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第05話 アーメン・オーメン・YOUイケメン
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カモク侯爵家のスティルは当主であるレンダールとの縁談を持ってきていた。
「あのぅ、こう言っては何ですが侯爵家のご当主様ですよね?ここ…子爵家なんですけれども」
「はい。承知しております」
「ならばお分かりかと思いますが、爵位が釣り合わないと申しましょうか…。ご当主様のお相手となれば侯爵夫人になる…と、言う事ですよね?」
「はい。ですが、そこが少しお話をさせて頂ければと」
イクル子爵家を選んだのは当主のレンダールではなく、レンダールの両親となる先代侯爵だった。
しかし現当主のレンダールとも先代夫妻とも、そもそもでカモク侯爵家とは事業での繋がりもない。取引先をくまなく調べれば、取引先を介しての細い縁があるかも知れないが、面と向かって何かをする、そんな繋がりもないしリサには侯爵家に選ばれる筈もない事情があった。
「御承知かと思いますが、私は2週間ほど前に――」
「はい。失礼とは存じましたが調べさせて頂きました。モナ伯爵家のショー殿との婚約がモナ伯爵家有責で婚約破棄となっておられますよね。その後モナ伯爵家はダダン男爵家と婚約を結ばれたようで」
「ご存じなら分かりますよね。私に瑕疵がなくても世間では傷物と呼ばれ、扱われるのが今の私なんです。侯爵家となればそんな傷物を――」
「いいえ。リサ様。貴女は傷物などでは御座いません。たかが執事に言われても慰めにもならないでしょうが、そんな事を口にする者がいれば私は私の矜持に於いてその者を罰する事をお約束します」
知っているのなら何故話を持ち込んだのがサッパリ意味が判らない。
子爵家ともなれば立ち位置は平民に近いので、結婚相手だって平民を選ぶ事もあるが、高位貴族でもある侯爵家は王家から臣籍降下することもあるので、血筋には五月蝿いはず。
何より本人に瑕疵が無くても侯爵家に名を連ねる事になるのだから傷一つないほうが良いに決まっている。
――あれ?でも確かレンダール様って――
社交と言っても煌びやかなドレスを着てダンスを踊ったりと所謂THE夜会に縁は無くてもリサだって知っている。
レンダールは「美丈夫と言えば?」と問われたら王都で性別が女性なら誰しも5本の指で3本目までに名をあげる超絶イケメン。
リサは金が無くて通えなかったが学園生だった頃は初等科から卒業をする高等科までの9年間「推し隊」と呼ばれる親衛隊がいてレンダールと話をするのに推し隊を通さねばならない変なルールが存在した。
学業も剣術も成績は良いし、国王陛下、王太子殿下の覚えもめでたい。
当主で先代は領地に引き籠もっている。
ジジ抜き、ババ抜き、家付き、金アリ、身分アリ。顔よし、頭よし。
何処をどう見ても超優良物件だ。
――でも確か婚約が無くなったはすだわ――
レンダールと第3王女シシリーが婚約をしていたのを知らない者はいない。
婚約者が王女となれば社交界でもファーストダンスの次は私と踊ってと名乗り出る事も出来ず。誰だって王女相手に喧嘩を売ろうとはしないものだ。
レンダールは男性なのに令嬢たちにとっては「高嶺の花」であり「目の保養」だった。
しかし帝国の皇子がシシリー王女を見初め、帝国にNOと断りを入れることも出来なかった国王はレンダールとの婚約をなかったものとする白紙にしたのだ。
暫くは市井でも噂になったものだ。
なんせシシリー王女は成婚式までまだ3年あるし、帝国の皇子も「親子水入らずの期間を過ごせ」と言ったのにさっさと帝国に出向いてしまったのだ。
大行列になった隊列の中のひときわ豪奢な馬車からシシリー王女は満面の笑みで民衆に手を振った。あの笑顔が作りものなら大したものだと誰もが噂をした。
その後、レンダールは社交界に出てくることも無くなったと聞いた覚えがあった。
――まさかと思うけど?――
リサはスティルを見た。
やっぱり微笑んでいた。
「あのぅ、こう言っては何ですが侯爵家のご当主様ですよね?ここ…子爵家なんですけれども」
「はい。承知しております」
「ならばお分かりかと思いますが、爵位が釣り合わないと申しましょうか…。ご当主様のお相手となれば侯爵夫人になる…と、言う事ですよね?」
「はい。ですが、そこが少しお話をさせて頂ければと」
イクル子爵家を選んだのは当主のレンダールではなく、レンダールの両親となる先代侯爵だった。
しかし現当主のレンダールとも先代夫妻とも、そもそもでカモク侯爵家とは事業での繋がりもない。取引先をくまなく調べれば、取引先を介しての細い縁があるかも知れないが、面と向かって何かをする、そんな繋がりもないしリサには侯爵家に選ばれる筈もない事情があった。
「御承知かと思いますが、私は2週間ほど前に――」
「はい。失礼とは存じましたが調べさせて頂きました。モナ伯爵家のショー殿との婚約がモナ伯爵家有責で婚約破棄となっておられますよね。その後モナ伯爵家はダダン男爵家と婚約を結ばれたようで」
「ご存じなら分かりますよね。私に瑕疵がなくても世間では傷物と呼ばれ、扱われるのが今の私なんです。侯爵家となればそんな傷物を――」
「いいえ。リサ様。貴女は傷物などでは御座いません。たかが執事に言われても慰めにもならないでしょうが、そんな事を口にする者がいれば私は私の矜持に於いてその者を罰する事をお約束します」
知っているのなら何故話を持ち込んだのがサッパリ意味が判らない。
子爵家ともなれば立ち位置は平民に近いので、結婚相手だって平民を選ぶ事もあるが、高位貴族でもある侯爵家は王家から臣籍降下することもあるので、血筋には五月蝿いはず。
何より本人に瑕疵が無くても侯爵家に名を連ねる事になるのだから傷一つないほうが良いに決まっている。
――あれ?でも確かレンダール様って――
社交と言っても煌びやかなドレスを着てダンスを踊ったりと所謂THE夜会に縁は無くてもリサだって知っている。
レンダールは「美丈夫と言えば?」と問われたら王都で性別が女性なら誰しも5本の指で3本目までに名をあげる超絶イケメン。
リサは金が無くて通えなかったが学園生だった頃は初等科から卒業をする高等科までの9年間「推し隊」と呼ばれる親衛隊がいてレンダールと話をするのに推し隊を通さねばならない変なルールが存在した。
学業も剣術も成績は良いし、国王陛下、王太子殿下の覚えもめでたい。
当主で先代は領地に引き籠もっている。
ジジ抜き、ババ抜き、家付き、金アリ、身分アリ。顔よし、頭よし。
何処をどう見ても超優良物件だ。
――でも確か婚約が無くなったはすだわ――
レンダールと第3王女シシリーが婚約をしていたのを知らない者はいない。
婚約者が王女となれば社交界でもファーストダンスの次は私と踊ってと名乗り出る事も出来ず。誰だって王女相手に喧嘩を売ろうとはしないものだ。
レンダールは男性なのに令嬢たちにとっては「高嶺の花」であり「目の保養」だった。
しかし帝国の皇子がシシリー王女を見初め、帝国にNOと断りを入れることも出来なかった国王はレンダールとの婚約をなかったものとする白紙にしたのだ。
暫くは市井でも噂になったものだ。
なんせシシリー王女は成婚式までまだ3年あるし、帝国の皇子も「親子水入らずの期間を過ごせ」と言ったのにさっさと帝国に出向いてしまったのだ。
大行列になった隊列の中のひときわ豪奢な馬車からシシリー王女は満面の笑みで民衆に手を振った。あの笑顔が作りものなら大したものだと誰もが噂をした。
その後、レンダールは社交界に出てくることも無くなったと聞いた覚えがあった。
――まさかと思うけど?――
リサはスティルを見た。
やっぱり微笑んでいた。
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