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第12-2話  深夜の取り決め②

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「貸すのではなく渡す」というアイリーンにオルコット侯爵夫妻は顔を見合わせて首を傾げる。
だが、アイリーンは領地経営を教えてもらうにあたって、面白い事に気が付いた。


「時効取得を利用するんです」
<< 時効取得?! >>


「ここは俺の爺さんの土地だ!とか揉める事がありますが、賃借の契約をしていれば済む事を怠ったからでもあります。契約の不備ですね。つまり、賃借契約をせずに土地の賃借料に見合う額を名を変えて頂きつつ、領民に所有者となって貰うんです」

「それはかなり法の抜け穴と言うか…凄い事を思いつくものだな」

「法律ってこの場合はこうなるって事を書かれているだけです。だから相続税もそのまま貰ってしまうと贈与税となって税率が違うものもあるでしょう?生前贈与でさえ、貰う側がその事実を知らなかったら贈与税ですから知っている方は相続税対策として色々行われていますよね」

「そういう意味か。で?時効所得をどう扱うんだい?」

「元々の領民に加えて農業や酪農をしたいという者を集め組合を作り、共同で経営させるんです。休耕としている地がありますので、未経験の者はそこで土つくりから学び、経営に携わる。彼らに土地を渡すんです。貸すのではなく渡すんです。ここ大事ですからね?土地は無償でも収穫高に対しての納税もありますから、侯爵様は収穫高に対し税率の20%の納税分とその納税に対して20%の手間賃の手数料、つまり40%を支払って貰うんです」

「なるほど。面白いね。いいんじゃないかな。失業者対策にもなるだろう。だが…」

「問題はあります。それだけでは、領民には40%の支払いがずっとつき纏います。納税は仕方ないにしても、もう20%の手数料が続くとなれば不満も出ると思うんです。なので…時効所得です。侯爵様の土地だと20年所有する事で土地の所有者が移ります」

「20年は長いね。60歳の還暦を過ぎてしまうよ。ハハハ」

アイリーンはビシっと人差し指を1本だけ立てた。

「侯爵様、だから10年です!侯爵様の土地だと10年で時効所得が発動します。その為に組合を間に挟むんです。領民は40%を侯爵様に支払うのではなく、組合に先ずんです。領民は「組合から貸して貰っている」というスタンス。組合は「管理をしなければ」というスタンス。そこに貸し借りは存在しないんです」


うーん…考え込むオルコット侯爵は家令のブレドに紙とペンを頼むと「侯爵家」「領民」「組合」と文字を書き、グルグルと円で囲むとそれぞれを矢印で繋いで考え込んだ。


「手数料等として4割は支払って貰う‥‥2割は税金・・・なるほどなぁ。10年の期間、真面目に働けばその区画が自分の所有地になる。ずっと借りっぱなしと言う事でもないのだから農夫にも目標が出来るわけか」

「元々耕作をされている方には優遇措置を設ければ差別化も図れるかと。例えば新規の方には40%だけど、元々の領民の方は35~32%。如何でしょう」

「そうね。あぜ道で分けられているから、それを区画とすればいいし、共同で経営する母体の組合には困れば頼れるし、侯爵家としても発言権を10年は保つことも出来るのね。組合は親戚筋の人間を役員として置けばいいわ」

「だが、それとベルガシュを切り離すのと、どう関係があるんだ?」

「数年の間は流刑地の管理費だけでなく、領地からのお金も彼に支払うのです。実際の農地、いえ領地ですね。作付けなどの管理は組合が行いますので、彼は何もする必要はありません。納税分だけオルコット侯爵夫妻が行えば税の滞納もありません。期日が来れば領地は農夫たちの持ち物となり、侯爵家の手から離れます。農夫1人1人と土地の売買契約をするのではなく時効取得ですし、担保にしようにも名義は侯爵様のままですのでお金を借りられる事もありません」

アイリーンはオルコット侯爵からペンを借りると紙の隅に「ベルガシュ」と書き加えた。テンテン‥と破線で「侯爵家」の文字と繋ぐが最後にその破線にバツを書き入れた。

「オルコット侯爵は引退をするのではなく、彼を「分家」とし、分家がこの王都に残り、本家は引退後も経営しようとお考えの領地に拠点を移すだけです。時効取得の10年ですが明日から動き出せば私の離縁から5年半後には発動します。その後も寄生されれば・・・侯爵様、生活できませんよ?尤も、そのまま爵位譲渡ならもっと早く経済的に困窮すると思います。その時に一番困るのは誰か・・・領民ですっ!(ビシィ!)」


アイリーンの言葉に流石のオルコット侯爵夫妻も唸った。
その頃になれば自分たちももう50歳になっているだろうし、そこから全てを失って生きていくのは困難。細々と経営を続ける領地にまでベルガシュに来られてしまえば・・・お先真っ暗だ。

支援を要請してくるのではなくおそらく・・・領地は直ぐに現金化して借金にあてがわねば住む場所も失う。

爵位譲渡で引退となれば、当主を引き継がせた責任も発生する。だが、「分家」とすれば切り捨てる事は出来る。家名が同じであるだけで「他家」の扱いなのだ。


「生きていくのはみんな同じです。生活を失いたくないなら、流刑地の管理費だけだったのを、他の領地からのお金の一部を渡すのですから散財しなければ良いだけ。みんなそうやってコツコツと貯めているんです」

「でもそうなるとアイリーンはどうするの?」

「私は・・・閉山になる鉱山がある領地を頂ければと思います。そこだけ他の領地ともかなり距離がありますし、農作はほとんど出来ませんから」

「あれは持っているだけで負債よ?正気なの?」

「頂けるのならその領地が良いんです(にこり)」

「判った。私も腹を括る時が来た。もうベルガシュに何かを期待するのはめるよ。ベス・・・25年間、今まですまなかった。アイリーンの案に乗ろう。ベスが連れて来てくれたアイリーンこそ天使だよ」

――いや、私、死んでませんけど?ン?おや?愛称呼び?――


領地を切り売り、いや投げ売りとも言える案。
オルコット侯爵夫妻が異を唱えないのは、現状で4年半という月日が経過した後はアイリーンも離縁となり、ベルガシュが領地経営をする事になるが、そうなればあっという間に経営は行き詰ってしまう。

当主となったベルガシュには現状維持ですら難しい。遊興費に領地を売り飛ばす事も容易に考えられえるのであれば、「どうせ無くなる土地」と割り切って、領民のものとした方が良い。

ただ、領民も土地を買い取るだけの金は持っていないだろうから、今まで通り畑を耕しながら期日が来れば地主になれるとすれば労働意欲も高まるだろう。

正規の地主となるまでの期間は組合という寄合で生活を守る事も出来る。


「本当に貴女は・・・いい拾い物だったわ。あら・・・違うのよ?モノ扱いではないのよ?」
「判っています。気になさらないでください」

「そうなれば・・・あの娘が17歳になるまでの2年で組合を形にせねばならないな」
「えぇ、その後離縁までの期間で軌道に乗せねばなりませんわ。恋人と遊ぶ時間は御座いませんわね」
「夫人!その件は――」
「アイリーン!!」


オルコット侯爵は憑き物が落ちたようにスッキリとした笑顔をアイリーンに向け、言葉を遮った。


取り敢えずの方向性を確認した3人。その場にベルガシュがいなかったのが幸いだった。
ベルガシュにはベルガシュがなにもしなくても国が賃料を払ってくれる流刑地となった領地がある。管理すら必要ない上に面積も一番大きな領地。

勝手に売る事も担保にする事も出来ないが、アイリーンと離縁後は王都の屋敷もベルガシュが住む事になる。その屋敷をどうしようがベルガシュの自由。

「ベルガシュに残すのは流刑地の領地とこの屋敷と土地だけでいいの?」

侯爵夫人が吹っ切れたようにオルコット侯爵に問う。

「残しすぎなくらいだ。今までベルガシュが使い込んだ金を相殺し、無一文でも良かったんだ」

「あら?よくお判りなのね。さてと、わたくしはもう休みます。日が昇ればお忙しい身ですもの。早くお休みくださいませね?」


チクリと嫌味の棘を刺すのも忘れない夫人。

――ホント…息子にも苛ついたけどこの夫婦にも苛つくわぁ――

アイリーンは半開きになった口をあくびで誤魔化した。

アイリーンは知らない。

先に夫人が、続いてアイリーンが退室した部屋でオルコット侯爵が閉じた扉に最敬礼で頭を下げ「ありがとう」と呟いた事を。

知っているのは家令のブレドだけの秘密となった。
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