下をする身です。父上や兄上のように力がある訳じゃない。力の無い僕に何を期待してるんです?現実をこうやって報告するだけが精一杯、お門違いな期待はしないで頂きたい」

「なるほどな。では、お前は自分に権力があれば万人が憂いなく過ごせるように出来る。そう言うんだな」

「そうですね。でも残念ながら僕にはそんな力はない。それは父上が一番ご存じなのでは?ですが僕も辺境で6年、学びました。頼まれれば…やらない事もない、ですかね」

「頼まれねばやらないと言う事か。全くお前は結局なにも身に付いていないと言う事だな」

「失礼な。いくら父上でもその発言は許せません。言った筈ですよ?辺境で僕は6年学んだと。影からの報告ばかりで僕の実際を見た訳でもない父上に評価をされたくはありませんね」


得意満面に国王と王妃に自分がどれほどに出来る男なのか知りもしない癖にと言い放ったロベルトに、国王も王妃も声を荒げる事はなかった。

どちらかと言えば、そうまで言うのならお手並み拝見とばかりに決定事項を伝えた。

「相分かった。お前には来月、サータン王国に王配として婿入りをしてもらうから準備をしておくように」

「は?サータン王国?何言ってるんです?なんで僕があんな何もない不毛な国の王配に?いやいや、ないですよ。父上、冗談はやめてください、そんな話、とても笑えませんよ」

「冗談でも笑い話でもない。サータン王国には6年も待ってもらったんだ。子が出来るまでは肩身も狭い思いをするだろうが、サータン王国は男児であれ女児であれ第一子が王位を継承する国だ。生母ならぬ生父ともなれば発言力も増すだろう。力を持てば出来るのであれば20年後のサータン王国はマージカル王国と肩を並べているまでに急成長しているやも知れんな。話はそれだけだ。出立までは城内でゆるりと過ごすがいい」

「ちょっと!待ってください、父上っ!王配なんてそんな話聞いてません!」


まだ自身の失言に気が付いていないロベルトは従者と共に退室していく国王と王妃に食い下がったが発言を撤回する言葉はおろか、冗談だよと笑いかけても貰えなかった。

「嘘だろ。なんだよ、サータン王国って」

「殿下。サータン王国は半世紀前に財政破綻をした国で現在は前国王の第一子ユミール様が女王として即位され来年で即位10周年を迎えら――」

「解ってるよ!そんな事!」

「では、サータン王国の何がご不明でしょう。何なりとどうぞ。答えますよ」

「は?」

「先ほど仰ったではありませんか。”なんだよ、サータン王国って” と。ウーラヌス家のご息女との婚約が無くなりいち早くお声をかけてくださったのがユミール様です。6年前には陛下も殿下を王配とされる調印を済まされましたが、サータン王国は経済のみならず、国土そのものも瘴気に覆われ過酷な環境ですから慣れるために殿下は辺境に送られたのですよ?ユミール様がお声がけをくださらなかったら今頃殿下は去勢されて放逐されていたはずです」

危うく6年前にロベルトの廃嫡と同時に職を失うところだった従者は得意になってロベルトに説明をする。

従者としてはロベルトが無事に旅立ってくれれば任期満了。最高気温も氷点下の不毛な地に付いていく必要もなく退職金で家族も養っていける。

サータン王国の女王ユーミルが「王配に貰い受けたい」といち早く声をかけてくれた事に心から感謝を捧げる。今もサータン王国に朝晩の感謝の祈りを忘れない。

――聞きたいのはそれじゃない――

ロベルトの心の声は従者には届かなかった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...