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cyaru

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第09話  ちょっと待った!

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ベルガシュが帰ってきたとの知らせがオルコット侯爵夫妻にも知らされた。

親のいない時を見計らって屋敷に戻ってくるのもベルガシュにはいつものこと。
だが、今回ばかりは「失敗した」と思わなくもない。

貴族の結婚は非常に面倒で貴族でいたい、現状の生活がしたいのであれば当主の了承が必要なのは当然。

爵位を継ぐに婚姻も必須。余程の事がない限り親の決めた相手と結婚し、それから爵位を継ぐ順番になる。親が早世した場合は後見人が親の役目を担うが、その場合は後見人が親族であるが故に揉めることが多い。

今回ばかりは侯爵夫妻がいなければ戻ってきた意味がない。


オルコット侯爵家は正妻である夫人が子を産んでいないため、庶子の扱いであっても侯爵の子であるベルガシュが家を継ぐ。親戚筋を頼れば他にも後を継げる者がいなくはないがベルガシュが継ぐ方がスムーズに事が運ぶのも間違いない。

貴族は醜聞を嫌う。オルコット侯爵家の場合ベルガシュが後を継がないとなれば「教育の失敗」を知らしめることにもなる為、その後の事業に影響も出てしまう。
子息の1人も躾が出来ないとなれば、足元を見られてしまうからである。

――結局、俺がいないと困るって事だよな――

自身の代わりはいないとタカをくくっているベルガシュ。
祖母の葬儀で貰った形見分けの宝飾品を売り、自身の私財を使い果たして帰ってきた。
実に中級文官15年分の所得に匹敵する額を綺麗さっぱりのスッカラカン。

何故帰って来たかと言えば「そろそろ落ち着こう」と考えたからである。


ベルガシュの隣には清楚に見える令嬢が1人。
アイリーンと家令のブレドはそんな令嬢も視界には捉えていたが、言ってみれば「夫の友人」を逐一報告して頂かなくても問題はないと作付けの話に話を戻し、ベルガシュは空気となっていた。


「おい!無視するな!早く荷を纏めろ!」

喚き散らすベルガシュの腕に縋り、心配そうに見上げる令嬢。
そこに慌ただしく先にオルコット侯爵、2,3分ほど遅れてオルコット侯爵夫人がやってきた。役者がそろったとばかりにベルガシュは胸に手を当てて頭を深く下げた。

――あれ?この場合の礼は最敬礼ではないんじゃないかしら?――

チラリと家令のブレドを見るとアイリーンに向かって小さく頷いた。
が、ベルガシュは全く気が付いておらず、オルコット侯爵夫妻に向かって言葉を発する。

「父上、母上。ご無沙汰をしておりましたが、紹介したい女性がいるので時間を作って戻って参りました」

ベルガシュの言葉に隣にいた令嬢がペコリと頭を下げる。


――ん?先言後礼せんげんごれいじゃなかったかしら――
――それに自分が時間を作って?言葉がおかしくない?――

またもやチラリと家令のブレドと目が合えば、ブレドが小さく頷く。
つまり、ベルガシュの言動は全てがおかしいという結論。

最初の一言もだが、親に対しての物言いにアイリーンは夫人の「見た目以外は壊滅的」との言葉を思い出していた。


オルコット侯爵夫妻は女性が誰なのか、直ぐに察しがついたようだがアイリーンには初見。尤も夫のベルガシュでさえアイリーンには初見である。

女性を見やる目を見れば、わざわざ言葉にしなくても言いたいことは察しが付く。
案の定、ベルガシュは熱い視線を令嬢に向け、言葉だけをオルコット侯爵夫妻に投げた。


「父上、母上。この女性と結婚したいのです。許可してくれますよね」

顔も向けずに言い放つベルガシュに侯爵夫人が一言だけ返した。

「寝言なの?」

実の母でもなければ、育ててもらった覚えもないと言わんばかりのベルガシュは侯爵夫人の言葉を無視して、同じ言葉を今度は父であるオルコット侯爵に向けて発した。

受け流すのはオルコット侯爵の得意技なのか。

「立ってする話でもあるまい。まぁ、かけなさい」

ソファを勧められて、ベルガシュはまず令嬢を、そしてベルガシュが侯爵夫妻よりも先に腰を下ろす。もう何も言うまいと侯爵夫人はアイリーンに「こちらに来い」と目配せした。

「彼女はハルテ伯爵家のディララ。結婚したいんです。彼女以外は考えられない。これで父上達にも親孝行が出来ると言うものです。許可をもらったらディララの両親にも話しをするように考えています」


未婚同士でかつ、平民であれば問題はないだろうが幾つかの問題点を無視して話をするベルガシュにオルコット侯爵がやんわりと「待った」をかけた。
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