旦那様の純愛。全力で応援致します

cyaru

文字の大きさ
18 / 37

第17話  アイリーンとジェシーの吐き気

しおりを挟む
ベルガシュの様子がおかしい。

1日1回はハルテ伯爵家には出向いているのだが、出掛ける時間が遅くなったり、ハルテ伯爵家での滞在時間が2時間程と短かったり、夕方まで出掛ける素振りも無かった日にはハルテ伯爵家から迎えが来て、ブツクサと文句を言いながら馬車に乗り込んで出掛けた日もある。

使用人の間では「熱が冷めた?」と噂をする者もいたが、それまでベルガシュの恋人と言われた令嬢達は期間が長いもので7、8カ月のお付き合いだったのだからそう思われても無理はない。

が、12カ月のカレンダーが2年目になっても続いている。
「真実の愛」はそう簡単に消えるモノじゃないとベルガシュに聞こえるように話をする使用人もいたが、使用人達が胸のうちで思うのは「金がないんだろうな」で統一されていた。


事業を手伝う事もしないベルガシュに自由になる金はない。

それまでが異常だったのだ。金を無心し得られなければ両親の部屋から売れそうなものを拝借し、金にする。侯爵家の人間が身に着けるモノに「偽物」はないため1つ売れば暫く遊んで暮らせた。

金を与えられず、宝飾品なども家令のブレドが管理するようになると、倉庫から骨董品やアンティークなど持ち出しやすいものを売り、最後は祖母の形見まで金にしたベルガシュ。

時折、酒などを買って帰って来ることがあり「どこから金が?」と使用人達は自分たちの財布の中身を確認した。

ベルガシュはディララに顔を見せに行ったあと未亡人の元に行き、駄賃をもらっただけだが、そんな事情を知らない者は色々と屋敷から持ち出していた事を知っていたので、使用人の持ち物にまで手を出し始めたのではないかと疑っていた。それを疑う事もなく全員が持ち物を確認するのだから日頃の行いとは恐ろしい。


同じく変化があったのは、アイリーンをベルガシュが探しているということ。

決して暇ではないアイリーン。侯爵家の屋敷の執務室で1日執務を行う日もあるがここ2年で外にもよく出るようになった。
出ると言っても茶会などではなく、いくつかの商会に直接出向いて話を詰めて来るのである。朝だけ、夕方だけ侯爵夫妻に報告がてらに寄るだけの日もある。

勿論セルジュを後回しにする事はない。まだ通いと泊りを比べれば侯爵家に泊まる日が多く、アイリーンはまるで恋人に会いに行くかのように足繁くセルジュの元に通った。


ベルガシュが「あれ?」と思った時、オルコット侯爵家で就寝しているのはほぼベルガシュだけだった。侯爵夫妻は執務を終え、夕食を取ると敷地は同じだがこじんまりとした別邸に戻って行く。
アイリーンの部屋には私物はなく、執務に必要なものが整然と並べられてるだけ。

ジェシーがやらかしてしまった開かずの扉も24時間開放中だが、肝心のアイリーンが侯爵家に宿泊する際は女性の住み込み使用人の部屋にお邪魔するようになっていた。

だからこそベルガシュは「アイリーンは何処だ?」と使用人に聞き回る。


やっとアイリーンに会う事が出来たベルガシュは全身から喜びを発し声を掛けてきた。

「久しぶりだな。痩せたんじゃないか?」

――なに?なんなの?気持ち悪い――

つい眉間に皺を寄せてしまったアイリーン。

「ご心配なく。日に三度の食事はきっちりと美味しく頂いております」
「そうか、それは良かった。ところで時間はないか?」
「御座いません。今だってここに立ち止まる時間、どこかで調整をせねばなりませんので、ご用件でしたら手短にお願いします」
「相変わらずつれないな。食事でもどうだ。感じのいいレストランを知ってるんだ」
「数日会食の予定が詰まっておりますので無理です」
「夜じゃなくていい。朝を一緒に迎えれば朝食は取れるだろう?」


――うわぁ…気持ち悪すぎる。何言ってるの?――

隣を見ればジェシーが胸の辺りを押さえて吐き気を堪えていた。
アイリーンももう消化されたかと思った数時間前の昼食が逆流しそう。

「お断りいたします」
「屋敷にいない日もあるようだが、男でも作ったのか?」
「瑕疵となるような行為は趣味では御座いませんので。急ぎますので失礼」

アイリーンに時間がないのは本当である。
唯一アイリーンが願って譲ってもらった領地は確かに農作物や魚介類などで収益を上げることは不可能に近い。流刑地のように有害物質がないだけ御の字。

ただセルジヤギュの為に、大好きな崖があるとイイナぁと選んだ地。

先日「もしかすると?」というヒントをジェシーがくれた。
再来週はディララが17歳となる為、オルコット侯爵家にやって来る。

ギリギリのタイミングでアイリーンも「ラビットハウス」と命名した家への完全引っ越しも完了した。今日、侯爵家に来たのは報告の件もあるが、3カ月ほど王都を留守にする事を侯爵夫妻に告げに来た。

何処に行くかと言えば、譲られた領地。自分の目で確かめねばまだサンプルしか見せる事も出来ておらず、商会への説明も不十分にしか行えないと思い、現地に出向く事にしたので許可を得にやってきた。

領地までは急げば片道10日。ゆっくりならば2週間はかかる。
嫌がらせをしてくるなど、ありもしない事をでっち上げるディララとすれ違うのも面倒。同じ空気を吸ったというだけで何を吹っ掛けられるか。堪ったものではない。

正式に結婚はまだ出来ないと言っても新しく2人で生活を始める「新婚さん」の邪魔をするつもりは全く無いのだが、ベルガシュの言葉が気持ち悪くて仕方がない。


「吐くかと思いました。吐かなかったジェシー!褒めてください」
「ジェシー、実は私もなの。褒めあいっこ‥‥する?」
「それってなんだか ”1人ジャンケン” か ”2人でババ抜き” 並みに虚しいですよね」
「そうなの?!私、 ”1人かくれんぼ” した事あるんだけど?!」
「アイリーンさん・・・ガチだと怖いですよ?」
「ガチよ。だってセルジュは私が鬼でもういいかぁいって言うと、真後ろでメェって言うんだもの。1人でするしかないでしょう?」
「ヒュッ!!」


どうやって隠れるんだろう?いや、数えられないよね?隠れながら数える?
「1人かくれんぼ」はジェシーの中で「世界3大ミステリー」の1つとなったのだった。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...