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25:▽☆それを偏食とは言いません

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この回はロランドの乳母、ジャム視点です。


☆~☆

夕食の時間となり運ばれてくる食事。
坊ちゃまも貴族と言えば貴族の一員。どんなに腹が減っていても「待て」は習得出来ているようで何よりです。

大きな手で小さなスプーンを使ってスープをすくっている坊ちゃまとマリィ様の目が合いました。


――わぁ。オス猫は前足が大きいって本当だわ――
と、言いたげな視線。マリィ様、ネコ科ではありません。ヒト科です。


==うわっ。腕、細っ。食わせて貰ってないのか?==
と、言いたげな視線。坊ちゃま、坊ちゃまが育ちすぎただけです。



瞳孔が開いたように目を丸くして大きな手で器用にカトラリーを操る坊ちゃまをマリィ様が確かめております。手首より先は意外と毛が薄いと逐一確認をしながらスープを口に含んだもよう。


かたや坊ちゃまはマリィ様の痩せ具合に胸が締め付けられるように痛いご様子。
冬になれば動物たちは脂肪を蓄えるため夏よりも肉付きがいいのにと思い、自分の分もスープを飲ませようかと考えているのが手に取るように判ります。


亀の甲より年の劫。
私達使用人は「見てる、見てる」と微笑みながら2人を見守るのです。
あとは、2人を同じ部屋に放り込んで鼻コツンでもしてくれれば万々歳。

しかし、事件は現場で起きるもの。

本日のメインはジビエ。鹿肉でございます。
問題のないメニューであるはず!で御座いました。


「あれ?鹿は苦手なのか?まぁ独特の臭いはあるからなぁ。でもここではそうそう牛や羊は食事には出ないぞ?」


マリィ様は、確かに小さくナイフで切り分けるので苦手なように見えるのかな?と思ったのですが、調理人に失礼にならないようになさっているだけ。

マリィ様の視線がマナー違反かな?と思いつつ、自分の皿を見て坊ちゃまの皿を見たのです。

――えっ?―― マリィ様のお顔が曇ります。


慌てたご様子で私達使用人の方を見られ何かを訴えておられる様子。

原因の究明は速やかに行います。

発見致しました。
坊ちゃまのの皿にだけ「あるべきもの」いや、「ないとおかしい」のにない物が御座いました

マリィ様が小さな声で坊ちゃまに問われます。

「あの…骨はどうされたのです?」


坊ちゃまと違うメニューでは御座いません。
先程坊ちゃまは「鹿肉」と説明いたしました。間違いなく鹿肉でございます。

しかし!坊ちゃまの皿には何もないのでございます。
慣れとは恐ろしい物。

私達使用人は、今までそれが「普通」だったのですがマリィ様の困惑の表情にやはり異常だと再確認をしたのです。


マリィ様はきっと心でこう思っていらっしゃるでしょう。
――どうして骨もないの?まさか骨も柔らかくて食べられるの?――

そう思ってナイフを入れられております。

こつっ…(違った)コツっ
ナイフもフォークも骨には太刀打ち出来るはずが御座いません。


マリィ様はこう納得をされたのでしょう。
――やっぱり硬い!骨まで食べるわけじゃないのね――

しかし、坊ちゃまは違うのです。
器用にナイフとフォークを使って骨をゴリゴリと齧って召し上がられます。
マリィ様の皿に残った鹿の骨を見て仰ったのです。


「骨まで食べないと栄養が偏るだろう?赤身だけ、脂身だけって偏食は良くないぞ」


坊ちゃま、それを偏食とは申しません。
私は僭越ながらマリィ様に声を掛けさせて頂きました。

「骨まで食べるなら魚で充分でございます。肉の骨まで食べるのは坊ちゃまだけです」

「俺は栄養が偏るのは良くないと思って!何でもあるわけじゃないからな。まぁ食いたいと言えば獲っては来るが」


確かに偏食はない坊ちゃま。なかなかに豪快でワイルドで御座います。
しかし、そんな坊ちゃまにも苦手なものはあるのです。


「うわぁ…次はピリカラ系かぁ…」
「苦手ですか?」
「まぁな。香辛料とか。特に唐辛子は苦手だな」
「ですが、召し上がってくださいね?バランスを考えてのメニューなのですから」
「そうなんだが…残しちゃダメかな?」
「ダメです」


なんと!マリィ様がピシリと言い放つと、渋々坊ちゃまは口にしたのです。
食べられない訳ではないのですが、それまでの皿を空にするスピードは格段に落ちるピリカラ系。

――今度は鬼辛にレベルアップしてみましょう――


食後の飲み物もマリィ様がハーブティーに対し、坊ちゃまはこれは譲れないと言い切るのです。

「赤いツル印のビーフコンソメスープでよろしく」

マリィ様のお顔にまた困惑が。きっとこう思っていらっしゃるでしょう
――食後よ?食後?!何故食後にスープなの?――

「旨いんだよなぁ。何杯でもいけるんだ」

確かに美味しいのは全員が認める所ではございますが、坊ちゃま!

今ではない!今ではないのです!



少しずれた所もある坊ちゃま。

マリィ様は坊ちゃまが大きな手でマグカップをカリカリとするさまを見て目を細めておられます。きっとこう思ってくださっているでしょう。


――やだ…爪を研いでるのかしら。可愛いわ――


飼い猫の仕草を見るような慈しむ目で坊ちゃまを見るマリィ様。





「坊ちゃま、明日は買い物をされては如何でしょう」

屋敷に商人を呼ぶのもいいのですが、市井で若い者達が行うという「デート」をしてさらに仲を深めて頂きたい。使用人の総意で御座います。

「おぅ!任せろ。先ずは…何が食いたい?」

確かに外で食べる肉串などが美味しいのは全員が認める所ではございますが、坊ちゃま!

そうではない!そうではないのです!


しかし、流石はマリィ様。

「私、明日はお屋敷の中をゆっくり見て回りたいです」

「そんなっ!照れるじゃないか…一緒にいたいなんて」


坊ちゃま、そんな事は一言も申しておりません。
脳内での妄想も大概になさいませ。

ですが、マリィ様はちゃんと返されておりました。

「明日は隣を歩いてくださいね」
「おっ‥‥おぅ!」

主導権は握られたようで何よりでございます。
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