19 / 37
第18話 乗車拒否のセルジュ
しおりを挟む
「ちょっとの間だからね。我慢して。ね?」
「メェメェ」
荷馬車に積み込まれた日を覚えているのか、馬車を見て足を踏ん張り乗るのを嫌がるセルジュ。人間のセルジュがよいしょと抱えて馬車に乗せても怪我をするのでは?と思うほど暴れ回り、アイリーンはセルジュと行くことを諦めた。
何処に行くのかと言えば、終の棲家となる鉱山がある遠い領地への視察。
3カ月の間、離れ離れになる事にアイリーンは不安で胸が押しつぶされそうになる。
「大丈夫ですか?顔色悪いですけど」
「セルさん。セルジュと領地に行くのは無理だなと思って。今回は視察だからいいんだけど、本格的に引っ越すとなった時、どうしようかと」
「その時は俺がセルジュと歩きますよ。先に行って待っててください」
「歩く?あの距離を?!」
「ここから見れば遠いですが、俺、帝国からも歩きだったんでそれに比べればなんてことないです。傭兵の時も馬やらに乗るのはお偉いさんばっかりだったし、荷馬車に鎮座してたのは人間じゃなく大砲なんかの武器です。俺ら、大砲様が乗った荷馬車を押したり引いたりでしたよ。だから、ただ歩くだけなら苦にもなりません」
アイリーンが「ラビットハウス」に完全引っ越しをするまで、人間のセルジュがアイリーンが時間が取れない時はセルジュの世話を買って出てくれていた。
既に人間の年齢で言えば大人になっているセルジュ。
取り敢えずは発情の傾向は薄そうだと人間のセルジュから聞いてアイリーンは慌てた。
「そうよね。セルジュだって彼氏が欲しいよね。もう大人だもん」
王都でお婿さん探しするよりも領地に行ってからにしようと考えているが、もう3歳となったセルジュ。友達が近くにいるのに遠くに行くようでアイリーンは少し寂しさも感じていた。
そんな中で3カ月もセルジュと離れていなくてはならない。
セルジュを興奮したままで置いていくことが出来ず、庭の草を食べるセルジュをアイリーンは玄関の入り口にある数段の階段に腰掛けて様子を眺めた。
人間のセルジュは元気のないアイリーンの隣に腰を下ろす。
「俺、世話するんで安心して行ってきてください。やっと文字もそこそこ書けるようになったんでペンとノートも買ったんですよ。毎日セルジュの様子も書いておくんで」
帝国で生まれ育ったセルジュはボートレイナ王国の文字は全く書けなかった。言葉は色んな所からの寄せ集めが傭兵達だったので、そこで言葉は覚えたが文字はサッパリ。
尤も帝国の文字もきちんとは書けない。命令書にある定型文の文字を判読するのが出来るレベル。
セルジュは貧民窟で育ったため、教育を受ける機会はなかったためである。
ジェシーや通いの使用人から習って、やっとボートレイナ王国の文字が読み書きできるようになった。
「セルさんってセルジュ結構懐いてるわよね。ちょっと悔しいわ」
「セルジュの一番は何時だってアイリーンさんですよ。俺じゃないです」
「そうかしら…はぁ~セルジュぅぅ~」
「ホントにセルジュの事、好きですよね」
「うん。セルジュのこと、大好きなの」
少しはにかみながらアイリーンは座って立てた膝に顔を横向きにして人間のセルジュに答えた。
――ドキィィーッ!!――
コテンと顔を傾けて自分の事ではないと判っていても「セルジュの事が大好き」と言われると勘違いもしてしまいそうになる。
2年もセルジュの世話をしながら毎日のように顔を合わせていると、色んな顔のアイリーンを見る事にもなり、セルジュは胸の奥に口にしてはならない気持ちが芽生えている事も自覚していた。
――母親が獄中死した男に好かれても迷惑なだけだよな――
とても人に言えるような両親ではない。
アイリーン達にですら、恥ずかしいを通り越し禁忌のようにも感じて両親の事は一切話をしていなかった。
それでも受け入れてくれる。そう思う事もあったが母親の事を知ると態度を変える者が10人いれば10人。100人いれば99人。
今のセルジュはアイリーンにセルジュ自身を拒否される事が怖くて仕方なかった。
貧乏というだけなら同情もされるが、傭兵に行った先でも母親の事を知ると距離を取られた。中には「犯罪者の子供なんだから盾になれ」と平気で言う者もいた。
「娘をもらってくれないか?お前なら安心して娘を預けられる」と言った兵士も母親の事を知ると「娘を不幸にしたい親なんかいない」と話はなかった事になった。
娼婦ですら「じゃ、割増料金なら相手してあげる」と言う始末。
隊の中で窃盗があれば真っ先に疑われるのもセルジュだった。
勿論、「親は親、子は子」「お前が悪い訳じゃない。胸を張れ」と態度が変わらなかった者もいるが極少数。どんなに頑張っても、どんなに誠実であろうと向き合っても世間はセルジュに冷たかった。
アイリーンに雇われてからの2年間は穏やかな日々で、戦地や貧民窟と違って寝首を掻こうとする者はいないし野盗もいない。1度だけ野犬がセルジュに飛び掛かりそうになったが追い払った。
今回、アイリーンがセルジュを連れて遠い領地に視察に行くと聞いて、セルジュも同行するつもりだった。ラビットハウスは留守にしても通いの使用人がいて掃除をする為毎日やって来る。
少し離れた所から無事であることを確認したくて、自主的についていくつもりだった。
セルジュの世話はするから安心して行ってくれという言葉に嘘はないが、気持ちはザワザワと波を起こす。
「そろそろ行くわ。日が落ちるまでに峠を越えないと」
――行かないでほしい――
セルジュは咄嗟に言葉を飲み込んだ。
「出来るだけ早く帰って来るわ。セルジュの事、お願いします」
「はい。道中お気をつけて」
「セルさんにもお土産買ってくるわね」
「無事に戻られれば・・・俺はそれだけでいいです」
「ありがとう」
スっと差し出されるアイリーンの手。
セルジュが戸惑うと、アイリーンはセルジュの手を両手で包むようにして「行ってきます」と微笑んだ。
するりと手が離れた時、セルジュの手は離れた手を追って伸ばしそうになったが理性で抑えた。
アイリーンの温もりが逃げないよう。
セルジュは手の甲をそっと空いた手で覆った。
「メェメェ」
荷馬車に積み込まれた日を覚えているのか、馬車を見て足を踏ん張り乗るのを嫌がるセルジュ。人間のセルジュがよいしょと抱えて馬車に乗せても怪我をするのでは?と思うほど暴れ回り、アイリーンはセルジュと行くことを諦めた。
何処に行くのかと言えば、終の棲家となる鉱山がある遠い領地への視察。
3カ月の間、離れ離れになる事にアイリーンは不安で胸が押しつぶされそうになる。
「大丈夫ですか?顔色悪いですけど」
「セルさん。セルジュと領地に行くのは無理だなと思って。今回は視察だからいいんだけど、本格的に引っ越すとなった時、どうしようかと」
「その時は俺がセルジュと歩きますよ。先に行って待っててください」
「歩く?あの距離を?!」
「ここから見れば遠いですが、俺、帝国からも歩きだったんでそれに比べればなんてことないです。傭兵の時も馬やらに乗るのはお偉いさんばっかりだったし、荷馬車に鎮座してたのは人間じゃなく大砲なんかの武器です。俺ら、大砲様が乗った荷馬車を押したり引いたりでしたよ。だから、ただ歩くだけなら苦にもなりません」
アイリーンが「ラビットハウス」に完全引っ越しをするまで、人間のセルジュがアイリーンが時間が取れない時はセルジュの世話を買って出てくれていた。
既に人間の年齢で言えば大人になっているセルジュ。
取り敢えずは発情の傾向は薄そうだと人間のセルジュから聞いてアイリーンは慌てた。
「そうよね。セルジュだって彼氏が欲しいよね。もう大人だもん」
王都でお婿さん探しするよりも領地に行ってからにしようと考えているが、もう3歳となったセルジュ。友達が近くにいるのに遠くに行くようでアイリーンは少し寂しさも感じていた。
そんな中で3カ月もセルジュと離れていなくてはならない。
セルジュを興奮したままで置いていくことが出来ず、庭の草を食べるセルジュをアイリーンは玄関の入り口にある数段の階段に腰掛けて様子を眺めた。
人間のセルジュは元気のないアイリーンの隣に腰を下ろす。
「俺、世話するんで安心して行ってきてください。やっと文字もそこそこ書けるようになったんでペンとノートも買ったんですよ。毎日セルジュの様子も書いておくんで」
帝国で生まれ育ったセルジュはボートレイナ王国の文字は全く書けなかった。言葉は色んな所からの寄せ集めが傭兵達だったので、そこで言葉は覚えたが文字はサッパリ。
尤も帝国の文字もきちんとは書けない。命令書にある定型文の文字を判読するのが出来るレベル。
セルジュは貧民窟で育ったため、教育を受ける機会はなかったためである。
ジェシーや通いの使用人から習って、やっとボートレイナ王国の文字が読み書きできるようになった。
「セルさんってセルジュ結構懐いてるわよね。ちょっと悔しいわ」
「セルジュの一番は何時だってアイリーンさんですよ。俺じゃないです」
「そうかしら…はぁ~セルジュぅぅ~」
「ホントにセルジュの事、好きですよね」
「うん。セルジュのこと、大好きなの」
少しはにかみながらアイリーンは座って立てた膝に顔を横向きにして人間のセルジュに答えた。
――ドキィィーッ!!――
コテンと顔を傾けて自分の事ではないと判っていても「セルジュの事が大好き」と言われると勘違いもしてしまいそうになる。
2年もセルジュの世話をしながら毎日のように顔を合わせていると、色んな顔のアイリーンを見る事にもなり、セルジュは胸の奥に口にしてはならない気持ちが芽生えている事も自覚していた。
――母親が獄中死した男に好かれても迷惑なだけだよな――
とても人に言えるような両親ではない。
アイリーン達にですら、恥ずかしいを通り越し禁忌のようにも感じて両親の事は一切話をしていなかった。
それでも受け入れてくれる。そう思う事もあったが母親の事を知ると態度を変える者が10人いれば10人。100人いれば99人。
今のセルジュはアイリーンにセルジュ自身を拒否される事が怖くて仕方なかった。
貧乏というだけなら同情もされるが、傭兵に行った先でも母親の事を知ると距離を取られた。中には「犯罪者の子供なんだから盾になれ」と平気で言う者もいた。
「娘をもらってくれないか?お前なら安心して娘を預けられる」と言った兵士も母親の事を知ると「娘を不幸にしたい親なんかいない」と話はなかった事になった。
娼婦ですら「じゃ、割増料金なら相手してあげる」と言う始末。
隊の中で窃盗があれば真っ先に疑われるのもセルジュだった。
勿論、「親は親、子は子」「お前が悪い訳じゃない。胸を張れ」と態度が変わらなかった者もいるが極少数。どんなに頑張っても、どんなに誠実であろうと向き合っても世間はセルジュに冷たかった。
アイリーンに雇われてからの2年間は穏やかな日々で、戦地や貧民窟と違って寝首を掻こうとする者はいないし野盗もいない。1度だけ野犬がセルジュに飛び掛かりそうになったが追い払った。
今回、アイリーンがセルジュを連れて遠い領地に視察に行くと聞いて、セルジュも同行するつもりだった。ラビットハウスは留守にしても通いの使用人がいて掃除をする為毎日やって来る。
少し離れた所から無事であることを確認したくて、自主的についていくつもりだった。
セルジュの世話はするから安心して行ってくれという言葉に嘘はないが、気持ちはザワザワと波を起こす。
「そろそろ行くわ。日が落ちるまでに峠を越えないと」
――行かないでほしい――
セルジュは咄嗟に言葉を飲み込んだ。
「出来るだけ早く帰って来るわ。セルジュの事、お願いします」
「はい。道中お気をつけて」
「セルさんにもお土産買ってくるわね」
「無事に戻られれば・・・俺はそれだけでいいです」
「ありがとう」
スっと差し出されるアイリーンの手。
セルジュが戸惑うと、アイリーンはセルジュの手を両手で包むようにして「行ってきます」と微笑んだ。
するりと手が離れた時、セルジュの手は離れた手を追って伸ばしそうになったが理性で抑えた。
アイリーンの温もりが逃げないよう。
セルジュは手の甲をそっと空いた手で覆った。
54
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる