9 / 37
第09話 ちょっと待った!
しおりを挟む
ベルガシュが帰ってきたとの知らせがオルコット侯爵夫妻にも知らされた。
親のいない時を見計らって屋敷に戻ってくるのもベルガシュにはいつものこと。
だが、今回ばかりは「失敗した」と思わなくもない。
貴族の結婚は非常に面倒で貴族でいたい、現状の生活がしたいのであれば当主の了承が必要なのは当然。
爵位を継ぐに婚姻も必須。余程の事がない限り親の決めた相手と結婚し、それから爵位を継ぐ順番になる。親が早世した場合は後見人が親の役目を担うが、その場合は後見人が親族であるが故に揉めることが多い。
今回ばかりは侯爵夫妻がいなければ戻ってきた意味がない。
オルコット侯爵家は正妻である夫人が子を産んでいないため、庶子の扱いであっても侯爵の子であるベルガシュが家を継ぐ。親戚筋を頼れば他にも後を継げる者がいなくはないがベルガシュが継ぐ方がスムーズに事が運ぶのも間違いない。
貴族は醜聞を嫌う。オルコット侯爵家の場合ベルガシュが後を継がないとなれば「教育の失敗」を知らしめることにもなる為、その後の事業に影響も出てしまう。
子息の1人も躾が出来ないとなれば、足元を見られてしまうからである。
――結局、俺がいないと困るって事だよな――
自身の代わりはいないとタカをくくっているベルガシュ。
祖母の葬儀で貰った形見分けの宝飾品を売り、自身の私財を使い果たして帰ってきた。
実に中級文官15年分の所得に匹敵する額を綺麗さっぱりのスッカラカン。
何故帰って来たかと言えば「そろそろ落ち着こう」と考えたからである。
ベルガシュの隣には清楚に見える令嬢が1人。
アイリーンと家令のブレドはそんな令嬢も視界には捉えていたが、言ってみれば「夫の友人」を逐一報告して頂かなくても問題はないと作付けの話に話を戻し、ベルガシュは空気となっていた。
「おい!無視するな!早く荷を纏めろ!」
喚き散らすベルガシュの腕に縋り、心配そうに見上げる令嬢。
そこに慌ただしく先にオルコット侯爵、2,3分ほど遅れてオルコット侯爵夫人がやってきた。役者がそろったとばかりにベルガシュは胸に手を当てて頭を深く下げた。
――あれ?この場合の礼は最敬礼ではないんじゃないかしら?――
チラリと家令のブレドを見るとアイリーンに向かって小さく頷いた。
が、ベルガシュは全く気が付いておらず、オルコット侯爵夫妻に向かって言葉を発する。
「父上、母上。ご無沙汰をしておりましたが、紹介したい女性がいるので時間を作って戻って参りました」
ベルガシュの言葉に隣にいた令嬢がペコリと頭を下げる。
――ん?先言後礼じゃなかったかしら――
――それに自分が時間を作って?言葉がおかしくない?――
またもやチラリと家令のブレドと目が合えば、ブレドが小さく頷く。
つまり、ベルガシュの言動は全てがおかしいという結論。
最初の一言もだが、親に対しての物言いにアイリーンは夫人の「見た目以外は壊滅的」との言葉を思い出していた。
オルコット侯爵夫妻は女性が誰なのか、直ぐに察しがついたようだがアイリーンには初見。尤も夫のベルガシュでさえアイリーンには初見である。
女性を見やる目を見れば、わざわざ言葉にしなくても言いたいことは察しが付く。
案の定、ベルガシュは熱い視線を令嬢に向け、言葉だけをオルコット侯爵夫妻に投げた。
「父上、母上。この女性と結婚したいのです。許可してくれますよね」
顔も向けずに言い放つベルガシュに侯爵夫人が一言だけ返した。
「寝言なの?」
実の母でもなければ、育ててもらった覚えもないと言わんばかりのベルガシュは侯爵夫人の言葉を無視して、同じ言葉を今度は父であるオルコット侯爵に向けて発した。
受け流すのはオルコット侯爵の得意技なのか。
「立ってする話でもあるまい。まぁ、かけなさい」
ソファを勧められて、ベルガシュはまず令嬢を、そしてベルガシュが侯爵夫妻よりも先に腰を下ろす。もう何も言うまいと侯爵夫人はアイリーンに「こちらに来い」と目配せした。
「彼女はハルテ伯爵家のディララ。結婚したいんです。彼女以外は考えられない。これで父上達にも親孝行が出来ると言うものです。許可をもらったらディララの両親にも話しをするように考えています」
未婚同士でかつ、平民であれば問題はないだろうが幾つかの問題点を無視して話をするベルガシュにオルコット侯爵がやんわりと「待った」をかけた。
親のいない時を見計らって屋敷に戻ってくるのもベルガシュにはいつものこと。
だが、今回ばかりは「失敗した」と思わなくもない。
貴族の結婚は非常に面倒で貴族でいたい、現状の生活がしたいのであれば当主の了承が必要なのは当然。
爵位を継ぐに婚姻も必須。余程の事がない限り親の決めた相手と結婚し、それから爵位を継ぐ順番になる。親が早世した場合は後見人が親の役目を担うが、その場合は後見人が親族であるが故に揉めることが多い。
今回ばかりは侯爵夫妻がいなければ戻ってきた意味がない。
オルコット侯爵家は正妻である夫人が子を産んでいないため、庶子の扱いであっても侯爵の子であるベルガシュが家を継ぐ。親戚筋を頼れば他にも後を継げる者がいなくはないがベルガシュが継ぐ方がスムーズに事が運ぶのも間違いない。
貴族は醜聞を嫌う。オルコット侯爵家の場合ベルガシュが後を継がないとなれば「教育の失敗」を知らしめることにもなる為、その後の事業に影響も出てしまう。
子息の1人も躾が出来ないとなれば、足元を見られてしまうからである。
――結局、俺がいないと困るって事だよな――
自身の代わりはいないとタカをくくっているベルガシュ。
祖母の葬儀で貰った形見分けの宝飾品を売り、自身の私財を使い果たして帰ってきた。
実に中級文官15年分の所得に匹敵する額を綺麗さっぱりのスッカラカン。
何故帰って来たかと言えば「そろそろ落ち着こう」と考えたからである。
ベルガシュの隣には清楚に見える令嬢が1人。
アイリーンと家令のブレドはそんな令嬢も視界には捉えていたが、言ってみれば「夫の友人」を逐一報告して頂かなくても問題はないと作付けの話に話を戻し、ベルガシュは空気となっていた。
「おい!無視するな!早く荷を纏めろ!」
喚き散らすベルガシュの腕に縋り、心配そうに見上げる令嬢。
そこに慌ただしく先にオルコット侯爵、2,3分ほど遅れてオルコット侯爵夫人がやってきた。役者がそろったとばかりにベルガシュは胸に手を当てて頭を深く下げた。
――あれ?この場合の礼は最敬礼ではないんじゃないかしら?――
チラリと家令のブレドを見るとアイリーンに向かって小さく頷いた。
が、ベルガシュは全く気が付いておらず、オルコット侯爵夫妻に向かって言葉を発する。
「父上、母上。ご無沙汰をしておりましたが、紹介したい女性がいるので時間を作って戻って参りました」
ベルガシュの言葉に隣にいた令嬢がペコリと頭を下げる。
――ん?先言後礼じゃなかったかしら――
――それに自分が時間を作って?言葉がおかしくない?――
またもやチラリと家令のブレドと目が合えば、ブレドが小さく頷く。
つまり、ベルガシュの言動は全てがおかしいという結論。
最初の一言もだが、親に対しての物言いにアイリーンは夫人の「見た目以外は壊滅的」との言葉を思い出していた。
オルコット侯爵夫妻は女性が誰なのか、直ぐに察しがついたようだがアイリーンには初見。尤も夫のベルガシュでさえアイリーンには初見である。
女性を見やる目を見れば、わざわざ言葉にしなくても言いたいことは察しが付く。
案の定、ベルガシュは熱い視線を令嬢に向け、言葉だけをオルコット侯爵夫妻に投げた。
「父上、母上。この女性と結婚したいのです。許可してくれますよね」
顔も向けずに言い放つベルガシュに侯爵夫人が一言だけ返した。
「寝言なの?」
実の母でもなければ、育ててもらった覚えもないと言わんばかりのベルガシュは侯爵夫人の言葉を無視して、同じ言葉を今度は父であるオルコット侯爵に向けて発した。
受け流すのはオルコット侯爵の得意技なのか。
「立ってする話でもあるまい。まぁ、かけなさい」
ソファを勧められて、ベルガシュはまず令嬢を、そしてベルガシュが侯爵夫妻よりも先に腰を下ろす。もう何も言うまいと侯爵夫人はアイリーンに「こちらに来い」と目配せした。
「彼女はハルテ伯爵家のディララ。結婚したいんです。彼女以外は考えられない。これで父上達にも親孝行が出来ると言うものです。許可をもらったらディララの両親にも話しをするように考えています」
未婚同士でかつ、平民であれば問題はないだろうが幾つかの問題点を無視して話をするベルガシュにオルコット侯爵がやんわりと「待った」をかけた。
75
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる