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第02話 ない・NAI・ナイ・言ってない
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「は?何のこと?」
「惚けないでよ!ショーの事よ!」
ショーと言うのは2週間前までリサの婚約者だった男で家はモナ伯爵家。
モナ伯爵家とイクル子爵家はかなり長い付き合いがあり、その縁で婚約。来年にはリサが嫁ぐ予定だったのだが、端的に言えばショーとイリーナが親密で濃厚なお付き合いをしていた事が発覚し、婚約が破棄になった。
ちなみにその時、イクル家に支払われた慰謝料はモナ家から50万ルカ、ダダン家から30万ルカである。
貴族の婚約破棄にしては随分と安い金額だが、リサがそれでいいと言ったのでイクル家は手を打った。
金額の問題ではないからこそ、こうやってイリーナが文句を言いに来ている。
「どうして言ってくれなかったのよ!」
「私が何を言えると言うの?私の知らない所でアチチな関係になってたの貴方達じゃないの」
「黙ってたのは悪かったわ。だから慰謝料払ったじゃない」
――そう言う問題じゃないと思うけど?――
イリーナは金を払ったんだからというが、慰謝料は婚約破棄になったから払っただけで情報料ではない。リサはイリーナを無視して積まれた荷物をどの順で何処に仮置きしようかと考え始めた。
「ちょっと!無視してんじゃないわよ」
「悪いけど仕事中なの。私的な話なら後にしてくれない?」
「ハンッ。たいして儲けてもない癖に。そんな仕事よりアタシの話の方が先よ」
リサの仕事を邪魔してイリーナは捲し立てた。
「あんな業突婆とエロ親父って知ってたらショーとなんか婚約しなかったわ」
「へぇ。婚約したの。おめでとう」
「おめでとうじゃないわ!こんなの聞いてない!」
――言ってないもの――
正直な気持ちとして、イリーナが他人の持ち物を貸してと言ったり、クレクレとしつこく欲しがったりする性格だとは知っていたけれど、まさか他人の婚約者と知っていて手を出すまでの人間とまでは思っていなかった。
そこまで落ちぶれてはいないと思っていたからこそ、リサにとってイリーナは期待を良い意味で裏切ってくれた。
リサとしてはイリーナとショーがデキてくれて有難い限り。
神に見えたと言って過言ではない。
かつては付き合いもあった両家だけれど、代替わりをしてお互いの父親の代では付き合いも薄くなった。祖父同士が纏めた縁談だったので婚約当時は祖父が家長だったし従うしかなかっただけ。
ショーの両親であるモナ伯爵夫妻はリサからすれば問題しかない夫婦だった。
義母となるモナ伯爵夫人は外面は恐ろしく良いのに息子溺愛主義の子離れ出来ていない嫁イビリに執念を燃やす女。
義父となるモナ伯爵は若い女の子好き。女は14~19歳までと奇妙な信仰心を持つド変態。
嫁に来るんだからと事あるごとにリサに家事全般をやらせるためにリサを呼びつけていた。使用人がいるのにわざわざリサを呼びつけるので使用人も仕事を取られて困り顔。
今時掃除をするのにモップじゃなく床を雑巾がけ?ないわ~。
リサは鬼のように睨みを聞かせて「見てるだけ~」な夫人の前で掃除をやらされた。
そこで伯爵が注文を付けるのだ。
四つん這いになって廊下を雑巾で拭きあげていると、腰をもっと上げろだの注文を付けるし窓拭きをしていれば半袖の袖から腋を覗こうとする。キモい変態だ。
モナ家のメイド服は、メイド違いな夜のメイド服。
胸を強調した服を着るのも嫌でサイズが合わないと断っていたが、いやらしい目を向け舌なめずりをする伯爵の前で掃除をするのは苦痛だった。
オマケに自分や家族の名前や顔も忘れてしまった先代夫妻の世話もある。
「はい、もぐもぐですよ」赤子に戻った先代伯爵夫妻を順番に食事をさせて、下の世話。
こんな家なんですよ~なんて他家の内情を触れ回ったらこっちの方が悪く言われるのでぶちまける先もない。
これらから逃げられる、しかも世間一般の額からすれば少ないけれど慰謝料も貰えて手が切れるのだから、即座に用意できるのが50万ルカと30万ルカでもオッケィと言ってしまって不思議ではない。
「今日なんかク●ババアに食事させろって!吐かれたのよ!」
「あ~ね~」
ショーの祖母は完全に幼児返りをしているので上手く食べさせないと口に含んだペーストをブブブーっと飛ばして遊んでしまうのだ。
「ジジィの世話まで!なんでアタシがしなきゃいけないのよ!」
おや?とリサはイリーナを見た。
「な、なによ」
「婚約者だから。ショーの嫁になるんだからって言われなかった?それが答えよ」
「だぁかぁらぁ!なんでそれを先に言ってくれなかったのよ!呼ばれたから茶会でもするのかなって行ってみたら年寄りの世話?!冗談じゃないわ!」
イリーナはそれなりに良い仕立てでお洒落なドレスなので、伯爵夫人に呼ばれたんだからそれなりの家の夫人たちを招いての茶会で、お披露目でもしてくれると踏んだと思われる。
――そんな気の利いた事をしてくれるわけないでしょ?――
どっちにしてもリサには慰謝料の支払いも終わり、婚約は正式に破棄になっているしイリーナにも正式な婚約が結ばれているんだからイリーナが文句を言っていく先はイクル子爵家ではない。
嫌なら親に相談。親を交えて婚約をどうするかダダン家とモナ家で話し合う。それが筋だ。
「惚気に来たのなら帰って。見ての通り貧乏暇なしで仕事してるのよ」
「惚気っ?!どこをどう聞いたら惚気に聞こえるのよ!」
近くに居ればきっと帰らず文句を延々を言い続けるだろう。
捲し立てるイリーナから距離を置こうと一旦門近くの片づけはそのままにリサは奥に引いたのだった。
「惚けないでよ!ショーの事よ!」
ショーと言うのは2週間前までリサの婚約者だった男で家はモナ伯爵家。
モナ伯爵家とイクル子爵家はかなり長い付き合いがあり、その縁で婚約。来年にはリサが嫁ぐ予定だったのだが、端的に言えばショーとイリーナが親密で濃厚なお付き合いをしていた事が発覚し、婚約が破棄になった。
ちなみにその時、イクル家に支払われた慰謝料はモナ家から50万ルカ、ダダン家から30万ルカである。
貴族の婚約破棄にしては随分と安い金額だが、リサがそれでいいと言ったのでイクル家は手を打った。
金額の問題ではないからこそ、こうやってイリーナが文句を言いに来ている。
「どうして言ってくれなかったのよ!」
「私が何を言えると言うの?私の知らない所でアチチな関係になってたの貴方達じゃないの」
「黙ってたのは悪かったわ。だから慰謝料払ったじゃない」
――そう言う問題じゃないと思うけど?――
イリーナは金を払ったんだからというが、慰謝料は婚約破棄になったから払っただけで情報料ではない。リサはイリーナを無視して積まれた荷物をどの順で何処に仮置きしようかと考え始めた。
「ちょっと!無視してんじゃないわよ」
「悪いけど仕事中なの。私的な話なら後にしてくれない?」
「ハンッ。たいして儲けてもない癖に。そんな仕事よりアタシの話の方が先よ」
リサの仕事を邪魔してイリーナは捲し立てた。
「あんな業突婆とエロ親父って知ってたらショーとなんか婚約しなかったわ」
「へぇ。婚約したの。おめでとう」
「おめでとうじゃないわ!こんなの聞いてない!」
――言ってないもの――
正直な気持ちとして、イリーナが他人の持ち物を貸してと言ったり、クレクレとしつこく欲しがったりする性格だとは知っていたけれど、まさか他人の婚約者と知っていて手を出すまでの人間とまでは思っていなかった。
そこまで落ちぶれてはいないと思っていたからこそ、リサにとってイリーナは期待を良い意味で裏切ってくれた。
リサとしてはイリーナとショーがデキてくれて有難い限り。
神に見えたと言って過言ではない。
かつては付き合いもあった両家だけれど、代替わりをしてお互いの父親の代では付き合いも薄くなった。祖父同士が纏めた縁談だったので婚約当時は祖父が家長だったし従うしかなかっただけ。
ショーの両親であるモナ伯爵夫妻はリサからすれば問題しかない夫婦だった。
義母となるモナ伯爵夫人は外面は恐ろしく良いのに息子溺愛主義の子離れ出来ていない嫁イビリに執念を燃やす女。
義父となるモナ伯爵は若い女の子好き。女は14~19歳までと奇妙な信仰心を持つド変態。
嫁に来るんだからと事あるごとにリサに家事全般をやらせるためにリサを呼びつけていた。使用人がいるのにわざわざリサを呼びつけるので使用人も仕事を取られて困り顔。
今時掃除をするのにモップじゃなく床を雑巾がけ?ないわ~。
リサは鬼のように睨みを聞かせて「見てるだけ~」な夫人の前で掃除をやらされた。
そこで伯爵が注文を付けるのだ。
四つん這いになって廊下を雑巾で拭きあげていると、腰をもっと上げろだの注文を付けるし窓拭きをしていれば半袖の袖から腋を覗こうとする。キモい変態だ。
モナ家のメイド服は、メイド違いな夜のメイド服。
胸を強調した服を着るのも嫌でサイズが合わないと断っていたが、いやらしい目を向け舌なめずりをする伯爵の前で掃除をするのは苦痛だった。
オマケに自分や家族の名前や顔も忘れてしまった先代夫妻の世話もある。
「はい、もぐもぐですよ」赤子に戻った先代伯爵夫妻を順番に食事をさせて、下の世話。
こんな家なんですよ~なんて他家の内情を触れ回ったらこっちの方が悪く言われるのでぶちまける先もない。
これらから逃げられる、しかも世間一般の額からすれば少ないけれど慰謝料も貰えて手が切れるのだから、即座に用意できるのが50万ルカと30万ルカでもオッケィと言ってしまって不思議ではない。
「今日なんかク●ババアに食事させろって!吐かれたのよ!」
「あ~ね~」
ショーの祖母は完全に幼児返りをしているので上手く食べさせないと口に含んだペーストをブブブーっと飛ばして遊んでしまうのだ。
「ジジィの世話まで!なんでアタシがしなきゃいけないのよ!」
おや?とリサはイリーナを見た。
「な、なによ」
「婚約者だから。ショーの嫁になるんだからって言われなかった?それが答えよ」
「だぁかぁらぁ!なんでそれを先に言ってくれなかったのよ!呼ばれたから茶会でもするのかなって行ってみたら年寄りの世話?!冗談じゃないわ!」
イリーナはそれなりに良い仕立てでお洒落なドレスなので、伯爵夫人に呼ばれたんだからそれなりの家の夫人たちを招いての茶会で、お披露目でもしてくれると踏んだと思われる。
――そんな気の利いた事をしてくれるわけないでしょ?――
どっちにしてもリサには慰謝料の支払いも終わり、婚約は正式に破棄になっているしイリーナにも正式な婚約が結ばれているんだからイリーナが文句を言っていく先はイクル子爵家ではない。
嫌なら親に相談。親を交えて婚約をどうするかダダン家とモナ家で話し合う。それが筋だ。
「惚気に来たのなら帰って。見ての通り貧乏暇なしで仕事してるのよ」
「惚気っ?!どこをどう聞いたら惚気に聞こえるのよ!」
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