旦那様の純愛。全力で応援致します

cyaru

文字の大きさ
33 / 37

第32話  外から見れば

しおりを挟む
アイリーンが差し出した書類を先ず侯爵夫人が手に取り文字に目を走らせる。
読み進め、次の頁、次の頁と捲る度に書類を持つ手がブルブルと震えだす。

バシッ!!夫人はオルコット侯爵の胸元に書類を叩きつけた。

「いったい・・・」

オルコット侯爵も書類に目を走らせる。
捲った頁を指で挟み、前後を見比べるように視線が動く。

2人を黙らせて動きを止めるには十分の内容だった。
まだ書類に目を通すオルコット侯爵だったがアイリーンはどちらにいうでもなく。

「外でする話ではありませんので、中にどうぞ」


こじんまりとした家の中。アイリーンは夫妻に椅子を勧め、向かいに腰を下ろした。

「これは本当なのか…」
「私も驚きました。侯爵家で帳簿を見ていた時に作付けなんかで時期がおかしい発注がありましたが、私も素人なので指摘をするには至りませんでした。ですがその後、夫人から頂いた領地に出向き、事業についても行ううちにやはりおかしいと。石を運ぶ業者も同じだったのでそこから手を広げ、有力な情報が手に入ったのはエンヴィー様にモデルとして夜会に行くようにと言われ・・・まさかのまさかでした」

「だとすれば私は・・・嵌められたのか?」

「当事者であるベルガシュさんの母親、イメリさんはもう処刑されていますが当時の仲間だった夫人も自白しておりますので間違いないでしょう。ただ自白と言っても騎士団にではなく任意。非公式となります。時効も成立していますし、訴え出ても捕縛には至らないと思います」


ベルガシュの生みの母イメリは貴族の令嬢ではあったが家は貧乏。一定の年齢になれば家を出ねばならなかった。それはイメリだけではなく低位貴族ならどの家も似たり寄ったり。

イメリはそんな令嬢や子息と手を組み、高位貴族の子女を狙って「ゆすり」を行っていた。狙うのは既婚者や婚約者がいる者。狙われた令嬢たちは危険な遊びをアヴァンチュールだと楽しんだ。

結婚に純潔である事は当時は当たり前。
身持ちが悪いと噂になれば事業を介し組んだ縁談が破談になると困るでしょう?と初夜の回避(誤魔化し)方法を教え、口止め料をせしめる。

オルコット侯爵のように男性相手の場合は「貴方の子供だ、責任を取れ」と詰め寄る。
イメリは実際妊娠もしていたので、「腹の子をおろす金を出せ」と数件の貴族から口止め料も込みで金を受け取った。

オルコット侯爵家が残ったのは、妊娠をする行為をする前後イメリは別の詐欺案件を抱えていて、行為を行っていなかった。堕胎費用を騙し取られた家は妊娠したと判った後に関係を持った子息。

イメリは痩せていてあまり腹も大きく出なかったため、実際は妊娠7か月でも下腹部が少し出ている程度。月齢の誤魔化しは容易だった。

避妊など避妊具そのものに細工をすれば男性側には判らない。
オルコット侯爵は自分をあの日夜会に誘った友人の中にイメリの仲間がいた事を知り愕然とした。

「でも、それなら夫人として居座れば良かったのに…」

侯爵夫人の言葉は尤も。しかしイメリにそんな気持ちはなかった。
生活が保障されるとはいえ、制約の多い高位貴族の夫人達。
イメリは束縛のある立場より金と自由を選んだだけだった。


「だけど、そもそもの所でユダ裏切者を引きれていては意味がないでしょうね」
「だが!ブレドは父の代からの家令で…まさか…そんな・・・」

「ブレドさんかイメリの仲間ではありませんが、広い意味では似たもの同士、同じ穴の狢でしょうか。そこそこにお給金も貰っていたでしょうけど、お金の魅力は人を惑わせますから。ご子息に生みの母であるイメリが簡単に接触出来た。それまでごく普通の問題ない子息だったんですから酒場に入り浸るイメリと接触する筈がないんです。屋敷内に引き合わせた者がいると考えた方が自然です」

「だが、どうしてブレドだと?」

「先程も言ったでしょう?帳簿におかしな点があったと。真冬で通行できないのに利用料が記載された運搬費、収穫の時期に撒かれたという種。で、サンプルを領地から取り寄せたんですけど、頼んだ数と届いた数が合わない。出したはずという手紙が私に届いていない。届いた品が間引きされている。真っ先に・・・ジェシーを疑いました」

「えぇーっ?私ですか?!」

ビックリしてジェシーはカップに注いだ茶を配ろうとしていたが落としそうになった。

「ごめんなさい。でも、すぐに違うと判ったわ。だってジェシーは帳簿に記載する数字はいじれないもの。で、このラビットハウスにも出入り出来て、侯爵家でも帳簿は執務の間につけていたから双方に共通する人を残して、残ったのがブレド。私に帳簿なども教えてくれたので、あぁ侯爵家の経理も彼の手を通るなぁと。ブレドは定年で辞めるそうですけども、嘱託で延長も出来ます。それをしないのは侯爵家にブレド的な旨味が無くなるからでしょう。憶測ですが仮にイメリが妊娠していなかったら、侯爵様の不貞を知っていますよ?と金銭なり立場の更なる優遇なりを要求するつもりだったかも知れません」

「そうだな。嘱託となれば本来の業務は新しい家令が行う事になる。父上が当主だった頃は使用人の賃金水準も低かった。ブレドも家令になったばかりで父上付の執事の方が賃金も良かったからな」


項垂れるオルコット侯爵にアイリーンはもう数枚の紙を差し出した。


「これは石を運ぶにあたってエンヴィーさんの商売は運送業を営む商会にもドル箱事業です。凄く口が堅くて・・・キックバックをブレドさんに支払っていた事を証言を引き出すのは骨が折れました。その運送業の商会の帳簿の抜き出しです。オルコット侯爵家から支払われたお金がブレドさんに返されています。商会もその額が売り上げとなれば税率が変わるので、外注費として決済するしかなかったんでしょう」

「ブレドは帰宅したら騎士団に突き出す事にする。アイリーン・・・ありがとう」

「いいえ、私は言ってみれば外の人間なので、皆さんが築き上げた関係のような「情」がないので第三者的な目線で見れたから判っただけです。だから、同じように第三者的に見ると侯爵夫妻は本当に面倒なんです!」


口を開けたままでアイリーンを見るオルコット侯爵だが、夫人は「だとしても!」と憤った。

「ベルガシュとの話を聞いたのよ。ディララを地下牢に閉じ込め、アイリーンを侯爵家に戻すと!人の人生をいったいなんだと思っているの!騙されてベルガシュが生まれた?そりゃお気の毒だわ。でも貴方が!隙を見せずに振舞っていれば関係が持たれる事もなかった!違うの?!」

「違うんだよ。本当にそう言っておけばベルガシュは本宅に戻ってディララを宥め、時間稼ぎが出来ると思ったんだ。私だってもう‥‥ベスと・・・ベスと2人で穏かに暮らしたい・・・私の甘さでベスにはベルガシュの面倒まで見させることになって申し訳ないと。一緒に領地に行くと聞いて嬉しかった。例えまだ許して貰えなくてもベスの側にまだ居られると思ったら・・・」

「最低です。侯爵様」

アイリーンは冷ややかな視線をオルコット侯爵に向けた。

「過ちで出来た子だから要らないんですか?夫人と住むのに子供が邪魔なんですか?最低です。過ちは誰にでもありますが、そこからどうリカバリーをするか。リカバリーをしないで済む、するにしても最小限。領民が汗水たらして育てた野菜を無駄にしたくないと言いながら、子供を邪魔者扱い。二枚舌じゃないですか!そんなんだから夫人にも嫌われるんです!」


父が没落したからとアイリーンの母親は子供を捨てて出て行った。
誰かを愛するのは大事な事だけど、子供を切り捨てるのは違うんじゃないか。
アイリーンの怒りにオルコット侯爵は何も言わず、頭を下げて「先に戻る・・・帰るかどうかは任せる」と夫人に言い残しラビットハウスを出て行った。

その夜は夫人も「帰りたくない!」とごねるのでアイリーンは元々侯爵家の持ち物である家だしと夫人を泊めた。

色々な事は重なって起きるもの。
まさか、夕食が終わっての憩いのひと時に、もうひと悶着起きるとは夢にも思っていなかった。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...