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ニルスが知った事実
ニルスは緊張している。
23歳という年齢は人生で初めての経験をいろいろとするものだと思いつつも、今、手に汗握る状況にいる事が【すごくいけない事】に思えて仕方ないのである。
「ニルスさん、ニルスさーん」
ニルスの名前を女性が呼んでいる。柔らかい声で印象としては【やさしい声】である。
間違ってはいけない。【やさしい】のは声であって、哲学や雨、解散したお笑いコンビではない。
「お待たせしました」
やさしい声で女性がニルスに話しかける。
待っていたのはニルスの方で、頼まれたわけでもなく自主的であるにも拘らず女性は非を認めたようだ。
「いえ、こちらこそ‥‥今日はすみません」
「大丈夫ですよ。こういう所は初めてなんですか?」
「はい、お恥ずかしながら」
まさか‥‥妻が妊娠中で十分に満足が出来ず風俗に来たとか、大幅な給料減という現実から逃避するために可愛い女の子とデートできる【レンタル彼女】を??
「緊張されなくていいですよ。では太枠の中を記入ください」
違うようである。ニルスは出された用紙に住所と名前などを書きこんでいく。
誰の名前よりも一番書いてきたはずの自分の名前も緊張してしまう。たった3文字なのに!
「あの…書けました」
「えーっと…お名前、ご住所、生年月日…勤務先…奥様がいらっしゃるんですね、奥様のお名前と生年月日、勤務先の記入もお願いいたします」
「あの妻には内緒にしたいんですけど」
「大丈夫ですよ。奥様に連絡をしたりという事はありません。ただご融資後に万が一ニルスさんが亡くなった場合、ご融資したお金はニルスさんの財産ですので奥様に相続権が発生するんです。
借入金も遺産なんですよ♪相続はこっちは貰うけどこっちはいらないという事は出来ませんので、騎士さんであれば遺族見舞い金とか直ぐに支給になりますから、その時残高があれば奥様にお支払い頂くのですがニルスさんはもう亡くなってるので叱られることはありませんよ♪」
「あ、そうなんですか…」
納得をするな!と言いたいところである。
そして女性も商売。誰もが知っている相続という【棚ぼたラッキー】的なワードは口にするが、こんな所に金を借りに来るヤツにはプラスの資産などありはしない。
取りっぱぐれになる可能性のある相続放棄というワードは口にしない。
流石目つきの悪い天使をマスコットキャラにしているブラック☆スマイルの窓口嬢である。
シルビアの名前と生年月日、勤務先を記入するニルス。
「では幾らまでご融資できるか確認を致しますので、もう少しだけお待ちくださいね。あ、お茶どうぞ」
かなり薄味であるがカモミールティーを勧められる。
ドキドキしながらも一口飲むと、お湯の温かさにホッとするニルス。
間違ってはいけない。香りも色も気持ち程度の茶である。白湯と言っても差しさわりない。
「お待たせしました」
直ぐに女性は戻ってきた。
幾ら借りられるのか‥‥ニルスは50万借りて、15万づつ使い、残った5万を3カ月は支払いに充てようと考えている。一応借りたら返さねばならない事は知っているようだ。
「ニルスさんにご融資できるのは、月額の支給額の2か月分である14万ペルです」
「えっ?」
「では、騎士の階級章などをお借り出来ますか」
「いや、ちょっと待ってください」
「どうされました?」
「あの、少なくないですか?僕、実家は子爵家ですしもうすぐ昇進試験なので給料も上がるんです」
女性は後ろを振り向いて、男性社員と目で会話をする。即座に衝立の後ろに屈強な男が2人やってくるがニルスからそれは見えない。
「ニルスさん、一応先程の言葉は聞かなかった事に致しますが貴族の家名を詐称するのは厳罰に問われます。騎士の仕事なんか吹っ飛びますよ。ニルスさんは既にご結婚されて子爵家を出ただけではなく、出生時にさかのぼってその子爵家との関係を抹消されているのです。それから昇格試験に既に合格されていれば資格手当の分はこちらも検討を致しますが試験を受けられる前ですよね?次の試験は合格率4%。毎年合格者ゼロも不思議じゃないです。そちらについては合格をしてからお申し出ください」
ウっとニルスは考えてしまった。
「で、どうされます?」
「あの、配偶者が王宮務めなら増額って言うのは…」
「えぇ。増額しております。1万ペルの増額になっております」
「たった1万ペル?」
「女官であれば見習いでもそれだけで300万ペルは増額致しますが、お調べしたところ奥様は女官ではなく侍女ですよね?それも侍女の中でも一番下の侍女見習いではないですか」
「えぇっ?そんなバカな!」
「その点は奥様に確認をされてみては如何でしょうか?あ、でもそうするとお金を借りた事は秘密に出来ませんがよろしいですか?」
「か、確認してきます。融資はまた後日で!」
「承知致しました。またのご来店をお待ちしております」
ニルスは店を飛び出していった!
結果的に金を借らなかった事を考えれば、ブラック☆スマイルは優良企業なのかも知れない。
しかし、ニルスは混乱していた。
シルビアはクラリスと同期だと言った。
そうだ。ニルス。シルビアは阿婆擦れのゲスであるがそこは嘘は言っていない。
同期ではある事は言ったが、今でも侍女見習いだと言う事を言ってなかっただけである。
そして、同期なら給料も待遇もクラリスと同じだと勝手に思っていたのはニルスなのだ。
だが、とりあえずは給料を引き出して生活費を渡しておこうと銀行の前で止まる。
その辺りはまだ「夫」としては合格点であろう。
しかし!!
【ピー!このお通帳ではご利用できません】
機械は非情である。大きな警告音と共にアナウンスが流れる。
後ろに何人か並んでいてその目は【何やってんだ】と睨みつけている。
おかしいな…と通帳を見るニルス。
「どうして!?」
周りの人たちは心で叫ぶ 【知るかいな】
新通帳に更新済みと書かれた文字に気がついたニルス。
おかしい!昨日は記帳したからこの通帳でなかったはずだ。どうしてこうなっている?!
思い当たるのはシルビアしかいなかった。
昨日通帳に記帳したのは仕事帰り。この通帳と入れ替わることはあり得ない。
入れ替える事が出来るとすればシルビアしかいないのである。
ニルスは怒りで通帳をギュッと握りしめて家までの道のりを走った。
23歳という年齢は人生で初めての経験をいろいろとするものだと思いつつも、今、手に汗握る状況にいる事が【すごくいけない事】に思えて仕方ないのである。
「ニルスさん、ニルスさーん」
ニルスの名前を女性が呼んでいる。柔らかい声で印象としては【やさしい声】である。
間違ってはいけない。【やさしい】のは声であって、哲学や雨、解散したお笑いコンビではない。
「お待たせしました」
やさしい声で女性がニルスに話しかける。
待っていたのはニルスの方で、頼まれたわけでもなく自主的であるにも拘らず女性は非を認めたようだ。
「いえ、こちらこそ‥‥今日はすみません」
「大丈夫ですよ。こういう所は初めてなんですか?」
「はい、お恥ずかしながら」
まさか‥‥妻が妊娠中で十分に満足が出来ず風俗に来たとか、大幅な給料減という現実から逃避するために可愛い女の子とデートできる【レンタル彼女】を??
「緊張されなくていいですよ。では太枠の中を記入ください」
違うようである。ニルスは出された用紙に住所と名前などを書きこんでいく。
誰の名前よりも一番書いてきたはずの自分の名前も緊張してしまう。たった3文字なのに!
「あの…書けました」
「えーっと…お名前、ご住所、生年月日…勤務先…奥様がいらっしゃるんですね、奥様のお名前と生年月日、勤務先の記入もお願いいたします」
「あの妻には内緒にしたいんですけど」
「大丈夫ですよ。奥様に連絡をしたりという事はありません。ただご融資後に万が一ニルスさんが亡くなった場合、ご融資したお金はニルスさんの財産ですので奥様に相続権が発生するんです。
借入金も遺産なんですよ♪相続はこっちは貰うけどこっちはいらないという事は出来ませんので、騎士さんであれば遺族見舞い金とか直ぐに支給になりますから、その時残高があれば奥様にお支払い頂くのですがニルスさんはもう亡くなってるので叱られることはありませんよ♪」
「あ、そうなんですか…」
納得をするな!と言いたいところである。
そして女性も商売。誰もが知っている相続という【棚ぼたラッキー】的なワードは口にするが、こんな所に金を借りに来るヤツにはプラスの資産などありはしない。
取りっぱぐれになる可能性のある相続放棄というワードは口にしない。
流石目つきの悪い天使をマスコットキャラにしているブラック☆スマイルの窓口嬢である。
シルビアの名前と生年月日、勤務先を記入するニルス。
「では幾らまでご融資できるか確認を致しますので、もう少しだけお待ちくださいね。あ、お茶どうぞ」
かなり薄味であるがカモミールティーを勧められる。
ドキドキしながらも一口飲むと、お湯の温かさにホッとするニルス。
間違ってはいけない。香りも色も気持ち程度の茶である。白湯と言っても差しさわりない。
「お待たせしました」
直ぐに女性は戻ってきた。
幾ら借りられるのか‥‥ニルスは50万借りて、15万づつ使い、残った5万を3カ月は支払いに充てようと考えている。一応借りたら返さねばならない事は知っているようだ。
「ニルスさんにご融資できるのは、月額の支給額の2か月分である14万ペルです」
「えっ?」
「では、騎士の階級章などをお借り出来ますか」
「いや、ちょっと待ってください」
「どうされました?」
「あの、少なくないですか?僕、実家は子爵家ですしもうすぐ昇進試験なので給料も上がるんです」
女性は後ろを振り向いて、男性社員と目で会話をする。即座に衝立の後ろに屈強な男が2人やってくるがニルスからそれは見えない。
「ニルスさん、一応先程の言葉は聞かなかった事に致しますが貴族の家名を詐称するのは厳罰に問われます。騎士の仕事なんか吹っ飛びますよ。ニルスさんは既にご結婚されて子爵家を出ただけではなく、出生時にさかのぼってその子爵家との関係を抹消されているのです。それから昇格試験に既に合格されていれば資格手当の分はこちらも検討を致しますが試験を受けられる前ですよね?次の試験は合格率4%。毎年合格者ゼロも不思議じゃないです。そちらについては合格をしてからお申し出ください」
ウっとニルスは考えてしまった。
「で、どうされます?」
「あの、配偶者が王宮務めなら増額って言うのは…」
「えぇ。増額しております。1万ペルの増額になっております」
「たった1万ペル?」
「女官であれば見習いでもそれだけで300万ペルは増額致しますが、お調べしたところ奥様は女官ではなく侍女ですよね?それも侍女の中でも一番下の侍女見習いではないですか」
「えぇっ?そんなバカな!」
「その点は奥様に確認をされてみては如何でしょうか?あ、でもそうするとお金を借りた事は秘密に出来ませんがよろしいですか?」
「か、確認してきます。融資はまた後日で!」
「承知致しました。またのご来店をお待ちしております」
ニルスは店を飛び出していった!
結果的に金を借らなかった事を考えれば、ブラック☆スマイルは優良企業なのかも知れない。
しかし、ニルスは混乱していた。
シルビアはクラリスと同期だと言った。
そうだ。ニルス。シルビアは阿婆擦れのゲスであるがそこは嘘は言っていない。
同期ではある事は言ったが、今でも侍女見習いだと言う事を言ってなかっただけである。
そして、同期なら給料も待遇もクラリスと同じだと勝手に思っていたのはニルスなのだ。
だが、とりあえずは給料を引き出して生活費を渡しておこうと銀行の前で止まる。
その辺りはまだ「夫」としては合格点であろう。
しかし!!
【ピー!このお通帳ではご利用できません】
機械は非情である。大きな警告音と共にアナウンスが流れる。
後ろに何人か並んでいてその目は【何やってんだ】と睨みつけている。
おかしいな…と通帳を見るニルス。
「どうして!?」
周りの人たちは心で叫ぶ 【知るかいな】
新通帳に更新済みと書かれた文字に気がついたニルス。
おかしい!昨日は記帳したからこの通帳でなかったはずだ。どうしてこうなっている?!
思い当たるのはシルビアしかいなかった。
昨日通帳に記帳したのは仕事帰り。この通帳と入れ替わることはあり得ない。
入れ替える事が出来るとすればシルビアしかいないのである。
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