侯爵様、契約妻ではなくレンタル奥様です

cyaru

文字の大きさ
29 / 47

第29話  挙動不審あるある言いたい~

しおりを挟む
「で?どうだったんだ?」

「はい。あの…ありがとうございます」

「何の礼だ?」

「侯爵様がリストアップしてくださった地です。保管場所としても十分な広さもありますし‥」


2週間ぶりにカモク侯爵家にやってきてレンダールと面会をしているのだが、とても夫婦の会話には思えない。

レンダールはムスっとしたまま向かいのテーブルでリサが父や兄、使用人と作ってきた計画書に目を通しながらリサの言葉を聞いたが…。

「礼はいい。そんな時間があれば質問に答えてもらお…貰いたいんだが」

「質問ですか?」

途中で言い方を変えるレンダールにリサは「お腹でも痛いのかな」と思いつつ返事を返した


「あぁ。先ずどうして個別の建屋にするんだ?しかも大きさがまちまちの建屋とはな」

「それは預かる荷物も利用者同士壁一枚隔てただけよりは安心できるかと思いまして」

「無駄だな。大きな倉庫にしてパーティションで区画すればいい。良いか?土地がないと言って手に入ったら無駄なスペースを作る。もう一度見直しをし(ろ)…たほうがいいんじゃないか」


レンダールの言葉も尤も。確かにその方法なら無駄もない。
リサの概念として大きな倉庫にして壁を作ってしまうと壁は動かないのでなら大きさの違う建屋を建てて入れる荷物の量に見合う建物を貸せばいいと考えてしまった。

衝立は人が簡単に動かせてしまうので却下にしたけれど、天井にレールを設置したパーティションで必要に応じて区切る、その発想はなかった。

「うぅ…確かにそうかもだけど言い方ってあるよね」

ボソッと聞こえるか聞こえないかの声でリサはボヤいてしまったがレンダールはどうやら地獄耳所有者らしい。


「何か言ったか?」

立ち上がり、テーブルに広げた書類をリサは纏めた。

「何でもないです。見直してきますね。また出直し――」

「見直しはここでも出来るだろう。必要なら…コホン。私が直接助言もするし」

「へ?」

――おやぁ?さっきまでキッ!って睨んでたのに何で恥ずかしがってるの?――

リサは目の前のレンダールを見て思う。

――イケメンのデレってのも眼福だわねぇ――

いかんいかん。今はイケメンよりも事業。
教えてくれると言うのなら儲けもの。なんたってレンダールに教えて貰うんだからダメ出しをされる事がない。

ムフフと心でニマっとしたリサはレンダールの向かいに再度腰を下ろし、纏めた書類をもう一度広げ「さて」と話しかけようとしたらレンダールから話しかけてきた。


「ところで…聞きたい事があるんだが」

「侯爵様が?私に?」

「先日友人に言われて…その…考えてみたんだ」

「ほぅ。侯爵様が?何をです?」

「先ずは…初日の自分の言動だ。あれは最低だった。申し訳ない」

レンダールは立ち上がると深く頭を下げるので、まさか謝罪が聞きたい事?したい事の間違いでは?リサはレンダールが言葉の使い方を間違っているのか?あのレンダールが?

そう思いつつもいきなり謝罪、そして頭を下げている事が信じられなかった。

「頭をあげてくださいっ」

「許して欲しいとは言わない。これは私が私のためにしているようなものだからな。でも悪いことをしたと悔いる気持ちがある事は態度で示しておかないといけないと考えたんだ。君の気が済むなら額を床に擦りつけるし、なんなら気が収まるまで私を踏みつけてくれてもいい」

「踏み?!そんな趣味はないので…」

「趣味だとしても!!私は受け入れる覚悟がある!」

――そんな性癖受け入れるの、こっちだよね?――


冷静沈着なレンダールがこんなに取り乱している姿を見たことが無かったリサは目の前のレンダールが実は歌劇あるあるの定番中の定番。

生き別れになった一卵性双生児の片方??どこで入れ替わった??あり得ない想像までしてしまった。


「許すとか許さないではなくですね、侯爵様の気持ちも全く判らない訳でもないですし、お金が必要だった私を助けてくれたんですから感謝してるんです。私も…レンタルでなんて言ってしまいましたから」

「そのレンタル奥様なんだが…取り決めもしてなかったな。何処までがレンタルなんだ?」

「どこまでって…えぇーっと…先ずは奥様のふりをしますよね、それと…」

「決まってないのなら取り決めをしたいんだが」

――どゆこと?――

リサにはレンダールの豹変ぶりが気味悪く思えた。
初見と同じく俺様風を貫いてくれた方がやりやすい。いきなり優男のような素振りをされてしまうと戸惑ってしまうではないか。

「あの…侯爵様、何か傷んだものでも食べました?」

「いや?至って普通の食事しかしていないが?」

「でも態度が明らかに違いますよね?挙動不審と言いますか」

「仕方がないだろう。私も初めての経験なんだ」

「事業がですか?」

「いや、告白だ」

「ふぇっ?!あれが告白?!」

「違う!今からするんだ!」

リサは「誰に?」とは怖くて聞けなかった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...