39 / 47
第39話 場所は関係ねぇ~人目も関係ねぇ~
しおりを挟む
「やっと到着?」
「はい」
帝国を追い出されたシシリー王女が帰国し、長い旅を終えて王都に戻ってきた。
国を出た時とは真逆で王女の乗る馬車を護衛している騎士はたった5人。決して精鋭を集めているわけでもなかった。
帝国を出た時は護衛の騎士だけで100人を超えていたが、3カ月半の道中で早馬により国王に齎された知らせは箝口令を布いてはいたが漏れてしまうもの。
どの国にも自国民に紛れて間者は侵入しており、王女の生活ぶりについては間者から報告は受けていたものの、蓼食う虫も好き好きでそれでも皇子がシシリー王女を迎えるのであれば帝国との繋がりが出来る。
損得で動く貴族たちも多く、帝国に出てしまった王女を突き返す事はしないだろうと傍観していたが、この時期になって婚約話を白紙に戻した上に王女は強制送還とも言える国外退去を帝国側が命じたことに貴族は動き出した。
国に戻っても王女の犯した失態は消えるわけではなく、帝国からのペナルティは当然通告される。この先王家に仕えても良いことはないと王家を見限った家の当主は王女の護衛として差し出した騎士を撤収したのである。
残っている騎士は国王の直属だったため逃げられなかっただけであるが、シシリー王女は王都を目前とした地で残った騎士に引導を渡した。
「貴方達、クビよ。全く役に立たないじゃないの」
「申し訳ございません」
「謝罪は結構。貴方達の謝罪を受けたってわたくしが何を得られるというの?で?入城はいつなの」
「馬が疲れておりますので明日の午前中になるかと」
「明日?まだこの狭い馬車でわたくしに我慢を強いると言うの?」
「申し訳ございません」
シシリー王女も馬が動かなくなればその先に進めない事は理解をしているので納得をしたのだが退屈がまだ続くことにウンザリしていた。
ウンザリしていたのは我儘王女の面倒をみねばならなかった騎士もだった。
ただ、ここで放り出して王女を置き去りにしてしまうと、自分たちの今後が潰える。
家族と離れ離れにはなるが、5年で交代と言われて役目を受けただけ。帰る頃には妻の腹の中にいた子はもう走り回っているだろうし、文字を覚えたての子供は学園に入学する年齢になる。
気持ちとしては「父ちゃん、頑張って稼いでくる」それに尽きる。
家族を捨てる事が出来なかったので今も王女の護衛をしているが、クビだと言われたのなら城に送り届けて騎士を辞する覚悟だった。
★~★
「どうするよ。馬を調達してくるか?」
「無理だろう。荷を引く馬もいる。あの荷馬車だって2頭では引けないんだ」
「だよな。都合よく馬の頭数は揃えられないよな。金もないし」
野営の準備をしながら3人の騎士たちは愚痴をこぼす。残り2人は王女の乗る馬車を護衛。5人しかいないので移動中も気が張るし、休憩所でも気は抜けない。野営をする時も準備に撤収、交代で火の番と周囲の見回り。気力も体力も限界にあった。
騎士たちにとって幸いだったのは帝国に行く時は何十台も荷馬車が連なっていたが今は1台。最初に解雇された侍女長が帝国に到着をした時に荷馬車と引いて来た馬を売った。
この先は皇子と結婚し、里帰りをするのなら馬車などは帝国側が用意をするのでシシリー王女が自前で持つ必要はなかったからである。
代金を帝国の官吏に預け、帝国側は使い込むような大金でもないと思ったのかそのまま保管をしてくれていた。
それが無ければ帰国する手段も路銀もなかっただろう。
沢から水を汲み、食事の準備が始まった頃にシシリー王女が馬車から出てきた。
騎士たちは用を足すのに出てきたのだろうと思ったが、茂みに消えて行った王女が腹を下しているにしても一向に戻ってこない。
「こんな所まできてマジかよ」
「いい加減にしてほしいぜ」
「迷子探しまでしなきゃなんねぇなんてな」
探しに出た騎士たちだったが、王女は直ぐに見つかった。
茂みの中に潜んでいる蛇のように1人の男に手を絡ませて、向かい合いお楽しみの最中ではあったけれど。
「はい」
帝国を追い出されたシシリー王女が帰国し、長い旅を終えて王都に戻ってきた。
国を出た時とは真逆で王女の乗る馬車を護衛している騎士はたった5人。決して精鋭を集めているわけでもなかった。
帝国を出た時は護衛の騎士だけで100人を超えていたが、3カ月半の道中で早馬により国王に齎された知らせは箝口令を布いてはいたが漏れてしまうもの。
どの国にも自国民に紛れて間者は侵入しており、王女の生活ぶりについては間者から報告は受けていたものの、蓼食う虫も好き好きでそれでも皇子がシシリー王女を迎えるのであれば帝国との繋がりが出来る。
損得で動く貴族たちも多く、帝国に出てしまった王女を突き返す事はしないだろうと傍観していたが、この時期になって婚約話を白紙に戻した上に王女は強制送還とも言える国外退去を帝国側が命じたことに貴族は動き出した。
国に戻っても王女の犯した失態は消えるわけではなく、帝国からのペナルティは当然通告される。この先王家に仕えても良いことはないと王家を見限った家の当主は王女の護衛として差し出した騎士を撤収したのである。
残っている騎士は国王の直属だったため逃げられなかっただけであるが、シシリー王女は王都を目前とした地で残った騎士に引導を渡した。
「貴方達、クビよ。全く役に立たないじゃないの」
「申し訳ございません」
「謝罪は結構。貴方達の謝罪を受けたってわたくしが何を得られるというの?で?入城はいつなの」
「馬が疲れておりますので明日の午前中になるかと」
「明日?まだこの狭い馬車でわたくしに我慢を強いると言うの?」
「申し訳ございません」
シシリー王女も馬が動かなくなればその先に進めない事は理解をしているので納得をしたのだが退屈がまだ続くことにウンザリしていた。
ウンザリしていたのは我儘王女の面倒をみねばならなかった騎士もだった。
ただ、ここで放り出して王女を置き去りにしてしまうと、自分たちの今後が潰える。
家族と離れ離れにはなるが、5年で交代と言われて役目を受けただけ。帰る頃には妻の腹の中にいた子はもう走り回っているだろうし、文字を覚えたての子供は学園に入学する年齢になる。
気持ちとしては「父ちゃん、頑張って稼いでくる」それに尽きる。
家族を捨てる事が出来なかったので今も王女の護衛をしているが、クビだと言われたのなら城に送り届けて騎士を辞する覚悟だった。
★~★
「どうするよ。馬を調達してくるか?」
「無理だろう。荷を引く馬もいる。あの荷馬車だって2頭では引けないんだ」
「だよな。都合よく馬の頭数は揃えられないよな。金もないし」
野営の準備をしながら3人の騎士たちは愚痴をこぼす。残り2人は王女の乗る馬車を護衛。5人しかいないので移動中も気が張るし、休憩所でも気は抜けない。野営をする時も準備に撤収、交代で火の番と周囲の見回り。気力も体力も限界にあった。
騎士たちにとって幸いだったのは帝国に行く時は何十台も荷馬車が連なっていたが今は1台。最初に解雇された侍女長が帝国に到着をした時に荷馬車と引いて来た馬を売った。
この先は皇子と結婚し、里帰りをするのなら馬車などは帝国側が用意をするのでシシリー王女が自前で持つ必要はなかったからである。
代金を帝国の官吏に預け、帝国側は使い込むような大金でもないと思ったのかそのまま保管をしてくれていた。
それが無ければ帰国する手段も路銀もなかっただろう。
沢から水を汲み、食事の準備が始まった頃にシシリー王女が馬車から出てきた。
騎士たちは用を足すのに出てきたのだろうと思ったが、茂みに消えて行った王女が腹を下しているにしても一向に戻ってこない。
「こんな所まできてマジかよ」
「いい加減にしてほしいぜ」
「迷子探しまでしなきゃなんねぇなんてな」
探しに出た騎士たちだったが、王女は直ぐに見つかった。
茂みの中に潜んでいる蛇のように1人の男に手を絡ませて、向かい合いお楽しみの最中ではあったけれど。
501
あなたにおすすめの小説
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁
柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。
婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。
その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。
好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。
嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。
契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました
ラム猫
恋愛
セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。
ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
※全部で四話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる