お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

文字の大きさ
11 / 25

幽霊より怖いもの

クラリス・タッド・ルテシアは奮闘している。

大量のごみだと本人から認定を受け廃棄のみが末路のこの部屋を埋め尽くす品々を次々に放り出す。
大事ではないと言われれば後生大事に扱う必要など全くない。

人力で運び出すしかないのが難点であるが、何往復目かをしていた時にふと思いついた。
この場で、このゴミの山に立ち向かっているのはクラリス1名である。
少ない人力で大量の荷物を運ぶに適しているものを思いついたのである。

一人で運んでもせいぜいゴミ袋4つである。5つ目まで無茶をするとビニールが破れる。
そうすると中身が出てそれをまた新しいビニールに詰めなくてはならない。
せめて破れるのが集積所の近くであればポイポイと手で放り込むが、
もった瞬間よりも、中間地点付近でぶちまけると、心がすさむ。

夕暮れの船着き場を口笛を吹いているかのような心のすさみを感じるのだ。
行き場のない絶望感と、【気の毒に】という周りの視線に耐えてゴミを集めねばならない。

なので‥‥文書課に行って台車…ではなくそれを通り過ぎて荷受け場に行く。

「これを貸して頂けませんか!」

昔祖母が趣味の菜園で使っていたような小ぶりなものではなく、
後部がオープン状態となった本格的な【リヤカー】を調達する。

そして大事なのはちゃんと許可を得る事である。
クラリスは交通課に行き、許可証を発行してもらうと紐をつけて首にかける。

そう。リヤカーは道路交通法では【軽車両】なのである。
廊下は道ではないがか、行ってみれば【公共の通路】である。
間違いがないように【通行許可証】と荷物を運び入れる間の【占用許可証】をもらわねばならない。

クラリスは筆記試験ででた問題を思い出す。
私的な事に道路を使用する場合は騎士団に行き【道路使用許可証】を!
私的な事に一時的に道路など公共の場を陣取る時は役所に【占用許可証】をもらわねばならない。

一応騎士団にも問い合わせたが、廊下は街道などには当てはまらないので不要だと言う。
何事も確認は大事である。あとでイチャモンに付き合うのは時間の無駄だからだ。
騎士団で近衛隊のクールイケメン、ハワード君にデートに誘われたがお断りをしておく。
イケメンと街に並んでいるだけで立たない煙が立ち上る事があるからである。

貸してもらったリヤカーに一度に20程積み込むと作業が捗った。
5往復もすれば部屋の床が見えてきたのである。

これはきっと、遭難した時に陸地が見えた!山小屋を見つけた!と同じくらいの喜びである。

【床が見える】

当たり前のようだが、宰相閣下の利用する部屋で床が見えているのは第四執務室だけである。
そして見えた床に立つ。当たり前のことなのだが大変新鮮に感じる。

【天井に手が届かない!】

そう、一般家屋の天井高さよりもさらに高くゴルフクラブを室内でフルスィングしても問題がないほどの高さのある天井に手が普通に届いていたのである。
決してつま先立ちでバレリーナのようにトゥをしなくても届いていたのだ。

ここで手を止めてはいけない。リヤカーに乗せるゴミはまだあるのである。
汗をぬぐうために頬かむりをして、首には許可証。そしてリヤカーを引く。
ゴミ袋ではなく段ボールなら危険な絵面になってしまう。

そして、終業を知らせる鐘がなる。【ゴーンゴーン】

鐘の音と同時にリヤカーを返却したクラリスは閣下のプライベートルームに戻る。

【感無量!】

スッキリとゴミは片付いたが、人の形に汗型がついた寝台のシーツが目に入る。

【あぁ、無情!】

しかし、残業手当狙いではないがまだ終わりではない。
これから宰相閣下の元にお願いと言う名の決定事項を伝えねばならないのだ。

コンコン

「閣下、ルテシア入室してもよろしいでしょうか」
「いいよ。どうした?何かあった?」

――ええ。ゴミが大量に!もう捨てましたけどね――

「失礼いたしま‥‥す。…えっ?」
「ルテシア君の分もあるよ。おいで」

――なんなの…これは進化のし始めを見せられているの?――

昼食が終わった後、エリックを部屋に送った時は【普通の執務室】だった。
しかし今は‥‥既に大きなゴミ袋が2つ。そしてどこから持ってきた!と聞きたくなるようなファストフードがソファーテーブルに並べられている。

「閣下‥‥これはいったい…」
「うーん。ムワックにしようと思ったんだけど頑張ってたからヌォスバーガーにしたよ」
「そういう事では無くですね‥‥」

「えっ?ドムド●が良かったの?それとも佐●保バーガー?あっ!●ッテリアか!」

――全てが違います。宰相閣下。そこではないんです――

「こっち座りなよ。新製品なんだって。これは期間限定でね…」

嬉しそうに説明をしてくれるのだが、2人で食べきれる量ではない。
叱ろうと思ったが、なんだか泣きそうになってしまったクラリス。
そっとエリックは飲み物を差し出す。

「一応…ミルクとレモン判らなかったから両方あるよ?」

氷が溶け切って液体だけになっているストレートティーを渡されてしまった。

エリックは
18時が終業なので、きっと疲れているから甘い物とか食べたいかと思ってケーキショップに行く途中でお腹が空いてるかもと思い、ファストフードを買って来た。
急いだけど到着したころには氷が溶けてしまったと笑っている。

――もう!これじゃダメって言えないじゃない!――

「食べ過ぎはダメですから1個ですよ」
「残りはどうしようか?」
「残業されている方にも配りましょう」
「さすがルテシア君。気が利くぅ」

――いや、どう考えても食べきれないし、捨てられないでしょう?――

「今までどうされてたんですか?」
「今まで?食べてたよ」
「こんなに沢山を食べていたのですか?」
「これはルテシア君が好きなのが判らなくてメニュー全部買っただけだよ」

――嬉しいけど、なんか違う。素直に喜べないのは何故――

いかん、いかん。絆されてはならぬ。クラリスは今夜の事をエリックに告げる。

「閣下、本日はわたくしの部屋でお休みくださいませ」
「え?‥‥いきなり?」

――勘違いをするな!独り寝じゃ!たわけもの!――

「閣下のお部屋はゴミ出しで終わりましたので明日清掃を致します。今夜はわたくしの部屋でお休みください」
「でもそしたらルテシア君はどうするんだ?」
「わたくしは庶務課から寝袋を借りましたのでこちらで寝ます」
「え‥‥でもここ、出るよ?」
「出る?何がです?わたくし幽霊、お化け、モンスターの類は信じておりません」
「それは僕もそうなんだけど‥‥出るよ?」


【ゴキとゲジゲジ‥‥昨夜いたから。カマキリの卵も孵化しそうだし】

「ヒュッ」

思わず持っていたバーガーを落としてしまったクラリス。
実体のない物より、這う虫は怖すぎる。
その夜はクラリスの部屋で、クラリスはベッド。エリックは寝袋で眠る事になったのだった。
感想 71

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。