旦那様の純愛。全力で応援致します

cyaru

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第31話   ラビットハウスに持ち込み不可

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目立った動きも無いまま2か月が経ったある日。

アイリーンは人間のセルジュとヤギのセルジュを連れて、朝から頬かむりをし、ツバの大きな麦わら帽子を頭に被って畑を耕していた。

いつも野菜を分けてくれる先代王弟殿下の奥様である夫人の畑。
ザックザックと畑に畝を作って行く脇でヤギのセルジュは雑草を食べる手伝い。

「ヤギ、いいわね。ホントに雑草を食べるのね」
「キャベツも好きなので食べちゃうんですけど、セルジュは畑は荒らさないんです」
「賢いわね。これでママヤギになるとヤギミルクも出るんでしょう?私もヤギ・・・飼おうかしら」

しかし、ヤギは直ぐに盗まれてしまうというデメリットもある。
既に王籍も抜けたご夫人の家には警備する兵士はいないので危険でもある。

「御主人さんも働き者だし。羨ましいわ」
「違いますよ?彼は――」
「いいの、いいの。話は聞いてるし。でも私は良いと思うのよ?誰だって夜会に他の女を毎度毎度のエスコートしてくる夫なんてお呼びじゃないわ。不貞をするにしたって筋は通さないと。その点・・・初々しいわね。彼を見てるとジョーを思い出すわ」

引きニート殿下と揶揄されるほど人が苦手て社交の場に出て来なった先代王弟殿下。
夫人と出会ったのは「小さき花を愛でつつそよぐ風に吹かれる会」という何をしているかさっぱりわからない会合でのこと。

単に身分や爵位を問わず、レンタル農場となった国有地で野菜を育てる会。
そこでは身分も年齢も性別も関係なく、誰の畑でもないのでその日やってきた者が虫を駆除したり、水やりをしたり、適芯をしたりする。

当時婚約を破棄されてしまい、引きこもりがちだった夫人に「花でも見て元気出して貰おう」と思ったのだが、花屋にある華美な花は元婚約者がよく贈っていたので、通常花屋に並ばない花をと遠目で観ればいいと連れて来た。
前々から「土いじりがしたい」と言っていたが、許して貰えず諦めていた夫人。

馬鈴薯の世話をしていた男性に「花をください」と声を掛けたメイド。
男性は返事を返してくれず、ダメだったかと夫人の乗る馬車に戻った。

すると後を追いかけて来た男性は「んっ!!」夫人に花を差し出した。
手に握られた馬鈴薯の花。受け取った時に目が合い、バチバチバチ!!閃光がお互いの心に走った。

恋に落ちた2人は結ばれるのも早かったが、出会いの場となったレンタル農場は知れ渡ってしまい土いじりをする事も出来なくなった。


「無口な人だったけど、優しい人だったのよ?彼みたいに何も言わなくても先回りして色々としてくれたりでね。私がすることなくなっちゃう!って文句言ったら、側にいてくれたらいいからって(ぽっ)」

惚気を聞かされると、どう返事を返していいか判らない。
しかし、確かに人間のセルジュはアイリーンが「次はこっちの畝」と移る前に、固い部分を解してくれて土を盛るだけにしてくれていたりもする。

「メェェ!メェェ」
「あらあらメェさん、お腹が空いたのかしら?」

――それは無いと思います――

雑草と呼ばれる草を食べまくったヤギのセルジュ。どう考えてもお腹いっぱいの筈
何故鳴いたかと言えば、人間のセルジュに「距離が遠い!」と言いたいのだろう。狭い畝の間に人間のセルジュを押し込んでアイリーンの方に寄せていく。

和気藹々と作業をしていると、ジェシーが大声でアイリーンを呼びながら畑にやってきた。

「どうしたの?ジェシー」
「どうもこうも。奥様がいらっしゃって・・・その後旦那様がやって来て喧嘩してるんです」
「喧嘩?なんでこっちでするのかしら」

アイリーンの疑問は御尤も。夫婦喧嘩をわざわざ他の家に来てしなくてもいいだろうに。

「すみません。お手伝いの途中なのに‥」
「いいのよ。いってらっしゃいな。面倒な事になって私に何か出来る事があれば言ってきてくれても構わないわよ」

――ただの夫婦喧嘩なので、大丈夫だと思いますけど――

先代王弟殿下の奥様まで巻き込むような喧嘩・・・いやいやそんなものを持ち込まないでほしい。アイリーンは「本当に面倒な夫婦」と毒吐いた。

――夫婦喧嘩は持ち込み不可って貼り紙しようかしら――

フゥーと長い息を吐く。

「セルジュ。居てもいいけどどうする?」
「メェッ!(カラン)メェッ(コロン)」
「俺、先に行ってますね。暴れてたら止めないと」
「判ったわ。セルさんもごめんなさいね」
「いいですよ。じゃ、先に。失礼いたします」

人間のセルジュは夫人にもペコリと帽子を脱いで頭を下げると首に巻いたタオルで汗を拭いながら先にラビットハウスに戻って行った。


★~★

「だから!その場凌ぎだと言ってるじゃないか」
「その場凌ぎですって?!あれが?人格疑うわ」
「気に入らないのは判る。でもあの場は仕方なかったんだ。離縁するなんて言わないでくれよ」
「は?わたくしが望めば離縁する。そう仰ったでしょう!」
「あれはもう時効だ。27年もやって来たじゃないか。許してくれたからこそだろう?」


侯爵夫人は今朝、朝食の後でオルコット侯爵に離縁を突きつけた。
「離縁には応じない。サインはしない」と言ったオルコット侯爵に昔記入済みで夫人に預けた離縁書を夫人は欄を埋めたものを提出するといい、トランクを持った数人の侍女と馬車に乗り込んでしまった。

慌てて馬車にしがみ付いて、さながらアクロバット状態で馬車の外から夫人に話しかけるのだが、聞く耳を持たない侯爵夫人。

貴族院に行く前にアイリーンの元にやって来て、喧嘩の続きを始めてしまった。

「アイリーン!頼む。一緒に説得をしてくれないか」
「そう言われましても・・・原因も判りません。侯爵様の恋人?がお屋敷に乗り込んできたとかなら庇えませんし、夫人が何かをしたのなら、理由も聞かないと・・・」

「理由?その男はね、アイリーンにあの愚息をまた押し付けようとしてるのよ」
「だから!それは嘘も方便だというだろう?なんとか宥めてあと2年。変に揉めて事を大きくする方が問題だと思っただけなんだってば」

アイリーンは2人を庭に残し、家の中に入って行くと書棚にある引き出しから数枚の書類を綴じたものを取り出した。ぱらぱらと捲り庭でまだ言い合いをする2人の元に戻る。

パンパン!!アイリーンは書類をわきに挟むと手を打ち鳴らした。
その音に侯爵夫妻は言葉を止めた。

「夫婦喧嘩は犬もヤギも食べませんので無意味です。お止めください」
「す、すまない・・・」「ふんっ!!」

アイリーンもネイルアートの事業を展開していく上で、色々と知り得た事実もある。夫妻の揉め事に興味はないが知らせておくべきだろうと書類を手にした。

「先ずですね、侯爵様がどう考えておられようとご子息との復縁はありません。夫人にはお伝えしていますが、頂いた領地もお返しします。あと2年なんですから静かに過ごしましょう」

「そうよ。なのにこの人はまた話を蒸し返して。我が子が可愛いのは大変結構。ですけども父子仲良く不貞相手とお過ごしになれば良いのです」

「不貞なんかしていないよ。確かに過ちは1度あった。それは認める!」

「その過ちなんですけども、侯爵様の責任・・・ない…とは言いませんが、こちらをご覧ください」


アイリーンは手にしていた書類を夫妻に差し出した。
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