お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

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屑が舞う部屋

部屋に戻り、お仕着せに着替えるのはクラリス・タッド・ルテシア。

女官の服装ではあの仕事は完遂出来ない。
おそらくはまだ開かれていない第一から第三までの執務室も同じなのだろう。
しかし!1日の基本はしっかりとした睡眠をとる事である。勿論食事も大切である。

食事はダイニングルームなので調理人や給仕もいる事を考えれば先ずはプライベートルームである。

ほら貝でもあれば吹きまくるのにと思いつつ。いざ出陣!


ガサッガサッ‥‥先ずは退路、いや進軍するための道を作らねばならない。
渡された秘境図、いや、間取り図によればこの先7m前方に寝台がある筈である。

そう、ゴミだらけで40cmほど床面より高い位置にある筈の寝台が見えないのである。

「あっ!!」

ゴミ屋敷の住人特有の【陣地】を発見する。
半径50cm以内に【必要不可欠な品】を配置し、人型にゴミが凹んでいる部分である。

器用にゴミで作ったテーブルがある。素材は芯材として雑誌を使用し角に足の小指をぶつけてもダメージを最小に抑えようとした痕跡が見られる毛布巻き仕様である。

掛け布団に使用したと思われる軍部で支給されるトレンチコートを発見する。
敷布団はクッション性を重視したのであろうか、それとも衣替えをするごとに反転させるのか夏用衣類である。

ピッツァなどの紙製トレーもそこかしこに転がっている。いや置かれている。

少し動くだけで舞い上がるカビの胞子。

【屑だわ】

色んな意味で正解である。ただ屑は屑でも星屑ではない。ここはステージではないからだ。
頬を埋める胸はなくても泣きたくなるこの状況下。

何時までも【陣地】で足を止めてはいけない。進軍しなければ!
ほどなくしてクラリスは寝台を発見する。おそらくは3,4か月は使用した痕跡が見られる。
現在は横になる事も、立つことすら出来ない。

何故か?!

ゴミの山のほうが高さがあり、渓谷状態になっているからである。
寝台に横になれば、雪崩のようにゴミが崩れ落ち埋もれる。最悪誰にも発見されず死に至る。

【何故、部屋の中に秘境があるの?!】

クラリスは道を付ける事を諦め、一時撤退をする。人はそれを勇気ある撤退と呼ぶ。
文書を別の棟にいる大臣に届けるために配置されている次官を申し訳ないと思いつつ頼み事をする。

「申し訳ございません。至急揃えて頂きたいものが御座います」
「陛下からも指示を受けております。何なりと」

――陛下!それならこうなる前に何とかしてくださいよ!――

その時!第四執務室から叫び声が聞こえる!!

「うわぁぁあ!どうしてだ!何故なんだ!」

思わず次官の顔を見るが、日常的なのだろう。驚いてもいない。
むしろこれがないと不安なのかも知れないと思うほどに落ち着いている。

「あの…宰相閣下が叫ばれておりますが…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。いつもの事です」
「ですが、何かあったのでは?」
「何もないと思いますし‥‥悩まれている事が通常では理解できないんです」

何てことなの!職務放棄じゃない!

「わかりました。わたくしが行って参ります」
「大丈夫ですよ」
「いいえ。わたくしは専属担当。すみませんが防塵マスクを1ダースお願いしますわ」
「防塵マスク?」
「えぇ。建設現場で使用する使い捨てがいいですわ」
「わかりました。アマ●ンで探してみます」
「それならプライム会員かどうかを確認して頂戴。違うならモ●タロウで」

クラリスは宰相閣下のいる第四執務室の扉を勢いよく開ける。

「ヨハネス宰相閣下!どうなされました!」
「あ、ルテシア君‥‥判らないんだ」

顔をあげたヨハネス宰相閣下の顔色は悪い。頭を抱えて机の上に置いた紙にまた目線を落とす。
余程の難問が持ち上がったに違いない!
ネコの手よりは力になれるかもしれない!クラリスは小走りで向かった。

「わたくしで何かお力になれる事があれば仰ってください」
「すまない‥‥」


「8×4 と セイントフォー の違いが判らないんだ」

クラリスは何を聞かれているのか理解が出来なかった。
制汗剤とアイドルグループの違いで頭を抱えなければならない宰相閣下が一番判らない。
しかし、今日は辞令を受けての初めての出勤日。
何か助け舟を出さなければ‥‥何か…はっ!!

「閣下、それを解くカギは ユーフォ― です。UFO!」
「何故だ」
「スプレー若しくはロールオンで汗の臭いが変化する不思議。そしてアイドルなのに曲の合間にバク宙をするという不思議!これは未確認飛行物体のUFOが鍵なのです」

クラリスは手を合わせて閣下を見つめるだけでいいのだ。

「そうか!何か閃いた気がする!」
「それは何よりで御座います」
「よし、今日の昼食はベトナムフォーだな!ご馳走しよう。行くぞ」

先ほどまでの悩みは何処に?そう思っているクラリスに満面の笑みを返す宰相閣下。
思い立ったら吉日とばかりに立ち上がる。

はっ!!

【お待ちください!!宰相閣下!】

決死の覚悟で呼び止める。決して昼食をご馳走してもらうのが嫌なわけではない。
時計の針はあと5分で正午である。少し早いからと咎めるつもりはない。

しかし!!

「どうした?フォーは嫌いか?」
「好き嫌いでは御座いません。それ以前に問題が御座います」
「問題?なんの?」

「ズボンをお穿きください!」

「えっ?あぁそうだね‥‥面倒だから穿くの忘れてた」

天才学者のアイザック氏も物事に没頭するとズボンを穿かずに仕事に行ったり、馬の手綱だけを持って馬は厩舎に残してたりとしてたそうだけど‥‥閣下もそうなの??

甲斐甲斐しくズボンを穿かせるクラリス。

「あはっ…ごめんね。いつも忘れちゃうんだ」


クラリスは陛下の直属だと言う彼の言葉を思い出す。

【仕事は出来るんですよ。仕事は…でも色々とね】

そして

【周りはちょっと大変なんですけどね】

――ちょっとじゃないかも知れない!?――

今更ながらに思うのだが、挫けるクラリスではない。
むしろ、叩きなおすと奮起するのだった。
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