お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

文字の大きさ
4 / 25

クラリスの大掃除

クラリス・タッド・ルシテアは今、23年生きて来て初めての経験をしている。

質屋に来ているのだ。



引っ越しをするにあたり色々と処分する品々が出たのである。
クラリスの荷物は比較的少ない。
ベッドは枠もマットも女子寮に付属しているものだしクローゼットとは別に下着などの小さなものを収納していた引き出し付き家具も造り付けで動かす事も出来ない。
掛け敷きにリネンも全て支給品。嵩張るものは持っていく必要がない。

いや、もっていけば窃盗罪になってしまう。

立場上、王宮での夜会に出席をする事はあるがドレスはレンタルで済ませて来たので嵩張るドレスは持っていない。そのような場に身に着ける宝飾品も勿論レンタルである。

私服もさほど多くはなく、この際だからときっちりとしたドレスコードのある店には入店できないが街歩きするにも、まぁまぁの店に入店するにも問題ないだろうと思われる物2点と、カジュアルなものを部屋着も兼用で3点をトランクに詰め込み、あとは質屋や布の買取店に持ち込む。

それでも売れ残ったものは明日、下着類と共に最後の掃除という役目を与えるのである。

物は元々少ないとは思っていてもいざ片づけや掃除を本格的に始めると出てくるものである。

そう、押し入れ、納戸、物入にしている空間に「こんなに物があったの!?」というアレだ。

引っ張り出してみると8畳間を埋め尽くすほどの物が出てきたりする経験は誰もが持っているだろう。
通常は購入しない大判のゴミ袋が幾つもパンパンになる経験である。

その大半は、「冬(夏)にも使うし」「まだ使えるかも」「あ、懐かしい!まだ使える(着られる)かな」そして一番当時の己を猛省するのが「次の不燃物の日まで置いとくしかないか」とそのままになった粗大ごみ。


ちなみにクラリスにはそれはなかった、いやあったか。
それは、「ニルスと別れた」から発生したゴミである。
そう、元カレから贈られた品などもう必要がないのである。思い出?そんなものは2年間を思い出しまた酒で記憶を失ってしまうトリガーになりかねない。棄てるが一番だ。

そう、【捨てる】ではなく【棄てる】である。

ニルスから2年の間に贈られた【品々】を持って質屋に来ているのである。

「あのぅ、これを買い取って頂きたいのですけど」
「そこのトレイにどうぞ。保証書や箱があるなら割増しになるよ」
「あ、あります。ついでにその時の包装紙とリボンも」
「それは買い取れないな」

当たり前である。
クラリスはそんなものまで取っておいた事に頬を染める。
店主に惚れたわけではない。誰もがそうだと思うが、恥ずかしさからである。

大量に持ち込んではいない。質屋に持ってきたのは最初の誕生日にもらったネックレスと2回目の誕生日にもらった髪飾り。そして士官となったニルスが奮発して買ってくれた懐中時計だ。

「うーん…ネックレスと髪飾り、懐中時計の3つで…2千ペルかな」

意外に…いや、高値がついたとクラリスは思った。
1ペル=1円と考えて頂いて問題はない。おおよその物価も同じと思って頂きたい。
秘密だがクラリスの月給は手取り額で40万ペルほど。
23歳という年齢を考えると、恐ろしい程の高給取りである。

きっと夕焼け空をバックに小高い丘で動物たちが
【いいな、いいな~人間っていいな~】と歌う事だろう。

ちなみにニルスは手取りは17万ペル前後。標準である。士官になる前が13万なので増えてはいる。
クラリスと付き合いだしてから徹底した金銭管理をされたおかげでニルスは年3回の賞与も管理され2年で250万ペル程の貯金があるが、クラリスはゼロの数が違う事は容易にお判り頂けるだろう。

そんなニルスから貰ったものなので処分料を払わないといけないかも?と思いつつだったがコンビニスイーツを贅沢買い出来る2千ペルには大満足である。

「半年以内ならその2千ペルを持ってくれば多少利息は払ってもらうけど買い戻せるよ」
「いえっ!そんな考えは微塵もないので大丈夫です」
「そうかい?じゃ、まぁこれはお代の2千ペルだ」
「ありがとぉ~」

「この包装紙とリボンはこっちで捨てておくがいいかい?」
「そんな事もしてくださるの?」
「まぁ、ゴミ箱に捨てるだけだからサービスにもならんがね」
「とんでもないですわ!今なら送料無料!よりも嬉しいですわ」

2千ペルを財布に入れるとクラリスは買い物に出かける。
下着を総入れ替えするため専門店に行って可愛い下着を選んでいく。
間違ってはいけない。

【可愛い下着】と【セクスィな下着】は違う。

クラリスはお尻も隠れるおばちゃん下着が本当は好きなのである。
早ければ15年ほどで訪れる更年期障害に備えて尻を冷やしたくないのである。

セクスィな下着を見て思わず

「着ている自分を鏡で見て、肝を冷やしそうだわ」

と素直に感じる。尻だけではなく肝まで冷えるセクスィな下着に用はない。
そんな売り場に思わず目を奪われ、足を止めてしまったクラリスに店員が囁く。

「男性用もございますよ」

好奇心は猫を殺す。判っていても怖いもの見たさは誰でも持ち合わせている。
イケナイ!ダメだ!と思っても煩悩には逆らえない。

「これなんか最近よく出ているんですよ」

店員さんに悪気はないのだろう。
きっと「よく出ている」というのは「売れている」それは判っているのだ。

しかし!これは!

「あのぅ…これって  よね?」
「大丈夫なんですよ~。先端は隠れますから」

それでいいのか?と考えるクラリスに追い打ちをかける店員さん。

「履いている、つけているを感じさせないんですよ」

――感じるもなにも全裸と相違ないですよね――

奥の深い男性用下着。
ブリーフ派だった兄が初めてトランクスを着用した時に言っていた「スース―する」とはこの事なのだろうかと遠い日を思い出す。

買い物した袋を抱えて寮に戻って、明日は掃除である。
そして明後日はここを出る。5年間ほぼ寝るだけのような部屋でも多少の愛着がある。

寝る前にコーヒーを飲もうかと手にしたマグカップを見て考える。
ニルスとお揃いで購入し愛用してきたマグカップ。

「入れ歯の洗浄に使えるかな‥‥」

フルフルと首を横に振る。

【そのうち使う時が来る】と言うものはゴミなのだ。
入れ歯になるのは下手をすると半世紀後である。

きっと自分はインプラントをするだろう。ミ●キーやハイ●ュウを避ければ大丈夫だ。

クラリスは【不燃物・陶器】と仕分けしたゴミ袋にマグカップをいれた。
感想 71

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。