お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

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エリックと言う人

エリック・ディオン・ヨハネスは人生でこれほどまでに満ち足りた日があっただろうかと思うような日々を満喫している。

エリックにとって、生きていくうえで今まで女性は必要がなかった。
語弊があってはいけない。女性の存在を否定しているわけではない。
好きだの愛しているだのと、恋愛に関しての女性が必要なかったのである。

と、いうのもエリックは【片付ける】事もであるが【身だしなみを整える】と言う事、業務以外での人間関係において、時間を割いたり、手間をかける必要性を感じていなかった。女性に対しても同様だったという事である。

7歳の時、どうせ湯殿では脱ぐのにと全裸で過ごしていた。
本を読み始めると完全に入り込んでしまい蹴り飛ばしても気がつかない、そんな子であった。
なので、飢えてはいけないと母や乳母などが手が届く範囲に食事を置くようになる。
すると、一息ついた時に『あれ?こんな所に食べ物が』となるわけだ。

公爵家にいる間は、誰かが運んでくれて誰かが片付けてくれるので虫が湧く事はなかったが、気がつけば10日、2週間と着替えもせずに移動は本を読みながらトイレくらいになる。
トイレの後、ズボンを穿くのが面倒だと膝にズボンがかかった状態で過ごす事も多かった。
屋内で、家の中で良かった。図書館ならSATが出てくる騒ぎになる。

しかし、食べ物に虫はわかなくても、本人の余りの汚さに虫が湧くのであった。
ちなみに、当時座っていた椅子の座面の縁には既にキノコの生育が侍女により確認されている。

【甘やかすからいけないのだ!】

と、父である公爵の一言で各国の学園、学院に留学し転々と住まいを移す生活になったのはエリックが10歳になってからである。

従者が2人一緒に住んでいた事もあり、公然わいせつ罪で捕まる事はなかったし部屋の中も清掃はされていた。だが、エリックは2,3か月に一度湯あみをすれば良い方で、制服を脱ぐことなく42日という珍記録も打ち立てている。当然従者は泣いた。

力及ばす無念という気持ちもあるが、臭さで目が痛かったのである。

各国の学院、学園では優秀な成績を残しており、18歳で隣国の学園を出た後は、帝国の大学に進学する。勿論一人暮らしである。

公爵家に抗議文が届いたのは大学に入り8が月目であった。
汗や湿気、食べ物に群がる虫で床が腐ったという。
下階に住んでいた住人からの苦情で発覚したのだ。

「茶色っぽい雫がポタポタ落ちるんです」

当時の住人は、涙ながらに恐怖を語る。同情を禁じ得ない。

アパートを追い出されるがエリックはたいして気にしていない。
雨さえしのげればガード下でも問題はないのだ。

「風呂?目の前にあるよ」

指を指したのは家庭排水がそのまま流されている排水溝だった。
幅も深さも30センチ。座れば腰が抜けなくなる狭さである。

「せめて川なら…」

それもどうかと思うが、エリックの母である公爵夫人はハンカチを濡らす。

飛び級で大学を卒業したエリックは各国の大使や国王などの元で働く。
皆が総じていうのは

【仕事は出来るんだ。仕事は…】


そんなエリックだったが24歳の時に幼馴染で腐れ縁のジューダスに捕まる。

【おい。エリック】とまるで「おい、小池」とさほど変わらな声かけをされて投網で確保されたのはエリックか街中におりて逃げ回る猿くらいである。

「宰相をしてくれないか」
「いやだ。面倒だから」
「宰相をしてくれるなら、これをやる」

そう言って皇帝ジューダスがエリックに提示したのは

【オシャレ魔女 ラブ ● ベリー カード】だった。

「ファァァッ!やる。何でもやる!やったぁ」

簡単な男である。そのカードを使ってリズムに合わせてボタンを押すゲーム機はない。
その事に気がついたのは任命式が終わった日の午後だった。
そこは王宮。ゲーセンではないからだ。勿論、ゲーセンでももう機械は撤収された後だが。


宰相となり、バッサバッサと国を改革していき、不要なものは斬り捨て御免。
王宮のライトウィングに住まいを移してからはご承知の通りである。


エリックは勤務時間中は非常にまじめで真摯に業務に取り組む。
一度目を通せば、その書類を二度見する事はない。頭の中に入っている。
誤字脱字まで入っているので作者には非常に恐れられている。

エリックには【微妙な角度で曲がったものが好き】という性癖のようなものがある。
なので、犬がお手をする時の手からはみ出した部分を見ると視線が固定される。
ネコの香箱が特にお気に入りでおとなしい猫のその香箱に触れたいがために猫カフェに通い詰めた事もある。寝転んで「ハァハァ」言い過ぎたのだろう。

現在は出禁だ。

そんなエリックがついに女性に恋愛感情を持ってしまった。
ただ、25歳になるのだが性的にどうこうしようという気持ちは全くない。
草食と言う訳ではないが、言うなれば【そういうのは結婚してから】と幼い頃に叩きこまれた三つ子の魂精神が発動しているのであろう。

休憩時間、エリックは向かいのデスクで一休みするクラリスを優しい眼差しで見つめる。
クラリスがマグカップを持っている手の【手首の角度】にキュンキュンしているのだ。

「可愛いなぁ」
「何がです?」
「クラリスが可愛いなぁと思って」
「何を言ってるんです。休憩時間あと4分ですよ」
「じゃ、その4分で婚姻届けにサインでもしないか?」
「しませんね。時間の無駄です」

コトン‥‥クラリスがマグカップを置いてしまった。

「まだ時間は少しある…クラリスっ♡」
「どうしたんですか?」
Estoy enamorado de tiエストイ エナモラダ デ ティ

今度はスペイン語で【君の事を愛してるんだ】と囁いてしまう。
イケメンなら許される荒業である。

真顔で言葉は受け取るものの、瞬時に赤くなり、軽く指を握った手で目を隠すクラリス。

「ファウゥ!その角度もいいね」
「やめてください!宰相閣下!」

セクハラですよ!と言いたくなるが、いかんせんエリックはイケメンである。
イケメンの発する愛のささやきの破壊力。太刀打ちできるものではない。

百戦錬磨どころか一戦惨敗のクラリスには難易度が高すぎる。
ハイスペック&金持ちなイケメン。私生活さえなければ完璧である。
ただ、私生活がなければというのは致命傷でもある事は否めない。

休憩時間が終わり、仕事モードに入る。
洗ってもらうついでに今夜はクラリスも一緒にどうかと湯あみに誘う事を考える。
間違ってはいけない。決して下心はない。

一緒に入れば時間短縮。その分、求愛できる時間が出来る
エリックはそういう男なのである。



ちなみに宰相と言う役を引き受けることになったそのカード。
クラリスが専属になってくれた!ここに来てくれた!という嬉しさで存在を忘れていた。

「捨ててはいけないものや、見られては困るものはございますか」
「ないよ」

即答した言葉の通りに捨てられてしまっている。
だがエリックに後悔はない。

カードよりも、大好きなクラリスという存在が出来たのだから。

【今夜は太極拳でもしてみようかな】

その行動はやめておいた方が良いと思うが、恋するエリックに声は届かないのだった。
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