お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

文字の大きさ
18 / 25

ニルスが知った事実

ニルスは緊張している。

23歳という年齢は人生で初めての経験をいろいろとするものだと思いつつも、今、手に汗握る状況にいる事が【すごくいけない事】に思えて仕方ないのである。

「ニルスさん、ニルスさーん」

ニルスの名前を女性が呼んでいる。柔らかい声で印象としては【やさしい声】である。
間違ってはいけない。【やさしい】のは声であって、哲学や雨、解散したお笑いコンビではない。

「お待たせしました」

やさしい声で女性がニルスに話しかける。
待っていたのはニルスの方で、頼まれたわけでもなく自主的であるにも拘らず女性は非を認めたようだ。

「いえ、こちらこそ‥‥今日はすみません」
「大丈夫ですよ。こういう所は初めてなんですか?」
「はい、お恥ずかしながら」

まさか‥‥妻が妊娠中で十分に満足が出来ず風俗に来たとか、大幅な給料減という現実から逃避するために可愛い女の子とデートできる【レンタル彼女】を??

「緊張されなくていいですよ。では太枠の中を記入ください」

違うようである。ニルスは出された用紙に住所と名前などを書きこんでいく。
誰の名前よりも一番書いてきたはずの自分の名前も緊張してしまう。たった3文字なのに!

「あの…書けました」
「えーっと…お名前、ご住所、生年月日…勤務先…奥様がいらっしゃるんですね、奥様のお名前と生年月日、勤務先の記入もお願いいたします」

「あの妻には内緒にしたいんですけど」

「大丈夫ですよ。奥様に連絡をしたりという事はありません。ただご融資後に万が一ニルスさんが亡くなった場合、ご融資したお金はニルスさんの財産ですので奥様に相続権が発生するんです。

借入金も遺産なんですよ♪相続はこっちは貰うけどこっちはいらないという事は出来ませんので、騎士さんであれば遺族見舞い金とか直ぐに支給になりますから、その時残高があれば奥様にお支払い頂くのですがニルスさんはもう亡くなってるので叱られることはありませんよ♪」

「あ、そうなんですか…」


納得をするな!と言いたいところである。
そして女性も商売。誰もが知っている相続という【棚ぼたラッキー】的なワードは口にするが、こんな所に金を借りに来るヤツにはプラスの資産などありはしない。
取りっぱぐれになる可能性のある相続放棄というワードは口にしない。
流石目つきの悪い天使をマスコットキャラにしているブラック☆スマイルの窓口嬢である。

シルビアの名前と生年月日、勤務先を記入するニルス。

「では幾らまでご融資できるか確認を致しますので、もう少しだけお待ちくださいね。あ、お茶どうぞ」

かなり薄味であるがカモミールティーを勧められる。
ドキドキしながらも一口飲むと、お湯の温かさにホッとするニルス。
間違ってはいけない。香りも色も気持ち程度の茶である。白湯と言っても差しさわりない。

「お待たせしました」

直ぐに女性は戻ってきた。
幾ら借りられるのか‥‥ニルスは50万借りて、15万づつ使い、残った5万を3カ月は支払いに充てようと考えている。一応借りたら返さねばならない事は知っているようだ。

「ニルスさんにご融資できるのは、月額の支給額の2か月分である14万ペルです」
「えっ?」
「では、騎士の階級章などをお借り出来ますか」
「いや、ちょっと待ってください」
「どうされました?」
「あの、少なくないですか?僕、実家は子爵家ですしもうすぐ昇進試験なので給料も上がるんです」

女性は後ろを振り向いて、男性社員と目で会話をする。即座に衝立の後ろに屈強な男が2人やってくるがニルスからそれは見えない。

「ニルスさん、一応先程の言葉は聞かなかった事に致しますが貴族の家名を詐称するのは厳罰に問われます。騎士の仕事なんか吹っ飛びますよ。ニルスさんは既にご結婚されて子爵家を出ただけではなく、出生時にさかのぼってその子爵家との関係を抹消されているのです。それから昇格試験に既に合格されていれば資格手当の分はこちらも検討を致しますが試験を受けられる前ですよね?次の試験は合格率4%。毎年合格者ゼロも不思議じゃないです。そちらについては合格をしてからお申し出ください」

ウっとニルスは考えてしまった。

「で、どうされます?」
「あの、配偶者が王宮務めなら増額って言うのは…」
「えぇ。増額しております。1万ペルの増額になっております」
「たった1万ペル?」
「女官であれば見習いでもそれだけで300万ペルは増額致しますが、お調べしたところ奥様は女官ではなく侍女ですよね?それも侍女の中でも一番下の侍女見習いではないですか」

「えぇっ?そんなバカな!」
「その点は奥様に確認をされてみては如何でしょうか?あ、でもそうするとお金を借りた事は秘密に出来ませんがよろしいですか?」

「か、確認してきます。融資はまた後日で!」
「承知致しました。またのご来店をお待ちしております」

ニルスは店を飛び出していった!
結果的に金を借らなかった事を考えれば、ブラック☆スマイルは優良企業なのかも知れない。
しかし、ニルスは混乱していた。

シルビアはだと言った。

そうだ。ニルス。シルビアは阿婆擦れのゲスであるがそこは嘘は言っていない。
同期ではある事は言ったが、今でも侍女見習いだと言う事を言ってなかっただけである。

そして、同期なら給料も待遇もクラリスと同じだと勝手に思っていたのはニルスなのだ。

だが、とりあえずは給料を引き出して生活費を渡しておこうと銀行の前で止まる。
その辺りはまだ「夫」としては合格点であろう。

しかし!!

【ピー!このお通帳ではご利用できません】

機械は非情である。大きな警告音と共にアナウンスが流れる。
後ろに何人か並んでいてその目は【何やってんだ】と睨みつけている。

おかしいな…と通帳を見るニルス。

「どうして!?」

周りの人たちは心で叫ぶ 【知るかいな】

新通帳に更新済みと書かれた文字に気がついたニルス。
おかしい!昨日は記帳したからこの通帳でなかったはずだ。どうしてこうなっている?!

思い当たるのはシルビアしかいなかった。
昨日通帳に記帳したのは仕事帰り。この通帳と入れ替わることはあり得ない。
入れ替える事が出来るとすればシルビアしかいないのである。

ニルスは怒りで通帳をギュッと握りしめて家までの道のりを走った。
感想 71

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。