侯爵様、契約妻ではなくレンタル奥様です

cyaru

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第40話  帰りたいのに帰れない~

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ショーにとってイリーナもリサも家の事をしてくれればいい存在で思い入れなど無かった。

正直リサと結婚をしても、リサの実家は子爵家とは名ばかりでド貧乏。嫁の家から金を引っ張るのは無理そうだったので婚約が無くなって、別の女性と婚約をした方が遊んで暮らせるのでは?と考えていた。

そこに現れたのがイリーナ。
家の爵位はリサよりも落ちる男爵家だが、親は真面目に働いているしそこそこに金も貯め込んでいるだろうと思い乗り換える事にした。

ショーの元に言い寄って来る女性は他にもいたけれど、ワンナイトラブだったりお互いの都合が合えば楽しむだけの後腐れない関係だった。

ショーが唯一「この女なら嫁にしてもいいかな」と思った女性がいた。
口説いてもうんとは言わないのに体は許してくれる。
首から上は押さないのに下は豊満なボディを持つ女性。

ショーが付き合った女性の中で一番貢いだ額も回数も多い女性だった。
ピロートークの際に問うたことがあった。

「なんで俺を奪ってやろうとか思わないんだ?そんなに俺は魅力がないって事か?」

「そうじゃないわよ。フリーだったら間違いなく他の女に渡さないけどショーには婚約者がいるじゃない。そんなのに手を出したらお終いよ」

「なんで?愛し合う者同士が一緒に居られるのに?」

「貴方、ロマンチストなの?それとも馬鹿なの?フハハっ」

「なんで笑うんだよ。俺は至って真面目なのに」

「幸せなのね。羨ましいわ。私はついつい現実を考えちゃうのよ。婚約者がいる男を寝取ったなんて言われたら家族も巻き込んでしまうし、自分だって幸せなのは隠れて会っている時だけ。公認になったら…寝取り女の行く末なんて憐れなものよ?毎日が針の筵」

「俺は守れるぞ?」

「そ?ありがと。でも無理ね。私、幸せな時間が思い出だけの辛い日々を送りたいなんて思わないのよ。貴方とはこうやってこっそり会って楽しむ。それでいいのよ」


その女性はその後、田舎領主の子息の元に嫁いでいった。
王都を出て行く時、それまでふしだらな遊びを貪るようにして夜毎に男を変えていた女とは思えないくらいに清純な笑顔を浮かべて屋根もない荷馬車の荷台に夫となる男と共に乗り込んで旅立って行ったのだ。

別れる前の日にショーは縋ったが断られ、脅しのつもりで「過去をばらす」と迫ったが「彼、知ってるの。全部私が隠すどころか誇張して告げてるの」と笑顔で言った。


イリーナと出会ったのは間もなくの事。
女なら誰でも良かったし、意中の女性はもう手に入らない場所に行き、会う事も叶わない。

リサの家よりも金を持っていそうで、出来れば貴族。
貴族ならモナ伯爵家の内情も外に漏らせばどうなるかくらいは弁えているからである。
その2つの条件に性別が女である、それを満たせば誰でも良かった。

イリーナに家の事を全てやらせ、遊びまわるショーだったが遊び仲間にも俺様であることは変わらない。ツルんでいるのは平民か、男爵家の次男、三男ばかりで伯爵家当主となるショーに逆らう者はいなかった。


その日は遊び仲間に誘われて「山で愉しもう」となったのだ。

「酒も肉も女も良いやつ、用意するんでショーさんもどうですか」
「いいな。頼んだぞ」
「勿論ですよ。場所が遠いので朝が早くなりますけどいいですか?」
「そのくらいどうってことはない」
「馬車もウチのボロですけど用意しますんで。ショーさん、最近親御さんが五月蝿いじゃないですか」


ショーの両親は経営が思わしくなくなり、ショーに小遣いをくれる事も無くなった。日々の食事も質が落ちたし使用人を解雇して、足らない人手はイリーナに投げる。
イリーナもショーの顔を見ればギャンギャン捲し立てるのでウンザリだった。

遊び仲間のお膳立ててで屋外でのお愉しみ。
ショーは用意された馬車に乗り、行きの道中も卑猥な話で盛り上がり場に付いても「女の子、ちょっと遅れてるみたい」の言葉を信じて先に酒を飲み、肉を食べて出来上がってしまったのでひと眠りしてしまった。


目が覚めた時…。

ショーは「夜?え?夜中?!」思ったよりも寝入ってしまったのかと思ったが違った。

ショーのいる場所は洞窟の中で、周囲に仲間は1人もいなかった。
洞窟を出てみると草木が生い茂って、戻るにはどっちに行けばいいのかも判らない。

「マジか…まさか。俺、置き去りにされた?」

ここに居ても獣の餌になるだけだとショーは歩きだしたが、2日歩きまわっても人に出会う事も無く完全に迷ってしまっていた。

「くそっ!帰りたいのに!これじゃ帰れない!!どっちに行けばいいんだッ!」

ガザっ。

ショーが悔し気に地団太を踏んでいると草むらから音がした。
獣にしてはその後が静かすぎる。

腹も減ったしケガをしたウサギくらいなら捕まえて食材にしてやろうと草を掻き分けると…。

「何してるんだ?」
「何って…お前は誰っ?!」
「誰って…ショーっつんだけど、丁度良かった。麓に下りるにはどっちに行けばいいか教えてくれないか」

余りにも身なりが良いので、近くに従者もいるだろうし、これで助かったと思ったショーだったが女性はとんでもないことを言い出した。

「尻を拭いて頂戴」
「は?」

予想すらしていない返しが戻ってきた。
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