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第03話 赤字は続くよ。どこまでも
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その夜、イクル子爵では外に働きに出ている兄ケインと、遠くの街まで家具の引き取りに出ていたイクル子爵、そしてリサの3人はスープと固いパンだけの夕食を取っていた。
「もう商会を畳んだらどうだ?経理の仕事でも貰えば食うだけは出来るだろう?」
「そうね。慰謝料のお金もそのまま手付かずだし、今だったら従業員の皆に半月の給料として手渡せば借金無しで済むわよ?」
「ダメだ。回収商会が無くなれば困る人が出る。商売は続けなきゃならん」
「親父、頭固いぞ。そんな事言ってもだな?売り上げもほとんどないんだ。回収がしたいなら買い取りじゃなくて回収費用を貰うように転換しろよ。従業員だってこのままじゃ雇えないんだ。現実を見ろよ」
商会を畳むにしても回収場となっている庭や倉庫は買い取りしてきた品で溢れかえっている。処分費を捻出するなら土地を売ってペイ出来そうな量の今、決断するしかなかった。
粗末な食事を終え、テーブルに広げたのは伝票と帳簿。
今日買い取ってきた品を書き記し、買い取り価格も記入するとまた残高は少なくなった。
ボヤくリサに帳簿を覗き込んできた兄ケインもボヤく。
「リユースの家具が以前のように売れてくれればまだいいんだけどなぁ。誰かドーンと買ってくれないかしら」
「今時中古の家具とか買う奴はいないさ。買う奴がいるとすればシンクだったりの厨房機器くらいじゃないか?」
「そうなのよね。厨房機器は特殊だから部品売りでも買いたいって人はいるんだけど、他がサッパリ。それにそろそろ教会からもバザーで売れ残った衣類も買い取ってくれと言ってくるわ」
「衣類か。選別しないとウェスにも出来ないからな。教会もアコギなことするよな。無償で提供された品から売れそうなモノだけ売って、襤褸切れはウチに買い取らせるんだからさ」
「寄付よ。神父様もウチの内情は知っているから買取価格を寄付でいいって言ってくださってるし」
「で、割増で買い取ってるんだろ?なら寄付だけして買取じゃなく有料回収にすりゃいいのさ」
「兄さん。簡単に言わないで。教会が絡むと面倒なのよ」
帳簿と睨めっこをしても数字が変わる訳でなく、投げやりな気分も加わったケインは冗談半分にリサに言う。
「どっか金持ちの後妻にでも行くか?」
テーブルをバン!と叩いてイクル子爵が怒鳴った。
「馬鹿な事を言うな!」
「じょ、冗談だよ。マジにすんなって」
リサに全く非がないとは言え婚約破棄になって傷物扱いになってしまったことに心を痛めているイクル子爵はケインを𠮟りつけた。
「リサは好いた男がいればそこに嫁げばいい。家の事や金で決めるな」
「解ってるよ。怒んなって。なんでもガチに受け取るなよな」
「言っていい事と悪いことがある。仮にも妹なんだぞ?」
「へぇへぇ。先、湯浴びて来るわ」
イクル子爵がムッと機嫌を悪くした事にケインは軽く手をあげ湯殿のある廊下を歩いて行った。
「もう商会を畳んだらどうだ?経理の仕事でも貰えば食うだけは出来るだろう?」
「そうね。慰謝料のお金もそのまま手付かずだし、今だったら従業員の皆に半月の給料として手渡せば借金無しで済むわよ?」
「ダメだ。回収商会が無くなれば困る人が出る。商売は続けなきゃならん」
「親父、頭固いぞ。そんな事言ってもだな?売り上げもほとんどないんだ。回収がしたいなら買い取りじゃなくて回収費用を貰うように転換しろよ。従業員だってこのままじゃ雇えないんだ。現実を見ろよ」
商会を畳むにしても回収場となっている庭や倉庫は買い取りしてきた品で溢れかえっている。処分費を捻出するなら土地を売ってペイ出来そうな量の今、決断するしかなかった。
粗末な食事を終え、テーブルに広げたのは伝票と帳簿。
今日買い取ってきた品を書き記し、買い取り価格も記入するとまた残高は少なくなった。
ボヤくリサに帳簿を覗き込んできた兄ケインもボヤく。
「リユースの家具が以前のように売れてくれればまだいいんだけどなぁ。誰かドーンと買ってくれないかしら」
「今時中古の家具とか買う奴はいないさ。買う奴がいるとすればシンクだったりの厨房機器くらいじゃないか?」
「そうなのよね。厨房機器は特殊だから部品売りでも買いたいって人はいるんだけど、他がサッパリ。それにそろそろ教会からもバザーで売れ残った衣類も買い取ってくれと言ってくるわ」
「衣類か。選別しないとウェスにも出来ないからな。教会もアコギなことするよな。無償で提供された品から売れそうなモノだけ売って、襤褸切れはウチに買い取らせるんだからさ」
「寄付よ。神父様もウチの内情は知っているから買取価格を寄付でいいって言ってくださってるし」
「で、割増で買い取ってるんだろ?なら寄付だけして買取じゃなく有料回収にすりゃいいのさ」
「兄さん。簡単に言わないで。教会が絡むと面倒なのよ」
帳簿と睨めっこをしても数字が変わる訳でなく、投げやりな気分も加わったケインは冗談半分にリサに言う。
「どっか金持ちの後妻にでも行くか?」
テーブルをバン!と叩いてイクル子爵が怒鳴った。
「馬鹿な事を言うな!」
「じょ、冗談だよ。マジにすんなって」
リサに全く非がないとは言え婚約破棄になって傷物扱いになってしまったことに心を痛めているイクル子爵はケインを𠮟りつけた。
「リサは好いた男がいればそこに嫁げばいい。家の事や金で決めるな」
「解ってるよ。怒んなって。なんでもガチに受け取るなよな」
「言っていい事と悪いことがある。仮にも妹なんだぞ?」
「へぇへぇ。先、湯浴びて来るわ」
イクル子爵がムッと機嫌を悪くした事にケインは軽く手をあげ湯殿のある廊下を歩いて行った。
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