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二日酔い

クラリス・タッド・ルシテア(23)は現在非常に頭が痛い。
原因は判っている。【二日酔い】である。

今日が休暇日で良かったと心から神に感謝をしているが、手を組んで祈りを捧げているのは王宮で働く者たちのシフトを組み、管理する部署の方向である。

他宗教が入り乱れる国なので、
歯医者は大嫌いなのに菓子を求め住宅をピンポンする【ヘェロウィン】
空中をトナカイが行きかう妄想を駆り立てる【クリッスマス】
ナスやキュウリを動物に見立てて玄関に飾って故人を偲ぶ【オボーン】
曖昧な年齢設定はあるが小袋に入った小遣いを求め親戚中を回る【ショガッツ】も存在するのである。

なのでクラリスが教会ではなくシフト管理の部署に感謝の祈りを捧げてもなんら問題はない。


二日酔いの原因。
世間では最近はあまり行われないが、新年会、歓迎会、忘年会など様々な要因がある。
二日酔いになるのが判っていて断れないトラップに自ら掛らねばならないのが社会人である。
一次会で抜けようと目論むが、同じ考えの者は多く帰りの馬車を拾う列の長さに無理やり二次会に顔を引きつらせながらも付き合わされる事が多々ある。

そして【深夜割増】という理不尽な金額を払わねばならないが、数回に一度は【こんな店は絶対に自分ではいけない】という高級倶楽部に支払いなしで連れて行ってもらえると言うラッキーも転がっている。

次に原因として多いのが、上司からの誘いである。
しかしこれは大抵の場合、考慮する時間がさほどない場合に誘われることがあるため、【今日は約束があって】と断れる可能性を大いに含んでいる。
ただ、毎回は断れないので2,3か月に一度は付き合う必要がある。

学院を卒業してクラリスは王宮の侍女試験に合格した事もあって侍女見習いとして働く。
貧乏子爵家の四女であるクラリスは卒業と同時に家を出る必要があったので寮がある王宮は憧れの職場である。
給料から寮費や食費は天引きされるが少なくとも【住】と【食】には不自由しない。

侍女見習いから侍女になる昇格試験は年に2回行われる。
給料が1.5倍になるのは非常に魅力的である。そう。クラリスはお金が好きである。
間違いがあってはいけない。自分で働いたお金が好きなのである。ただ裏を読まないで済む不労所得はもっと好きだ。

勉強はさほど嫌いではないクラリスは初級侍女の試験に合格後、翌年中級侍女の試験にも合格。
20歳になって半年ほどした時に、上級侍女をすっ飛ばして見習い女官にも合格した。
22歳で女官となり、残念だが子爵令嬢としてはここで頭打ちである。

王宮に30人ほどいる女官であるが、立場は横並びでも【人気度】は違う。
出来る女官として引っ張りだこになれば高位貴族の秘書官などに再就職も可能である。
経歴もあるので信頼度も高く、家令並みの給料がもらえるし、女性が当主となっている場合は秘書官ではなく家令として雇われることもある。

高位貴族の次男坊、三男坊の奥様になる者もいる。領地経営を任されることが多いがそうなれば【おやつに昼寝付】という好待遇が待っている。同時に旦那の浮気問題も抱える事は多いのが難点だが。


で、クラリスの二日酔いの原因。トップ10にはランキング入りしている。

【別れ】 である。

あわや修羅場と化しても不思議ではない場をクラリスは平常心で乗り切った。

お付き合いを初めて2年。昇格試験の試験期間中でも会える時はデートをしたりで仲は良かったはずだった。
学院時代の同級生でクラリスは【経済科】。相手は【騎士科】だった。

卒業して3年。街中で偶然二人が再会をした。
「久しぶり!今何してんの?」そんな会話から始まり付き合う事になって2年で破局を迎えた。

【百年の恋も一時に冷める】

実質あと3週間で満2年だったので百年は付き合ってはいないが先人は良い得て妙。
まさにその通りだった。

だがその後がいけなかった。
こんな事に2年も費やしたのかぁ!と思えば飲まずにはいられなかった。
給料日の翌々日だったのも災いをした。懐が温かかったのである。

なので、日頃は絶対に入店しないような【高級バー】でしこたま酒を飲んだ。

途中で誰かとなりで何杯か奢ってくれた人がいたような気もする。
多分泣いていたのだろう。身に覚えのないハンカチもポケットに入っていた。
涎や鼻水でない事を祈りたいので涙にしておく。

不意に財布の中を見て、二度見する。

【減ってない?】

これはマズイと二日酔いの頭が更に痛くなる。カクテル1杯で2日分の食費に匹敵する。
覚えているだけでも15杯は飲んだ記憶がある。そこから先は記憶がないが。
そしてここまでどうやって帰ったかも覚えていない。

【飲み代と馬車代】の支払いを踏み倒した?ツケにした?誰かに出してもらった?

いずれにしても状況は良くない。まずは確認だとクラリスはぼろぼろになった化粧と髪を直すためシャワーを浴びる。着替えをして出かける支度を整えて昨日の【高級バー】に向かった。
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