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cyaru

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第18話  乗車拒否のセルジュ

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「ちょっとの間だからね。我慢して。ね?」
「メェメェ」

荷馬車に積み込まれた日を覚えているのか、馬車を見て足を踏ん張り乗るのを嫌がるセルジヤギュ。人間のセルジュがよいしょと抱えて馬車に乗せても怪我をするのでは?と思うほど暴れ回り、アイリーンはセルジヤギュと行くことを諦めた。

何処に行くのかと言えば、終の棲家となる鉱山がある遠い領地への視察。
3カ月の間、離れ離れになる事にアイリーンは不安で胸が押しつぶされそうになる。


「大丈夫ですか?顔色悪いですけど」
「セルさん。セルジヤギュと領地に行くのは無理だなと思って。今回は視察だからいいんだけど、本格的に引っ越すとなった時、どうしようかと」
「その時は俺がセルジヤギュと歩きますよ。先に行って待っててください」
「歩く?あの距離を?!」
「ここから見れば遠いですが、俺、帝国からも歩きだったんでそれに比べればなんてことないです。傭兵の時も馬やらに乗るのはお偉いさんばっかりだったし、荷馬車に鎮座してたのは人間じゃなく大砲なんかの武器です。俺ら、大砲様が乗った荷馬車を押したり引いたりでしたよ。だから、ただ歩くだけなら苦にもなりません」


アイリーンが「ラビットハウス」に完全引っ越しをするまで、人間のセルジュがアイリーンが時間が取れない時はセルジヤギュの世話を買って出てくれていた。

既に人間の年齢で言えば大人になっているセルジヤギュ。
取り敢えずは発情の傾向は薄そうだと人間のセルジュから聞いてアイリーンは慌てた。

「そうよね。セルジヤギュだって彼氏が欲しいよね。もう大人だもん」

王都でお婿さん探しするよりも領地に行ってからにしようと考えているが、もう3歳となったセルジヤギュ。友達が近くにいるのに遠くに行くようでアイリーンは少し寂しさも感じていた。

そんな中で3カ月もセルジヤギュと離れていなくてはならない。
セルジュを興奮したままで置いていくことが出来ず、庭の草を食べるセルジュをアイリーンは玄関の入り口にある数段の階段に腰掛けて様子を眺めた。

人間のセルジュは元気のないアイリーンの隣に腰を下ろす。


「俺、世話するんで安心して行ってきてください。やっと文字もそこそこ書けるようになったんでペンとノートも買ったんですよ。毎日セルジヤギュの様子も書いておくんで」

帝国で生まれ育ったセルジュはボートレイナ王国の文字は全く書けなかった。言葉は色んな所からの寄せ集めが傭兵達だったので、そこで言葉は覚えたが文字はサッパリ。
尤も帝国の文字もきちんとは書けない。命令書にある定型文の文字を判読するのが出来るレベル。

セルジュは貧民窟で育ったため、教育を受ける機会はなかったためである。

ジェシーや通いの使用人から習って、やっとボートレイナ王国の文字が読み書きできるようになった。


「セルさんってセルジヤギュ結構懐いてるわよね。ちょっと悔しいわ」

「セルジヤギュの一番は何時だってアイリーンさんですよ。俺じゃないです」

「そうかしら…はぁ~セルジヤギュぅぅ~」

「ホントにセルジヤギュの事、好きですよね」

「うん。セルジヤギュのこと、大好きなの」


少しはにかみながらアイリーンは座って立てた膝に顔を横向きにして人間のセルジュに答えた。

――ドキィィーッ!!――

コテンと顔を傾けて自分の事ではないと判っていても「セルジュの事が大好き」と言われると勘違いもしてしまいそうになる。

2年もセルジヤギュの世話をしながら毎日のように顔を合わせていると、色んな顔のアイリーンを見る事にもなり、セルジュは胸の奥に口にしてはならない気持ちが芽生えている事も自覚していた。


――母親が獄中死した男に好かれても迷惑なだけだよな――


とても人に言えるような両親ではない。
アイリーン達にですら、恥ずかしいを通り越し禁忌のようにも感じて両親の事は一切話をしていなかった。

それでも受け入れてくれる。そう思う事もあったが母親の事を知ると態度を変える者が10人いれば10人。100人いれば99人。

今のセルジュはアイリーンにセルジュ自身を拒否される事が怖くて仕方なかった。


貧乏というだけなら同情もされるが、傭兵に行った先でも母親の事を知ると距離を取られた。中には「犯罪者の子供なんだから盾になれ」と平気で言う者もいた。

「娘をもらってくれないか?お前なら安心して娘を預けられる」と言った兵士も母親の事を知ると「娘を不幸にしたい親なんかいない」と話はなかった事になった。

娼婦ですら「じゃ、割増料金なら相手してあげる」と言う始末。

隊の中で窃盗があれば真っ先に疑われるのもセルジュだった。

勿論、「親は親、子は子」「お前が悪い訳じゃない。胸を張れ」と態度が変わらなかった者もいるが極少数。どんなに頑張っても、どんなに誠実であろうと向き合っても世間はセルジュに冷たかった。

アイリーンに雇われてからの2年間は穏やかな日々で、戦地や貧民窟と違って寝首を掻こうとする者はいないし野盗もいない。1度だけ野犬がセルジヤギュに飛び掛かりそうになったが追い払った。

今回、アイリーンがセルジヤギュを連れて遠い領地に視察に行くと聞いて、セルジュも同行するつもりだった。ラビットハウスは留守にしても通いの使用人がいて掃除をする為毎日やって来る。

少し離れた所から無事であることを確認したくて、自主的についていくつもりだった。
ルジヤギュの世話はするから安心して行ってくれという言葉に嘘はないが、気持ちはザワザワと波を起こす。


「そろそろ行くわ。日が落ちるまでに峠を越えないと」

――行かないでほしい――

セルジュは咄嗟に言葉を飲み込んだ。

「出来るだけ早く帰って来るわ。セルジュの事、お願いします」
「はい。道中お気をつけて」
「セルさんにもお土産買ってくるわね」
「無事に戻られれば・・・俺はそれだけでいいです」
「ありがとう」

スっと差し出されるアイリーンの手。
セルジュが戸惑うと、アイリーンはセルジュの手を両手で包むようにして「行ってきます」と微笑んだ。

するりと手が離れた時、セルジュの手は離れた手を追って伸ばしそうになったが理性で抑えた。

アイリーンの温もりが逃げないよう。
セルジュは手の甲をそっと空いた手で覆った。
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