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第39話 見てたのね?
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「文字の解釈が独特なところがある国だから難航してるらしいよ」
「そうなのか。自治政府も大変だなぁ」
同僚たちが新聞を読みながら調印式が迫っているのに文言がしっかりと決まらないニュースを話題に昼食後の談話に花を咲かせていた。
「アイちゃん。パン食べない?1個余っちゃった」
「リリー。また大容量タイプを買いましたの?」
「だってぇ。お得じゃない?1個だと120ピピルだけど5個なら300ピピルよ?」
「でも食べきれなかったら勿体ないわ」
「だ~か~らぁ。アイちゃんにあげる。その代わり♡」
「リンゴ?」
「あったり~!」
リリーも同じ造船会社で経理をしているが、車を買うために節約をしている。
実はこの造船会社の御曹司と3か月後に結婚式を控えているので、頼めば車の1台や2台は買って貰えそうに思うけれど、「自分の車が欲しいの」と夫には頼らずに購入すると燃えている。
「ねぇ、アイちゃん」
「なぁに?」
「アイちゃんさ。何も言わないけど…あの国の言葉。解るよね?」
「え?‥‥どうしてそう思うの?」
「だって護衛艦の修理の時に向こうの文書。読んでたじゃない」
――あら?見られてた?――
沖合にずらりと並んだ艦船の1隻の護衛艦はその時に船首に別の護衛艦が接触してしまったので、先に戻ってきてドック入りしたのだ。
その時に上陸した地域を管理していた代官の持っていた書類も押収してきた。
修理をするついでに船内の清掃も依頼を受けて手の空いている者が船内にある品を倉庫に移した時に、積んだダンボールが崩れてしまった。バラバラになった書類を纏めたのがアイリーンとリリーだった。
適当を装ったけれど、順番も違えずに揃えてしまったのは失敗だった。
「ねぇ。アイちゃん」
「何?」
「訳すの…手伝ってくれない?もう何日も家に帰れないで缶詰なの。調印式の日も迫ってて昨日なんか差し入れ持って行ったら目の下にクマ飼ってるのよ?お願い…ちょっとでいいの。見るだけでもいいし、解る所だけでもいいし」
「頼まれてあげたいけど、私じゃ無理よ。あの書類だって…たまたまだもの」
「そうかぁ。あぁ~彼ピに休んで欲しいんだけどなぁ。他に何かいい方法ないかな?」
「そうね…メレディスに文字が判る人、聞いてみるわ」
「ホント?!ありがとう!」
「出来る人がいるかどうかは解らないわよ?」
「うんうん。それでもいい。ちょっと希望が見えたぁ」
リリーは本当に恋人の事を心配しているし、力になってやりたいとは思う。
あの国の契約書の類は結婚後、ドウェインにはあまり触らせてもらえなかったけれど婚約中はドウェインの母親に引継ぎをしてもらっていたので、内容の把握は出来る。
侯爵家という高位貴族に嫁ぐからこそ文字の書き間違い、読み間違いはポイント、ポイントで教えてもらったのだ。
――でもメレディスは絶対ダメって言うわね――
アイリーンはリリーにデザートのリンゴを分けると、リリーが食べきれなかったパンを齧った。
――ん?でもリンゴ食べてる。別腹?――
乙女のお腹の中は不思議がいっぱいなのだった。
★~★
アイリーンとメレディスが帰宅をすると丁度お手伝いさんが帰る所だった。
「旦那様、奥様。お食事はいつもの通り下準備は終わっておりますよ」
「ありがとう。場所が変わったのに来てくれて嬉しいわ」
「いいえ。私こそ助かっているんですよ?実は近くなったので」
お手伝いさんの料理はとても美味しいのだけれど、最後の仕上げだけはメレディスが一緒にしたいと言うので下準備だけ頼んでいる。
引っ越しを機に契約を切る事も考えたが「お給金は孫にプレゼントを買う」と言うので、引き続き来てもらっているのだ。
「子供が出来たらナニーとして雇ってもイイかもな」
「ナニーに任せっきりはだめよ」
「解ってるよ。でもアイちゃんにも気にかかるような事がなく休む時間も大事だ。男の俺じゃ出来ない事もあるしさ」
「ふふっ…ん??んん??」
「どうした?」
「何でもないわ。早く手を洗って食事の仕上げをしなきゃ!」
メレディスの腕を引いて家の中に入ったけれど、アイリーンの胸はドキドキしていた。
引っ越しをして1か月を過ぎたけれど、月のものが遅れている事に気が付いたのだ。
――気のせいよね――
引っ越しもあったし、集合住宅に住んでいた時と環境が少し違ったので遅れているだけ。アイリーンはそう自分に言い聞かせた。
「そうなのか。自治政府も大変だなぁ」
同僚たちが新聞を読みながら調印式が迫っているのに文言がしっかりと決まらないニュースを話題に昼食後の談話に花を咲かせていた。
「アイちゃん。パン食べない?1個余っちゃった」
「リリー。また大容量タイプを買いましたの?」
「だってぇ。お得じゃない?1個だと120ピピルだけど5個なら300ピピルよ?」
「でも食べきれなかったら勿体ないわ」
「だ~か~らぁ。アイちゃんにあげる。その代わり♡」
「リンゴ?」
「あったり~!」
リリーも同じ造船会社で経理をしているが、車を買うために節約をしている。
実はこの造船会社の御曹司と3か月後に結婚式を控えているので、頼めば車の1台や2台は買って貰えそうに思うけれど、「自分の車が欲しいの」と夫には頼らずに購入すると燃えている。
「ねぇ、アイちゃん」
「なぁに?」
「アイちゃんさ。何も言わないけど…あの国の言葉。解るよね?」
「え?‥‥どうしてそう思うの?」
「だって護衛艦の修理の時に向こうの文書。読んでたじゃない」
――あら?見られてた?――
沖合にずらりと並んだ艦船の1隻の護衛艦はその時に船首に別の護衛艦が接触してしまったので、先に戻ってきてドック入りしたのだ。
その時に上陸した地域を管理していた代官の持っていた書類も押収してきた。
修理をするついでに船内の清掃も依頼を受けて手の空いている者が船内にある品を倉庫に移した時に、積んだダンボールが崩れてしまった。バラバラになった書類を纏めたのがアイリーンとリリーだった。
適当を装ったけれど、順番も違えずに揃えてしまったのは失敗だった。
「ねぇ。アイちゃん」
「何?」
「訳すの…手伝ってくれない?もう何日も家に帰れないで缶詰なの。調印式の日も迫ってて昨日なんか差し入れ持って行ったら目の下にクマ飼ってるのよ?お願い…ちょっとでいいの。見るだけでもいいし、解る所だけでもいいし」
「頼まれてあげたいけど、私じゃ無理よ。あの書類だって…たまたまだもの」
「そうかぁ。あぁ~彼ピに休んで欲しいんだけどなぁ。他に何かいい方法ないかな?」
「そうね…メレディスに文字が判る人、聞いてみるわ」
「ホント?!ありがとう!」
「出来る人がいるかどうかは解らないわよ?」
「うんうん。それでもいい。ちょっと希望が見えたぁ」
リリーは本当に恋人の事を心配しているし、力になってやりたいとは思う。
あの国の契約書の類は結婚後、ドウェインにはあまり触らせてもらえなかったけれど婚約中はドウェインの母親に引継ぎをしてもらっていたので、内容の把握は出来る。
侯爵家という高位貴族に嫁ぐからこそ文字の書き間違い、読み間違いはポイント、ポイントで教えてもらったのだ。
――でもメレディスは絶対ダメって言うわね――
アイリーンはリリーにデザートのリンゴを分けると、リリーが食べきれなかったパンを齧った。
――ん?でもリンゴ食べてる。別腹?――
乙女のお腹の中は不思議がいっぱいなのだった。
★~★
アイリーンとメレディスが帰宅をすると丁度お手伝いさんが帰る所だった。
「旦那様、奥様。お食事はいつもの通り下準備は終わっておりますよ」
「ありがとう。場所が変わったのに来てくれて嬉しいわ」
「いいえ。私こそ助かっているんですよ?実は近くなったので」
お手伝いさんの料理はとても美味しいのだけれど、最後の仕上げだけはメレディスが一緒にしたいと言うので下準備だけ頼んでいる。
引っ越しを機に契約を切る事も考えたが「お給金は孫にプレゼントを買う」と言うので、引き続き来てもらっているのだ。
「子供が出来たらナニーとして雇ってもイイかもな」
「ナニーに任せっきりはだめよ」
「解ってるよ。でもアイちゃんにも気にかかるような事がなく休む時間も大事だ。男の俺じゃ出来ない事もあるしさ」
「ふふっ…ん??んん??」
「どうした?」
「何でもないわ。早く手を洗って食事の仕上げをしなきゃ!」
メレディスの腕を引いて家の中に入ったけれど、アイリーンの胸はドキドキしていた。
引っ越しをして1か月を過ぎたけれど、月のものが遅れている事に気が付いたのだ。
――気のせいよね――
引っ越しもあったし、集合住宅に住んでいた時と環境が少し違ったので遅れているだけ。アイリーンはそう自分に言い聞かせた。
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