お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

文字の大きさ
16 / 25

シルビア特製スープ

シルビアは焦っている。非常に焦っており部屋の中をウロウロとしている。

もうすぐ支払日なのである。

だが、結婚休暇を取り出勤日数が少なかった。
侍女見習いであるシルビアの年間有給日数は4日である。
そんなものは年度の切り替わりにとっくに使ってしまっている。

なので、支払われる給料があるのではなく【足らない】ので納めねばならない。
支給額を上回る社会保険料の差額分を支払わねばならないのだ。

ただ、支払わなくてもいい方法がある。
起点となる締め日までに退職をすれば良いのである。
だが、それは出来ない。

退職をすれば化粧品や小物などを購入するのにニルスから小遣いをもらわねばならない。
それだけではなかった。

自転車操業状態となっている金融会社への支払いをするのに金がないのである。
シルビアが借りている消費者金融は全部で7社。その他に銀行系のローンが3行。
月賦会社(クレジット)が4社である。

既にキャッシング枠は一杯で借りる事は出来ない。
毎月の給料でまず銀行系のローンを払う。7千ペル払い即座に4千ペルを引き出す。
その後にクレジット会社に5千ペルを支払う。
残った分で、消費者金融7社に利息だけをいれる。

おや?小遣いないんじゃね?

そう、シルビアにはそんな自由に使える金は残らない。
ではどうしていたのか‥‥。

ニルスと暮らし始める前までは、寮に住んでいた。
なので非番の時に、勤務に出ている同僚の部屋に忍び込み金目のものをちょっとだけ借りて換金。
夜な夜な遊んでいたので、酔っ払いを引っ掛け休憩専門の宿に引っ張り込んで寝込んだところを見計らい財布から札だけを拝借。時々腕時計や宝飾品も預かって換金した。勿論預かったのは独断である。
性欲も小遣いも満たされてWIN&WINだった。

ニルスと暮らし始めて結婚休暇の間はニルスがそれまでと同様色々と買ってくれた。
常に一緒だったので金を使う事もなかったのだが、休暇が明けて困ったのである。

金がない

王宮には侍女見習いで数日仕事には行ったが悪阻で仕事にならない。
遅刻と早退を繰り返していたここ1カ月である。

給料日、銀行に行って引き出しをしようとしたがエラーになった。当然である。

慌てて財務課に問い合わせたが結婚休暇を1カ月取っていたシルビアに支払われる給料はなく、逆に社会保険料の支払いがあると言われてしまった。


今までのように、ちょっと足らないと言っても寮住まいではないので同僚の事も出来ない。
変に家賃の高いところに住んでいるため隣人の部屋に忍び込む事も出来ない。

仕方なくニルスに買ってもらった宝飾品を質屋に持ち込んだが半分以上はイミテーションだと買取不可でそれならと言われたのは指に嵌めている指輪である。
だが、これを質入れしてしまったら「なくした」という言い訳では済まないだろう。

ニルスに捨てられるわけにはいかないのである。
捨てられてしまったら、住むところもなくなってしまうし妊娠している今、客を取る事も出来ない。
うっかりして流産でもしてしまえば【子爵婦人】への道が遠のくと考えたのだ。


家に帰り、ニルスの通帳から金を引き出そうとしたがどうやら持ち歩いているようで家にはなかった。

「くそっ…置いとけ馬鹿野郎」

とんだ阿婆擦れである。今更ではあるが。

もうすぐニルスが帰ってくる。ニルスが寝ている間に通帳を盗む事を思いつく。
翌日、持ち歩いている通帳がない事に気がつかないようにするにはどうしたらいいか。

シルビアは懸命に考える。そして立ち上がった。
結婚する前に通帳の記帳するページがなくなって新しい通帳にしたのを思い出した。
今ニルスが持ち歩いているのは新しい通帳である。

あの時、ニルスは通帳を捨てたか?

いいや、捨てなかった。
全て解約をしたとは言え、通帳の逆開きから始まる定期のページに延々と印字されている文字。
それが嬉しかったのだろう。記念にとニルスは取っておいたのだ。
シルビアは全く意味のない前の通帳を探す。引き出しの中も棚の奥も。目が血走る。

【あった!(ニヤリ)】

今の通帳を抜き取った後、この通帳と入れ替えておけばバレない。
毎日銀行に行くわけでもないし、騎士たちの給料日は先週なのである。
10万ペルもいらない。当面の支払い分、8万ペルくらいを借りるだけなのだ。


シルビアは【今!】【ナゥ!】しか考えていない。
今月はいる給料は結婚休暇を取って休んだので支給がなかった(逆に払う分が発生した)
だが、来月も悪阻を理由に遅刻、早退を繰り返しており金額的には数千ペルだが同じように払わねばならない事に全く気がついていない。
目先の金融各社への支払いで気が回らないだけでもある。


通帳を見つけたシルビアは薬局に行く。
ニルスから休暇明けに【生活費】として貰っている食費から睡眠薬を購入する。
病院で処方される物ではないので効き目はあまりないが、それは用法を守って服用すればである。

買ってきた薬は7日分が入っている。
テーブルにザっと中身をぶちまけると半分ほどをマグカップで粉上に潰していく。

自分の分を小さい鍋に小分けにすると、3,4日分ほどの粉になった薬を今夜のスープにゆっくりと混ぜていく。危険なので味見は出来ないのが残念である。

「ただいまー。いい匂いがするな。今日はブロッコリーのスープか」
「そうなの。レトルトだけど美味しいって聞いたから」
「シルビアの料理は旨いからな。全部平らげてしまうよ」

ニルスは間違っている。シルビアはレトルトを温めているだけで料理はしていない。
そんな事も気がつかないのが恋愛フィルターなのである。

シルビアはゆっくりと鍋の底をお玉で確認していく。粒がないかの確認である。
そして皿にスープを注ぐ。

「今日のスープはちょっとアレンジしてみたの」

間違いではない。確かにアレンジは加えている。
どんなアレンジなのかを伝えないのは【秘伝】なのであろう。

「旨い。うまいなぁ・・・」

何も知らないニルスは完食し、おかわりまでする始末。極上の笑みを浮かべるシルビア。


深夜、大いびきで眠るニルスを確認すると隊服の内ポケットから目当てのものを抜き取る。
ちゃんと代わりの通帳も入れておくのを忘れない新婚妻。健気と言っていいのだろうか。

「大丈夫。明日も特製スープだし、ちゃんと通帳も返すから♡」


シルビアは抜き取った通帳を自分のカバンの底に入れるとニルスの隣で横になる。

初歩的なしくじりに気がつかない。この世界にはカードはない。
通帳で引き出すにはエーチィエムで暗証番号を入力するか窓口で拇印が必要な事に。

ニルスは短絡的なので誕生日にしているだろうというレベルの思考である。

だがニルスは暗証番号を設定する時にはクラリスと付き合っていた。
クラリスは暗証番号にニルスの出生時の体重を指定していたのである。
口座開設の書類ですらクラリスに丸投げしていたニルス。

「この数字なんの数字だ?」
「出生時の体重よ。万が一の時にはお母様だけは知ってるわよ」
「へぇ…俺って4881キロだったんだ」

間違いである。約5トンも胎児は大きくならない。そこはグラムだ。



そんなやり取りを知らないシルビアは夢の中に落ちて行った。
感想 71

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。